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福井地方裁判所 平成4年(行ウ)6号 判決 2000年3月22日

目次

判決

略語表

証拠の摘示方法

主文

事実

第一 当事者の求めた裁判

第二 事案の概要及び当事者の主張

一 事案の概要

二 当事者の主張

第三 証拠

理由

第一章 当事者

第一 原告ら

第二 被告

第三 本件訴えの適法性について

第二章 本件原子炉施設の特徴及び本件許可処分について

第一 本件原子炉施設の概要

第二 本件原子炉施設の原子力開発上の位置づけ

第三 本件許可処分の存在

第三章 本件訴訟における司法審査の在り方

第一 本件訴訟の審理及び判断の対象となる事項

一 無効の理由の制限(行訴法一〇条の類推適用の有無)

二 重大かつ明白な違法

三 原子炉設置許可段階における安全審査の対象

四 まとめ

五 本件において原告らの主張する違法事由のうち、本件訴訟の審理、判断の対象とならない事項

第二 本件訴訟における司法審査の手法

一 本件許可処分の性質

二 違法判断の基準時

三 本件訴訟における主張、立証責任

第四章 本件許可処分の手続的適法性

第一 本件許可処分の手続とその適法性

一 研究開発段階にある原子炉の設置許可申請から設置許可に至るまでの手続

二 本件許可処分の手続

三 当裁判所の判断

第二 原告らの主張について

一 原子力三原則違反の主張について

二 審査体制の不公正の主張について

三 審査基準の違法性

四 審査範囲の限定について

第五章 本件許可処分の規制法二四条一項三号(技術的能力に係る部分に限る。)適合性

第一 当裁判所の判断の手法

第二 本件安全審査の内容

第三 当裁判所の判断

第四 原告らの主張について

一 憲法三一条違反の主張について

二 申請者の体質について

第五 まとめ

第六章 本件許可処分の規制法二四条一項四号適合性

第一 総論

一 当裁判所の判断の手法

二 本件原子炉施設の概要

三 原子炉施設の安全性の意義

1 原子炉施設の潜在的危険性

(一) 規制法の想定する危険性

(二) 放射線の種類と人体に及ぼす影響

(1) 放射性物質、放射能、放射線

(2) 放射線の種類と性質

(3) 人間の放射線による被曝

(4) 放射線の量の単位

(5) 放射線の人間に与える障害の種類と内容

(6) 放射線による障害の特徴

(イ) 高線量の放射線による障害の場合

(ロ) 低線量の放射線による障害の場合

(a) セラフィールド再処理工場周辺住民の白血病

(b) ドーンレイの再処理施設周辺住民の白血病

(c) 福島原発の労働者の被曝による染色体異常

(d) ハンフォード原子力施設の労働者のがん死

(e) オークリッジ国立研究所の職員のがん死

(f) スチュアートの見解

(g) プレストンとピアスの見解

(ハ) 検討

2 安全性の意義

3 高速増殖炉開発の公益性に関する主張について

四 本件安全審査の基本的な考え方と審査内容

1 立地条件(立地条件に係る安全性)

2 安全設計

(一) 平常運転時における被曝低減対策としての安全設計

(二) 事故防止対策としての安全設計

3 平常運転時における公衆の被曝線量評価(平常運転時における安全性)

4 各種事故の検討(事故防止対策に係る安全性)

5 立地評価(公衆との離隔に係る安全性)

第二 本件安全審査の具体的審査基準

一 本件安全審査に用いられた審査基準等

1 本件安全審査に用いられた審査基準

2 参考として用いられた指針

二 具体的審査基準の合理性

1 具体的審査基準の合理性

2 「許容被曝線量等を定める件」について

三 原告らの主張について

1 「立地審査指針」及び「プルトニウムに関するめやす線量について」について

2 「評価の考え方」について

(一) 「炉心崩壊事故」などの「シビアアクシデント」について

(二) 「技術的には起こるとは考えられない事象」について

3 「許容被曝線量等を定める件」ないし「線量当量限度を定める件」とICRPの勧告について

(一) 原告らの主張

(二) ICRP勧告の概要

(三) 原告らの主張の検討

(1) ICRP勧告の表現の変遷

(2) 確率的影響のうち致死がんの確率係数について

(3) 「正当化」と経済性について

(4) 線量目標値に関する指針について

(四) まとめ

4 線量評価指針について

(一) 濃縮係数について

(二) 海産物摂取量について

(三) 放射性液体廃棄物による外部被曝について

5 「耐震設計審査指針」について

(一) 歴史地震重視について

(二) 考慮すべき活断層について

(三) 直下地震について

(四) 鉛直地震力について

(五) 遠距離地震について

四 第三節以降の判断の方法

第三 本件原子炉施設の立地条件に係る安全性

一 本件安全審査の内容

1 敷地

2 地震

(一) 耐震設計上想定すべき地震

(1) 過去の被害地震

(イ) 地震資料

(ロ) 敷地周辺の主な地震

(2) 活断層

(イ) 調査

(ロ) 敷地周辺の活断層

(ハ) 活断層と微小地震及び歴史地震との関連

(ニ) 活断層から想定される地震

(3) 地震地体構造

(4) 直下地震

(5) 最強地震及び限界地震

(イ) 最強地震

(ロ) 限界地震

(6) まとめ

(二) 基準地震動

(1) 地震動特性

(イ) 地震の最大振幅

(ロ) 地震の周波数特性

(ハ) 地震動の継続時間等

(2) 応答スペクトル及び模擬地震波

(イ) 基準地震動の応答スペクトル

(ロ) 基準地震動の模擬地震波

(3) まとめ

3 地盤

(一) 敷地の地盤

(二) 原子炉設置地盤

(1) 調査、試験

(2) 地盤物性

(イ) 原子炉設置地盤の性状

(ロ) 岩石、岩盤物性

(3) 地盤の安定性

(イ) 支持力に対する安全性

(ロ) すべりに対する安全性

(ハ) 沈下に対する安全性

(4) (以上のことから……)

4 気象

5 水理

(一) 洪水

(二) 発電所用水の確保

(三) 海象

6 社会環境

(一) 人口分布

(二) 周辺の産業活動

(三) 周辺の交通

7 耐震設計

(一) 耐震設計の重要度分類

(1) 耐震重要度分類の方針

(2) 各施設の重要度分類

(二) 地震力の算定

(1) 静的解析に基づく地震力

(2) 動的解析に基づく地震力

(三) 荷重の組合せと許容限界

8 本件安全審査の結論

二 当裁判所の判断

三 原告らの主張について

1 地震について

(一) 過去の被害地震(歴史地震)について

(二) 活断層の存在、連続性、同時活動性、活断層から起こる地震について

(1) リニアメントについて

(イ) 白木―丹生リニアメントについて

(ロ) 立石―浦底間のリニアメントについて

(ハ) 他のリニアメントについて

(2) 敦賀半島西岸断層について

(3) 海底断層S―1、甲楽城断層、山中断層及び柳ケ瀬断層の連続性、同時活動性について

(4) 野坂断層とS―21ないしS―27断層の連続性について

(5) S―15ないし17断層と白木―丹生リニアメントの同時活動性について

(6) 連続しない複数の断層の同時活動性について

(7) 木ノ芽峠断層(敦賀断層)と柳ケ瀬断層の同時活動性について

(8) マイクロプレートモデルについて

(9) 近畿三角地帯について

(10) 甲楽城断層による地震の想定について

2 地盤について

(一) 岩級(岩盤)分類について

(二) 岩盤良好度評価(RQD評価)について

(三) サンドイッチ地盤について

(四) 沖積地について

(五) 粘土化帯等について

(六) 敦賀市の報告書について

(七) 背後山地の安全性について

3 耐震設計について

(一) 施設の重要度分類について

(二) 基準地震動の策定について

(1) 松田式について

(2) 金井式について

(イ) 金井式の妥当性について

(ロ) 金井式の適用範囲について

(ハ) 金井式の適用限界について

(ニ) 金井式の誤差について

(3) 大崎の方法について

(イ) 実地震動の包絡について

(ロ) 安全余裕について

(ハ) 修正大崎スペクトルについて

(ニ) 兵庫県南部地震について

(三) 構造計算について

四 まとめ

第四 本件原子炉施設の安全設計

一 本件安全審査の内容

1 原子炉及び計測制御系

(一) 炉心設計

(1) 核設計

(2) 熱流力設計

(3) 動特性

(4) 機械設計

(二) 計測制御系

(1) 制御室

(2) 計測制御設備

(3) 電源設備

2 原子炉停止系、反応度制御系及び安全保護系

(一) 原子炉停止系

(二) 反応度制御系

(三) 安全保護系

3 原子炉冷却系

(一) 原子炉冷却材バウンダリ及び原子炉カバーガス等のバウンダリ

(1) 原子炉冷却材バウンダリ

(2) 原子炉カバーガス等のバウンダリ

(二) 二次主冷却系(中間冷却系)

(三) 残留熱除去に係る系統

(四) 冷却水系

4 原子炉格納施設

(一) 原子炉格納容器及び付属設備

(二) アニュラス浄化系

5 燃料取扱い及び廃棄物処理系

(一) 燃料取扱い及び貯蔵設備

(二) 放射性気体廃棄物処理設備

(三) 放射性液体廃棄物処理設備

(四) 放射性固体廃棄物処理設備

6 放射線防護及び処理施設

(一) 放射線防護設備

(二) 放射線監視及び管埋設備

7 本件安全審査の結論

8 設置変更許可申請

二 当裁判所の判断

三 原告らの主張について

1 多重防護の考え方について

2 原子炉の安定した運転の維持について

(一) ボイド係数について

(二) 即発中性子の寿命と遅発中性子の割合について

(三) 原子炉固有の負のフィードバック効果について

3 燃料被覆管の健全性について

(一) スエリング、圧力の上昇等について

(二) 一次冷却材流量減少時の健全性について

4 原子炉冷却材バウンダリの健全性について

(一) 配管等の健全性について

(1) 熱応力やクリープ疲労等に対する配管の健全性について

(2) ナトリウム中の不純物による腐食や浸炭、脱炭に対する配管の健全性について

(イ) ナトリウム中の不純物による配管の腐食について

(ロ) 浸炭、脱炭について

(二) 配管における破損の様相について

(三) 配管、機器等の保守点検について

5 原子炉カバーガスのバウンダリの健全性について

6 蒸気発生器について

7 原子炉停止系の信頼性について

(一) 共通原因故障について

(二) 自己融着について

(三) セイラム一号炉、浜岡一号炉の事故について

(四) 地震時の電源喪失について

(五) 制御棒駆動電動機の駆動荷重増加について

8 緊急炉心冷却装置(ECCS)について

9 「フェイル・セイフ」及び「フール・プルーフ」について

四 まとめ

第五 本件原子炉施設の平常運転時における安全性

一 本件安全審査の内容

1 意義

2 本件許可申請における本件原子炉施設周辺の一般公衆の被曝線量の評価内容

(一) 大気中に放出される放射性物質の年間放出量

(二) 海洋中に放出される放射性物質の年間放出量

(三) 被曝線量の計算

(1) 気体廃棄物中の希ガスによる全身被曝線量

(2) 液体廃棄物中の放射性物質による全身被曝線量

(3) 甲状腺被曝線量の計算

3 本件安全審査における評価

(一) 計算方法の妥当性

(二) 計算結果の妥当性

(三) 結論

二 当裁判所の判断

三 原告らの主張について

1 気体廃棄物の評価について

(一) 燃料被覆管の欠損率について

(二) 粒子状放射性物質について

(三) 希ガスの放出回数について

(四) 計算過程について

2 液体廃棄物の評価について

3 プルトニウムについて

四 まとめ

第六 本件原子炉施設の事故防止対策に係る安全性

一 運転時の異常な過渡変化の解析評価に関する本件安全審査

1 意義

2 本件安全審査の審査方針

3 本件許可申請における解析対象

4 本件許可申請における運転時の異常な過渡変化の解析内容

(一) 炉心内の反応度又は出力分布の異常な変化

(1) 未臨界状態からの制御棒の異常な引き抜き

(2) 出力運転中の制御棒の異常な引き抜き

(3) 制御棒落下

(二) 炉心内の熱発生又び熱除去の異常な変化

(1) 一次冷却材流量減少

(2) 一次冷却材流量増大

(3) 外部電源喪失

(4) 二次冷却材流量減少

(5) 二次冷却材流量増大

(6) 給水流量喪失

(7) 給水流量増大

(8) 負荷の喪失

(三) ナトリウムの化学反応

(1) 蒸気発生器伝熱管小漏えい

5 本件安全審査における評価

(一) 事象選定の妥当性

(二) 解析方法の妥当性

(三) 解析結果の妥当性

(四) 結論

二 各種事故解析に関する本件安全審査

1 意義

2 本件安全審査の審査方針

3 本件許可申請における解析対象

4 本件許可申請における各種事故の解析内容

(一) 炉心内の反応度の増大に至る事故

(1) 制御棒急速引抜事故

(2) 燃料スランピング事故

(3) 気泡通過事故

(二) 炉心冷却能力の低下に至る事故

(1) 冷却材流路閉塞事故

(2) 一次主冷却系循環ポンプ軸固着事故

(3) 二次主冷却系循環ポンプ軸固着事故

(4) 主給水ポンプ軸固着事故

(5) 一次冷却材漏えい事故

(6) 二次冷却材漏えい事故

(7) 主蒸気管破断事故

(8) 主給水管破断事故

(三) 燃料取扱いに伴う事故

(1) 燃料取替取扱事故

(四) 廃棄物処理設備に関する事故

(1) 気体廃棄物処理設備破損事故

(五) ナトリウムの化学反応

(1) ダンプタンクからのナトリウム漏えい事故

(2) オーバフロー系からのナトリウム漏えい事故

(3) コールドトラップからのナトリウム漏えい事故

(4) 蒸気発生器伝熱管破損事故

(六) 原子炉カバーガス系に関する事故

(1) 一次アルゴンガス漏えい事故

5 本件安全審査における評価

(一) 事象選定の妥当性

(二) 解析方法の妥当性

(三) 解析結果の妥当性

(四) 結論

三 技術的には起こるとは考えられない事象の解析評価に関する本件安全審査

1 意義

2 本件安全審査の審査方針

3 本件許可申請における解析対象

4 本件許可申請における技術的には起こるとは考えられない事象の解析内容

(一) 局所的燃料破損事象

(二) 一次主冷却系配管大口径破損事象

(三) 反応度抑制機能喪失事象

5 本件安全審査における評価

(一) 事象選定の妥当性

(二) 解析方法の妥当性

(三) 解析結果の妥当性

(四) 結論

四 本件安全審査の結論

五 当裁判所の判断

六 原告らの主張について

1 「運転時の異常な過渡変化」及び「事故」の解析評価について

(一) 事象の選定について

(二) 単一故障の仮定について

(三) 「二次冷却材漏えい事故」について

(四) 「蒸気発生器伝熱管破損事故」について

(五) 「燃料スランピング事故」について

(1) 解析条件について

(2) 燃料の融点の低下について

(3) スランピングした燃料の燃料被覆管への接触について

(4) 中性子照射による燃料被覆管の脆化について

(六) 「気泡通過事故」について

2 「技術的には起こるとは考えられない事象」について

(一) 事象の起こる可能性について

(二) 解析評価における解析条件等について

(三) 「一次主冷却系配管大口径破損事象」について

(1) 配管の破損位置について

(2) ナトリウムの漏えい量及び燃焼量について

(四) 「一次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象」について

(1) 計算コードの妥当性について

(2) 計算コードの接続条件について

(3) 燃料要素の破損位置、破損口の長さについて

(4) 反応度投入率の算定について

(5) 炉心損傷後の最大有効仕事量について

(五) 再臨界事故について

(六) ポニーモータによる崩壊熱の除去について

七 蒸気発生器伝熱管破損事故について

1 本件原子炉施設の蒸気発生器設備の概要

2 事故の意義

3 本件安全審査の内容

(一) 異常発生防止対策

(二) 異常拡大防止対策(影響緩和対策)

(1) 設備等

(2) 漏えいの検知等

(3) 事象、事故の終止等

(三) 事故の解析評価

(1) 設計基準リークの想定

(2) 解析結果

4 原告らの主張について

(一) 異常発生防止対策について

(1) 応力腐食割れ、腐食、脱炭、浸炭等による蒸気発生器伝熱管の損傷に対する防止対策について

(2) 溶接時における残留応力、組立ての困難さについて

(3) 溶接のたれ込みについて

(4) 流動不安定現象について

(二) 異常拡大防止対策(影響緩和対策)について

(1) 水素計について

(2) ナトリウム・水反応による二次主冷却系配管の大口径破断等について

(三) 事故の解析評価について

(1) 設計基準リークについて

(イ) 高温ラプチャの発生について

(a) 伝熱管破損伝播試験について

(b) 隔離、ブローの失敗等について

(c) ドイツのインターアトム社の伝熱管破損伝播試験について

(d) PFR事故について

(い) 事故発生及び拡大の原因

(ろ) 本件原子炉施設との関係

(は) 原告らの主張について

(e) 安全総点検の結果について

(ロ) 周辺の伝熱管の損傷について

(ハ) BN―三五〇の蒸気発生器事故について

(ニ) 海外の軽水炉の設計基準事故の見直しについて

(2) 主蒸気止め弁の開固着又は主蒸気管破断について

5 小括

八 本件ナトリウム漏えい事故について

1 本件事故の概要

(一) 事故の発生状況

(二) 事故の結果

(1) 機器の損傷等

(2) 環境に対する影響

(イ) 放射性物質の放出

(ロ) ナトリウム・エアロゾルの影響

(3) 炉心冷却能力に対する影響

(4) 床ライナの健全性への影響

2 本件事故の原因

(一) 本件温度計の破損原因

(二) 設備腐食の原因

(1) 鋼材の腐食機構

(イ) 床ライナの腐食

(ロ) 換気ダクト及びグレーチングの腐食

(三) 運転管理上の問題

3 本件事故と本件安全審査

(一) 温度計について

(二) 床ライナについて

(1) 本件事故と床ライナへの影響

(2) 本件安全審査における床ライナに関する審査

(3) 界面反応による床ライナの腐食に関する新知見と本件安全審査

(イ) 界面反応による腐食に関する新知見

(ロ) 本件安全審査との関係

(ハ) 原告らの主張について

(a) 腐食速度について

(b) 漏えい継続時間について

(c) 佐藤証言について

(4) 床ライナの温度上昇に関する新知見と本件安全審査

(イ) 床ライナの温度上昇に関する新知見

(ロ) 本件安全審査との関係

(ハ) 原告らの主張について

4 原告らの本件事故に関するその他の主張について

(一) LBBの思想について

(二) ナトリウム・コンクリート反応について

(三) オーバフロータンクのナトリウム液面計の不備について

(四) ドレン関連機器の不備について

(五) 水素爆発の危険性について

(六) (その他、原告らは……)

5 小括

九 まとめ

第七 本件原子炉施設の公衆との離隔に係る安全性

一 本件安全審査の内容

1 意義

2 本件安全審査の審査方針

3 本件許可申請における重大事故の解析内容

(一) 一次冷却材漏えい事故

(二) 一次アルゴンガス漏えい事故

4 本件許可申請における仮想事故の解析内容

5 本件安全審査における評価

(一) 事象選定の妥当性

(二) 解析方法の妥当性

(三) 解析結果の妥当性

(四) 結論

二 当裁判所の判断

三 原告らの主張について

1 事象選定に関する主張について

2 評価手法に関する主張について

四 まとめ

第八 他の原子炉施設における事故について

一 意義

二 チェルノブイリ事故

三 EBR―Ⅰの燃料溶融事故

四 エンリコ・フェルミ炉の燃料溶融事故

五 スーパーフェニックスの一次系カバーガス中の空気混入によるナトリウム汚染

六 スーパーフェニックスのナトリウム漏えい事故

七 フェニックスの異常な反応度低下

八 フェニックスの中間熱交換器からの二次系ナトリウム漏えい事故

九 TMI事故

一〇 PFRの一次主冷却系循環ポンプ潤滑油の一次系ナトリウム中への混入

一一 サリー二号炉における配管破断事故

一二 福島第二原子力発電所三号炉における金属片の侵入

一三 セイラム一号炉の制御棒不作動

一四 SL―一の臨界事故

一五 まとめ

第七章 結論

略語表

(この判決においては、以下の略語を用いる。ただし、正式の用語を用いることもある。)

本件原子炉施設 動燃が福井県敦賀市白木に建設中の高速増殖炉(高速原型炉)「もんじゅ」、すなわち本件許可処分に係る原子炉及びその付属施設

本件許可処分 被告が昭和五八年五月二七日付けで動燃に対してした本件原子炉施設の設置許可処分

本件許可申請 動燃が昭和五五年一二月一〇日付けで被告に対してした原子炉設置許可申請(ただし、昭和五六年一二月二八日付け及び昭和五八年三月一四日付けでそれぞれ一部補正されている。)

本件安全審査 被告(所部の機関は科学技術庁)及び原子力安全委員会が本件許可申請に対して、規制法二四条一項三号及び四号の要件適合性についてした審査

申請者又は動燃 訴外動力炉・核燃料開発事業団(なお、平成一〇年一〇月一日に核燃料サイクル開発機構に法人名が変更されている。)

安全委員会 原子力安全委員会

安全審査会 原子炉安全専門審査会

行訴法 行政事件訴訟法(昭和三七年法律第一三九号)

基本法 原子力基本法(昭和三〇年法律第一八六号)

設置法 原子力委員会及び原子力安全委員会設置法(昭和三〇年法律第一八八号)

規制法 核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和三二年法律第一六六号)

電気事業法 電気事業法(平成九年法律第八八号による改正後のもの)

原子炉規則 試験研究の用に供する原子炉等の設置、運転等に関する規則(昭和三二年一二月九日総理府令第八三号)

立地審査指針 原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめやすについて(昭和三九年五月二七日原子力委員会決定)

評価の考え方 高速増殖炉の安全性の評価の考え方について(昭和五五年一一月六日原子力委員会決定)

気象指針 発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針について(昭和五七年一月二八日原子力委員会決定)

許容被曝線量等を定める件 原子炉の設置、運転等に関する規則等の規定に基づき、許容被曝線量等を定める件(昭和三五年九月三〇日科学技術庁告示第二一号)

安全設計審査指針 発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針について(昭和五二年六月一四日原子力委員会決定)

プルトニウムに関するめやす線量について プルトニウムを燃料とする原子炉の立地評価上必要なプルトニウムに関するめやす線量について(昭和五五年一一月六日原子力安全委員会決定)

安全評価審査指針 発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針(昭和五三年九月二九日原子力委員会決定)

線量評価指針 発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に対する評価指針について(昭和五一年九月二八日原子力委員会決定)

耐震設計審査指針 発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針について」(昭和五六年七月二〇日原子力安全委員会決定)

本件事故又は本件ナトリウム漏えい事故

平成七年一二月八日に本件原子炉施設において発生した二次冷却材ナトリウム漏えい事故

安全総点検 動燃が本件事故後に、科学技術庁の「もんじゅ安全総点検チーム」が策定した「もんじゅ安全総点検の基本方針」等を踏まえて取りまとめた「もんじゅの安全総点検に関する実施計画」に基づき行った本件原子炉施設全般にわたる総合的な点検

もんじゅ最高裁判決 最高裁判所平成四年九月二二日第三小法廷判決(本件の第一次上告審)

伊方最高裁判決 最高裁判所平成四年一〇月二九日第一小法廷判決

日本原子力発電 日本原子力発電株式会社

関西電力 関西電力株式会社

中部電力 中部電力株式会社

浜岡一号炉 中部電力の浜岡原子力発電所一号炉

常陽 動燃が設置した高速増殖炉(高速実験炉)

ふげん 動燃が設置した新型転換炉

LMFBR 液体金属冷却高速増殖炉

PWR 加圧水型軽水炉

BWR 沸騰水型軽水炉

RMBK 黒鉛減速沸騰水型原子炉

FPガス 核分裂生成物のうち気体状のもの

ICRP 国際放射線防護委員会

IAEA 国際原子力機関

WHO 世界保健機構

UNSCEAR 国際連合原子放射線の影響に関する科学委員会

OECD/NEA 経済協力開発機構原子力機関

NRC 米国原子力規制委員会

USAEC 米国原子力委員会

NCRP 米国放射線防護測定審議会

チェルノブイリ四号炉 ソビエト連邦ウクライナ共和国所在のチェルノブイリ発電所四号炉

チェルノブイリ事故 昭和六一年四月二六日にチェルノブイリ発電所四号炉において発生した事故

PFR 英国のドーンレイ所在の高速増殖炉

エンリコ・フェルミ炉 米国ミシガン州所在のエンリコ・フェルミ一号炉

ERB―Ⅰ 米国アイダホ州所在の増殖実験炉一号炉

セイラム一号炉 米国ニュージャージ州所在のセイラム原子力発電所一号炉

スーパーフェニックス フランスのクレイマルヒル所在の高速増殖炉

フェニックス フランスのマルクール所在の高速増殖炉

TMI二号炉 米国ペンシルバニア州所在のスリーマイルアイランド原子炉発電所二号炉

TMI事故 昭和五四年三月二八日にTMI二号炉において発生した事故

サリー二号炉 米国バージニア州所在のサリー原子力発電所二号炉

証拠の摘示方法

この判決においては、次のように証拠を摘示する。

一 書証(昭和六〇年(行ウ)第七号事件の証人尋問調書及び原告本人調書を除く。)

二 書証(昭和六〇年(行ウ)第七号事件の証人尋問調書及び原告本人調書)

ただし、証人名及び原告本人名、調書番号については、四に記載するとおりである。また、丁数及びページ数については、当該書証に振られた数字による丁数又はページ数を用いる。

三 証人の証言

ただし、証人名及び原告本人名、調書番号については、四に記載するとおりである。

四 証人名並びに証人調書及び本人調書に関する略語

証人秋山 証人秋山守

証人斉藤 証人斉藤伸三

証人佐藤 証人佐藤一男

秋山調書一 証人秋山守の第一三回口頭弁論期日の証人調書

(同様に、秋山調書二は第一四回口頭弁論期日の証人調書をいう。)

斉藤調書一 証人斉藤伸三の第一五回口頭弁論の供述調書

(同様に、斉藤調書二は第一六回口頭弁論期日の、同三は第一七回口頭弁論期日の、同四は第一九回口頭弁論期日の、同五は第二〇回口頭弁論期日の証人調書をいう。)

佐藤調書 証人佐藤一男の第二七回口頭弁論期日の証人調書

証人近藤駿介調書一 昭和六〇年(行ウ)第七号事件(以下「民事訴訟」という。)証人近藤駿介の第一八回口頭弁論の証人調書

(同様に、証人近藤駿介調書二は第一九回口頭弁論期日の証人調書をいう。)

証人川島調書一 民事訴訟証人川島協の第二〇回口頭弁論期日の証人調書

(同様に、証人川島調書二は第二一回口頭弁論期日の、同三は同第二二回口頭弁論期日の、同四は第二三回口頭弁論期日の、同五は第二四回口頭弁論期日の、同六は第二五回口頭弁論期日の、同七は第二六回口頭弁論期日の証人調書をいう。)

証人高木調書一 民事訴訟証人高木仁三郎の第二七回口頭弁論期日の証人調書

(同様に、証人高木調書二は民事訴訟第二八回口頭弁論期日の、同三は同第二九回口頭弁論期日の証人調書をいう。)

証人小林調書一 民事訴訟証人小林圭二の第三〇回口頭弁論期日の証人調書

(同様に、証人小林調書二は第三一回口頭弁論期日の、同三は第三二回口頭弁論期日の、同四は第四六回口頭弁論期日の、同五は第四七回口頭弁論期日の証人調書をいう。)

証人木村調書一 民事訴訟証人木村敏雄の第三三回口頭弁論期日の証人調書

(同様に、証人木村調書二は第三四回口頭弁論期日の証人調書をいう。)

証人生越調書一 民事訴訟証人生越忠の第三四回口頭弁論期日の証人調書

(同様に、証人生越調書二は第三五回口頭弁論期日の、同三は第三六回口頭弁論期日の、同四は第三七回口頭弁論期日の証人調書をいう。)

原告本人渡辺調書一 民事訴訟原告本人渡辺三郎の第四三回口頭弁論期日の本人調書

(同様に、原告本人渡辺調書二は第四四回口頭弁論期日の本人調書をいう。)

証人久米調書一 民事訴訟証人久米三四郎の第四五回口頭弁論期日の証人調書

(同様に、証人久米調書二は第四六回口頭弁論期日の、同三は第四七回口頭弁論期日の証人調書をいう。)

証人近藤悟調書一 民事訴訟証人近藤悟の第四八回口頭弁論期日の証人調書

(同様に、証人近藤悟調書二は第四九回口頭弁論期日の証人調書をいう。)

証人山崖調書一 民事訴訟証人山崖佳昭の第四九回口頭弁論期日の証人調書

(同様に、証人山崖調書二は第五〇回口頭弁論期日の証人調書をいう。)

原告

磯邉甚三

他三三名

右三四名訴訟代理人弁護士

福井泰郎

八十島幹二

吉村悟

佐藤辰弥

松波淳一

丸井英弘

内藤隆

内山成樹

海渡雄一

鬼束忠則

福武公子

小島啓達

岡部玲子

右訴訟復代理人弁護士

島田広

被告

内閣総理大臣

小渕恵三

右指定代理人

石井忠雄

他二五名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告が、動力炉・核燃料開発事業団に対して、昭和五八年五月二七日にした、高速増殖炉「もんじゅ」(以下「本件原子炉施設」という。)にかかる原子炉設置許可処分は無効であることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

(本案前の答弁)

1 原告らの請求をいずれも却下する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(本案の答弁)

主文同旨

第二  事案の概要及び当事者の主張

一  事案の概要

本件は、訴外動力炉・核燃料開発事業団(以下「申請者」又は「動燃」という。現核燃料サイクル開発機構)が福井県敦賀市白木地区に建設中の高速増殖炉(高速原型炉)「もんじゅ」の周辺に居住する住民である原告らが、被告が申請者に対してした本件原子炉施設の設置許可処分には、処分の手続の違法、処分が規制法二三条一項の定める各要件に適合していないなどの点で重大かつ明白な瑕疵があるとして、被告に対して、本件許可処分が無効であることの確認を求めた事案である。

ところで、本件は、昭和六〇年九月二六日に福井地方裁判所昭和六〇年(行ウ)第七号事件として提訴され、福井地方裁判所は、昭和六二年一二月二五日、原告適格を欠く不適法な訴えであるとして原告ら全員について訴えを却下した。名古屋高等裁判所金沢支部は、平成元年七月一九日、原告らの控訴に対し、本件原子炉施設から半径二〇キロメートル以内に居住する原告らについては原告適格を認め、右原告らについて事件を福井地方裁判所に差し戻し、その余の原告らの控訴を棄却した。さらに、最高裁判所は、平成四年九月二二日、半径二〇キロメートル以内に居住する原告らに対する被告の上告を棄却すると共に、半径二〇キロメートル外に居住する原告らの上告に対し、これらの原告にも原告適格を認め、右原告らについて、事件を福井地方裁判所に差し戻した。このように、結局、原告ら全員について、事件が当裁判所に差し戻された。

二  当事者の主張

本件の争点は、本件許可処分に無効事由となる重大かつ明白な違法があるか否かであり、これは大きく、①手続的適法性、②規制法二四条一項三号(技術的能力に係る部分に限る。)の要件適合性、③同項四号の要件適合性に分けられる。

右争点に関する原告らの主張は、第三分冊「原告らの主張」記載のとおりであり、被告の主張は、第四分冊「被告の主張」記載のとおりである。

なお、争点に関する当事者の主張はほぼ右書面で尽くされていると考えられるが、その他右書面に表れていない主張を含めて、理由においては、判断の前提として、当事者の主張の要点を適宜摘示する。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

第一章  当事者

第一  原告ら

原告らは、本件原子炉施設からの距離が約一一キロメートルから五八キロメートルの範囲に居住する住民である。

第二  被告

被告は、規制法二三条一項四号、同法施行令六条の二第一項一号により、研究開発段階の原子炉について原子炉設置許可処分をする権限を有する者であり、本件許可処分をした者である。

第三  本件訴えの適法性について

一  行訴法三六条は、無効確認訴訟の原告適格を有する者を「当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は採決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者」に限定しているところ、右「法律上の利益を有する者」は行訴法九条の「法律上の利益を有する者」と同趣旨と解されるから(もんじゅ最高裁判決参照)、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうと解される。そして、当該行政法規の趣旨、目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容、性質等を考慮したとき、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、そのような利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである(最高裁第三小法廷昭和五三年三月一四日判決、最高裁第一小法廷昭和五七年九月九日判決、最高裁第二小法廷平成元年二月一七日判決参照)。

そこで、規制法二三条、二四条に基づく原子炉設置許可処分につき、原子炉施設の周辺に居住する者が、その無効確認を求める法律上の利益を有するか否かを検討するに、規制法は、原子力基本法の精神にのっとり、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の利用が平和の目的に限られ、かつ、これらの利用が計画的に行われることを確保すると共に、これらによる災害を防止し、及び核燃料物質を防護して、公共の安全を図るために、製錬、加工、再処理及び廃棄の事業並びに原子炉の設置及び運転等に関する必要な規制等を行うことなどを目的として制定されたものである(規制法一条)。規制法二三条一項に基づく原子炉の設置の許可申請は、同項各号所定の原子炉の区分に応じ、主務大臣に対して行われるが、主務大臣は、右許可申請が同法二四条一項各号に適合していると認めるときでなければ許可をしてはならず、また、右許可をする場合においては、あらかじめ、同項一号、二号及び三号(経理的基礎に係る部分に限る。)に規定する基準の適用については原子力委員会、同項三号(技術的能力に係る部分に限る。)及び四号に規定する基準の適用については、核燃料物質及び原子炉に関する安全の確保のための規制等を所管事項とする原子力安全委員会の意見を聴き、これを十分に尊重してしなければならないものとされている(同法二四条二項)。同法二四条一項各号所定の許可基準のうち、三号(技術的能力に係る部分に限る。)は、当該申請者が原子炉を設置するために必要な技術的能力及びその運転を適確に遂行するに足りる技術的能力を有するか否かにつき、また、四号は、当該申請に係る原子炉の位置、構造及び設備が核燃料物質(使用済燃料を含む。)、核燃料物質によって汚染された物(原子核分裂生成物を含む。)又は原子炉による災害の防止上支障がないものであるか否かにつき、審査を行うべきものと定めている。

原子炉設置許可の要件として、右の三号(技術的能力に係る部分に限る。)及び四号が設けられた趣旨は、原子炉施設が、原子核分裂の過程において高エネルギーを放出するウラン等の核燃料物質を燃料として使用する装置であり、その稼働により、内部に多量の人体に有害な放射性物質を発生させるものであって、原子炉施設を設置しようとする者がその設置、運転につき所定の技術的能力を欠くとき、又は原子炉施設の安全性が確保されないときは、当該原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命、身体に重大な危害を及ぼし、周辺の環境を放射能によって汚染するなど、深刻な災害を引き起こすおそれがあることにかんがみ、右災害が万が一にも起こらないようにするため、原子炉設置許可の段階で、原子炉施設を設置しようとする者の右技術的能力の有無及び申請に係る原子炉施設の位置、構造及び設備の安全性につき十分な審査をし、右の者において所定の技術的能力があり、かつ、原子炉施設の位置、構造及び設備が右災害の防止上支障がないものであると認められる場合でない限り、主務大臣は原子炉設置許可処分をしてはならないとした点にある。そして、同法二四条一項三号所定の技術的能力の有無及び四号所定の安全性に関する各審査に過誤、欠落があった場合には、重大な原子炉事故が起こる可能性があり、事故が起こったときは、原子炉施設に近い住民ほど被害を受ける蓋然性が高く、しかも、その被害の程度はより直接的かつ重大なものとなるのであって、特に、原子炉施設の近くに居住する者はその生命、身体等に直接的かつ重大な被害を受けるものと想定されるのであり、右各号は、このような原子炉施設の事故等がもたらす災害による被害の性質を考慮した上で、右技術的能力及び安全性に関する基準を定めているものと解される。

そうすると、右の三号(技術的能力に係る部分に限る。)及び四号の設けられた趣旨、右各号が考慮している被害の性質等にかんがみると、右各号は、単に公衆の生命、身体の安全、環境上の利益を一般的公益として保護しようとするにとどまらず、原子炉施設周辺に居住し、右事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解される。

そして、当該住民の居住する地域が、前記の原子炉事故等による災害により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域であるか否かについては、当該原子炉の種類、構造、規模等の当該原子炉施設に関する具体的な諸条件を考慮に入れた上で、当該住民の居住する地域と原子炉施設の位置との距離関係を中心として、社会通念に照らして合理的に判断すべきところ、原告らは本件原子炉施設から約一一キロメートルないし約五八キロメートルの範囲内の地域に居住していること、後記(第二章第一)のとおり、本件原子炉施設は研究開発段階にある原子炉である高速増殖炉であり(規制法二三条一項四号、同法施行令六条の二第一項一号、動力炉・核燃料開発事業団法二条一項参照)、その熱出力は七一万四〇〇〇キロワット、電気出力は約二八万キロワットであって、炉心の燃料としてはウランとプルトニウムの混合酸化物が用いられ、炉心内において毒性の強いプルトニウムの増殖が行われるものであること、これらの事実に照らすと、原告らは、いずれも本件原子炉施設の設置許可の際に行われる規制法二四条一項三号所定の技術的能力の有無及び四号所定の安全性に関する各審査に過誤、欠落がある場合に起こり得る事故等による災害により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域内に居住する者ということができるから、本件許可処分の無効確認を求める本件訴えにおいて、行訴法三六条所定の「法律上の利益を有する者」に該当するものと認められる。

二 そして、同条は、「処分の無効確認の訴えは、当該処分の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないものに限り、提起することができる。」との要件を定めており、原告らは、本件訴訟と共に本件原子炉施設の設置者である動燃に対し、本件原子炉の建設及び運転の差止めを求める民事訴訟(福井地方裁判所昭和六〇年(行ウ)第七号)を提起しているが、右民事訴訟は、右にいう当該処分の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えに該当するものとみることはできず、また、本件無効確認訴訟と比較して本件許可処分に起因する本件紛争を解決するための争訟形態としてより直截的かつ適切なものであるともいえないから、原告らにおいて右民事訴訟を提起していることは、本件無効確認訴訟が同条所定の右要件を欠くことにはならない。

三 したがって、原告らは、本件訴えにつき原告適格を有する者ということができ、本件訴えは適法である。

第二章  本件原子炉施設の特徴及び本件許可処分について

第一  本件原子炉施設の概要

争いのない事実並びに乙一ないし三、乙五、乙イ二及び乙イ四によれば、本件原子炉施設の特徴について、次のとおりと認められる。

一  本件原子炉施設は、被告が、福井県敦賀市白木地区に建設中の、熱出力七一万四〇〇〇キロワットの高速増殖原型炉であり、電気出力約二八万キロワットの発電設備を有している。

二  本件原子炉施設は、核分裂反応によって発生したエネルギーを利用する広義の原子炉施設に属するが、現在、一般的に発電の用に供されている原子炉(軽水炉)と比べて、次のような特徴を有する。

1 ウラン等の質量数の大きい元素の中には、核分裂を起こしやすいもの(核分裂性物質という。)があり、例えばウランの同位体であるウラン二三五や、プルトニウムの同位体であるプルトニウム二三九は、エネルギーの低い中性子によって容易に核分裂し、熱エネルギーを放出する。軽水炉は、この性質を利用し、主としてウラン二三五を使用して核分裂反応を起こさせ、これによって生じた熱をエネルギーとして利用し、発電の用に供する。

しかし、ウラン二三五は、天然に産出するウランの中の約0.7パーセントを占めるにすぎず、九九パーセントを占めるウラン二三八は、核分裂しにくい(燃えない)ウランであり、そのままでは原子炉の燃料として利用できないものであるが、ウラン二三八は、中性子を一個吸収すると、核分裂を起こすプルトニウム二三九に転換する性質を有する。そこで、本件原子炉施設においては、炉心燃料部分で核分裂反応を起こさせ、これによって生じた熱をエネルギーとして利用し、発電の用に供するのは軽水炉と同様であるが、これと同時に、右核分裂反応の際に生じた中性子によって、燃料部分の燃えないウランを燃えるプルトニウムに転換し、消費した以上の燃料を生産することを図り、炉心中央にプルトニウムとウランの混合酸化物からなる炉心燃料を配置し、その周辺に、ウランの酸化物からなるブランケット燃料を配置している(このことから、増殖炉と呼ばれる。)。なお、軽水炉でも、燃料中のウラン二三八の一部がプルトニウム二三九に転換されるが、その量は消費される燃料に比べて少なく、増殖は行われない。

2 軽水炉においては、核分裂反応によって生じた直後の高いエネルギー(速度)を有する中性子(高速中性子という。)ではウラン二三五の新たな核分裂反応を起こす確率が低いことから、これを減速し、新たな核分裂反応を起こす確率の速度の遅い中性子(熱中性子という。)にしており、その減速材として、軽水(普通の水)を用いる(このことから、軽水炉と呼ばれる。)。

これに対し、本件原子炉施設においては、燃料の増殖を図るためには、中性子を減速することなく、高いエネルギーを有する高速中性子のまま利用する必要があることから、減速材を用いない(このことから、高速炉と呼ばれる。)。他方で、高速中性子では核分裂反応が起きる確率が低いことから、燃料中の核分裂性物質の割合を軽水炉より高めている。

3 軽水炉においては、核分裂によって生じた炉心の熱エネルギーを除去して炉心の温度を調節すると共に、この熱を外部に取り出すための物質(冷却材)としても、軽水が用いられる。すなわち、軽水炉においては、軽水が、減速材と冷却材の役割を兼ねる。

これに対し、本件原子炉施設は、高速中性子を用いるため、減速効果の大きい軽水を冷却材として用いることはできず、冷却材としては、中性子を減速する効果が小さく、かつ、冷却材としての性質上熱伝導度が高い物質を用いることが望ましい。そこで、本件原子炉施設においては、右性質を有し、かつ、大気圧下において九八℃から約八八〇℃までの広い範囲で液体として存在し、高い温度でも加圧する必要のない金属ナトリウムを冷却材として用いている。

4 現在発電の用に供されている軽水炉は、規制法上は、「実用発電用原子炉」に位置づけられ(同法二三条一項一号)、電気事業法上は、「事業用電気工作物」に当たる(同法三八条三項。平成七年法律第七五号による改正後のもの。以下同じ。)

これに対し、本件原子炉施設は、規制法上は、「研究開発段階にある原子炉」に位置づけられ(同法二三条一項四号)、電気事業の用に供するものではないことから、電気事業法上は、「事業用電気工作物」のうちの「自家用電気工作物」に当たる(同法三八条四項。同条三項により、「事業用電気工作物」に関する規定が原則として適用される。)。

第二  本件原子炉施設の原子力開発上の位置づけ

本件原子炉施設は、高速増殖炉の開発段階としては、実験炉と将来炉(実証炉又は実用炉)の中間に位置する「原型炉」に当たる。したがって、本件原子炉施設は「液体金属冷却高速増殖(LMFBR)原型炉」である。

第三  本件許可処分の存在

被告は、昭和五八年五月二七日付けで、申請者に対し、本件原子炉施設について、本件許可処分をした。

第三章  本件訴訟における司法審査の在り方

第一  本件訴訟の審理及び判断の対象となる事項

一  無効の理由の制限(行訴法一〇条の類推適用の有無)

1 被告は、無効確認訴訟についても、取消訴訟について、自己の法律上の利益に関係しない違法を理由として取消しを求めることができないと定める行訴法一〇条一項の趣旨が類推適用されると主張する。

2(一) そこで検討するに、無効確認訴訟について行訴法一〇条一項を準用する規定はない。しかし、同項の実質的根拠は、取消訴訟が、行政庁の違法な行政処分によって自らが被っている権利利益の侵害を排除し、自己の権利利益の救済を図ることを目的とする主観訴訟であることから、取消訴訟において原告が自己の法律上の利益に関係しない主張を許すことは、取消訴訟の性質に反する結果になることにある。

一方、無効確認訴訟は、前記(第一章第三)のとおり、行訴法三六条が、無効確認訴訟の原告適格を有する者を「当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は採決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者」と限定していること、右「法律上の利益を有する者」は同法九条の「法律上の利益を有する者」と同趣旨と解されることからすれば、取消訴訟と同様、行政庁の処分によって原告自身の被っている権利利益の侵害の救済を目的とする主観訴訟と解されるから、自己の法律上の利益と関係のない違法事由の主張を認める理由はなく、同法一〇条一項は無効確認訴訟にも類推適用されると解するのが相当である。

(二) また、取消訴訟においては、処分の違法事由として無効事由を主張することができると解され、このことからして、無効確認訴訟は、取消訴訟の出訴期間を徒過した場合の例外的、補充的な訴訟形式救済方法ということができるところ、取消訴訟において無効事由を主張する場合には行訴法一〇条一項の規定が適用されることは明らかであるから、無効確認訴訟には同項が準用されないと解すると、出訴期間の経過の有無により取扱いを異にすることになり、不当な結論となる。

(三) 原告らは、無効は何人との関係においても無効であると主張するが、これが直ちに訴訟法上、無効確認訴訟の原告において、自己の法律上の利益に関係しない違法事由を主張することができるという結論を導くものではなく、主観訴訟としての性質による制約を受け、自己の法律上の利益に関係のない違法事由を主張することができないと解することは、何ら不合理ではない。

(四)  したがって、行訴法一〇条一項は無効確認訴訟にも類推適用されるから、本件訴訟において、原告らは、自己の法律上の利益に関係しない違法事由を主張することはできない。

3  そして、右の原告らの「法律上の利益」は、行訴法九条の「法律上の利益を有する者」の「法律上の利益」と同義と解されるところ、前記(第一章第三)のとおり、規制法二四条一項三号(技術的能力に係る部分に限る。)及び四号は、原子炉施設周辺に居住し、右事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解されるから、原告らは、同項三号(技術的能力に係る部分に限る。)及び四号に係る違法を主張することができる。

他方、規制法二四条一項一号は、「原子炉が平和の目的外に利用されるおそれがないこと」との要件を、及び同項二号は、「その許可をすることによって原子力の開発及び利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれのないこと」との要件をそれぞれ定めているが、右各要件が定められた趣旨は、専ら、原子力の研究、開発及び利用を平和の目的に限り、かつ、原子力の開発及び利用を長期的視野に立って計画的に遂行するとの我が国の原子力に関係する基本政策に適合せしめ、もって、広く国民全体の公益の増進に資することにあるのであり、また、同項三号のうち、経理的基礎があることを要件とした趣旨は、原子炉の設置には多額の資金を要することにかんがみ、申請者の総合的経理能力及び原子炉設置のための資金計画を審査することにしたのであって、同法二四条一号、二号及び三号(経理的基礎に係る部分に限る。)は、原子炉施設の周辺住民等の個人的利益の保護を目的として内閣総理大臣の許可権限の行使に制約を課したものではなく、原告らの法律上の利益に関係しないと解されるから、原告らは、右各要件に係る違法事由を主張することはできない。

4  ただし、許可処分の手続に係る違法事由ついては、規制法二四条一項三号(技術的能力に係る部分に限る。)及び四号の要件は抽象的、一般的である上、後記三のとおり、原子炉施設の安全性に関する審査の適合性については、各専門分野の学識経験者等を擁する原子力委員会の科学的、専門技術的知見に基づく意見を尊重して行う内閣総理大臣の合理的な判断に委ねる趣旨と解されるところ、同法二三条、二四条二項は、右内閣総理大臣の判断が適正にされることを担保するために厳格な手続を定めたものと解されるから、安全審査手続が適法であって初めて、右の判断の適正が保障されることになるというべきである。したがって、手続法上の違法が実体法上の違法をもたらすものである限り、原告らは、手続上の違法を主張することができると解するのが相当である。

二  重大かつ明白な違法

無効確認訴訟において、原告らが主張することのできる瑕疵は、重大かつ明白なものに限られる(最高裁第三小法廷昭和三六年三月七日判決参照)。

三  原子炉設置許可段階における安全審査の対象

規制法は、その規制対象を、精錬事業(第二章)、加工事業(第三章)、原子炉の設置、運転等(第四章)、再処理事業(第五章)、核燃料物質の使用等(第六章)、国際規制物質の使用(第六章の二)に分け、それぞれについて内閣総理大臣の指定、許可、認可等を受けるべきものとしているのであるから、第四章所定の原子炉の設置、運転等に対する規制は、専ら同章所定の事項をその対象とするものであって、他の各章において規制することとされている事項をその対象とするものではないと解するべきである。

また、規制法第四章の原子炉の設置、運転等に関する規制の内容を見ると、原子炉の設置の許可、変更の許可(二三条ないし二六条の二)のほかに、設計及び工事方法の認可(二七条)、使用前検査(二八条)、保安規定の認可(三七条)、定期検査(二九条)、原子炉の解体の届出(三八条)等の各規制が段階的に行われることとされている(なお、規制法七三条は、本件原子炉のような発電用原子炉施設について、二七条ないし二九条の適用を除外するものとしているが、これは、電気事業法四一条、四三条及び四七条により、その工事計画の認可、使用前検査及び定期検査を受けなければならないとされているからであると解される。)。したがって、原子炉施設の設置許可の段階においては、専ら当該原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針のみが規制の対象となるのであって、後続の設計及び工事方法の認可(二七条)の段階で規制の対象とされる当該原子炉施設の具体的な詳細設計及び工事の方法は規制の対象とはならないと解すべきである。

右の規制法の規制の構造に照らすと、原子炉施設の設置許可の段階の安全審査においては、当該原子炉施設の安全性に係るすべてをその審査対象とするものではなく、その基本設計ないし基本的設計方針に係る事項のみをその対象とするものと解するのが相当である。

四  まとめ

以上によれば、本件において原告らの主張することのできる違法事由は、本件原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針に係る本件安全審査の手続上の瑕疵(実体上の違法をもたらさないことが明白であるものを除く。)並びに規制法二四条一項三号所定の技術的能力に係る許可要件適合性及び四号所定の安全性に係る許可要件適合性の審査、判断に係る重大かつ明白な瑕疵に限られることになる。

五  本件において原告らの主張する違法事由のうち、本件訴訟の審理、判断の対象とならない事項

そうすると、原告らの主張する違法事由のうち、以下のものは、本件訴訟の審理、判断の対象とならず、主張自体失当である。

1 原告らの自己の法律上の利益に関係しない事項

規制法二四条一項一号、二号及び三号(経理的基礎に係る部分に限る。)の各要件に係る違法事由の主張は、原告らの自己の法律上の利益に関係しない事項である。なお、原告らが当初主張していた労働者被曝に関する主張も、周辺住民である原告らの法律上の利益と関係がないことが明らかであるが、原告らは右主張を撤回している。

2 安全審査の対象とならない事項

原告らは、本件施設を含む高速増殖炉開発は、非経済的であり、開発の継続は違法であると主張し、少なくとも本件許可処分の違法性の重大性の判断においては、高速増殖炉開発の公益性が影響すると主張する。

しかし、高速増殖炉の公益性が規制法二四条一項三号(技術的能力に係る部分に限る。)の要件とは関係せず、安全審査の対象とならないことは明らかである。同項四号の要件と関係するかについては、後に述べる(第六章第一、三、3)。

なお、原告らが当初主張していた使用済燃料の再処理及び輸送に関する主張、廃炉に関する主張、固体廃棄物の最終処分に関する主張、プルトニウム社会に関する主張、温排水に関する主張、原子力発電所の集中立地に関する主張、防災計画に関する主張については、安全審査の対象とならない事項であるが、この点については、原告らは主張を撤回している。

第二  本件訴訟における司法審査の手法

一  本件許可処分の性質

規制法二四条一項三号(技術的能力に係る部分に限る。)及び四号の規定の趣旨は、前記(第一章第三、一)のとおり、原子炉が原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する核分裂性物質を燃料として使用する装置であり、その稼働により、内部に多量の人体に有害な放射性物質を発生さるものであって、原子炉を設置しようとする者が原子炉の設置、運転につき所定の技術的能力を欠くとき、又は原子炉施設の安全性が確保されないときは、当該原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命、身体に重大な危害を及ぼし、周辺の環境を放射能によって汚染するなど、深刻な災害を引き起こすおそれがあることにかんがみ、右災害が万が一にも起こらないようにするため、原子炉設置許可の段階で、原子炉を設置しようとする者の右技術的能力と、申請に係る原子炉設置の位置、構造及び設備の安全性につき、科学的、専門技術的見地から十分な審査を行わせることにある。

右の技術的能力を含めた原子炉施設の安全性に関する審査は、当該原子炉施設そのものの工学的安全性、平常運転時における従業員、周辺住民及び周辺環境への放射線の影響、事故時における周辺地域への影響等を、原子炉設置予定地の地形、地質、気象等の自然的条件、人口分布等の社会的条件及び当該原子炉設置者の技術的能力との関連において、多角的、総合的見地から検討するものであり、しかも、事柄の性質上、右審査の対象には、将来の予測に係る事項も含まれているのであって、右審査においては、原子力工学はもとより、多方面にわたる高度な最新の科学的、専門技術的知見に基づく総合的判断が必要とされるものである。そして、規制法二四条二項が、内閣総理大臣は、原子炉設置の許可をする場合においては、同条一項三号(技術的能力に係る部分に限る。)及び四号所定の原子炉設置許可の基準の適合性について、あらかじめ原子力安全委員会(以下「安全委員会」という。)の意見を聴き、これを尊重しなければならないと定めており、後記(第四章第一、一)のとおり、安全委員会には、学識経験者及び関係行政機関の職員で組織される原子炉安全専門審査会(以下「安全審査会」という。)が置かれ、原子炉施「設の安全性に関する事項の調査審議に当たるものとされているが(設置法一六条)、このような原子炉設置許可処分の手続は、右のような原子炉施設の安全性に関する審査の特質を考慮し、右各号所定の基準の適合性については、各専門分野の学識経験者等を擁する安全委員会(安全審査会を含む。以下同じ。)の科学的、専門技術的知見に基づく意見(調査審議及び判断の結果が答申される。)を尊重して行う被告内閣総理大臣の合理的な判断に委ねる趣旨と解される(伊方最高裁判決参照)。

右に述べた安全審査及び処分の構造に照らせば、原子炉施設の安全性に関する判断の適否が争われる原子炉設置許可処分の無効確認訴訟における審理及び判断は、安全委員会の専門技術的な調査審議及び判断を基にしてされた行政庁の判断に重大かつ明白な瑕疵といえるだけの不合理な点があるかという観点から行われるべきである。

したがって、裁判所は、本件において、規制法二四条一項三号(技術的能力に係る部分に限る。)と四号の各要件の適合性について、安全委員会における右各要件適合性の調査審議に用いられた具体的審査基準に重大かつ明白な瑕疵といえるだけの不合理な点があり、あるいは、当該原子炉施設が右の具体的審査基準に適合するとしたその調査審議及び判断の過程に重大かつ明白な瑕疵といえるだけの過誤、欠落があり、これに依拠してされた被告の判断に重大かつ明白な瑕疵があるといえる場合に限り、本件許可処分が無効であることを確認することになる。

二  違法判断の基準時

取消訴訟における違法判断の基準時については、取消訴訟は行政庁の第一次的判断を前提とし、その適否を審査する抗告訴訟であるから、原則として処分時の適法性について審査すべきであり(最高裁昭和二七年一月二五日第二小法廷判決参照)、この理は、前記(第三章第一、一、2、(一))のとおり取消訴訟と同様に抗告訴訟の性質を有する無効確認訴訟にも当てはまる。

ただし、規制法二四条一項四号の要件に関する判断のうち、科学技術に係る事項を判断するに際して用いる科学的知見に関しては、科学的経験則、自然法則又は論理法則にほかならないのであるから、本件許可処分時の科学水準のものによるのではなく、現在の科学水準のものに則って判断するべきである。

したがって、科学的経験則、自然法則又は論理法則を構成する科学的知見について、処分時に用いた知見がその時点で通説的見解であっても、その後誤りが発見され、従来の指摘が誤りであったことが現在の通説的見解になった場合には、裁判所が現在の知見を適用して処分の当否を判断すべきである。

もっとも、本件許可処分後の新知見によって処分時の知見が誤っているとされる場合であっても、新知見を前提としてもなお当該原子炉の安全性を確保しうると認められる場合には、「災害の防止上支障がないこと」という規制法二四条一項四号の要件を満たし、本件許可処分は適法となることはもちろんである。

三  本件訴訟における主張、立証責任

1  無効確認訴訟においては、処分の無効を主張する原告において、行政庁の処分に重大かつ明白な瑕疵のあることを具体的事実に基づいて主張、立証すべきであり(最高裁第三小法廷昭和三四年九月二二日判決等参照)、原告が主張、立証責任を負うというべきである。

また、前記一のとおり、規制法二四条一項三号(技術的能力に係る部分に限る。)及び四号の各要件適合性の判断は、多方面における極めて高度な科学的、専門技術的な知見に基づく総合的な判断を要するものであり、被告内閣総理大臣の裁量に委ねられた事項であるところ、行政庁の裁量処分について、当該行政庁の裁量判断に不合理な点のあることの主張、立証責任は、原則としてこれを争う原告が負うというべきである(最高裁第二小法廷昭和四二年四月七日参照)。

2 もっとも、原子炉設置許可処分の取消訴訟においては、被告行政庁がした右判断に不合理な点があり、それが重大かつ明白であることの主張、立証責任は、本来、原告が負うべきものと解されるが、当該原子炉施設の安全審査に関する資料をすべて被告行政庁の側が保持していることなどの点を考慮すると、被告行政庁の側において、まず、その依拠した具体的審査基準並びに調査審議及び判断の過程等、被告行政庁の判断に重大かつ明白な不合理な点のないことを相当の根拠、資料に基づき主張、立証する必要があり、被告行政庁が右主張、立証を尽くさない場合には、被告行政庁がした右判断に不合理な点があることが事実上推定されると解し、被告に事実上主張、立証の義務を負わせている(伊方最高裁判決参照)。

そこで、右法理が本件のような無効確認訴訟にも当てはまるものか否かについて検討するに、この点、被告は、(1)無効確認訴訟は、処分の通用力の存在が形式的に確定した後において処分の効力を争うものであって、行訴法上も前記のとおり例外的、補充的な訴訟形式として位置づけられているものであり、取消訴訟の場合のように、立証の難易及び公平の観点から被告に事実上主張、立証の義務を負わせる必要性は全くない、(2)出訴期間の制限のない無効確認訴訟において被告に事実上主張、立証の義務を負わせると、時間の経過に伴う資料の散逸のおそれなどから、被告に対して過酷な主張、立証の義務を課することになりかねず、公平にも反するとして、原子炉設置許可処分の取消訴訟における右法理は本件に当てはまるものではないと主張する。

しかし、右のとおり、原子炉設置許可処分の取消訴訟において、被告に事実上主張、立証の義務を負わせる根拠は、安全審査に関する資料をすべて被告行政庁の側が保持しているという、証拠の偏在にある。したがって、右の事情の存在する限りは、無効確認訴訟であっても、取消訴訟同様に解することは妨げられないし、また、そうすべきこととなる。

そして、無効確認訴訟は、前記(第一、一、2、(一))のとおり、その性質は取消訴訟と同様の抗告訴訟であり、また、重大性、明白性の要件は、処分の違法性の程度の問題であると解されるから、当該原子炉施設の安全審査に関する資料をすべて被告行政庁の側が保持していることは、無効確認訴訟と取消訴訟という訴訟形態の違いによって異なるものでないことは明らかである。

もちろん、無効確認訴訟には、出訴期間の制限がないため、時間の経過に伴う資料の散逸などにより、証拠の偏在という事情が常に存在するとはいえないが、本件についてみれば、本件訴訟が提起されたのは、本件許可処分がされた昭和五八年五月二七日から約二年四か月後の昭和六〇年九月二六日であり、本件の訴訟経過に照らしてみても、本件原子炉施設の安全審査に関する資料はいまだ被告がすべて保管していたものと認められるから、時間の経過に伴い被告に資料の散逸があったとは認められない。

したがって、本件無効確認訴訟においても、取消訴訟の場合と同様、当該原子炉施設の安全審査に関する資料をすべて被告が保持していることなどの点を考慮すれば、被告において、まず、その依拠した具体的審査基準並びに調査審議及び判断の過程等、被告の判断に重大かつ明白な瑕疵といえるだけの過誤、欠落のないことを相当の根拠、資料に基づき主張、立証する必要があり、被告が右主張、立証を尽くさない場合には、被告がした右判断に不合理な点があることが事実上推定されると解するのが相当であって、無効確認訴訟においては重大性、明白性の要件があることを、被告に要求される立証の程度において考慮すれば足りるというべきである。

第四章  本件許可処分の手続的適法性

第一  本件許可処分の手続とその適法性

一  研究開発段階にある原子炉の設置許可申請から設置許可に至るまでの手続

本件原子炉施設のような研究開発段階にある原子炉の設置許可申請から設置許可に至るまでの手続は、当事者間に争いがなく、次のとおりと認められる。

1 研究開発段階にある原子炉を設置しようとする者は、規制法二三条、同法施行令六条、原子炉規則一条の三に基づき、内閣総理大臣に対し、原子炉の設置許可申請を行う。

2 内閣総理大臣は、右許可申請が規制法二四条一項各号所定の許可要件に適合しているか否かを審査する。審査は、その所部の機関である科学技術庁が行う。

3 科学技術庁は、右審査に当たり、必要に応じ、原子力安全技術顧問(原子力の安全に関する各専門分野において、高度な専門技術的知見を持つ学識経験者の中から、科学技術庁長官が委嘱した者)から、その専門技術的見地からの意見を徴する。科学技術庁は、その意見を求めるに当たって必要があるときは、関係の原子力安全技術顧問による会合を開催する。

4 内閣総理大臣は、右許可申請につき、規制法二四条一項一号、二号及び三号(経理的基礎に係る部分に限る。)の各要件適合性については原子力委員会に、同項三号(技術的能力に係る部分に限る。)及び四号の各要件適合性については安全委員会にそれぞれ諮問する。右諮問に際しては、科学技術庁が行った安全審査の内容をまとめた安全審査書案が安全委員会に提出される。

5 原子力委員会は、右許可申請が規制法二四条一項一号、二号及び三号(経理的基礎に係る部分に限る。)の各要件適合性について審議し、内閣総理大臣に対しその結果を答申する。

6 安全委員会は、右許可申請が規制法二四条一項三号(技術的能力に係る部分に限る。)及び四号の各要件適合性について審議し、内閣総理大臣に対しその結果を答申する。

安全委員会は、四号の要件に関しては、必要に応じ、同委員会に設置されている安全審査会にその調査審議を指示する(設置法一六条)。

安全審査会は、原子炉の安全性に関する専門の事項について適切かつ効率的に調査審議を行うために部会を置くことができ(原子炉安全専門審査会運営規程七条)、通常は、原子炉設置許可申請ごとに部会が置かれる。部会は、調査審議の方針等を検討した上、専門分野別にグループ分けを行い、グループ単位あるいは部会全体で調査審議を行う。部会は、その状況及び結果を適宜安全審査会に報告し、安全審査会における審議に付する。

さらに、安全委員会は、四号の要件適合性を審議するに当たり、公開ヒアリング等を実施して、当該原子炉施設固有の安全性について地元住民の意見を参酌する(「原子力安全委員会の当面の施策について」昭和五三年一二月二七日原子力安全委員会決定、昭和五七年一一月二五日一部改正)。

7 内閣総理大臣は、原子力委員会及び安全委員会の各答申を十分に尊重し(規制法二四条二項)、またあらかじめ通商産業大臣の同意(規制法七一条一項一号)を得た上、当該設置許可申請の許否について最終的な判断をし、処分を行う。

二  本件許可処分の手続

乙七ないし一〇、乙一一ないし一四の各一ないし三、乙一六、乙一七、乙二〇、乙二二及び乙イ六によれば、本件許可処分の手続について、次の事実が認められる。

1 申請者は、昭和五五年一二月一〇日、内閣総理大臣に対し、規制法二三条に基づき、本件許可申請をした(なお、申請者は、昭和五六年一二月二八日と昭和五八年三月一四日の二回にわたって、右申請書及び同添付書類の一部を補正した。)。

2 被告は、直ちに、科学技術庁に右申請に係る審査を行わせた。

3 科学技術庁は、必要に応じ、原子力安全技術顧問から専門技術的見地からの意見を聴取するなどした上、本件許可申請は規制法二四条一項各号の許可要件に適合すると判断した。

4 被告は、昭和五七年五月一四日、科学技術庁の右意見を付して、本件許可申請について、規制法二四条一項一号、二及び三号(経理的基礎に係る部分に限る。)の各要件適合性については原子力委員会に、また、同項三号(技術的能力に係る部分に限る。)及び四号の各要件適合性については安全委員会にそれぞれ諮問した。安全委員会への諮問に際しては、科学技術庁における安全の内容をまとめた安全審査書案が安全委員会に提出された(なお、昭和五八年三月にその一部が修正されている。)。

5 原子力委員会は、右諮問を受けて審議した結果、昭和五八年四月二六日、被告に対し、本件許可申請が右各要件に適合していると認める旨答申した。

6 安全委員会は、右諮問を受けて、昭和五七年五月一四日、安全審査会に対し規制法二四条一項四号に係る事項について調査審議を指示した。当時、安全委員会は、原子炉工学、核燃料工学、熱工学、放射線物理学等の原子炉施設に関する専門的分野を始め、地震学、地質学及び気象学等に及ぶ広範な分野から選ばれた審査委員四四人により構成されていた。

7 安全委員会は、右指示に係る調査審議を適切かつ効率的に行うため、昭和五七年五月一八日、二八人の審査委員からなる第一六部会を設置した。

8 第一六部会は、主として原子炉施設に係る事項を担当するAグループ、主として公衆の被曝線量評価等の環境面に係る事項を担当するBグループ、主として地質、地盤、地震、耐震設計等の自然的立地条件に係る事項を担当するCグループに分かれ、各グループにおいて詳細な検討をした。また、同部会は、随時、全体の会合を開いて各グループに関係する事項の検討を行い、現地調査も行った。そして、同部会は、適宜その審査状況を安全審査会に報告し、安全審査会の審議に付した。

第一六部会においては、全体会合七回、現地調査八回、Aグループ会合二一回、Bグループ会合一四回、Cグループ会合一〇回の会合等が開催された。

9 安全委員会は、昭和五七年七月二日、福井県敦賀市において公開ヒアリングを開催した。右公開ヒアリングにおいて提出された意見等のうち、規制法二四条一項三号(技術的能力に係る部分に限る。)に係る事項については、これを直接これを参酌し、同項四号に係る事項については、同年九月二日、安全審査会にこれを参酌するよう指示した。

10 第一六部会は、昭和五八年四月一二日、それまでの調査審議の結果を安全審査会に報告した。安全審査会は、右報告を基に調査審議を更に行い、同年四月二〇日、本件許可申請が規制法二四条一項四号の要件に適合すると判断する旨の調査審議結果を安全委員会に報告した。

11 安全委員会は、本件許可申請の規制法二四条一項三号(技術的能力に係る部分に限る。)の要件適合性については自ら審議し、また、同項四号の要件適合性については安全審査会の右報告を踏まえた上で審議した。その結果、安全委員会は、昭和五八年四月二五日、被告に対し、本件許可申請が右各要件に適合していると認める旨答申した。

12 被告は、原子力委員会及び安全委員会の右各答申を受け、また、昭和五八年四月二八日に通商産業大臣の同意を得た上、本件許可申請は規制法二四条一項各号の要件に適合していると判断し、同年五月二七日、規制法二三条一項に基づき、本件許可処分をした。

三  当裁判所の判断

右認定の本件許可処分の手続は、研究開発段階にある原子炉の設置許可申請がされてから許可処分に至るまでの手続に適合しており、適法であるというべきである。

第二  原告らの主張について

一  原子力三原則違反の主張について

原告らは、安全審査会の審査過程と審査資料が非公開である上、公開ヒアリングの手続が非民主的であり、自主、民主、公開を規定する原子力基本法二条に違反すると主張する。

しかし、基本法は、原子力の研究、開発及び利用を推進することによって、将来におけるエネルギー資源を確保し、学術の進歩と産業の振興とを図り、もって人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与することを目的とし(同法一条)、原子力の研究、開発及び利用は平和の目的に限り、民主的な運営の下に、自主的にこれを行うものとし、その成果を公開し、進んで国際協力に資するものとする(同法二条)ことをその基本方針とするが、同法は、原子力の研究、開発及び利用全般にわたり、包括的な法規範として機能しているものの、それぞれの法的規制等の具体的な内容は、そのほとんどすべてを他の法律に委ねており、基本法が、他の法律を通さずに、原子力の研究、開発及び利用に関して直接国民の権利義務に影響を及ぼしたり、国民と国家との間の具体的な法律関係を形成することはないと解される。同法二条に規定するいわゆる原子力三原則は、原子力の研究、開発及び利用についての基本的精神を宣言したものであって、個々の発電用原子炉の設置許可手続を直接規制するものと解することはできないというべきである。したがって、本件許可申請の審査手続に原子力基本法の適用があることを前提とする原告らの主張は、その前提において失当である。

二  審査体制の不公正の主張について

原告らは、本件安全審査における安全委員会、安全審査会の構成は、反対派が存在しない不公正なものであったため、安全委員会、安全審査会内では原子炉の安全性についての総合的な議論がされる仕組みにならず、このような構成による右委員会、審査会のした判断に基づく本件許可処分には重大かつ明白な瑕疵があると主張する。

しかし、原告らの主張はいかなる委員の選任をもって安全委員会、安全審査会の構成が不公正であるというのか不明確であって、具体的な主張とはいえないし、原子力発電所推進に対する反対派が構成員にいなければ、直ちに真摯な安全審査が行い得ないということもできないから、原告らの主張は失当である。また、安全委員会の委員は、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命するとされ(設置法二二条、五条一項)、安全審査会の審査委員は、学識経験のある者及び関係行政機関の職員のうちから、内閣総理大臣が任命するとされている(同法一七条一項)上に(なお、設置法は、安全委員会の委員の資格については特に定めていないが、同法は、規制法二四条一項四号に関する事項についての専門技術的観点からする調査審議は、安全委員会が直接に行うのではなく、安全審査会の専門技術的調査審議に基づく報告を踏まえて行うことを予定していると解されるので、そのこと自体を不当とする理由はない。)、後記第五章以下において判断する本件安全審査の具体的な審査内容に徴しても、安全委員会の委員ないし安全審査会の審査委員が原子力発電所の建設を積極的に推進することだけを考え、その学問的あるいは専門的知識に基づいた真摯な安全審査を行わなかったことを窺わせるような証拠は全くない。また、右の事情に加えて、安全委員会の委員については、身分保障(設置法二二条、六条、七条)があり、被告内閣総理大臣は原子力委員会の決定を尊重しなければならない(設置法二三条、規制法二三条三項)とされていることからすると、安全委員会が政府の原子力発電所推進の政策の支配を受け、本件原子炉施設の安全性についての総合的な議論ができる仕組みになっていなかったということもできない。

三  審査基準の違法性

原告らは、本件安全審査の審査基準を定めた規制法二四条一項四号は非常に抽象的な基準を示しているに留まり、その適合性の判断に当たっては、法律に根拠のない安全委員会の内規である各種審査指針の基準を用いて審査したものであり、このことは、国会が唯一の立法機関であると定めた憲法四一条、行政への包括的、白紙的授権を禁じた憲法七三条一項に違反すると主張し、また、審査基準の内容も、審査基準の名に値しないずさんなものであるから、この審査基準を用いた本件許可処分の手続は適正手続の保障を定める憲法三一条に違反すると主張する。

しかし、原子炉施設の安全性に関する審査は、多方面にわたる極めて高度な最新の科学的、専門的知見に基づいてされる必要がある上、科学技術は不断に進歩、発展しているのであるから、原子炉施設の安全性に関する基準を具体的かつ詳細に法律で定めることは困難であるのみならず、最新の科学技術水準への即応性の観点からみて適当ではないことにかんがみると、規制法二四条一項四号の規定の仕方も理解し得るところであり、憲法四一条、七三条一項に違反したものであるとはいえない。また、本件許可申請に対する処分については、申請に係る原子炉施設の位置、構造及び設備の安全性に関する審査の適正を確保するため、各専門分野の学識経験者等を擁する安全委員会の科学的、専門技術的知見に基づく意見を聞き、これを尊重するという、慎重な手続が定められているのであって、右規定が憲法三一条に違反したものであるということはできない。そして、本件安全審査は、本件許可申請が規制法二四条一項四号の規定に適合するか否かという観点からされたものであることは明らかであり、審査基準はこれを判断するに当たって用いられたものにすぎないのであるから、審査基準が法律に基づかないものであるからといって、本件許可処分が法律の定める手続に基づかないことにはならない(伊方原発最高裁判決参照)。また、本件安全審査において用いられた審査基準の内容が不合理であることは、本件許可処分の実体的違法を招くことにはなりうるとしても、それ自体として本件許可処分の手続的違法を招くものでないことは明らかである。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

四  審査範囲の限定について

原告らは、本件安全審査においては、審査の対象事項を本件原子炉施設の基本設計ないし基本設計方針に限定しているが、右は審査範囲、対象を不当に限定したものであるから違法であり、本件許可処分には重大かつ明白な瑕疵がある旨主張する。

しかし、原子炉設置許可における安全審査については、前記(第三章第一、三)のとおり、当該原子炉施設における基本設計ないし基本的設計方針に係る事項のみが審査の対象となるのであるから、原告らの右主張はその前提を欠くものである。

なお、原告らは、何が基本設計ないし基本設計方針に該当するかについては明確な判断基準がなく、二次系配管室の床ライナの厚さや二次系配管の温度計の設計も基本設計に含まれるものであるとして、本件安全審査においては、審査範囲、対象が恣意的に選択されている旨主張する。

確かに、証人佐藤一男の証言(佐藤調書一一〇頁)によれば、いかなる設計が基本設計ないし基本的設計方針に該当するかを定めた法令や審査基準は存在しないことが認められる。しかし、前記(第三章第二、一)のとおり、規制法二四条一項各号所定の基準の適合性については、各専門分野の学識経験者等を擁する安全委員会の科学的、専門技術的知見に基づく意見を尊重して行う被告内閣総理大臣の合理的な判断に委ねられているところ、いかなる設計を基本設計ないし基本的設計方針に該当するものとして本件安全審査の対象とするかは、右の裁量的な判断の過程を構成するものであるから、同様に被告の合理的な判断に委ねられているものと解するべきである。したがって、ある事項を基本設計ないし基本的設計方針として扱わず安全審査の対象としなかったことが、本件安全審査の調査審議及び判断の過程に重大かつ明白な瑕疵といえるだけの過誤、欠落があり、これに依拠してされた被告の判断に重大かつ明白な瑕疵があるといえるか否かを判断すれば足りる。

そして、二次系配管室の床ライナの厚さや二次系配管の温度計の設計については、後記(第六章第六、八、3、(一)及び(二)、(2))のとおり、これを基本設計ないし基本的設計方針としなかったことが、不合理な点があるとまでは認められない。また、他に本件安全審査における基本設計ないし基本的設計方針としての審査対象の選択に不合理な点も認められない。したがって、この点において、本件安全審査の調査審議及び判断の過程に重大かつ明白な瑕疵といえるだけの過誤、欠落があるということはできない。

第五章  本件許可処分の規制法二四条一項三号(技術的能力に係る部分に限る。)適合性

第一  当裁判所の判断の手法

前記(第四章第一、二)のとおり、規制法二四条一項三号適合性の審査については、被告は、その所部の機関である科学技術庁で審査した後、安全委員会に諮問し、安全委員会は、調査審議の結果、本件許可処分申請が同号に適合する旨判断してその旨被告に答申し、被告は、右答申を十分尊重して、本件許可処分をした。

そこで、当裁判所は、本件安全審査の審査方針及び審査事項に不合理な点があるか否か、本件許可処分申請が右審査方針及び審査事項に照らして本件許可処分申請が同号に適合するとした安全委員会の調査審議及び判断の過程に重大かつ明白な瑕疵といえるだけの過誤、欠落があるか否かについて検討することとする。

第二  本件安全審査の内容

乙一四の三、乙一六及び乙二二によれば、次のとおりと認められる。

一  本件安全審査においては、本件許可申請が、規制法二四条一項三号(技術的能力に係る部分に限る。)の要件に適合するか否かについて、安全委員会は、原子炉が高度の技術を集約して設置運転されることにかんがみ、主として原子炉の建設、運転による災害の防止を図るという観点から、申請者がそれに必要な組織、要因を確保することになっているか等を中心に、人的、組織的な面から事業者としての適格性があるか否かを判断することとし、申請者に、申請に係る本件原子炉施設を計画、建設していく上での十分な要員が確保されていること、原子炉施設の運転開始までにその運転を適確にしていく上での十分な要員が確保される見通しがあること等について、「原子炉施設の設置及び運転に関する技術的能力に関する説明書」(原子炉規則一条の三第二項五号)等を参考とし、審査した。

二  そして、本件安全審査においては、次の各事項を確認した結果、申請者は、本件原子炉施設の建設、運転に当たって、十分な要員を確保していると共に、業務を適確に遂行するに十分な人的、組織的体制を準備しており、本件許可処分は規制法二四条一項三号(技術的能力に係る部分に限る。)の要件に適合すると判断した。

1 申請者は、本件原子炉施設の建設に当たり、法令に基く諸手続、設計、工事計画、品質保証及びこれらに付随する対外連絡等の業務を含めて本社技術者約一五〇人を直接従事あるいは関与させ、また、本件原子炉施設運転開始時には約一八〇人の技術者を確保することとしている。右技術者は、それぞれ土木建築系、保健物理(放射線物理)系、炉物理系等の知識を有しており、管理者の約半数は、高速増殖炉の研究、開発、計画等に一〇年以上の経験を有している。

2 申請者は、本件原子炉施設の建設、運転を行うに当たって、建設に必要な組織(技術者等で組織されるもんじゅ建設事務所)を設置すると共に、運転を適確に遂行する組織体制を設けることとしている。また、技術者の養成については、高速実験炉「常陽」と新型転換炉「ふげん」発電所の運転・保守の実務経験を通じて技術者の養成を行い、原子力関係機関への研修派遣や本件原子炉施設用のシミュレータでの訓練を通じて技術者の養成を行うこととしている。さらに、原子炉主任技術者及び第一種放射線取扱主任者その他法令上必要な有資格者を確保している。

第三  当裁判所の判断

右認定の事実によれば、本件安全審査の審査方針及び審査事項に不合理な点があるとはいえないし、また、右審査方針及び審査事項に照らして、申請者は本件原子炉施設の建設、運転に当たって、十分な要員を確保していると共に、業務を適確に遂行するに十分な人的、組織的体制を準備しており、右技術的能力に係る要件に適合するものとした本件安全審査における調査審議及び判断の過程に重大かつ明白な瑕疵といえるだけの過誤、欠落があるとは認められない。

第四  原告らの主張について

一  憲法三一条違反の主張について

原告らは、規制法二三条一項三号の規定は、抽象的であり、適正手続の保障を定める憲法三一条に違反すると主張する。

しかし、同号の規定は、「その者に原子炉を設置するために必要な技術的能力及び経理的基礎があり、かつ、原子炉の運転を適確に遂行する技術的能力があること」という具体的なものであり、抽象的な規定であるということはできない。したがって、原告らの主張は理由がない。

二  申請者の体質について

1 原告らは、次の各事実を指摘して、申請者には規制法二四条一項三号(技術的能力に係る部分に限る。)の要件が欠ける旨主張する。

(一) 本件ナトリウム漏えい事故の発生

本件ナトリウム漏えい事故は、二次主冷却系の温度計さや管が破損してナトリウムが漏えいした事故であるが、右破損の原因は、さや管が徐々に細くなる形状のテーパ状ではなく、段付き構造のさや管を設置したために、配管内を流れるナトリウムの流体力によってさや管の細管部に高サイクル疲労が生じたこと、すなわち温度計の設計ミスにあった。これは初歩的なミスであり、申請者の品質保証活動、技術の継承に問題があることが露呈した。

また、本件事故により、ナトリウムの燃焼温度の想定が誤っていたことが判明したが、申請者は、床ライナの損傷防止対策について有効な解決策を打ち出すことができず、現在においても運転再開の目処が立っていない。そして、本件事故により、異常時運転手順書を構成する「概要」「フローチャート」「細目」の三文書の内容が互いに矛盾していたことが判明したが、申請者はこの矛盾を事前にチェックすることができなかった。さらに、本件事故においては、本件原子炉施設のナトリウム漏えい検出機能に欠陥があることも判明した。

これらの事実は、申請者に原子炉を適格に運転遂行する技術的能力が欠如していることを示すものである。

(二) 配管の設計ミス

平成三年六月、本件原子炉施設において、総合機能試験の準備として予熱用の電気ヒーターで二次主冷却系配管を加熱した際に、配管が熱膨張により設計とは全く逆方向に変形し、また、同年七月、同じく総合機能試験において蒸気発生器細管の溶接箇所に定期検査用のプローブがひっかかり、プローブを削るという事件が発生し、申請者の品質保証活動が不十分であることが露呈した。また、申請者は、これらの重大な事実を内部告発によって明らかにされるまで隠し、自らの技術的能力の欠如を覆い隠していたのであって、これは、申請者に原子炉を適格に運転遂行する能力が欠如していることを示すものである。

(三) 東海村の再処理工場の事故

平成九年三月一一日、申請者の東海村再処理工場の放射性廃棄物アスファルト固化工程において、TNT火薬に換算して数十キログラム程度と推定される大規模な爆発事故が発生した。この事故の原因は、運転条件を変更したことにあったが、右運転条件の変更は現場サイドだけで決められ、申請者の技術者の検討を経ていなかったものと解される。これもまた、申請者に原子炉を適格に運転遂行する能力が欠如していることを示すものである。

(四) 事故情報の秘匿体質

申請者は、本件ナトリウム漏えい事故において、事故を過小なものに仮装するため、事故直後に事故現場を撮影したビデオテープを隠し、事故後二回目に撮影したビデオテープを更に一分間に編集したビデオのみを公開しており、追及されて二回目に撮影したオリジナルのビデオテープを、更に追及されてようやく事故直後のビデオテープを公開した。また、申請者は、規制法六七条に基づいて科学技術庁長官に本件事故を報告するに当たり、虚偽の事実を報告し、規正法違反(虚偽報告の罪)により、申請者が罰金二〇万円、申請者の職員二人が各一〇万円の罰金の刑事処分を受けた。

さらに、申請者は、右東海村再処理工場の事故についても、事故情報を隠匿し、虚偽報告を行ったことで刑事処分を受けた。

これらの事実からすれば、申請者の組織をあげての事故隠し体質は明らかであり、これは、申請者に原子炉を適格に運転遂行する能力が欠如していることを示すものである。

2 しかし、前記(第三章第二、一)のとおり、規制法二四条一項三号(技術的能力に係る部分に限る。)の要件適合性の判断は、安全委員会の科学的、専門技術的知見に基づく意見を尊重して行う被告の合理的な判断に委ねる趣旨と解するのが相当であり、裁判所は右判断に看過し難い過誤、欠落がないか否かを判断すべきである。

そして、本件安全審査においては、規制法二四条一項三号の技術的能力に係る要件は、主として原子炉の建設、運転による災害の防止を図るという観点から、申請者がそれに必要な組織、要員を確保することになっているかどうか等を中心に、人的、組織的な面から事業者としての適確性があるか否かを判断しており、前記第三のとおり、本件安全審査における調査審議及び判断の過程に重大かつ明白な瑕疵といえるだけの過誤、欠落があるとは認められない。

そうすると、原告らが指摘する具体的な事項は、本件安全審査の対象とはされていないものであり、そのことに重大かつ明白な瑕疵といえるだけの過誤、欠落があるとは認められないのであるから、原告らの主張は理由がない。

第五  まとめ

したがって、本件許可処分に、規制法二四条一項三号(技術的能力に係る部分に限る。)に違反する点があるとは認められない。

第六章  本件許可処分の規制法二四条一項四号適合性

第一  総論

一  当裁判所の判断の手法

前記(第四章第一、二)のとおり、規制法二三条一項四号適合性の審査について、被告は、その所部の機関である科学技術庁で審査した後、安全委員会に諮問し、安全委員会は、安全審査会に調査審議を指示し、安全審査会は調査審議の結果、安全審査会に対し、本件許可処分申請は同号に適合すると判断する旨の調査審議結果を安全委員会に対し報告し、安全委員会は、右安全審査会の報告を踏まえて調査審議した結果、本件許可処分申請は同号に適合すると認め、その旨被告に対して答申し、被告は、右答申を十分尊重して、本件許可処分をした。

そこで、当裁判所は、本件安全審査の調査審議に用いられた具体的審査基準に不合理な点があるか否か、本件許可処分申請が右具体的審査基準に適合するとした安全審査会及び安全委員会の各調査審議及び判断の過程に重大かつ明白な瑕疵といえるだけの過誤、欠落があるか否かについて検討することとするが、その前提として、以下(二項ないし五項)において、本件原子炉施設の施設の概要、原子炉施設の安全性の意義、本件安全審査の基本的な考え方と審査内容について検討する。

二  本件原子炉施設の概要

乙一六及び乙二二によれば、本件原子炉施設の概要について、次のとおりと認められる。

1 原子炉本体

(一) 炉心

炉心は、原子炉の出力を主に担う炉心燃料集合体一九八体、プルトニウムの増殖を主に目的とするブランケット燃料集合体一七二体及び原子炉の出力調整や停止等に用いる制御棒集合体一九体、中性子遮へい体等から構成され、これらが炉心支持板の上に配列され、原子炉容器に収納されている。原子炉容器は、ステンレス鋼製の縦型円筒容器であり、その内径は約7.1メートル、全高は約17.8メートルである。

(二) 燃料集合体

炉心燃料集合体は、内部に一体当たり一六九本の炉心燃料要素を配列し、外側をステンレス鋼製のラッパ管で被覆したものであり、長さ約4.2メートルの正六角柱の形状をしている。炉心燃料要素は、長さ約2.8メートル、外径約6.5ミリメートルのステンレス鋼製の燃料被覆管の中に、プルトニウム・ウラン混合酸化物の粉末又は劣化ウランの粉末を円柱状に焼き固めた燃料ペレットを詰めたものである。そして、各炉心燃料要素にワイヤスペーサを巻くことによって相互の間隔を保持して接触を防ぎ、炉心燃料要素の間のナトリウムの流路を確保する構造である。

ブランケット燃料集合体は、外形的には炉心燃料集合体とほぼ同じであるが、内部には、ウランのペレットを詰めたブランケット燃料要素が一体当たり六一本が収められる。

(三) 制御棒

制御棒は、これを炉心に挿入することによって、中性子を吸収し、核分裂反応を低下させるものであって、調整捧(微調整棒三体、粗調整棒一〇体)と非常用制御設備としての後備炉停止棒(六体)がある。

原子炉の通常の起動、停止、運転は調整棒の引き抜き、挿入によって行う。また、原子炉を緊急停止する必要が生じた場合には、調整棒及びこれを駆動する機構等からなる主炉停止系、並びに後備炉停止棒及びこれを駆動する機構からなる後備炉停止系が独立して同時に作動する(主炉停止系及び後備炉停止系を併せて「原子炉停止系」という。主炉停止系及び後備炉停止系は、その一方のみの作動によっても、原子炉を停止することができる。なお、計測制御系統施設のうち、異常状態を検知し、原子炉の緊急停止を起こさせる系統は「安全保護系」と呼ばれる。)。

2 原子炉冷却系統施設

(一) 一次主冷却系設備

本件原子炉施設の炉心で発生した熱は、原子炉容器内を流れる一次冷却材(ナトリウム)によって取り出され、中間熱交換器を介して二次冷却材(ナトリウム)に伝達される。

これには、独立した三つの系統(A、B、Cの各ループ)があり、それぞれの系統は同様に、配管、弁、ナトリウムを循環させる循環ポンプ及び中間熱交換器等の同じ設備を有する。

なお、原子炉容器及び一次冷却系設備のうち、一次冷却材を封じ込める障壁を形成する範囲を原子炉冷却材バウンダリという。また、原子炉冷却材バウンダリを形成する原子炉容器等については、接続された配管の一部と共に、これらを下に包み込むようにステンレス鋼製の容器であるガードベッセルを設置する。これは、万一、原子炉冷却材バウンダリからナトリウムが漏えいした場合であっても、これによって原子炉の冷却に必要な冷却材を確保するためのものである。

また、ナトリウムと空気との接触を防ぐ目的で、原子炉容器内等の一次冷却材のナトリウム液面を、不活性ガスであるアルゴンガスのカバーガスで覆うほか、一次主冷却系の配管等を設置する部屋は、冷却材の漏えいに備え、不活性ガスである窒素を充填する。

(二) 二次主冷却系設備並びにタービン及び付属設備

中間熱交換器で二次冷却材に伝えられた熱は、蒸気発生器を介して水・蒸気系に伝達され、蒸気タービンを動かす。

二次主冷却系も、三系統の一次主冷却系にそれぞれ対応して独立した三つの系統(A、B、Cの各ループ)があり、それぞれの系統は、同様に、配管、弁、ナトリウムを循環させる循環ポンプ、蒸気発生器等の設備を有している。

蒸気発生器は、二次冷却材の熱を、蒸気発生器伝熱管を介して水・蒸気系に伝える熱交換器であり、水を蒸気(過熱蒸気)に変える蒸発器と、生成された蒸気を更に過熱する過熱器とからなる。また、蒸気発生器の周りには、蒸気発生器で水が漏えいした場合にこれを検出する水漏えい検出設備及び圧力上昇等を抑制するナトリウム・水反応生成物収納設備が設けられる。

一次冷却系と二次冷却系とは中間熱交換器によって分離され、炉心を通るため炉心の中性子によって放射化される一次冷却材の放射性物質が二次主冷却系に混入することのないようにされる。タービン設備は、過熱蒸気を利用して蒸気タービンを駆動し発電を行う設備であり、これは、水及び蒸気を利用して発電を行う点で軽水炉のものと本質的には異ならない。

(三) 補助冷却設備

二次主冷却系設備から分岐する形で補助冷却設備三系統が設置されており、原子炉停止時には、これを作動させて炉心を冷却し除熱する。

3 工学的安全施設

原子炉容器及び一次主冷却系設備等、本件原子炉施設の原子炉の主要部分は、内径約49.5メートル、高さ約七九メートルの鋼製の容器である原子炉格納容器に収納される。また、原子炉格納容器の周囲を取り囲む形で、鉄筋コンクリート構造物である外部遮へい建物が設置され、原子炉格納容器の胴部と外部遮へい建物との間の下部空間(アニュラス部)は、アニュラス循環排気装置によって負圧に保たれる。

これらの原子炉格納施設及び前述したガードベッセル、補助冷却設備等は、周辺環境への放射性物質の異常な放出、拡散を防止するための施設であり、工学的安全施設と呼ばれる。

4 その他の設備

本件原子炉施設には、右1ないし3に述べたほか、計測制御系統施設(原子炉計装、プロセス計装、原子炉制御設備、原子炉保護設備、工学的安全施設作動設備及び中央制御室)、放射性廃棄物廃棄施設(気体廃棄物処理設備、液体廃棄物処理設備及び固体廃棄物処理設備)、核燃料物質の取扱施設及び貯蔵施設(燃料取扱及び貯蔵設備)、放射線管理施設、非常用電源設備を含む電気設備、換気空調設備及び各種の補助的設備が設けられる。

三  原子炉施設の安全性の意義

1 原子炉施設の潜在的危険性

(一) 規制法の想定する危険性

規制法二四条一項四号にいう原子炉施設の安全性とは、その文言上、使用済燃料を含む核燃料物質、原子核分裂生成物を含む核燃料物質によって汚染された物又は原子炉によりもたらされるおそれのある災害を防止し得るものであることを意味することが明らかであるから、そこで想定されている原子炉施設の潜在的危険性は、主として放射性物質による環境の汚染であると解するのが相当であり、原子炉施設における安全性の確保の問題は、結局は、右の放射性物質の有する危険性をいかに顕在化させないかという点にあると解される。

そこで、次に、放射線と人体に及ぼす影響について検討する。

(二) 放射線の種類と人体に及ぼす影響

争いのない事実並びに乙二及び乙ロ一によれば、次の(1)ないし(2)の事実が認められる。

(1) 放射性物質、放射能、放射線

放射性物質とは、放射能を持つ核種を含んだ物質のことをいい、ここで放射能とは、放射線(正しくは電離放射線であるが、以下単に「放射線」と呼ぶこととする。)を放出する性質のことをいう。放射性物質は、天然にも存在するが、人工的にも生成され、本件原子炉施設を含む全ての原子炉内にも、種々の核種の放射性物質が存在し、また、運転により生成される。

(2) 放射線の種類と性質

放射線には、アルファ線、ベータ線、中性子線等の粒子線と、ガンマ線、エックス線等の電磁波とがあるが、これらの放射線は、その種類ごとに物質との相互作用及びその透過力に大きな違いがある。

アルファ線は、アルファ粒子(陽子、中性子各二個からなるヘリウムの原子核)の流れであり、アルファ粒子は、質量及び電荷が大きいことから、物質との相互作用が大きいため、透過力が極めて小さく、空気中でも数センチメートル程度しか透過できず、薄い紙一枚でも遮へいすることができる。

ベータ線は、ベータ粒子(荷電粒子線=電子)の流れであり、ベータ粒子はアルファ粒子に比べ、質量が約七〇〇〇分の一、電荷が半分であることから、物質との相互作用がはるかに小さいが、それでも、空気中で数十センチメートルないし数メートルしか透過できず、数ミリメートルの厚さのアルミニウム板で遮へいすることができる。

中性子線は、中性子の流れであり、中性子の速度により物質との相互作用が異なり、低速度のものは透過力が小さいが、高速度のものは透過力が大きい。しかし、中性子は、水のように水素を大量に含む物質中では、水素の原子核と衝突することによって減速されるので、水等により遮へいすることができる。

ガンマ線及びエックス線は、波長の非常に短い電磁波であり、質量も電荷も持たないことから、物質との相互作用が極めて小さいため、透過力は非常に大きく、これを遮へいするためには厚い鉛板、鉄板、コンクリート等が必要である。

(3) 人間の放射線による被曝

人間の放射線による被曝は、体外に存在する放射性物質からの放射による外部被曝と、体内に取り込んだ放射性物質からの放射線による内部被曝とに分けられる。このうち、外部被曝の場合には、アルファ線やベータ線のような透過力の小さい放射線の場合は身体内部の諸器官はほとんど被曝せず、皮膚のみの被曝にとどまるが、ガンマ線のような透過力の大きい放射線である場合は、身体内部の諸器官も含め全身がほぼ均等に被曝する。これに対し、内部被曝の場合には、体内に取り込まれた放射性物質から放出される放射線のエネルギーが、直接身体内部の諸器官に吸収されることにより、アルファ線やベータ線は、そのほとんどのエネルギーを周囲に与えることになる。

内部被曝の特徴として、①放射線の線量は線源との距離の二乗に反比例するところ、内部被曝では線源との距離が近いため被曝線量が増えること、②アルファ線及びベータ線の影響が重要になること、③よう素やストロンチウムなど特定器官に蓄積する傾向を有する場合には、その特定器官(よう素の場合は甲状腺、ストロンチウムの場合は骨)に被曝が集中すること、④放射能が減衰して消失するか排泄機能により体外に出るまで被曝が続くことが指摘される。

(4) 放射線の量の単位

放射線の量を表す単位としては、レントゲン、ラド、レム等がある。

レントゲンは、放射線が物質に照射された量(照射線量)の単位であり、空気にガンマ線又はエックス線を照射した時に発生する電荷(イオン)の数ををもとにした単位である(一レントゲンは、一キログラムの空気に2.58×10のマイナス4乗クーロン個のイオンを作るようなガンマ線、エックス線の照射線量である。)。

ラドは、放射線が物質に当たった時に、その物質にそのエネルギーが吸収される量(吸収線量)を表す単位であり、人間の場合は、一レントゲンの放射線が当たると、約一ラド吸収される。

レムとは、放射線の人体に対する影響を表す放射線の量(線量当量)の単位であり、放射線が人体に与える影響は、吸収線量のみならず、放射線の種類やエネルギーによって異なり、また生体の組織によっても異なるために、放射線防護の目的から、被曝の影響を全ての放射線に共通する尺度で評価するために用いられるものである。その数値は、組織の吸収線量と線質係数の積で求められ、人が一レントゲンのガンマ線を被曝したとき、その人に及ぼす影響は約一レムとされる(以下、単に「線量」というときは、原則としてこの線量当量をいう。)。

なお、現在、我が国の原子力の安全規制体系においては、レントゲンに代わってクーロン毎キログラム(1レントゲン=2.58×10のマイナス4乗クーロン毎キログラム)が、ラドに代わってグレイ(1ラド=0.01グレイ)が、レムに代わってシーベルト(1レム=0.01シーベルト)が用いられているが、本判決においては、原則として旧単位を用いることにする。

(5) 放射線の人間に与える障害の種類と内容

放射線の人間に与える障害には、被曝した個人に現れる身体的障害とその子孫に現れる遺伝的障害とがある。このうち、身体的障害には、短期間に比較的高線量の放射線を被曝した場合に、急性死亡、白血球の減少、脱毛、皮膚障害等の症状として現れる急性障害(「確定的影響」ともいう。)と、比較的低線量の放射線を被曝した場合でも、数か月から数年以上、長い場合には数十年の潜伏期を経てから、白血病その他のがん、白内障等の症状として現れる晩発性障害とがある。これらのうち、急性障害の場合は、線量の大きさと症状の「重さ」との間に相関関係があるとされているが、晩発性障害及び遺伝的障害(以下この両者をあわせて「晩発性障害等」という。また、「確率的影響」ともいう。)の場合には、右の相関関係は認められない。

(6) 放射線による障害の特徴

右の放射線の人間に与える障害は、放射線が生体を構成する細胞や分子を破壊し、時にはDNAの突然変異を引き起こすことによって生じるものであるため、その障害は、症状の非特異性(放射線障害は、すべての臓器、組織に起こり得るものであり、放射線によって生ずる変化は、他の原因でも起こり得ること)、症状の遅発性(数年、数十年を経た後に現れるものもあること)、症状の複雑性(再発、併発、悪性変化など完治し難いこと)などの特徴を有する。

このように、放射線障害は、その症状が他の原因によっても生じ得るものであること、殊に晩発性障害等は、被曝と発現との間の時間が長いこと、被曝により必ず発現するものではないことと相まって、特定の個人についてその症状が放射線によるものであるかどうかを判別することは困難な場合が多い(当事者間に争いがない。)。

(イ) 高線量の放射線による障害の場合

高線量の放射線を短期間に被曝した場合については、その被曝線量とそれによって生じる障害との関係が比較的よく判明しており、また、低線量の放射線を被曝した場合の急性被曝については、二五ラド以下では臨床症状はほとんど発生しない。したがって、しきい値(ある作用因子が生体に反応を引き起こすか、引き起こさないかの限界の線量。「しきい線量」ともいう。)の存在がかなりの程度明らかになっている(当事者間に争いがない。)。

(ロ) 低線量の放射線による障害の場合

他方、低線量の放射線を被曝した場合の白血病その他のがん等の晩発性障害等の発生については争いがあり、原告らは、被曝線量と晩発性障害等の発生との間には直線的比例関係にあり、どのような低線量であっても晩発性障害等を生ずるのであり、放射線による晩発性障害等の発生についてはしきい値がないと主張している(なお、被告も、被曝線量と晩発性障害等の発生との関係は、低線量・低線量率の被曝ではいまだ解明されていないとしながらも、結局しきい値がないという前提に立っている。)。

この点については、原告らも指摘する次の研究結果等が存在するので、以下、これらの研究結果等について検討する。

(a) セラフィールド再処理工場周辺住民の白血病

甲ロ四によれば、一九八三(昭和五八)年一一月、英国のヨークシャーテレビ局が、そのドキュメンタリー番組で、セラフィールド再処理工場周辺の町村では子供のがんや白血病の発生率が全国平均より遙かに高く、同工場から2.4キロメートル離れたシースケール町では全国平均の一〇倍であり、その原因は再処理工場から放出された放射性物質であるとの放映を行ったこと、これを受けて、英国政府は、ダグラス・ブラック卿を委員長とする諮問委員会を組織し、同委員会は、一九八四(平成元年)七月、政府に報告書を提出したが、右報告においては、同工場南側のシースケール町を含むミロム地区の二五歳未満の若年層の間では、白血病死亡率が一九六八年から七八年までの間では四倍、一九五九年から七八年の間では二倍となっており、シースケール町では一〇歳未満の白血病が期待値に対し約一〇倍高く、小児悪性リンパ腫罹患率は、イギリス北部地域の七六五の同規模の区の中で三番目に高く、シースケール町を含むミロム地区の二五歳未満の白血病死亡率は同程度の人口の一五二地方自治区の中で二番目に高いなど、これらの地区の白血病発生率は高いとしたが、その原因については、公表された放射性物質の放出データから計算される周辺住民の被曝線量からは右のような白血病の異常発生は説明できないとして、不明であるとされたことが認められる。

しかし、甲ロ五ないし七によれば、その後、一九九〇(平成二)年二月、M・J・ガードナーらは、セラフィールド再処理工場周辺の西カンブリア地方で生まれ、一九五〇年から八五年の間に二五歳以下で白血病患者(五二人)、非ホジキンス氏リンパ腫患者(二二人)、ホジキンス氏病患者(二三人)と、これらの患者と同性で年齢も近い一〇〇一人の対照群とを比較したこと、その結果、論文「英国セラフィールド核施設周辺の子供たちに生じている白血病、リンパ腫についての調査研究」において、白血病と非ホジキンス氏リンパ腫に罹患する相対的危険率が、同工場から五キロメートル以上離れたところで生まれた子供は0.17、子供の受胎期に父親が同工場で雇われていた場合は2.44、子供の受胎前に父親が0.1レム以上被曝している場合は6.42と、同工場近くで生まれた子供と、父親が核施設で働いている子供に高かった事実から、父親が受胎前に放射線に被曝することは、その子孫に白血病が発生することと関連しているとしたことが認められる。

他方、乙ロ一七によれば、国際連合原子放射線の影響に関する科学委員会(UNSCEAR)は、右ガードナーの論文に対して、もしこれが正しければ大きな意義があるとしながらも、他の集団で得られた最近の結果はガードナーらの結論を支持していないこと、セラフィールド再処理工場で働く父親で見つかった白血病の相対リスクの統計的増加は、わずか四人の患児に基づいているにすぎず、大部分の他の患児の父親は他の工場施設で働いていたこと、被曝親についての他の観察結果との整合性がないこと、右ガードナーの論文が指摘したように、一レムほどの低い放射線量が白血病の集積発生を誘発するものなら、同じ線量で同じ集団に別の疾患が誘発されるものと予測されるのに、同工場付近では、そのような遺伝病の発生は報告されておらず、ロシア連邦での長期追跡にも報告がなく、そのほかの核施設の周辺からも報告がないことなどから、右結論が強く正しいとは言えないだろうと指摘していることが認められる。

(b) ドーンレイの再処理施設周辺住民の白血病

甲ロ五によれば、スコットランドのドーンレイの再処理施設周辺においても、一九七九(昭和五四)年から八四(昭和五九)年の間の若年齢の白血病発生率が、スコットランド地方の期待値に比べ六倍も高く、特に同施設から12.5キロメートル以内では一〇倍高いという有意な結果が明らかにされたことが認められる。

しかし、他方で、甲ロ五によれば、右調査において対象とされた白血病患者の数は五例ないし六例であり、症例の絶対数が統計的分析の目的には少ないかもしれないとされていることが認められる。

(c) 福島原発の労働者の被曝による染色体異常

甲一四ないし一八によれば、昭和六三年、福島県環境医学研究所の村本淳一が、昭和五九年から六三年の五年間に集積線量一五レム未満の被曝を受けた福島第一及び第二原子力発電所に従事する二〇歳代から六〇歳代までの労働者の一一五名を対象とした、末梢血リンパ球の染色体異常の調査研究を実施したこと、その結果、染色体は人間においては一つの細胞に四六本あり、正常なものは途中に動原体と呼ばれるくびれが一か所あるところ、調査対象となった労働者には、くびれが二か所にある二動原体染色体やリング状の環状染色体が細胞全体の0.22パーセントにみられ、一般住民の細胞に検出された同種の染色体異常の出現頻度0.12パーセントと比較すると二倍近いことが判明したこと、この染色体異常の出現頻度は、集積被曝線量が多くなるほどその出現率が高くなる傾向にあり、集積被曝線量が一四レムの労働者について、一般住民の五倍の値となっていることが認められる。

しかし、染色体異常の出現頻度が、直ちに放射線に基づく障害の発生と結びつくと認めるまでの証拠はないこと、調査の対象とされた労働者は一一五名にとどまり、その統計的な意味には疑問の余地も残されているとみるべきである。

(d) ハンフォード原子力施設の労働者のがん死

(い) 甲ロ九によれば、ジョージ・ニールとアリス・スチュアートは、米国のハンフォード原子力施設で働き、原爆製造計画に携わってきた労働者の一九四四(昭和一九)年から七八(昭和五三)年までの間の四万四一〇一人の被曝と、一九四四年から八六(昭和六一)年までの間の死亡者九四四三人の死亡者のうちのがん死者との関係について分析したこと、その結果、ジョージ・ニールらは、低線量の被曝を含むいかなる線量の被曝であってもがん死のリスクがあり、右リスクが被曝年齢と正の相関があることが明らかになったとし、固形の腫瘍よりも白血病を引き起こしやすいとか、線量率が低い放射線の場合はがんになる割合が低くなるという考え方には賛同できないとしたことが認められる。

しかし、他方で、乙ロ九によれば、一九九四(平成六年)年、UNSCEARは、右分析に対して、主に非標準的かつ不適切な統計手法を用い、死亡年齢、死亡した暦年、職業、雇用期間などを正しく考慮していないと指摘していることが認められる。

(ろ) また、乙ロ一四によれば、マンクーソーらは、ハンフォード原子力施設で一九四四(昭和一九)年から七二(昭和四七)年までの間に死亡した一三三六名の非被曝及び二一八三名の被曝男性労働者について、発がんと放射線被曝との関係の調査を行ったこと、その結果、累積線量とがん死亡率、特に肺、膵臓及び骨髄のがんによる死亡率との間に有意な関連が見い出されたとし、また、各種のがんの倍加線量(自然に発生する突然変異と同じ数の突然変異を発生させる放射線量)を算定すると、一ラド当たり、がん全体で八パーセント、膵臓がんで一四パーセント、肺がんで一六パーセント、リンパ系、造血系のがんで四〇パーセント、骨髄がん(骨髄性白血病及び多発性骨髄腫)で一二五パーセントの過剰ながんリスクに相当するものであるとしていることが認められる。

しかし、他方で、乙ロ一三によれば、国際放射線防護委員会(ICRP)内に設置された放射線影響に関する専門委員会は、一九七九(昭和五四)年、右マンクーソーらの調査について、被曝量が体外被曝のみで、体内被曝、医療被曝を考慮しておらず、また正規分布でないこと、がん死亡を死亡全体のパーセントで比較する方法を採っていること、死亡率の対照を米国の一九六〇年の統計から採っていること、多発性骨髄腫、膵臓がんの死亡が多いが、これは別の原因(例えば化学物質)を考えた方がよいこと、発がんまでの潜伏期が考慮されていないこと、被曝例の方が高年齢であり、したがってがんによる死亡が増える可能性があること、他の疫学者の結論と反対であることから、信用するに足りない旨批判していることが認められる。また、乙ロ一四によれば、米国科学アカデミー内の電離放射線生物影響委員会(BEIR委員会)は、一九八〇(昭和五五)年、BEIR―Ⅲ報告書において、右調査について、右調査による多発性骨髄腫や膵臓がんのリスク推定値は論理的見地に立てば信じがたいほど高いものであり、この推定値によると、一般集団の中における多発性骨髄腫等の病因の中で自然放射線の役割がありそうもないほど大きなものとなってしまうこと、調査対象が少なく、明らかに統計的な力を欠いていることを指摘していることが認められる。

さらに、乙ロ一四によれば、マンクーソーらの報告が契機となって、多くの研究者によってハンフォード原子力施設の労働者に関する研究が行われたが、①サンダースは、被曝労働者の寿命は、彼らの兄弟姉妹の寿命よりも長命であり、しかも、右兄弟姉妹の寿命は非被曝労働者のそれよりも長かったとし、また、被曝した労働者達の間で、一九四四(昭和一九)年から七二(昭和四七)年の期間中のがん死者の累積被曝線量が、同時期における他の原因での死亡者あるいは生存者のそれより高いという傾向はないとしていること、②ミルハムは、同施設の労働者の多発性骨髄腫と膵臓がん、結腸がんによる比死亡率に有意な相異は見い出されていないとしていること、③マークスらは、二年間以上ハンフォードに雇用され、その雇用が一九六〇(昭和三五)年一月以前にわたっている白人労働者七七二九名の累積線量に関して死亡割合を比較した結果、被曝線量と膵臓がん、多発性骨髄腫の発生率と間には有意な関連が認められるが、肺がんによる死亡率との間には有意な関連は認められないとしていること、④ハチソンらは、スチュアートとニールの死亡率分析を再現し、被曝線量と多発的骨髄腫、膵臓がんの発生率との間には統計的に有意な関連が認められるが、その他すなわちがん全体や肺がん、骨髄性白血病、リンパ性白血病等との間には有意な関連は認められないとしていることが認められる。

(e) オークリッジ国立研究所の職員のがん死

甲ロ一〇によれば、ウィングは、一九四三(昭和一八)年から七二(昭和四七)年までの間、米国テネシー州オークリッジ国立研究所に雇用されていた白人職員について、一九八四(昭和五九)年時点での生存者八三一八名、死亡者一五二四名の追跡調査を行ったこと、その結果、一九七七(昭和五二)年までの調査においては放射線とがんとの相関関係は見つからなかったが、体外放射線被曝後約二〇年に達するデータが蓄積された一九八四年の調査においては、潜伏期間を一〇年及び二〇年とした場合には、放射線と死亡のすべての原因との間には一レムあたり2.68パーセント増、特にがん死亡率との間には一レムあたり4.94パーセント増という相関関係がみられるとしたことが認められる。

しかし、他方で、乙ロ九によれば、UNSCEARは、右調査結果に対して、右有意な関係は喫煙関連がんによるところが大きいことが明らかにされていると指摘していることが認められる。

(f) スチュアートの見解

乙ロ一一によれば、一九七〇(昭和四五)年、スチュアートとニールは、出生前の短期間に一ラドの放射線の被曝を受けた一〇〇万人の子供の中に、一〇歳以前に三〇〇から八〇〇の放射線発がんによる過剰死があるだろうと評価したことが認められる。

しかし、他方で、乙ロ一一によれば、米国放射線防護測定審議会(NCRP)は、一九七六(昭和五一)年、右超過発生は、胎児期に受けた低線量被曝に起因するというよりは、むしろ、放射線以外の要因による可能性があるとしていること、乙ロ一二によれば、ICRPの一九八一(昭和五六)年会議において、トッター、マクファーソンらが、胎内被曝が小児がんの原因と結論するのは誤りであって、小児がんの発生にとって放射線以外の要因の方が重要であると指摘したことが認められる。

(g) プレストンとピアスの見解

甲一二によれば、一九八七(昭和六二)年九月、プレストンとピアスは、論文「原爆被曝者の線量推定方式の改定によるがん死亡リスク推定値への影響」において、新しい線量評価システム(DS八六)に基づき、がんと白血病の死亡リスク評価を行い、中性子の生物学的効果比(RBE)を一〇と仮定した場合の過剰相対リスク(ある線量の放射線によって増加した障害数を、もともとの障害発生数で除したもの。)を一〇〇レム当たり0.66としたこと、これをもとに日本人の致死がんの死亡リスクを計算すると、一〇〇万人レム当たり一六二〇人、白血病死の死亡リスクは一〇〇万人レム当たり一二〇人、合計一〇〇万人レム当たり一七四〇人となることが認められる。

しかし、他方で、甲一二によれば、右論文は、一〇〇ないし二〇〇レムという高線量、高線量率の被曝に関するデータをもとにしたものであること、プレストンら自身も、高線量の被曝におけるリスクを基に低線量の被曝におけるリスクを検討する際に、種々の仮定を置いており、不確実性があること、低線量の被曝と発がんのリスクとの関係についてはほとんど推論できないことを指摘していることが認められ、右論文は低線量域においても線量とリスクが比例関係にあることを論証したものではない。

(ハ) 検討

右認定の事実によれば、原告らの主張には、相当程度の調査研究等の資料が存在するということができるが、他方、これらの資料に対しては、公的な機関や専門家によって疑問点が指摘されるなどしていることも認められる。

また、乙ロ一〇によれば、清水由紀子、加藤寛夫、シュールは、一九八八(昭和六三)年、論文「寿命調査第一一報第二部 新線量DS八六における一九五〇年から八五年のがん死亡率」において、高線量の被曝で得られたリスク係数から低線量の被曝のリスクを外挿することはしばしば困難であるので、低線量の被曝で得られたリスク係数を全線量範囲で得られた係数と比較した結果、0.2グレイ(なお、「グレイ」は吸収線量であり、単純にレム等の単位に換算することはできないが、便宜換算すると、一グレイは約一〇〇レムに相当する。)未満では、リスク係数の増加はいずれのがん部位においても統計学的に有意ではないこと、対照群(○グレイ)の場合よりも統計学的に有意に高いがん死亡率が認められる最低の線量範囲は、白血病以外の全部位のがん及び肺がんで0.2から0.49グレイ、白血病及び乳がんで0.5から0.99グレイ、胃がんで1から1.9グレイ、結腸がんで二グレイ以上であるとしていることが認められ、しかも、乙ロ一によれば、ICRPは、右報告書を検討した結果、統計学的に有意ながんの過剰は、九五パーセント信頼幅では、二〇レム以上の線量で認められ、それより低い信頼レベルでは、五レム程度の線量で認められるとし、それ以下のデータについては信頼性は認められないとしていることが認められる。

そして、乙ロ九によれば、UNSCEARは、自然放射線の被曝による人体影響に関して、バックグラウンド放射線被曝の影響は、他の多くの致死がんに比べ、白血病の方がはるかに評価しやすいと考えられるところ、コネチカット州、日本、フランス、米国、スウェーデン、中国における研究では、白血病とバックグラウンド放射線の間に有意な関連は認められないとしていること、乙二によれば、日本国内における自然放射線の地域差は約四〇ミリレムほどあるが、地域を相互に比較しても、晩発性障害等の発生率に有意な差はないことがそれぞれ認められる。

さらに、乙ロ六によれば、BEIR委員会が、一九九〇(平成二)年、BEIR―Ⅴ報告書において、広島、長崎の原爆被曝者の子供に関する約七万五〇〇〇の出産(そのうち三万八〇〇〇については、両親のどちらか一方が被曝している。)についての研究によれば、死産、出生時の体重、先天性異常、小児期の死亡率、白血病、性比のいずれについても被曝の影響は見られていないこと、被曝者の子供、対照群の双方について、①研究対象を一九四五(昭和二〇)年五月から五八(昭和三三)年の間に広島あるいは長崎で出生し、一方あるいは両方の親が爆心から二〇〇〇メートル以内にいた子供、②年齢及び性を一致させた集団で、一方の親が二五〇〇メートル以内にいて、他方の親が二五〇〇メートル以遠にいたかあるいは被曝していない集団、③年齢及び性を一致させた集団で両親ともに被曝していない集団に拡大したが、統計的に有意な差は認められないとしていることが認められる。

そうすると、直ちに原告らの主張するように放射線被曝と晩発性障害等の発生との間にしきい値がないことを自然科学的な意味において断定することは困難である。

しかしながら、乙二及び乙ロ一によれば、低線量の被曝と晩発性障害等の発生との間の関係については、しきい値があるとする見解はほとんどなく、他方、しきい値がないものと断定する見解も有力ではなく、最も有力な見解は、しきい値がないとまでは断定できないが、そう推定すべきであるとする見解ないしは放射線防護の観点からそう仮定すべきであるとする見解であることが認められる。

そうすると、低線量域における被曝線量と晩発性障害等の発生との間の関係については、現在においても未だ十分に解明されていない状況にあり、自然科学的証明の問題としてこれを断定することは困難である。しかし、右のとおり放射線防護の観点等からしきい値がないものと推定ないし仮定するのが一般的な見解であること、統計的調査等は、その性質上収集できる対象は常に限定され、また、人間の生命、身体の被害に関しては実験が許されず、他の動植物による実験結果を人間に外挿することは科学的に限界があり、民事訴訟において通常要求される程度に証明することには困難が伴うといえること、放射線が人間の生命、身体に有害なものであることは明白な事実であり、放射線から保護されるべき利益は人の生命、身体という重大なものであること、人間の生理、病理、遺伝等に関してはいまだ解明されていない点も多いことなどに照らせば、法的な評価としては、右認定の事実からすれば、低線量域における被曝線量と晩発性障害等の発生との間の関係については、しきい値がないものと認めるのが相当である。

2 安全性の意義

前記(1、(一))のとおり、規制法二四条一項四号が規定する原子炉施設の安全性とは、放射性物質の有する危険性をいかに顕在化させないかという点にある。ここで、前記(1、(二))のとおり、放射線障害の発生にはしきい値がないと仮定すべきである一方で、弁論の全趣旨によれば、本件原子炉施設を含むすべての原子炉施設は、その通常の運転によっても不可避的にある量の放射性物質を環境に放出するものであることが認められるから、原子炉施設の運転は、常に、人の生命、身体に対する危険ないし害を伴うということができる。そうすると、同号にいう安全性がいかなる意味においても完全に放射線障害の発生を防止することをいうと解すると、同号の要件を満たすためには、原子炉施設が放射線を環境に全く放出しないものであることが必要となり、原子炉施設の設置は現実にはおよそ許容される余地がないことになる。しかしながら、人の生命、身体に対する害や、その危険性が絶対的に零でなければ社会においてその存在が認められないとするならば、原子炉施設のみならず、現代社会において受け入れられている科学技術を利用した各種の機械、装置、施設等も、何らかの事故発生等の危険性を伴っている以上、その存在を許されないことになるが、人類はこのような科学技術を利用した各種の機械、装置、施設等の危険性が社会通念上容認できる水準以下であると考えられる場合には、その危険性の程度と科学技術の利用により得られる利益の大きさを考慮した上で、なお安全性を有するものとして利用している。そして、基本法一条は、原子力の研究、開発を推進することが将来におけるエネルギー資源の確保及び学術の進歩と産業の振興とを図ることとなり、人類杜会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与することになるとの考え方を明示しており、規制法も、原子炉の設置を一定の要件の下に許容することを当然の前提としているものと解される。したがって、規制法二四条一項四号のいう原子炉施設の安全性の確保とは、原子炉施設の有する潜在的危険性を顕在化させないよう、放射性物質の環境への放出を可及的に少なくし、これによる災害発生の危険性を社会通念上容認できる水準以下に保つことにあると解される。

3 高速増殖炉開発の公益性に関する主張について

原告らは、本件施設を含む高速増殖炉開発は非経済的である旨主張し、右主張は、規制法二四条一項四号の安全性か、又は本件許可処分の違法性の重大性において、裁判所の判断の対象となると主張する。これに対して、被告は、高速増殖炉の経済性そのものは、安全性とは関係しないから、原子炉設置許可に係る安全審査の対象とはならず、本件訴訟の審理の対象とはならない事項であると主張している。

この点、右2のとおり、規制法二四条一項四号のいう原子炉施設の安全性の確保とは、人の生命、身体に対する害や、その危険性が絶対的に零であることではなく、その危険性の程度と科学技術の利用により得られる利益の大きさを共に考慮に入れた上で、原子炉施設の有する潜在的危険性を顕在化させないよう、放射性物質の環境への放出を可及的に少なくし、これによる災害発生の危険性を社会通念上容認できる水準以下に保つことにあることをいう。そうすると、経済性というかはともかく、本件原子炉施設の利用により得られる利益の大きさ(以下便宜「有益性」という。)は、安全性の判断における一つの要素となることを否定できないというべきである。

もちろん、原子炉施設の運転に伴う放射線の環境への放出による危険ないし損害は、人の生命、身体の安全という最大限の尊重を必要とする重大な法益に対するものであるから、原子炉施設の運転によって得られる利益と単純に金銭的に比較衡量すべきものではなく、人の生命、身体に対する危険性は、社会通念上容認できる水準以下、すなわち社会的にその影響を無視することができる程度まで低いものであることが当然に要求され、原子炉施設の有益性を理由としてこれを超える危険を正当化することは許されないというべきである。したがって、「有益性」は、人の生命、身体に対する危険が社会通念上無視できる程度まで低いものであるとしても、それは零ではない以上、この危険をもたらす活動には、右危険を超えるだけの有益性が要求されるという限りにおいて、安全性の判断に含まれるものと解するべきである。

このように、本件原子炉施設においても、安全性の一つの要素として、有益性が要求されると解するべきであるが、人の生命、身体に対する危険が許されるのは、それが社会的にその影響を無視することができる程度まで低いものに限られるから、求められる有益性は、右の程度の危険をもたらす活動を正当化するものであることが必要であり、また、それで足りるというべきである。

これを本件原子炉施設についてみるに、前記(第二章第二)のとおり、本件原子炉施設は、高速増殖炉の開発の第二段階に位置づけられる「高速増殖原型炉」であり、将来高速増殖炉を実用化して電力供給の用に供することを目的として、その研究のために設置、運転されるものであって、電力源の開発という有益性を有することは明らかであり、この程度の有益性があれば、社会的にその影響を無視することができる程度の危険性を正当化するには十分であって、これ以上に、本件原子炉施設ないし高速増殖炉の発電コストが経済的に見合うものであるかどうかや、他の合理的なエネルギー供給の方法があるかどうか等の点を検討する必要はないというべきである。

四  本件安全審査の基本的な考え方と審査内容

争いのない事実並びに乙九及び乙一四の三によれば、本件安全審査の基本的な考え方と審査内容について次のとおりと認められる。

本件安全審査においては、平常時はもちろん、地震、機器の故障その他の異常時においても、一般公衆及び従業員に対して放射線障害を与えず、かつ、万が一の事故を想定した場合にも一般公衆の安全が確保されることを基本方針としている。そして、具体的には、①立地条件(立地条件に係る安全性)、②安全設計、③平常運転時の被曝評価(平常運転時における安全性)、④各種事故等の検討(事故防止対策に係る安全性)、⑤立地評価(公衆との離隔に係る安全性)の五項目について審査した。これについて、その基本的な考え方と審査内容をみると、次のとおりである。

1 立地条件(立地条件に係る安全性)

原子炉施設は、その自然的立地条件との関連において十分安全に設置されることが必要である。この基本的考え方に則り、本件安全審査においては、地盤、地震、気象、海象等が審査されたが、このうち、地盤及び地震については、次の事項を重点的に審査した。

(一) 本件敷地の地盤は、本件原子炉施設に損傷を与えるような大規模な地滑りや山津波を発生するおそれはないか。本件敷地の地盤のうち、原子炉施設の支持地盤は、その施設を支持する上で十分な地耐力を有すると共に、地震による地盤破壊や荷重による不等沈下を起こすおそれはないか。

(二) 本件敷地周辺において将来発生することがあり得るものと考えるべき地震が、過去の地震歴等から適切に選定されているか。これらの地震が原子炉敷地に及ぼすと考えられる影響を十分吟味した上で、原子炉の敷地基盤における設計用基準地震動が十分安全余裕をもって設定されているか。

(三) この設定された設計用基準地震動に対しても、工学的、技術的見地からみて、申請の対象となる本件原子炉施設について、十分安全余裕のある耐震設計を講ずることができるか。

2 安全設計

原子炉施設の安全設計においては、まず、その平常運転時において、原子炉施設に起因する放射線による周辺公衆の被曝を法令で定める許容被曝線量以下とし、かつ、これを合理的に達成できる限り低く保つという考え方(以下「ALARAの考え方」という。)に基づき、これを十分に下回らせることが必要であり、また、多重防護の考え方に基づき、事故防止対策として適切な措置を講じることが必要である。この基本的考え方に則り、本件安全審査においては、次の諸点を審査した。

(一) 平常運転時における被曝低減対策としての安全設計

(1) 本件原子炉施設の平常運転時において、放射性物質が一次冷却水中に現れるのを極力防止し得るよう適切な対策が講じられているか否か。

(2) 本件原子炉施設の平常運転時において、一次冷却水中に現れた放射性物質を処理し、管理し得るよう適切な対策が講じられているか否か。

(3) 本件原子炉施設の平常運転時において、周辺環境に放出される放射性物質については、これを適切に監視することとされているか否か。

(二) 事故防止対策としての安全設計

(1) 異常の発生防止

(イ) 燃料の核分裂反応を安定的に制御することができるようになっているか否か。

(ロ) 燃料は、熱的・機械的・化学的影響によって、その健全性(換言すれば、安全確保上期待されている放射性物質の閉じ込め機能)が損なわれることのないように十分安全余裕のあるものとなっているか否か。

(ハ) 圧力バウンダリは、機械的・化学的影響によって、その健全性が損なわれることのないように十分安全余裕のあるものとなっているか否か。

(ニ) 右以外の関連設備は、燃料及び圧力バウンダリの健全性を損なうような異常状態の発生を防止し得るよう十分安全余裕のある性能や強度等を有するものとなっているか否か。

(2)  異常事故の拡大及び事故への発展の防止

(イ) 燃料及び圧力バウンダリ並びにこれらの健全性の確保に関連する諸設備は、軽微な異常状態が発生した場合に、所要の措置がとれるように、その異常状態を早期にかつ確実に検知し得ることとなっているか否か。

(ロ) 燃料及び圧力バウンダリの健全性の確保に関連する諸設備に発生した異常状態が大きなものである場合等、その異常状態に対し迅速な措置を講じなければ燃料及び圧力バウンダリの健全性に重大な影響を及ぼすおそれのある場合には、燃料及び圧力バウンダリを損傷させないように原子炉緊急停止装置等の安全保護設備が設置されることとなっているか否か。

(ハ) 燃料及び圧力バウンダリの損傷を防止するために設置される安全保護設備等は、いずれも確実にその機能を発揮し得るものとなっているか否か。

(3) 放射性物質の異常放出の防止

(イ) 圧力バウンダリを構成するいかなる配管の破断を想定しても、放射性物質の外部への異常な放出を防止するため、非常用炉心冷却設備、格納容器等の工学的防護機構が設置されることとなっているか。

(ロ) 放射性物質の外部への異常な放出を防止するために設置される工学的防護設備は、いずれも確実にその機能を発揮し得るものとなっているか。

3 平常運転時における公衆の被曝線量評価(平常運転時における安全性)

2において審査した平常運転時における安全性を確保するための安全設計の妥当性を確認するために、申請者が、本件原子炉施設の平常運転時において、環境に放出される放射性物質及び本件原子炉施設の内部にある放射性物質に起因する周辺公衆の被曝線量は、法令で定める「公衆の許容被曝線量」以下となり、ALARAの考え方に基づき、これを十分に下回るようになっているかについて行った解析を審査、評価した。

4 各種事故の検討(事故防止対策に係る安全性)

2において審査した事故防止対策に係る安全性を確保するための安全設計の妥当性を確認するために、申請者が、「運転時の異常な過渡変化」、「事故」、「技術的には起こるとは考えられない事象」とに分けて各種の異常事態を想定してこれについて行った解析を審査、評価した。

5 立地評価(公衆との離隔に係る安全性)

原子炉施設は、現実には起こるとは考えられない万一の事故を想定した場合であっても、周辺公衆の安全が確保し得るよう、その工学的防護設備との関連において、十分に公衆から離れていることが必要である。この基本的考え方に則り、本件安全審査においては、次の諸点を審査する。

(一) 重大事故(敷地周辺の事象、原子炉の特性、工学的防護設備等を考慮し、技術的見地からみて、最悪の場合には起こるかもしれないと考えられる重大な事故)の発生を仮定した場合において、そこに人が居続けるならば、その人に放射線障害を与えるかもしれないと判断される距離までの範囲が非居住区域となっているか。

(二) 仮想事故(重大事故を超えるような技術的見地からは起こるとは考えられない事故)の発生を仮想した場合においても、何らの措置も講じなければ、その範囲にいる公衆に著しい放射線災害を与えるかもしれないと判断される距離までの範囲内であって、非居住区域の外側の地帯が、低人口地帯となっているか。

(三) 仮想事故の発生を仮想した場合に、全身被曝線量の積算値(集団中の一人一人の被曝線量の総和)が、国民遺伝線量の見地から十分受け入れられる程度に小さな値になるような距離だけ、その敷地が人口密集地帯から離れているかどうか。

第二  本件安全審査の具体的審査基準

一  本件安全審査に用いられた審査基準等

乙四、乙九及び乙一四の三によれば、本件安全審査に用いられた審査基準等は次のとおりと認められる。

1 本件安全審査に用いられた審査基準

①「原子炉立地審査指針及びその適用に関する判断のめやすについて」(昭和三九年五月二七日原子力委員会決定、以下「立地審査指針」という。)

②「高速増殖炉の安全性の評価の考え方」(昭和五五年一一月六日原子力委員会決定、以下「評価の考え方」という。)

③「発電用原子炉施設の安全解析に関する気象指針について」(昭和五七年一月二八日原子力安全委員会決定、以下「気象指針」という。)

④「プルトニウムを燃料とする原子炉の立地評価上必要なプルトニウムに関するめやす線量について」(昭和五六年七月二〇日原子力安全委員会決定、以下「プルトニウムに関するめやす線量について」という。)

⑤「許容被曝線量等を定める件」(昭和三五年九月三〇日科学技術庁告示第二一号)

2 参考として用いられた指針

⑥「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針について」(昭和五二年六月一四日原子力委員会決定、以下「安全設計審査指針」という。)

⑦「発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針」(昭和五三年九月二九日原子力委員会決定、以下「安全評価審査指針」という。)

⑧「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に対する評価指針について」(昭和五一年九月二八日原子力委員会決定、以下「線量評価指針」という。)

⑨「発電用軽水型原子炉施設における放出放射性物質の測定に関する指針」(昭和五三年九月二九日原子力委員会決定)

⑩「発電用軽水型原子炉施設の火災防護に関する審査指針について」(昭和五五年一一月六日原子力安全委員会決定)

⑪「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針について」(昭和五六年七月二〇日原子力安全委員会決定、以下「耐震設計審査指針」という。)

⑫「発電用軽水型原子炉施設における事故時の放射線計測に関する審査指針について」(昭和五六年七月二三日原子力安全委員会決定)

⑬「「我が国の安全確保対策に反映させるべき事項」について」(昭和五六年七月二三日原子力安全委員会決定)

⑭「「我が国の安全確保対策に反映させるべき事項」について(審査、設計及び運転管理に関する事項)」(昭和五五年六月二三日原子力安全委員会決定)

⑮「「放射性液体廃棄物処理施設の安全審査に当たり考慮すべき事項ないしは基本的な考え方」について」(昭和五六年九月二八日原子力安全委員会決定)

⑯「被曝計算に用いる放射線エネルギー等について」(昭和五〇年一一月一九日決定)

⑰「発電用軽水型原子炉施設の安全審査における一般公衆の被曝線量評価について」(昭和五二年六月一七日決定)

⑱「原子力発電所の地質、地盤に関する安全審査の手引き」(昭和五三年八月二三日決定)

二  具体的審査基準の合理性

1 具体的審査基準の合理性

右本件安全審査において用いられた審査基準、参考として用いられた指針(以下これらを包括して「具体的審査基準」という。)は、「許容被曝線量等を定める件」を除いて、いずれも合理的であり、妥当なものと認められる。

すなわち、原子炉の安全性を確保するためには、前記(第一、四)のとおり、平常時はもちろん、地震、機器の故障その他の異常時においても、一般公衆及び従業員に対して放射線障害を与えず、かつ、万が一の事故を想定した場合にも一般公衆の安全が確保されることが必要であり、本件安全審査においては、①立地条件に係る安全性、②安全設計、③平常運転時における安全性、④事故防止対策に係る安全性、⑤公衆との離隔に係る安全性について審査しているが、審査事項①については、一に挙げた①ないし⑱の各具体的審査基準のうち、②、⑥、⑪、⑬、⑭及び⑱が、審査事項②ないし④については、具体的審査基準②ないし⑩及び⑫ないし⑰が、審査事項⑤については、具体的審査基準①、④、⑧、⑨、⑫及び⑯がそれぞれ具体的審査基準となることになり、これらの審査基準は、各審査事項について審査するのに十分なものと認められ、その内容についても、「許容被曝線量等を定める件」を除いては、格別、不合理な点があるとは認められない。

2 「許容被曝線量等を定める件」について

(一) 「許容被曝線量等を定める件」は、公衆の被曝線量を具体的数値により計算した場合に、右線量が社会的にその影響を無視することができる線量と解されている公衆の許容被曝線量を下回ること、さらに合理的に達成できる限り低く保つよう設計上の対策が講じられていることを確認するために用いられる「公衆の被曝許容線量」を定め、また、これを合理的に達成できる限り低く保つこと(ALARAの考え方)を要求している。これは、いずれも世界で最も支配的かつ妥当な数値として採用され続けていると認められる国際放射線防護委員会(ICRP)の一九五八(昭和三三)年勧告を尊重したものである(当事者間に争いがない。)。

(二) ところで、乙ロ一、乙ロ三及び乙ロ五によれば、ICRPは、一九六五(昭和四〇)年及び一九七七(昭和五二)年の勧告においては、放射線作業従事者に対する線量当量限度を一年間につき五レム、公衆に対する線量当量限度を一年間につき0.5レム(ただし、生涯線量当量限度は、年当たり0.1レム)としていたが、一九八五(昭和六〇)年のパリ声明において、公衆に対する実効線量当量限度につき、主たる限度を一年間につき0.1レムとし、生涯にわたる平均の年線量が主たる限度を超えない場合、数年にわたって許される補助的限度として一年間につき0.5レムとし、従来の勧告においては、主たる限度を一年間につき0.5レムとしていたのを、一年間につき0.1レムと改めたこと、一九九〇(平成二)年の勧告においては、実効線量当量限度の用語に変えて、実効線量限度及び等価線量の用語を導入し、臓器毎の荷重係数についても見直しを行って詳細に定めたが、公衆に対する実効線量限度の勧告値については、一年間につき0.1レムから変更されてないことが認められる。

(三) そして、これを受けて、我が国でも、現在では、「許容被曝線量等を定める件」を改廃し、「線量当量限度を定める件」(昭和六三年七月二六日科学技術庁告示第二〇号)三条が、「公衆の許容被曝線量」につき、実効線量当量で一年間につき0.1レムとし、更にALARAの考え方の要件を定めている。

(四)  そうすると、現在においては、「許容被曝線量等を定める件」の定める「公衆の許容被曝線量」は妥当性を失い、現在妥当性を有するのは「線量当量限度を定める件」のそれというべきである。

そこで、具体的審査基準の合理性と本件許可処分の規制法二四条一項四号適合性との関係について検討するに、本件安全審査の具体的審査基準が規制法二四条一項四号の趣旨に照らして合理的かつ妥当なものであり、かつ、本件原子炉施設が、右審査基準に適合するものであれば、本件安全審査における調査審議及び判断の過程に重大かつ明白な瑕疵といえるだけの過誤、欠落はなく、本件許可処分は適法であるということができる。

他方、具体的審査基準が同号の趣旨に照らして合理的かつ妥当なものといえない場合には、右審査基準に基づいてされた本件安全審査に過誤があるとされる場合がありうることになるが、その場合であっても、同号の趣旨に適合する合理的かつ妥当な具体的審査基準に基づいて本件安全審査が行われたとしても、安全審査の結論に差異がないと認められる限り、なお本件安全審査における調査審議及び判断の過程に重大かつ明白な瑕疵といえるだけの過誤、欠落はないというべきである。

したがって、「許容被曝線量等を定める件」の定める「公衆の許容被曝線量」が妥当性を失ったことをもって本件安全審査が直ちに合理性を失うと解するべきではなく、「線量当量限度を定める件」の定める「公衆の許容被曝線量」である一年間につき0.1レム及びALARAの考え方の要件に照らしても、本件安全審査の結論に差異がなく、本件安全審査における調査審議及び判断の過程に重大かつ明白な瑕疵といえるだけの過誤、欠落はないかどうかを検討すべきである。そこで、この判決においては、「線量当量限度を定める件」の定める「公衆の許容被曝線量」及びALARAの考え方の要件に基づいて本件安全審査の妥当性を検討することとする。

(五) なお、乙四によれば、「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針について」(昭和五〇年五月一三日原子力委員会決定)において、放射性希ガスからのガンマ線による全身被曝線量及び液体廃棄物中の放射性物質に起因する全身被曝線量の合計値については年間五ミリレム(0.005レム)、放射性よう素に起因する甲状腺被曝線量については年間一五ミリレム(0.015レム)の線量目標値が定められていることが認められる。この数値は、本件安全審査が公衆の被曝線量を合理的に達成できる限り低く保つよう設計上の対策が講じられていることを確認したことの妥当性を検討する際の参考となる数値であるといえる。

三  原告らの主張について

1 「立地審査指針」及び「プルトニウムに関するめやす線量について」について

原告らは、本件原子炉施設の公衆との離隔に係る安全性についての具体的審査基準である「立地審査指針」及び「プルトニウムに関するめやす線量について」に示されている「めやす線量」は、「許容被曝線量等を定める件」ないし「線量当量限度を定める件」の定める「公衆の許容被曝線量」より大きな線量であり、不当である旨主張する。

しかし、「めやす線量」は、あくまでも本件原子炉施設の公衆との離隔に係る安全性を判断するための一方法として、その判断の際に目安として用いられる線量であって、公衆にその線量値までの被曝を許容するものとしての前記「公衆の許容被曝線量」とはその意義を異にするものであるから、原告らの主張は理由がない。

2 「評価の考え方」について

(一) 「炉心崩壊事故」などの「シビアアクシデント」について

原告らは、「評価の考え方」において、LMFBRの安全評価について「炉心崩壊事故」などの「シビアアクシデント」が評価の対象とされていないことは不当である旨主張する。

この点、「シビアアクシデント」とは、「設計基準事象」を大幅に超える事象であって、安全設計の評価上想定された手段では適切な炉心の冷却又は反応度の制御ができない状態であり、その結果、炉心の重大な損傷に至る事象をいうこと、「シビアアクシデント」の重大さは、炉心の損傷の程度や格納施設の健全性の喪失の程度によるものとされていること、軽水炉において、TMI事故やチェルノブイリ事故を契機に、放射性物質の周辺環境中への放出を抑制する最後の砦である原子炉格納容器の加圧破損の防止という問題が一躍重要視されるようになり、米国を中心として、我が国や欧州諸国等において、アクシデントマネージメント、すなわち「シビアアクシデント」への拡大防止対策及び「シビアアクシデント」に至った場合の影響緩和対策を検討する目的の下に「シビアアクシデント」に関する様々な研究、検討が進められた結果、「シビアアクシデント」の対策としてアクシデントマネージメントが有効であることが認識されるところとなっていることは、当事者間に争いがない。

しかし、「評価の考え方」は、多重防護の思想に基づき厳格な安全確保対策が講じられていることを確認することを要求しており、これが確認されれば、「シビアアクデント」が発生しないことが確認されたといえるのであるから、それ以上に「評価の考え方」が「シビアアクシデント」を評価の対象としていないことをもって、審査基準として不合理であるということはできない。また、乙イ七・九九二頁によれば、我が国においては、「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントについて」(平成四年五月二八日原子力安全委員会決定)によって、アクシデントマネージメントの有効性が指摘され、その実施が勧告されていることが認められるが、右勧告は、我が国の軽水炉の安全性は、現行の安全規制の下に、多重防護の思想に基づき厳格な対策を講じることによって十分確保されているとした上で、シビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントについては、その整備を原子炉設置者において自主的に行うこととし、原子炉設置許可の際の安全審査の対象とはしていないのである。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(二) 「技術的には起こるとは考えられない事象」について

原告らは、「評価の考え方」は、LMFBRの運転実績が僅少であることにかんがみ、「「事故」より更に発生頻度は低いが結果が重大であると想定される事象(本件許可申請において「技術的には起こるとは考えられない事象」)」について、その起因となる事象とこれに続く事象経過に対する防止対策との関連において十分に評価を行い、放射性物質の放散が適切に抑制されることを確認することを要求しているが、右概念は根拠を欠いた不当なものである旨主張する。

しかし、乙イ七・六六五頁及び乙ニ四の一(証人近藤悟調書一)七ないし九頁によれば、「技術的には起こるとは考えられない事象」に係る安全評価は、「運転時の異常な過渡変化」及び「事故」の解析評価によって、本件原子炉施設の事故防止対策に係る安全設計の妥当性を確認した上で、更に、LMFBRの運転実績が僅少であることにかんがみ、「事故」より更に発生頻度は低いが結果が重大であると想定される事象について、その起因となる事象とこれに続く事象経過に対する防止対策との関連において、放射性物質の放散が適切に抑制されること、すなわち、本件原子炉施設の安全裕度を確認することを目的とするものと認められ、根拠を欠くものとはいえない。また、具体的な事象選定基準は定められていないが、評価の目的に照らして事象を適切に選択することは十分可能であると認められるから、原告らのこの点についての主張は理由がない。

3 「許容被曝線量等を定める件」ないし「線量当量限度を定める件」とICRPの勧告について

(一) 原告らの主張

原告らは、「許容被曝線量等を定める件」ないし「線量当量限度を定める件」の基礎となったICRPの勧告する公衆に対する許容線量(ここでは、線量当量限度、実効線量当量限度、実効線量限度等の総称として用いる。)は、最近の研究成果により低線量や微量線量の影響についての知見が一層詳細になっているのに、これが反映されておらず、何ら根拠のないものとなっている、また、ICRPの勧告は原子力企業の利益を偏重した不合理なものであるなどと主張するので、以下、ICRPの勧告の概要を検討した上で、原告らの主張について判断を示すこととする。

(二) ICRP勧告の概要

乙ロ一、乙ロ三及び乙ロ五並びに弁論の全趣旨によれば、ICRP勧告の概要について次のとおりと認められる。

(1) ICRPは、一九二八(昭和三)年に、第二回国際放射線医学会議によって、「国際エックス線及びラジウム防護委員会」として創立され、その後、放射線利用の多様化や原子力開発利用の進展により、急速に拡大する放射線防護の分野を一層効果的に網羅するため、一九五〇(昭和二五)年に国際放射線防護委員会(ICRP)と改称され、現在に至っている。ICRPは、世界保健機構(WHO)及び国際原子力機関(IAEA)と公的な関係を有すると共に、国際連合原子放射線の影響に関する科学委員会(UNSCEAR)、経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)等と協力関係を有している。

(2) ICRPは、一九二八(昭和三)年に最初の報告書を刊行し、一九五〇(昭和二五)年の組織改正以降は、一九五八(昭和三三)年、一九六四(昭和三九、ただし刊行の年。)年、一九六五(昭和四〇)年、一九七七(昭和五二)年及び一九九〇(平成二)年に一般勧告を行ってきたが、その間も、最新の科学的知見に基づいて基本的勧告の修正、拡大を続けていると共に、より専門的な問題についての報告を、一般勧告の中間に公表している。

(3) ICRPは、勧告を行うに当たって、低線量放射線被曝と晩発性障害及び遺伝的障害の発生に関するしきい値の存否について、しきい値の存在を積極的に肯定する知見がないので、どのような低い線量でも白血病その他の悪性腫瘍を含む身体的障害及び遺伝的障害を発現させる危険があるという慎重な仮定をするという方針が放射線防護の基礎として最も合理的であるとして、しきい値の不存在を仮定している。

そして、その上で、被曝をもたらす活動から得られる利益を考慮すると共に、他の職業上ないし日常生活におけるリスクとの比較をしつつ、社会的に容認又は正当化し得る線量の限度を提供している。

(4) 前記(二、2、(二))のとおり、ICRPは、一九六五(昭和四〇)年及び一九七七(昭和五二)年の勧告においては、放射線作業従事者に対する線量当量限度を一年間につき五レム、公衆に対する線量当量限度を一年間につき0.5レム(ただし、生涯線量当量限度は、年当たり0.1レム)とした。更に、一九八五(昭和六〇)年のパリ声明においては、公衆に対する実効線量当量限度につき、主たる限度を一年間につき0.1レムとし、生涯にわたる平均の年線量が主たる限度を超えない場合、数年にわたって許される補助的限度として一年間につき0.5レムとした。そして、平成二(一九九〇)年勧告では、公衆に対する実効線量限度を0.1レムとした。

これを詳細にみるに、一九七七(昭和五二)年勧告において、ICRPは、「委員会が以前に勧告した線量当量限度は二〇年以上にわたって使われてきた。それは国際的に広く使われ、多くの国及び地域において法律の中に組み入れられてきた。更に、委員会が勧告した線量制限体系が、十分なレベルの安全を保つことに失敗したことを示す証拠は何もない。しかし、委員会は、線量当量限度のレベルをいくらかでも変える必要があるかどうかを決定するために、委員会の線量当量限度を現在の知識に照らして見直すことが適切と考える。」と述べた上で、放射線誘発がんに関する死亡のリスク係数は、男女及び総ての年齢の平均値として一レム当たり約一万分の一であると仮定し、公衆の個々の構成員の容認できるであろう死亡リスクを年当たり一〇万ないし一〇〇万分の一とすると、そのためには、公衆の個々の構成員の生涯線量当量を一生涯を通して年当たり0.1レムの全身被曝に相当する値に制限すればよく、ICRPの勧告値である一年間につき0.5レムという全身線量当量限度は、これを決定グループに適用したとき、これと同程度の安全を確保することが分かっているので、長期間にわたって高線量率で被曝する人々には右の年当たり0.1レムという生涯線量当量を適用すること等の条件のもとに、右勧告値を維持するとしている。

そして、一九八五(昭和六〇)年のパリ声明において、ICRPは、公衆に対する実効線量当量限度につき、主たる限度を一年間につき0.1レムとするが、生涯にわたる平均の年線量が主たる限度を超えない場合、数年にわたって許される補助的限度として一年間につき0.5レムとし、従来の勧告においては、主たる限度を一年間につき0.5レムとしていたのを、一年間につき0.1レムと改めた。

その後、一九九〇(平成二)年勧告において、ICRPは、実効線量当量限度の考え方を改め、実効線量限度及び等価線量の用語を導入し、臓器毎の荷重係数についても見直しを行って詳細に定めると共に、作業者に対する実効線量限度の勧告値について、従来、一年間につき五レムであったのを、五年平均で一年間につき二レム(ただし、いずれの一年間においても五レムを限度とする、)と改めているが、公衆に対する実効線量限度の勧告値については、一年間につき0.1レムのまま変更されていない。

このように、ICRPの勧告は、常に再検討が加えられてきており、公衆に対する許容線量(一九七七(昭和五二)年の勧告では線量当量限度、一九八五(昭和六〇)年の勧告では実効線量当量限度、一九九〇(平成二)年の勧告では実効線量限度であるが、すべて「許容線量」と表記する。)値としては、一九八五(昭和六〇)年のパリ声明が出される以前は年間0.5レムとされてきたが、パリ声明以降は年間0.1レムとされている。

(5) ICRPは、許容線量の勧告をすると同時に、被曝線量と晩発性障害及び遺伝的障害の発生との間にしきい値がないと仮定する以上、いかなる被曝でもある程度の危険を伴うことになることを前提として、同時に被曝線量をできる限り少なくするべきであるとの勧告を行ってきた。ただし、その文言には変遷があり、一九五八(昭和三三)年の勧告では、「すべての線量を実行可能なかぎり(いわゆるALAP)低く保つべきこと、及び、どんな不必要な被曝もすべて避けるべきであることを強く勧告する。」とされていたのが、一九六五(昭和四〇)年の勧告では、「いかなる不必要な被曝も避けるべきであること、並びに、経済的及び社会的な考慮を計算に入れた上、すべての線量を容易に達成できる限り低く(いわゆるALARA)保つべきであることを勧告する。」とされ、一九七七(昭和五二)年の勧告では、「すべての被曝は、経済的及び社会的な考慮を計算に入れながら、合理的に達成できる限り低く保つべきであることを勧告する。」とされた。

(三) 原告らの主張の検討

(1) ICRP勧告の表現の変遷

原告らは、ICRPは被曝線量をできる限り少なくするべきであるとの勧告を行ってきたが、その表現が徐々に緩やかなものに変遷しているのは(「可能な」から「実効可能な」へ、さらに「容易に達成できる」から「合理的に達成できる」へ)、ICRPが原子力商業利用の開始と共に変質し、原子力産業の要請に合わせる方向を取り始めたことを示すものであるから、合理性を欠くものである旨主張する。

しかし、乙ロ四によれば、このような文言の変遷の背景には、放射線及び原子力利用の拡大とそれに伴う放射線防護、管理の経験の積み重ねの結果、当初の定性的な表現では、解釈にある程度の困難が生じたため、同じ目的を持つより定量的な表現を望む要求が出たことがあり、表現が変わってもその意図は同一であることが認められるから、原告らの主張はその前提を欠くものである。

(2) 確率的影響のうち致死がんの確率係数について

原告らは、ICRPは、確率的影響のうち致死がんの確率係数が、全集団で一レム当たり一万分の五であるという仮定に基づいて、公衆の許容線量値を勧告しているが(一九九〇(平成二)年の勧告)、広島、長崎の原爆被曝線量の再評価等によって、右リスク係数が誤りであることが明らかになったから、ICRPの公衆の許容線量についての勧告値の妥当性は失われた旨主張する。また、原告らは、ICRPの勧告においては、低線量・低線量率の被曝における右確率係数について、高線量・高線量率の被曝における観察から直接に得られるリスク係数に、線量・線量率降下係数(DDREF係数)として二を採用してこれで除しているが、右係数は何らの根拠もなく導き出されたものであり、不当に低線量・低線量率の被曝における確率的影響のリスクを低く見積もったものである旨主張する。

そこで検討するに、乙ロ一及び弁論の全趣旨によれば、ICRPは、一九九〇(平成二)年の勧告において、確率的影響のうち致死がんの確率係数として、それまでの一レム当たり一万分の一から、一レム当たり一万分の五に引き上げたが、この計算に当たり、DDREF係数として二を採用し、右係数の数値の選択についてはやや恣意的であり、多分に保守的かもしれないとしていることが認められる。

ところで、甲一一、甲一二及び甲ロ三によれば、一九八〇(昭和五五)年ころから、米国のローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)及びオークリッジ国立研究所(ORNL)の研究員らにより、それぞれ、広島、長崎の原爆被曝者の放射線被曝線量の推定の見直し作業が行われるようになり、その結果、その線量は、同研究所が一九六五(昭和四〇)年に発表した従来の線量評価システム(T六五D)に比べて大幅に低いことが判明したこと、これを受けて、一九八一(昭和五六)年以降日米両国に線量再評価検討委員会が設置された後、一九八三(昭和五八)年には、広島、長崎原爆放射線量の再評価に関する合同委員会が設置され、一九八六年三月、日米合同の上級委員会において、新しい線量評価システム(DS八六)が承認されたこと、これによると、T六五Dと比較して、広島ではガンマ線が2ないし3.5倍に増加する一方、中性子線は一〇分の一に減少し、長崎ではガンマ線はほとんど変化がなかったが、中性子線は二分の一ないし三分の一に減少したことが認められる。

また、前記(第一、三、1、(二)、(6)、(ロ)、(g))のとおり、一九八七(昭和六二)年九月、プレストンとピアスは、論文「原爆被曝者の線量推定方式の改定によるがん死亡リスク推定値への影響」において、右DS八六に基づき、がんと白血病の死亡リスク評価を行い、中性子の生物学的効果比(RBE)を一〇と仮定した場合の過剰相対リスクを一〇〇レム当たり0.66としたこと(これをもとに計算した日本人の致死がんの死亡リスクは、一〇〇万人レム当たり一六二〇人、白血病死の死亡リスクは一〇〇万人レムあたり一二〇人、合計一〇〇万人レム当たり一七四〇人となる。)こと、甲ロ一四によれば、一九八八(昭和六三)年五月、清水由紀子らは、DS八六を用いて確率的影響のうち致死がんのリスク評価を行い、がん死のリスクとして一〇〇万人レムあたり一三〇〇人のがん死と発表したこと、甲イ一七一によれば、一九八八(昭和六三)年、UNSCEARは、確率的影響のうち致死がんのリスクを、一〇〇万人レムあたり、絶対モデルで四〇〇から五〇〇人、相対モデルでは七〇〇人から一一〇〇人とし、また、一九九〇(平成二)年、BEIRは、BEIR―Ⅴ報告書において、確率的影響のうち致死がんのリスクを、相対モデルで一〇〇万人レムあたり八八五人としたこと、甲ロ一七によれば、一九九二(平成四)年、英国放射線労働者全国登録(NRRW)のデータによると、がん及び白血病のリスク推定値は、統計的不確かさが大きいとされるが、ICRPの一〇〇万人レムあたり四〇人(白血病)及び四〇〇人(がん)というリスク推定値の約二倍となっていること、乙ロ一五によれば、ロットブラットは、一九七八(昭和五八)年、「放射線業務従事者に対するリスク」と題する論文において、すべてのがん死に対するリスクとして、一〇〇万人レムあたり八〇〇人としていること(なお、これは、広島原爆被曝者の放射線誘発リスクを求めるに当たり、いくつかの単純な仮定のもとで、平均線量を評価することができることから、これにより一レムあたり二四〇×一〇マイナス六乗であるとした上で、この高い値の信頼性は、本当は早期に広島に入っていないのに、放射線被曝の犠牲者に与えられた追加的な利益を受けるために嘘の主張をした人々がいたことから、幾つかの報告された白血病の症例が誤っているということに照らして疑問もあるが、白血病がまれであることを考えると、多くの人々がもっともらしく聞こえる嘘の主張したということはありそうもなく、もし、三分の一が嘘のケースだとすると、そのリスクファクタは一レムあたり一六〇×一〇マイナス六乗になるとした上で、全体のリスクは白血病の五倍であるという原子放射線の影響に関する国連科学委員会が示唆した手順に従い、この数字に五を乗じれば、ICRPが勧告した一レムあたり一〇〇×一〇マイナス六乗の八倍に当たる一レムあたり八〇〇×一〇マイナス六乗の全体リスクファクタが得られるとしているものである。)が、それぞれ認められる。また、甲ニ一の一(証人高木調書一)一一丁表及び甲ニ一の二(証人高木調書二)一丁表には、DS八六により、確率的影響のうち致死がんのリスクは一〇〇万人レムあたり一〇〇〇人であるという認識が得られた旨の証言がある。

しかし、他方で、甲一二によれば、プレストンとピアスの論文に対しては、前記(第一、三、1、(二)、(6)、(ロ)、(g))のとおり、低線量域においても線量とリスクが比例関係にあることを論証したものではないと認められること、甲ロ一七によれば、NRRWのがん及び白血病のリスク推定値に対しては、統計的不確かさが大きいとされていること、乙ロ一五及び乙ロ一六によれば、ロットブラットの見解に対しては、白血病による死亡のリスクを推定する方法や根拠となる具体的データが全く明示されていない上、一九七七(昭和五二)年UNSCEAR報告書における数値を引用するに当たり、自己の結論に有利な数値のみを示しており、九〇パーセント信頼値を無視しているとの批判がされていることがそれぞれ認められる。また、前記(第一、三、1、(二)、(6)、(ハ))のとおり、放射線被曝と晩発性障害等の発生との間にはしきい値がないと仮定すべきではあるが、他方で、低線量の被曝とリスクの増加はいずれのがん部位においても統計学的に有意ではないこと、自然放射線の被曝による人体への影響に関して、地域差との有意な関連は認められないこと、広島、長崎の原爆被曝者の子供の出産において、統計的に有意な差は認められないことなども認められる。

また、乙ロ一によれば、ICRPの一九九〇(平成二)年の勧告は、高線量・高線量率の場合の確率的影響のうち致死がんの確率係数につき、一レムあたり一万分の一〇(一〇〇万人レムあたり一〇〇〇人)とした上で、DDREF係数で除して一レムあたり一万分の五(一〇〇万人レムあたり五〇〇人)としていることが認められ、DDREF係数を考慮する以前の段階では、右各証拠の指摘するリスクと大幅に異なる点はない。そして、DDREF係数については、右係数の数値の選択についてはやや恣意的であり、多分に保守的かもしれないとされているとはいえ、日本の原爆被曝者のデータの直接の統計的評価からは、DDREF係数は約二よりもそれほど大きくはなりそうにないとされていること、動物の研究から得られたDDREF係数は二から一〇であること、他の機関により過去に実際に用いられたDDREF係数はすべて二以上であり、五、一〇とするものもあったことなどを根拠として、保守的な値としてDDREF係数として二を採用していることが認められるのであって、その数値には合理的な根拠があるということができる。

そして、ICRPの公衆に対する許容線量の勧告は、致死がんの確率係数に加えて、一年間につき0.5レム以下の継続した被曝の影響について、年齢別死亡率の変化が非常に小さいというデータが得られていること、自然放射線による線量と同等の線量であれば、その影響は社会的に無視しうるほど小さいといえることを重視し、自然放射線からの年実効線量が0.1レムであり、その地域格差の幅も約0.1レムであることから、一年間につき0.1レムと定めたものと解されるのであって、致死がんの確率係数から直ちに公衆に対する許容線量を導いているものではない。したがって、DS八六による広島、長崎原爆被曝者の被曝線量の再評価の結果によって、直ちに右勧告値が不当になるものではないというべきである。

また、乙ロ一によれば、ICRPは、一九九〇(平成二)年の勧告に際して、前回の一九七七(昭和五二)年の勧告以降の新知見を調査、検討しており、DS八六に基づく新たなリスク推定値に関する論文(前記のプレストン、ピアスの論文「原爆被曝者の線量推定方式の改訂によるがん死亡リスク推定値への影響」も含む)を検討したほか、BEIRのBEIR―Ⅴ報告書、UNSCEARのリスク推定値も検討した上で、放射線誘発がんに関する死亡のリスク係数を見直し、従来の一レム当たり約一万分の一から一レム当たり約一万分の五に引き上げたこと、しかし、作業者に対する許容線量については、従来の一年間につき五レムであったのを、五年平均で一年間につき二レム(ただし、いずれの一年間においても五レムを限度とする。)と改めたものの、公衆に対する許容線量の勧告値については一九八五(昭和六〇)年のパリ声明における一年間につき0.1レムを更に引き下げる必要はないとしたことが認められ、ICRPは、原告らの主張に沿う見解及びこれらに対する批判も考慮した上で勧告を行っているものと認められる。

(3) 「正当化」と経済性について

原告らは、ICRPの勧告は、放射線被曝を伴う行為について「正当化」、すなわち行為によって被曝する個人又は社会に対して、それが引き起こす放射線被害を相殺するのに十分な便益を生むことを要求しているが、これは侵害される人の生命、身体と放射線被曝を伴う行為により得られる利益とを金銭的に評価して比較する考え方であって、企業の利益を偏重する不合理な要件である旨主張する。

この点、乙ロ一によれば、ICRPの勧告は、放射線被曝を伴う行為について「正当化」を要求しており、ここで「正当化」とは、当該行為によって被曝する個人又は社会に対して、それが引き起こす放射線被害を相殺するのに十分な便益を生むこと、すなわち当該行為の正味便益がプラスであることとしていることが認められる。しかし、同勧告では、更に、行為の「最適化」を要求し、その過程で、社会において便益を享受する者と損害を受ける者とが同じ分布を示すことはなく、不公平を生じることとなるので、この不公平を制限するために、個人に対する線量拘束値を設けるとし、これに基づき、公衆に対する許容線量の勧告をしていることが認められる。したがって、ICRPの勧告が、人の生命、身体よりも企業の利益すなわち放射線被曝を伴う行為を優先する考え方であるとはいえない。

また、右(2)のとおり、ICRPの公衆に対する許容線量の勧告は、致死がんの確率係数に加えて、一年間につき0.5レム以下の継続した被曝の影響について、年齢別死亡率の変化が非常に小さいというデータが得られていること、自然放射線による線量と同等の線量であれば、その影響は社会的に無視しうるほど小さいといえることを重視し、自然放射線からの年実効線量が0.1レムであり、その地域格差の幅も約0.1レムであることから、一年間につき0.1レムと定めたものと解されるのであって、右勧告値は、「正当化」を量的に評価して定められたものではない。

(4) 線量目標値に関する指針について

なお、前記(二、2、(五))のとおり、「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針について」において、放射性希ガスからのガンマ線による全身被曝線量及び液体廃棄物中の放射性物質に起因する全身被曝線量の合計値については年間0.005レム、放射性よう素に起因する甲状腺被曝線量については年間0.015レムとの線量目標値が定められているが、右指針の線量値は、ALARAの考え方を具体化した目標値であるから、許容線量に関するICRPの勧告の妥当性を左右するものではない。

(四) まとめ

右認定のとおり、ICRPの勧告値が不当であるとする原告らの主張に沿う見解もみられるが、これらの見解にはそれぞれ専門家による批判等が存在すること、ICRPの勧告値は、自然放射線による線量と同等の線量であれば、その影響は社会的に無視しうるほど小さいことに重要な根拠を置いていること、ICRPの組織、性格、活動等の事実によれば、ICRPは、現在も、各種の研究結果の検討を続けており、原告らの主張に沿う見解及びこれらに対する批判も考慮した上で勧告を行っているとみられるのであって、ICRPの勧告値の合理性を否定することはできないというべきである。したがって、ICRPの勧告値を放射線被曝による人の生命、身体に対する危険性を社会的に無視し得る程度に小さく保つための基準として用いることは、ALARAの考え方の要件と共に用いる限りにおいては、合理的なものというべきであって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

4 線量評価指針について

(一) 濃縮係数について

原告らは、「線量評価指針」の示す被曝線量評価に用いる濃縮係数は、仮定的なものであり、これに基づいた被曝線量評価は現実性がない旨主張する。

しかし、乙四・八〇頁及び乙一六・九―五―二〇頁、二六頁によれば、右濃縮係数の値は、UCRL(カリフォルニア大学の放射線研究所)の報告書に基づくものであること、右報告書の濃縮係数の報告値は、海産生物の食用部分に対する安定元素(放射性崩壊をしない元素)の濃度測定値を広く文献から求め、これを取りまとめて代表的な値を算出したものであり、また、右報告書は、フィールドで観察された放射性核種の濃縮係数と安定元素の濃度から求めた濃縮係数とを対比し、両者が一致することも確認していることが認められる。

したがって、「線量評価指針」の濃縮係数は十分信頼できるものということができるから、原告らの主張は理由がない。

(二) 海産物摂取量について

原告らは、「線量評価指針」が、海産物摂取量について、周辺住民の中でも標準的なものを対象とし、極端な摂取をする極めて少数の住民を対象としていないのは、安全側に立った評価とはいえない旨主張する。

しかし、前記(第一、四、3)のとおり、原子炉施設の平常運転に伴う周辺公衆の被曝線量評価は、平常運転時の被曝低減対策についての安全設計が講じられていることを前提として、その妥当性を確認するために、原子炉施設の通常運転時に周辺環境に放出される放射性物質による一般公衆の被曝線量が、「許容被曝線量等を定める件」の定める「許容被曝線量」を十分下回るのみならず、ALARAの考え方に基づき、これを十分に下回るように設計されていることを確認するために行うものである。右評価の目的に照らせば、「線量評価指針」が、食物摂取による被曝線量の評価を、現実に存在する被曝経路について、集落における各年齢グループの食生活の態様等が標準的である人を対象として行うこととしていることは合理的であるというべきであり、また、後記(第五、一、2)のとおり、本件原子炉施設の平常運転に伴う周辺公衆の被曝線量評価においては、保守的な評価条件を置いているのであるから、これに加えて、原告らの主張するようにあえて特殊な食生活を送る周辺公衆を対象とする理由はないというべきである。

したがって、原告らの主張は理由がない。

(三) 放射性液体廃棄物による外部被曝について

原告らは、「線量評価指針」が放射性液体廃棄物による外部被曝線量評価を行うこととしていないのは過小評価である旨主張する。

しかし、乙四・八二頁によれば、「線量評価指針」は、外部被曝経路として、液体廃棄物中の放射性物質に起因する海水浴、ボート遊び中等に受ける外部全身被曝等も考えられるとした上で、これらは、海産物摂取による被曝経路からのものに比べ、一桁以上小さい寄与しか与えないことから、被曝線量評価の対象として考慮する必要はないとしていることが認められ、これが、前記第一、四、3の原子炉施設の平常運転に伴う周辺公衆の被曝線量評価の目的に照らして不合理であるとはいえない。

したがって、原告らの主張は理由がない。

5 「耐震設計審査指針」について

(一) 歴史地震重視について

(1) 原告らは、「耐震設計審査指針」は、歴史的証拠から、過去において本件敷地又はその近傍に影響を与えたと考えられる地震(歴史地震)を中心とする考え方である(基準地震動S1、S2を区分しているのもその結果である。)ところ、この考え方は古く、要注意断層の考え方に立つべきであるから、同指針は不合理、不十分である旨主張する。また、「耐震設計審査指針」は活断層を軽視しているとも主張する。

しかし、甲ハ六五によれば、原告らの指摘する要注意断層とは、松田時彦が昭和五六年に提唱した考え方であるところ、これは、無地震経過率の大小により、ある活断層について、最新の大地震以降現在までの経過年数を、その断層の平均活動間隔(第四紀後期(およそ一〇数万年前以降現在までをいう。)における平均の再来間隔年数)で除した値を危険度とし、危険度が0.5以上に達した断層を要注意断層とする、又は、同一断層帯における地震の続発性の見地から、歴史地震の有無により、一つの長い断層帯の一部分が比較的最近(歴史時代)に大地震を起こしている場合、その残余の区間で大地震が起こる可能性が大きいとして、右断層帯を要注意断層とする考え方であることが認められる。

そうすると、右要注意断層の考え方は、歴史的資料から得られた過去の地震の発生時期等を基に、活断層(構造線ないし断層帯)の中から要注意断層を認定するものであるから、それ自体、歴史地震を基本とする考え方であって、この点では「耐震設計審査指針」と異なるところはない。また、同指針は、「大地震は一般に同一地域で繰り返し起こると認められているので、基本的には設計用最強地震のマグニチュードは敷地あるいはその近傍に影響を与えた過去の地震によって定められるものと考えられる。」とする一方、「古い地震資料には不備があるかもしれないことを考慮し、また、有史期間にはたまたま発生しなかったくり返し期間の長い地震の生起を看過することがないよう、確実な地質学的証拠と工学的判断に基づいて近い将来敷地に影響を与えるおそれのある活動度の高い活断層による地震を考慮に入れることとする。」とした上で、災害防止の観点から最も重要なASクラスの施設の耐震設計に際しては、地震を引き起こす可能性のある活断層をすべて考慮することとしているのであるから、同指針が要注意断層の立場に立っていないからといって、耐震設計の審査指針として合理的でないということはできないし、活断層を軽視しているということもできない。

また、甲ハ六五によれば、要注意断層の考え方は、地震の予知の基礎資料とするために提唱されたものであって、要注意断層とされた構造線ないし断層帯が一つの活断層として活動するものとして、その規模やエネルギーの大小を求めるものではないことが認められるから、右考え方により直ちに「耐震設計審査指針」が不合理になるものではない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(2) また、原告らは、長期間地震が発生していないブロック境界の断層について認められる空白域では、歪エネルギーが蓄積されている可能性があるところ、「耐震設計審査指針」は、この空白域に起こる地震を考慮しておらず、不合理、不十分である旨主張する。

右原告らの主張は、金折裕司が提唱する「マイクロプレートモデル」に依拠するものと解されるところ、甲ハ六七(右金折の著作)には、甲楽城断層の北部等がブロック境界の断層について認められる空白域であるとして図示されているが(同書証一九八頁のDないしF)、同書証は、右のような空白域から想定される地震について、「歴史地震の発生が知られていないブロック境界については、地震の空白域や次の地震で破壊する領域を予測することが困難である。」として、「仮にそれを構成する大規模な活断層を次の地震での破壊域とみなし、地震危険度評価を試みる。」と断った上で、右DないしFの空白域を破壊域とあえて仮定し、想定される地震のマグニチュード等を試算しているにすぎないのであって、右DないしFの部分において地震が発生する蓋然性があることや、その近辺の複数の活断層が同時活動する具体的可能性があることを述べられていない。

したがって、原告らのこの点についての主張はその前提を欠くものである。

(二) 考慮すべき活断層について

(1) 原告らは、「耐震設計審査指針」が、①基準地震動S1の発生源としての活断層としては、A級活断層(平均変位速度が一ミリメートル毎年以上のもの)に属し、一万年前以降に活動したもの又は地震の再来期間が一万年未満のものとし、②基準地震動S2の発生源としての活断層としては、B級活断層(平均変位速度が0.1ミリメートル毎年以上一ミリメートル毎年未満のもの)及びC級活断層(平均変位速度が0.1ミリメートル毎年未満のもの)に属し、五万年前以降に活動したもの又は地震の再来期間が五万年未満のものとしていることについて、本来、活断層とは、「新生代第四紀の間に動いたことのある断層」を指し、実際にも、数万年から数十万年の再来周期で活動したと認められる断層が存在するのに、五万年前以降の活動が認められない断層は原子力発電所の建設上問題とすべきでないとすることには合理的な根拠がなく、考慮すべき活断層を右のように限定するのは不合理、不十分である旨主張する。

しかし、前記(第一、三、2)のとおり、原子炉施設の安全性の確保とは、放射性物質の環境への放出を可及的に少なくし、これによる災害発生の危険を社会通念上容認できる水準以下に保つことであるから、どの程度過去にさかのぼって活動歴のある断層を考慮の対象とすべきかという問題も、右の安全性の確保という観点から判断すべき事柄である。したがって、考慮の対象とすべき活断層の選定の当否は、必ずしも、学術上の活断層の定義による必要はなく、それが原子炉施設の安全性を確保するための考慮対象として相当性、合理性を有するかどうかによるというべきである。

そこで検討するに、甲ハ一によれば、専門的には、活断層とは、第四紀あるいは第四紀後期に活動した断層で、将来も活動する可能性のある断層をいうと考えられているが、具体的に何年前からのものをいうのかについては定説とまでいえるものはないことが認められ、また、実際に歴史時代に入ってから、日本国内で五万年を大幅に超える再来期間で大地震が起こったと認めるべき資料もない。そして、乙ハ二〇によれば、そもそも「耐震設計審査指針」が、五万年前以降の活動が認められる活断層について評価すべきこととしているのは、地質時代的にみて最近まで繰り返し活動していた断層は将来も活動して地震を起こす可能性があること、このような断層の調査結果から繰り返しの期間の大半は約一万年以内、これより長いものでも約五万年以内に納まっていること、一般に活動度が高ければ高いほど繰り返し期間が短いとされていることなどの地震学、地質学等の知見に基づく工学的な判断によるものであると認められる。右認定の事実に照らせば、同指針が、五万年前以降の活動が認められる活断層について評価すべきとしたことは、原子炉施設の安全性の確保という観点からみたとき、相当性、合理性を有するというべきである。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(2) なお、原告らは、C級活断層が活動して起こる地震でも、一万年がおおよその再来期間とされており、新しい見解によっても、C級活断層で断層の長さ二〇キロメートルのものの歪みの蓄積期間は、一万三三四〇年から四万〇九七〇年とされていることから、B級、C級の活断層であっても、すべて五万年以内に活動するとして、「耐震設計審査指針」が、B級、C級の活断層について、五万年前以降に活動したもの又は地震の再来期間が五万年未満のものに限定して考慮することとし、五万年前以降の活動の証明を要求しているのは不合理である旨主張する。

しかし、右の主張は、B級、C級の活断層はすべて地震を起こすことを前提にしたものであるところ、右関係が成り立つことを示す証拠はないから、原告らの右主張はその前提を欠くものというほかない。

また、原告らは、B級の活断層は、平均変位速度が0.1ミリメートル毎年以上一ミリメートル毎年未満のものをいうところ、これが五万年前以降活動したことがないとすれば、五万年の間の変位量の蓄積は五メートルから五〇メートルということになるが、そのような変位は莫大なエネルギーの蓄積を意味するか、又はおよそありえないものであるから、「耐震設計審査指針」の変位量と蓄積期間の関係は矛盾している旨主張する。

しかし、右主張は、断層の変位がすべて歪みとして蓄積され、地震により放出されることを前提とするものであるところ、右関係が成り立つことを示す証拠はないから、原告らの右主張はその前提を欠くものというほかない。

(三) 直下地震について

(1) 原告らは、「耐震設計審査指針」が、設計用限界地震の基準地震動を決定する際、直下型地震としてマグニチュード6.5の地震を深さ一〇キロメートルに想定するとしていることについて、地表に断層が現れずにマグニチュード6.5を超える直下型地震が発生した例があるから、右マグニチュードの想定は不合理である旨主張する。

確かに、甲ハ七二によれば、昭和二年北丹後地震(マグニチュード7.3)、昭和一八年鳥取地震(マグニチュード7.2)、昭和二三年福井地震(マグニチュード7.1)、昭和五九年長野県西部地震(マグニチュード6.8)は、いずれも活断層がないか、ほとんどないところで発生したこと、これを踏まえると、原子力発電所の耐震設計上、マグニチュード6.8ないし7.1程度の直下型地震を想定すべきであるとの意見があることが認められ、甲ニ三の一(証人生越調書一)一二丁表、同裏、一四丁表ないし一六丁裏にも同旨の証言がみられる。

しかし、乙ニ三の一(証人木村調書一)二四丁裏ないし二七丁表、四二丁裏、四三丁表及び乙ニ三の二(証人木村調書二)六二丁裏によれば、「耐震設計審査指針」は、設計用限界地震を定めるにおいて、過去の地震の発生状況、その活動度の大小の程度を考慮した敷地周辺の活断層の性質、地震地体構造に基づき、地震学的知見に工学的見地からの検討を加えて、このうち敷地に対して影響の大きいものを考慮するものとしているが、これに当たって、原子炉施設の設置場所について、十分な文献調査や現地調査をした上で、過去にマグニチュード6.5ないしこれに近い規模の直下型地震が発生した事実が認められず、また、大規模な直下型地震が生じやすいと考えられる地形、地質等の指摘がされたという事実も認められない場合であっても(本件原子炉施設においてこれらの事情が認められないことは後記(第三、一、2及び同3)のとおりである。)、なお直下地震として想定するとしたものであることが認められるのであって、「耐震設計審査指針」の直下地震の想定は、要するに十分な調査をして直下型地震の発生可能性が低いことを確認した上でなお要求される想定であって、保守的な想定といえることが認められる。

したがって、原告らの主張するように、地表に断層が現れずにマグニチュード6.5を超える直下型地震が発生した例があり、これに基づき直下地震の想定を引き上げるべきであるという見解があるからといって、そのことから直ちに「耐震設計審査指針」における直下地震の想定が不合理であるということはできない。なお、原告らは、昭和五八年日本海中部地震(マグニチュード7.7)の発生をもって、「耐震設計審査指針」の直下地震の想定を非難するが、右地震は直下型地震ではない。

(2) 原告らは、「耐震設計審査指針」における直下地震の想定は、直下地震を想定しているにもかかわらず、基礎岩盤が断層によって破壊されることや、また、直下地震による「衝撃的破壊」について想定していないことは不合理である旨主張する。

しかし、「原子力発電所の地震、地盤に関する安全審査の手引き」は、地盤に係る安全審査として、原子炉施設の敷地地盤のボーリング調査を行い、原子炉施設の安全性に影響を及ぼすような断層の存在しないことを確認することを要求しているから、「耐震設計審査指針」の直下地震の想定において、基礎岩盤が断層によって破壊される事態を想定していないことは不合理ではないし、甲ハ六〇によれば、「衝撃的破壊」は、いまだ確証の得られたものではないと認められるから、およそ原子炉施設の設置場所の地盤の調査結果と無関係に考慮しなければならないということはできない。したがって、「耐震設計審査指針」の直下地震の想定において、衝撃的破壊が考慮されていないことに不合理な点はないというべきである。

(四) 鉛直地震力について

原告らは、「耐震設計審査指針」においては、地震の鉛直地震力の設定につき、動的地震力の鉛直地震力については、基準地震動の最大加速度(水平方向)の二分の一とし、静的地震力の鉛直地震力については、震度0.3(水平方向の標準せん断力の二分の一に相当する。)とされているが、兵庫県南部地震の観測記録の中には、水平動を上回る上下動がみられるから、右鉛直地震力の設定は不当である旨主張する。

この点、甲ハ六〇(検討会報告書)には、兵庫県南部地震による観測記録中には上下動の最大加速度が水平動の最大加速度の二分の一を上回るものがみられる旨の記述が存在する。しかし、同報告書は、これと並んで、右観察記録の中には、埋立地盤のような軟弱な表層地盤(水平方向の加速度の増幅が抑えられる一方、上下方向の加速度の増幅は抑えられないため、上下方向の加速度が相対的に大きくなる場合があると言われている。)における観測記録や、高層ビルの地下階で得られた観測記録のように構造物の影響を強く受けていると考えられるものが含まれるため、これらを除外した観測記録一二五件について分析したところ、上下動と水平動の最大加速度振幅の比は、平均的にほぼ二分の一を下回る結果が得られたことをも明らかにしている。

また、同報告書によれば、上下動と水平動の両方向の地震動が作用する場合、一般に、上下方向と水平方向と地震動の最大加速度の生起時刻及び施設の上下方向と水平方向の振動特性の差等により、両方向の最大応答の発生時刻が異なることから、右観測記録中、時刻歴波形の得られている観測記録二三件について、水平方向の最大加速度の発生時刻における水平方向に対する上下方向の加速度振幅の比を分析した結果、平均値は0.1程度、最大値は0.3程度となり、右比の値は二分の一を大きく下回ることが認められるところ、「耐震設計審査指針」においては、水平地震力と鉛直地震力とが、同時に不利な方向で作用することを想定することを要求しているのであるから、右観測記録によって鉛直地震力を水平地震力の二分の一としていることの合理性は失われるものではない。

そして、弁論の全趣旨によれば、構造物には常時自重が作用するため、構造物は長期荷重としては一般に水平方向よりも鉛直方向に十分な裕度をもって設計され、そのため、短期荷重としての鉛直地震力が構造物に与える影響は小さく、構造物の耐震設計を支配するのは水平地震力であるといえること、原子炉施設の建物は、厚い壁で構成される鉄筋コンクリート造の壁式構造が主体であって壁量が多いため、全体的に上下方向には剛性の高い剛構造となっていることから、上下方向の地震力に対し、一般建築物と比べてはるかに大きな安全余裕を有することが認められる。

以上によれば、「耐震設計審査指針」の鉛直地震力の評価は、兵庫県南部地震で得られた知見に照らしても、その妥当性が損なわれるものではないというべきである。

(五) 遠距離地震について

原告らは、「耐震設計審査指針」が遠方の地震を考慮することとしていないのは不合理である旨主張する。

しかし、「耐震設計審査指針」は、遠距離地震を考慮することを求めているから、原告らの主張は理由がない。

四  第三節以降の判断の方法

第三節以降では、本件許可申請が右具体的審査基準に適合するとした本件安全審査における調査審議及び判断の過程に重大かつ明白な瑕疵といえるだけの過誤、欠落があるか否かについて検討する。すなわち、第三節では立地条件に係る安全性、第四節では安全設計、第五節では平常運転時における安全性、第六節では事故防止対策に係る安全性、第七節では公衆との離隔に係る安全性に関して、それぞれ本件安全審査の内容とその合理性について検討する。

第三  本件原子炉施設の立地条件に係る安全性

一  本件安全審査の内容

乙六ないし一〇、乙一四の一ないし三、乙一六、乙二二、乙二三及び乙イ六並びに弁論の全趣旨によれば、本件原子炉施設の立地条件についての本件安全審査の内容について、次のとおり認められる。

1 敷地

(一) 本件安全審査においては、以下の諸点が確認された。 本件原子炉発電所の敷地(本件敷地)は、福井県敦賀市白木に属し、敦賀市市街地より北西約一二キロメートル、美浜町中心街より北東約一六キロメートル、敦賀半島北端部に位置している。

本件敷地は背後を標高三〇〇ないし六〇〇メートルの山地によって囲まれ、中央部は段丘ないし扇状地を呈する丘陵部で、勾配七分の一から一〇分の一の緩い斜面になっている。

原子炉本体は、海岸線から約七〇メートル山側に位置し、本件敷地の山裾を掘削した岩盤上に設置される。原子炉本体の中心から本件敷地境界までの最短距離は北東方向約五七〇メートルである。

本件敷地の面積は約一〇八万平方メートルであるが、このうち発電所設備用地は陸部造成による約二三万平方メートルと海面埋立による約八万平方メートルの合計約三一万平方メートルである。

(二) そして、本件安全審査においては、本件敷地の広さは、法令で規制される周辺監視区域の設定において十分な条件を有しており、また、周辺公衆との離隔の確保についても、「立地審査指針」に示される条件を満足しているので、妥当であると判断した。

2 地震

(一) 耐震設計上想定すべき地震

本件安全審査においては、①本件原子炉施設の耐震設計において考慮する地震動は、本件敷地に最も大きな影響を与えると考えられる地震に基づき想定する必要があり、このためその強さの程度に応じて基準地震動S1をもたらす設計用最強地震及び基準地震動S2をもたらす設計用限界地震をそれぞれ適切に想定することが要求される、②設計用最強地震としては、過去に本件敷地又はその付近に影響を与えたと考えられる被害地震及び近い将来本件敷地に影響を与えるおそれがあると考えられる活動度の高い活断層による地震の中から、最も影響の大きいものを想定することが要求される、③設計用限界地震としては、右最強地震を上回るものがある場合には、その活動度の大小の程度を考慮した本件敷地周辺の活断層及び地震地帯構造に基づき、工学的見地からの検討を加えて、このうち本件敷地に対して最も影響の大きい地震を想定し、また、直下地震を想定することが要求されるとした上で、次の事項について審査した。

(1) 過去の被害地震

(イ) 地震資料

本件安全審査においては、過去の被害地震の調査に用いられた地震資料の信頼性及び他の地震資料との相違点について検討し、地震の想定に当たって使用された地震資料が、地震の規模、震央位置、震源深さ、余震域、被害状況等の十分な情報を有するものか否かについて審査した。

そして、本件安全審査においては、本件許可申請において地震資料として採用されている「日本被害地震総覧」は、既往の種々の地震資料を基に最新の研究成果を取り入れて編集されたもので、我が国において最も充実し、かつ、信頼性のある被害地震の資料の一つであると一般に認められているものであり、適切であると判断した。

(ロ) 敷地周辺の主な地震

本件安全審査においては、本件敷地に影響を及ぼすおそれのある地震の規模、震央位置とその震度分布、被害状況等との整合性について検討し、本件敷地に影響を与えたか、又は与えたと推定される過去の地震が適切に選定されているか否か、また、それらの地震の規模、震央位置の想定が妥当であるか否かについて審査した。

本件許可申請においては、「日本被害地震総覧」による地震の規模、震央位置、余震域、被害状況等の情報に基づいて、本件敷地からの震央距離が約一五〇キロメートル以内のすべての被害地震がリストアップされ、この中から、本件敷地に影響を及ぼす被害地震として、天平美濃の地震(西暦七四五年、マグニチュード7.9、震央距離61.1キロメートル)、元暦近江の地震(一一八五年、マグニチュード7.4、震央距離49.7キロメートル)、正中近江の地震(一三二五年、マグニチュード6.7、震央距離18.2キロメートル)、天正畿内の地震(一五八六年、マグニチュード8.1、震央距離78.8キロメートル)、寛文近江の地震(一六六二年、マグニチュード7.8、震央距離54.1キロメートル)、文政近江の地震(一八一九年、マグニチュード7.4、震央距離六六キロメートル)、濃尾地震(一八九一年、マグニチュード7.9、震央距離57.2キロメートル)、北丹後地震(一九二七年、マグニチュード7.5、震央距離82.1キロメートル)、福井地震(一九四八年、マグニチュード7.3、震央距離44.6キロメートル)、越前岬沖地震(一九六三年、マグニチュード6.9、震央距離二一キロメートル)が選定されている。

本件安全審査においては、右被害地震は、一般家屋に被害が発生するとされている気象庁震度階Ⅴを一応の目安として選定されていることなどから、本件敷地周辺の主な地震の選定及び地震の規模、震央位置の想定は妥当であると判断した。

(2) 活断層

(イ) 調査

本件安全審査においては、文献調査、空中写真判読による調査及び現地調査等の実施状況とその内容について検討し、海域を含む本件敷地周辺に存在する活断層について、その位置、長さ、活動性等の状況を把握するため、文献調査、空中写真判読、現地調査等により、十分な調査が実施されているか否かを審査した。

そして、本件安全審査においては、陸域については「日本活断層図」(地質調査所、昭和五三年)等関連の断層分布図及び既往の文献を基にして、空中写真の判読、現地調査を実施した結果によって、また、海域については「海底地質構造図(若狭湾東部)」(海上保安庁、昭和五五年)等、本件敷地周辺海域で実施された音波探査結果によって、本件敷地周辺の断層の存在及びその活動性等が確認されており、必要な調査が行われていると判断した。

(ロ) 敷地周辺の活断層

本件安全審査においては、活断層についての調査内容、活断層の規模、活動度等の評価及び本件敷地において考慮する必要のある活断層の選定の妥当性について検討して、本件敷地周辺に存在し、本件敷地に影響を与える可能性のある活断層の位置、規模、変位様式、活動性等の状況が適切に把握されているか否かを審査した。

(a) 文献調査による敷地周辺の活断層

本件許可申請においては、本件敷地への影響を検討する必要のある本件敷地周辺の主な活断層として、陸域については、「日本活断層図」、「日本の活断層分布図」(地質学論集第一二号、昭和五一年)及び「日本の活断層」(活断層研究会、昭和五五年)等の関連文献による検討により、柳ケ瀬断層、甲楽城断層、野坂断層、三方断層、木ノ芽峠断層、花折断層及び濃尾断層系等が挙げられており、また、海域については、「海底地質構造図(若狭湾東部)」、「日本の活断層」による検討により、敦賀湾口から干飯崎海岸付近の断層(S―8断層)、干飯崎西側海域の二本の連続する断層(S―1+S―6断層)及び敦賀半島西側海域の雁行する断層(S―21ないしS―27断層)が挙げられている。

本件安全審査においては、右各文献は最新の知見をとり入れ、活断層に関する既往の種々の文献を集約しているものと認められるから、これらの文献により本件敷地周辺の主な活断層の存在を推定することは妥当であり、また、右の活断層の選定は、その断層の活動によって本件敷地に気象庁震度階Ⅴ程度以上の影響を及ぼすことを想定してされており、妥当であると判断した。

(b) 敷地周辺の主な活断層の性状

本件許可申請においては、前項で選定された活断層の性状は次のとおりとされているところ、本件安全審査においては、関連資料の検討、その他これを確認するために行った空中写真判読、現地の断層露頭の観察等の調査により、その内容は妥当であると判断した。

(い) 柳ケ瀬断層

本断層は、琵琶湖北部の滋賀県伊香郡木ノ本町付近から、福井県今庄町西方上板取に至る区間にあるとされ、谷の直線性が断層地形を示唆するものとして推定されている断層である。

その活動性については、椿坂峠から南の部分一九キロメートルについては、最大幅五〇メートル以上の高破砕帯の存在、左横ずれの明瞭な変位地形が認められること、雁ケ谷では縄文土器を出土した地層に変位を与えていることなどから、活動度の高い活断層として考慮する必要がある。他方、椿坂峠から北の部分は、武蔵野期相当と判断される扇状地堆積物に変位を与えていないことなどから、南部に比べ活動性が低いと考えられるが、リニアメントが連続して認められ、B級活断層と指摘する文献もあることから、木ノ本町から上板取北方の二ッ屋跡までの全長二八キロメートルについて、第四紀後期の活動の可能性を考慮することが適切である。

(ろ) 甲楽城断層

本断層は、南条郡河野村大谷から干飯崎にある海岸が断層崖であるとして指摘されている断層であり、陸域にみられる部分と海域の部分(S―8断層)とは連続するものとし、大谷沢から干飯崎沖までの長さ二〇キロメートルの断層として考慮することが適切である。

その活動性については、武蔵野期以降の活動性は認められないとも考えられ、新しい時期に活動したと推定されるものではないが、B級の活断層と指摘している文献もあることなどから、第四紀後期の活動の可能性を考慮することが適切である。

なお、柳ケ瀬断層と甲楽城断層の関連については、空中写真判読の結果から両断層を連続するリニアメントが認められないこと、また、現地調査の結果柳ケ瀬断層の北に連続する破砕帯が認められないことなどから、両断層は連続しないとして差し支えない。

(は) 野坂断層

本断層は、三方郡美浜町北田付近から関峠、敦賀市長谷に至る数キロメートルの断層とされている。

その活動性については、新しい時期の活動を示す証拠は認められなかったが、長谷扇状地、野坂南方山地に河谷の屈曲等の変位地形が認められること、B級の活断層と指摘する文献があることなどから、第四紀後期の活動の可能性を考慮することが適切である。

(に) 三方断層

本断層は、三方郡美浜町久々子湖東岸から遠敷郡上中町新道間に存在する、長さ約一〇数キロメートルとされている断層であるが、その長さはリニアメントが認められる久々子湖東岸から新道までの一八キロメートルとすることが適切である。

その活動性については、必ずしも明らかではなく、活動性の高いものではないが、B級の活断層と指摘する文献があることなどから、第四紀後期の活動の可能性を考慮することが適切である。

(ほ) 木ノ芽峠断層

本断層は、敦賀平野の沈降性地形に関連して、敦賀市山付近から同市道ノ口、同樫曲を通り、同市葉原付近に至る断層とされており、敦賀市雨谷から同新保までの一四キロメートル及びその南西に多少離れた約一〇キロメートルのリニアメントの位置にあると考えられる。

その活動性については、活動度の高い断層であるという指摘はないが、B級の活断層とされ、一部には尾根の屈曲や段丘堆積層を変位させている断層露頭がみられることなどから、右各リニアメントが連続するものと仮定し、長さ二五キロメートルとした上で、第四紀後期の活動の可能性を考慮することが適切である。

(へ) 花折断層

本断層は、京都の東部から高野川沿いに北上し、途中越、花折峠を通り、滋賀県高島郡朽木村市場から、桧峠、高島郡今津町保坂付近に達する地形的に明瞭な断層線谷を成す全長五六キロメートルの断層とされている。

その活動性については、花折峠以南の二八キロメートルについては活動性の高い活断層として取り扱うことが適切と考えられる(ただし、結論としては、本件敷地からの距離が遠く、その影響が小さいことが明らかであるため、特に考慮の必要はない。)。また、全長五六キロメートルを地震地体構造との関連で考慮することが必要である。

(と) 濃尾断層系

本断層系は、岐阜市古市場付近から福井県今立郡池田町野尻付近までの数条の断層群が濃尾地震時に部分的に活動したと指摘されているものであり、温見、根尾谷、梅原の主要三断層によって構成されるとされている。

その活動性については、活動性が高く、本件敷地に与える影響が大きい(ただし、結論としては、歴史地震によって評価することで十分である。)。

(ち) S―8断層

本断層は、干飯崎沖より海岸に並行して南東に延びる長さ約一五キロメートルの構造線であり、陸上の地質構造から、陸域の甲楽城断層と同一のものと推定されている。したがって、甲楽城断層の項で述べたとおり、本断層と大谷沢で確認された陸域の部分の連続したものを甲楽城断層として評価する必要がある。

(り) S―1+S―6断層

本断層は、越前岬沖から干飯崎沖に至る新第三紀鮮新世又は第四紀更新世初期に対比される地層内に存在が推定される、長さ数キロメートルないし一〇数キロメートルの雁行又は断続する数条の断層のうち、連続するとみられる二〇キロメートルの断層とされている。

その活動性については、第四紀後期の活動の可能性を考慮することが適切である。

(ぬ) S―21ないしS―27断層

本断層は、敦賀半島西方海域に存在が推定される長さ二ないし4.5キロメートルの断層の雁行した全長約一七キロメートルに及ぶ断層とされている。

その活動性については、活動時期は新しいものではないと考えられるが、第四紀後期の活動の可能性を考慮することが適切である。なお、これらの断層群と野坂断層とは地質構造上調和的であるが、音波探査の結果、両断層間の海域には断層が認められないことから、これらの断層群と野坂断層は連続しないものとして差し支えない。

(c) 敷地付近のリニアメント

本件許可申請においては、本件敷地付近に認められるリニアメントは、いずれも活断層に伴う変位地形ではないとされている。

本件安全審査においては、本件敷地付近の白木―丹生リニアメントについては、現地調査の結果、リニアメント付近に小規模な粘土化帯が幾つか認められるものの、リニアメントに沿った連続する断層は認められず、また、粘土化帯を不整合に覆っている下末吉期相当層に対比される地層には変位は認められないこと、この他のリニアメントについても、現地調査の結果、小規模な粘土化帯は認められるものの、問題となる断層は認められないこと、本件敷地付近の海域で実施された音波探査の結果によると、敷地付近の海域には断層は認められないことから、本件敷地付近に判読されたリニアメントを活断層に伴う変位地形でないとすることは妥当であると判断した。

(ハ) 活断層と微小地震及び歴史地震との関連

本件許可申請においては、微小地震の観測により断層の現在の活動性が顕著に認められるもの、歴史地震との関連が認められるものは、活動度の高い活断層として評価するとした上で、微小地震の観測資料により現在の活動性が顕著であると認められる活断層、歴史地震との関連が明確になっている活断層はないものとされている。

本件安全審査においては、比較的古くから行われている微小地震観測等の関連文献を検討し、右(ロ)で選定された各活断層について、これらに沿う微小地震の明確な線状配列などはみられず、微小地震の生起状況が断層の現在における顕著な活動性を示していると認められるものはないこと、歴史地震との関連については、現在のところ、濃尾断層系のように地震断層とされているもの以外には、明確に歴史地震の震源となったか、地震時に変位を示したとする根拠が認められるものはなく、歴史地震と関連があると認められる活断層はないとして差し支えないと判断した。

(ニ) 活断層から想定される地震

本件安全審査においては、活断層の調査結果に基づき、設計上考慮すべき活断層が的確に選定されているか否か、これによる地震の想定が妥当であるか否かを審査した。

本件許可申請においては、設計上考慮する活断層とこれから想定される地震として、陸域からは、柳ケ瀬断層による地震(断層長さ二八キロメートル、マグニチュード7.2、震央距離二一キロメートル)、甲楽城断層による地震(海域のS―8断層を含む断層長さ二〇キロメートル、マグニチュード7.0、震央距離11.5キロメートル)、野坂断層による地震(断層長さ七キロメートル、マグニチュード6.3、震央距離一四キロメートル)、三方断層による地震(断層長さ一八キロメートル、マグニチュード6.9、震央距離二四キロメートル)、木の芽峠断層による地震(断層長さ二五キロメートル、マグニチュード7.2、震央距離16.5キロメートル)を、海域からは、S―1+S―6断層による地震(断層長さ二〇キロメートル、マグニチュード7.0、震央距離20.2キロメートル)、S―21ないしS―27断層による地震(断層長さ一七キロメートル、マグニチュード6.9、震央距離12.1キロメートル)が選定されており、右においては、経験式(松田式)に基づいて断層から想定される地震の規模を想定している。

本件安全審査においては、前記(ロ)のとおり、選定された断層は妥当であり、地震の規模の想定のために用いられている松田式は、日本の内陸における地震断層の長さと地震の規模との関係から求められたものであり、妥当であると判断した。

(3) 地震地体構造

本件安全審査においては、本件敷地周辺の地震地体構造から想定される地震の規模、震央位置等が適切に定められているか否かについて審査した。

本件許可申請においては、本件敷地周辺において起こり得る限界的な地震を活断層との関連で考慮するものとし、本件敷地周辺において規模の大きい活断層である花折断層の位置にマグニチュード7.8、震央距離六〇キロメートルの地震が想定されている。

本件安全審査においては、右地震の想定について、過去の地震の生起状況等から、マグニチュード七と四分の三が起こりうる地震の上限であるとする知見が得られていること、花折断層から想定される地震規模がほぼこれに対応することなどから、ここに限界的な地震が発生する可能性を考慮していることは安全評価上適切であると判断した。なお、濃尾断層系の属する地域は、起こり得る限界的な地震の規模が本件敷地周辺の地域より大きいとされているが、これについては濃尾断層系によって本件敷地への影響が評価されているので支障はないと判断した。

(4) 直下地震

本件安全審査においては、直下地震の規模、震源距離等が適切に想定されているか否かを審査した。

本件許可申請においては、マグニチュード6.5の地震が震央距離一〇キロメートルの位置に想定されている。

本件安全審査においては、直下地震に相当する地震としては、その地域の地質構造や地震の生起状況によって想定するのが望ましいが、その規模及び位置を特定することが困難であり、また、この地震は実際に起こる地震との関連よりも、むしろ起こった場合を想定することを要求されている地震であることから、右直下地震の想定は、震源域における地震の被害状況の観測等から得られている知見からみて、安全評価上適切であると判断した。

(5) 最強地震及び限界地震

本件安全審査においては、考慮すべき地震から最強地震及び限界地震が適切に選定されているか否かを審査した。

(イ) 最強地震

本件許可申請においては、最強地震として、考慮の対象とされた歴史地震のうち、濃尾地震、寛文近江の地震、天平美濃の地震、越前岬沖地震、天正畿内の地震の各地震及び柳ケ瀬断層(南部)から想定される地震(マグニチュード7.0、震央距離二五キロメートル)が選定されている。

本件安全審査においては、本件敷地周辺の主な被害地震が敷地に与える影響を検討した結果、右各地震はその規模及び震央距離から想定される最大震幅等、本件敷地に与える影響がその他の地震よりも大きいと認められるので、歴史地震の選定に支障はなく、また、柳ケ瀬断層南部の約一九キロメートルは、前記((2)、(ロ)、(b)、(い))のとおり、活断層の疑いが高いことから、最強地震の対象として選定されたことは適切であると判断した。なお、地震断層である濃尾断層系から想定される地震については、歴史地震で考慮されているので支障はないと判断した。

(ロ) 限界地震

本件許可申請においては、限界地震として、甲楽城断層から想定される地震、木ノ芽峠断層から想定される地震、S―21ないしS―27断層から想定される地震、柳ケ瀬断層から想定される地震、地震地体構造の見地から想定される地震及び直下地震が想定されている。

本件安全審査においては、活断層、地震地体構造から想定される地震及び直下地震の想定は、前記((2)、(ニ)、同(3)及び同(4))のとおり妥当であるから、限界地震の選定は適切であると判断した。なお、前記((2)、(ニ))において考慮する必要があるとされた諸断層による地震が敷地に与える影響は、右断層の影響を上回るものではないことから、これら四つの断層で代表させたことに支障はないと判断した。

(6) まとめ

以上のことから、本件安全審査においては、本件許可申請における過去の被害地震、活断層、地震地体構造及び直下地震の評価、これらによる最強地震及び限界地震の想定はいずれも妥当であると判断した。

(二) 基準地震動

本件安全審査においては、基準地震動S1及びS2諸特性が、最強地震及び限界地震から適切に評価されているか否かを審査した。

(1) 地震動特性

本件安全審査においては、最大振幅について、考慮すべき地震と本件敷地との相互関係、算定法等の妥当性を、周波数特性について、その特性を定めるために採用した方法の信頼性、本件敷地の地盤特性との適合性等を、継続時間等について、地震規模との関連性をそれぞれ検討し、地震動の策定に際して、その最大振幅、周波数特性、継続時間と振幅包絡線の経時的変化が適切な方法で評価されているか否かを審査した。

(イ) 地震の最大振幅

本件許可申請においては、地震と本件敷地との相互関係について、歴史地震については震央からの距離で表し、断層による地震についてはその中心付近からの距離で表している。また、最大速度振幅は、地震動の観測結果に基づいた経験式(金井式)によって求められている。

本件安全審査においては、右地震と本件敷地との相互関係の表現方法、最大速度振幅を求めた金井式はいずれも妥当であると判断した。

(ロ) 地震の周波数特性

本件許可申請においては、周波数特性は、岩盤における地震観測資料を整理し、工学的な検討を加えて提案されている解放基盤表面における標準スペクトル(いわゆる大崎の方法に基づく大崎スペクトル)に基づいて定められている。

本件安全審査においては、右標準スペクトルは使用した個々のデータを吟味した上でされたもので、国内外における既往の種々の研究内容と比較しても整合性があり、信頼できるものであること、調査の結果、本件敷地の地盤は堅硬、均質で相当な広がりのある岩盤であり、その横波速度が約一九キロメートル毎秒であるとされていること、右標準スペクトルは主として硬質地盤上において観測された地震動特性から作成されていることから、敷地での地震動の周波数特性として右スペクトルを採用することは支障のないものと判断した。そして、周波数特性は、考慮すべき地震の規模、震央距離及び敷地の地盤特性を反映したものであること、作成に際しては信頼性があると認められる方法によっていることから、妥当であると判断した。

(ハ) 地震動の継続時間等

本件許可申請においては、地震動の継続時間は、地震規模、継続時間及び振幅包絡線の経時的変化との関連を、地震観測記録を基に検討して提案されている方法に基づき定められている。すなわち、継続時間は地震動の開始から実効上消滅するとみなされる時間により、また、振幅包絡線の経時的変化は、地震の規模及び継続時間に関連させて定められている。

本件安全審査においては、右継続時間等の定め方は妥当であると判断した。

(2) 応答スペクトル及び模擬地震波

本件安全審査においては、基準地震動S1及びS2諸特性が、最強地震及び限界地震のそれぞれによって与えられた条件に適合するか否かを審査した。

本件許可申請においては、基準地震動は、地震の規模と震源距離から求められた最大速度振幅と標準スペクトルから得られる応答スペクトルと、それに合致するように人工的に作成された模擬地震波との二方法で表されている。

(イ) 基準地震動の応答スペクトル

本件許可申請においては、基準地震動S1の応答スペクトルは、濃尾地震、寛文近江の地震、天平美濃の地震、越前岬沖地震、天正畿内の地震及び柳ケ瀬断層(南部)から想定される地震等、比較的影響の大きいとみられる地震について求められており、これを包絡するように定めた応答スペクトルで代表するとされている。基準地震動S2の応答スペクトルは、甲楽城断層、木ノ芽峠断層、S―21ないしS―27断層及び柳ケ瀬断層(全長)の各断層から想定される地震について求められており、これを包絡するように定めた応答スペクトルで代表するとされている。

本件安全審査においては、右基準地震時動S1及びS2の各々につき代表するとされた応答スペクトル(最大速度振幅はS1が13.8カイン、S2が18.2カイン)は、その影響が他の応答スペクトルを上回っていることから、安全評価上差し支えないと判断した。なお、直下地震、地震地体構造の見地から想定される地震についても、右基準地震動S2の応答スペクトルに包絡されるので、差し支えないと判断した。

(ロ) 基準地震動の模擬地震波

本件許可申請においては、地震動の継続時間と振幅包絡線の経時的変化を条件とし、位相を乱数とした正弦波の重ね合わせによって、右(イ)で定めた応答スペクトルに合致するように模擬地震波が作成されており、設計に用いられる基準地震動S1の模擬地震波の最大振幅は19.0カイン、基準地震動S2のそれは22.8カインとされている。

本件安全審査においては、模擬地震波を作成するに当たっては、そのスペクトル強さが設定した基準地震動の応答スペクトルの強さを下回らないこと、スペクトルの落ち込みが著しくないこと等が必要であるとして審査したが、右模擬地震波のスペクトル強さが基準地震動の応答スペクトルを全体として上回り、また、部分的にみても設計上重要な固有周期近傍で大きく下回らないことを確認したことから、作成された模擬地震波の、基準地震動の応答スペクトルに対する適合性は妥当であると判断した。

(3) まとめ

以上のことから、本件安全審査においては、本件敷地に想定される基準地震動S1、S2の諸特性の策定方法及び耐震設計に用いられる基準地震動は妥当であると判断した。

3 地盤

(一) 敷地の地盤

(1) 本件安全審査においては、関連資料の検討のほか、地表地質踏査、試掘坑調査、トレンチ調査、ボーリングコアの確認等の現地調査の結果を踏まえ、本件原子炉施設の設置予定地付近の地盤は、地震時等に崩壊し、施設の安全性に影響を与えることがないか否かを審査した。

(2) そして、本件安全審査においては、次の事項を確認した。

(イ) 調査結果によれば、本件敷地の地質は、新期花崗岩類に属する黒雲母花崗岩からなり、平坦部には段丘ないし扇状地堆積層が分布している。

(ロ) 敷地基盤を構成する黒雲母花崗岩は、稜線表層部で風化作用によるマサ化が認められるものの、この風化帯を除き、ほぼ堅硬、均質な岩盤から構成されている。

(ハ) ボーリング調査、試掘坑調査及びトレンチ調査等から基盤岩中には節理系に支配された粘土化帯が局部的に認められるが、いずれも小規模で連続性に乏しく、原子炉施設の安全性に影響を与える性質のものとは認められない。

(ニ) 本件敷地背後の山地は、本件原子炉施設の地盤と同様の花崗岩からなり、一部小規模な粘土化帯が認められるが、切取斜面に対しては差し目の方向となっており、また、風化の程度は漸次変化しているので、問題となる不連続面は存在せず、切り取りにより風化の著しい表層部が取り除かれるので、法面は比較的堅硬な岩盤で構成されている。

(ホ) 本件原子炉施設後背地の平坦部には敷地造成時の掘削土が盛り立てられるが、この盛土斜面の基盤となる段丘ないし扇状地堆積層は層厚五ないし二五メートルの花崗岩砂礫層であり、淘汰不良ながらよく締まっている。

(ヘ) これらの切取斜面、盛土斜面について、ボーリング調査、試掘坑調査、岩盤、堆積層、盛土の強度及び変形特性等の詳細な調査結果に基づき安定解析を行った結果によっても、地震時等に崩壊が起こることはないものと判断されるが、更に安全性の向上を図るため、法面保護、地下水位低下等の適切な対策を講じることとされている。

(3) 本件安全審査においては、以上の事項を確認したことから、本件敷地の地盤は地震時にも崩壊などによって施設に影響を与えるおそれはなく、安定した地盤であると判断した。

(二) 原子炉設置地盤

本件安全審査においては、地震に関する調査、試験方法の妥当性、強度特性及び変形特性の評価の妥当性並びに支持力、すべり等に対する安全性について、関連資料の検討のほか、試掘坑調査、トレンチ調査、ボーリングコアの確認等の現地調査の結果を踏まえて検討し、本件原子炉施設を支持する地盤は、施設の自重や想定される地震時の荷重によって不等沈下や地盤破壊等が起こることがなく、本件原子炉施設の安全性を十分確保できるものか否かを審査した。

(1) 調査、試験

本件許可申請においては、本件原子炉施設の設置地盤について、地表地質調査、弾性波試験、ボーリング調査、試掘坑調査、岩石・岩盤試験等の各種調査及び試験が実施されている。

本件安全審査においては、これらの強度特性、変形特性及び岩盤の性状等に関する調査内容は、原子炉設置地盤の安全性評価を行う上で十分なものであると判断した。

(2) 地盤物性

(イ) 原子炉設置地盤の性状

本件安全審査においては、次の事項を確認した。

本件許可申請書に添付された地質断面図によると、本件原子炉施設の基礎岩盤は、全体としてCH級(電研式岩盤分類による。以下同じ。)ないしB級の堅硬、均質な花崗岩で構成されている。試掘坑の調査結果によれば、原子炉設置地盤のEL+五メートルには、幾つかの粘土化帯が認められるが、粘土化帯相互間の特定方向への連続性や密集部は認められず、その規模は最大のもので一〇〇メートル前後、大部分は二〇ないし三〇メートル程度であり、また粘度化帯の幅は、局部的に九〇センチメートル程度の所もあるが、大半は一〇センチメートル以下である。トレンチ調査の結果によれば、これら粘土化帯は基盤を覆う段丘ないし扇状地堆積層に影響を与えておらず、活動性が問題となるものではない。そして、試掘坑内の弾性波試験の結果によれば、基礎岩盤の弾性波速度は、P波で約4.3キロメートル毎秒、S波で約1.9キロメートル毎秒であり、方向による顕著な差異は認められない。

(ロ) 岩石、岩盤物性

本件許可申請においては、岩石物性について、試掘坑内で採取したブロックサンプル試料及びボーリングコアより採取した試料により、一般物性、強度特性及び変形特性に関する諸試験が実施されている。

本件安全審査においては、右諸試験の試験結果は、堅硬な岩石、岩盤として一般的なものであると認められること、試掘坑内における坑道間弾性波速度の測定値には方向による顕著な差異はなく、岩石・岩盤試験によって得られた物性についても特に方向による差があるとは認められず、岩盤には問題となる異方性はないとして支障がないと認められること、岩盤物性のバラツキについては、岩石の強度試験、RQD値、現位置せん断試験及び弾性波試験等の結果、基礎岩盤における各岩級の分布状態を反映しているものと認められることから、本件許可申請における岩石・岩盤試験の方法及び評価は妥当であると判断した。

(3) 地盤の安定性

(イ) 支持力に対する安全性

本件安全審査においては、岩盤の平板載荷試験結果によると、最大約二一〇キログラム毎平方センチメートルの荷重を与えてもCH級の岩盤の荷重―変位曲線に変曲点が認められないので、常時の接地圧約五キログラム毎平方センチメートル、地震時の最大接地圧約一四キログラム毎平方センチメートルに対し、支持力が問題となるものではないこと、基礎岩盤にはD級、CL級の岩盤等が一部分布するが、それらの分布状態を考慮した安定解析によっても、基礎岩盤は地震時に破壊を生ずることがなく、安全上支障がないものと認められることから、岩盤の支持力に対する安全性の検討に用いられた試験の結果及びその評価は妥当であり、本件原子炉施設の基礎岩盤は本件原子炉施設を支持する十分な耐力を有していると判断した。

(ロ) すべりに対する安全性

本件安全審査においては、岩盤のせん断試験結果によって求められた各岩級ごとのせん断抵抗力と基礎底面におけるこれらの各岩級分布状態から、地震時の基礎底面のすべり抵抗力は、鉛直方向地震力を考慮して約二一五万トンとなり、一方、限界地震時に本件原子炉建物基礎底面に作用する地震力は約四三万トンとなるので、すべりに対して約五の安全率となることを確認し、すべりに対する安全性の検討に用いられた岩盤試験の結果及びその評価は妥当であり、本件原子炉施設の基礎岩盤は地震力によるすべりに対して、十分な安全性を有していると判断した。

(ハ) 沈下に対する安全性

本件安全審査においては、本件原子炉施設の基礎岩盤の大部分を占めるCH級ないしB級の岩盤は、岩石・岩盤試験によって得られた変形特性から、圧密やクリープによる沈下が問題となるものではないこと、基礎岩盤にはCL級以下の岩盤も一部存在するが、その全体面積に占める割合はCL級岩盤が約四パーセント、D級岩盤、粘土化帯が一パーセント以下と少なく、CH級以上の堅硬な岩盤の間に分散していることから、不等沈下が予想されるものではないと判断した。

(4) 以上のことから、本件安全審査においては、本件原子炉施設の地盤は原子炉格納施設等の主要構造物を設置する地盤として十分な安全性を有すると判断した。

4 気象

本件安全審査においては、本件原子炉施設の設計に当たって考慮された気象条件は、本件原子炉施設から約一二キロメートルに位置し、同一の気象区(日本海側型北陸・山陰型気候区)に属している敦賀測候所の観測資料を考慮したものであって妥当であり、また、本件原子炉施設の安全解析に用いられた気象観測方法、統計処理方法、大気拡散の解析方法等は、「気象指針」に適合したものであって、妥当であると判断した。

5 水理

(一) 洪水

本件安全審査においては、本件原子炉付近には、河川として本件敷地内を流れる渓流があるが、渓流の大きさと地形からみて、本件原子炉施設が洪水被害を受けることはないと判断した。

(二) 発電所用水の確保

本件安全審査においては、本件原子炉施設の運転に必要な淡水の使用量は、最大でも一日当たり一〇〇〇立方メートルであり、この淡水は本件敷地内を流れる渓流から取水することとしているが、右渓流の流量は渇水時でも一日当たり約一〇六〇立方メートル以上あり、発電所用水の確保は可能であると判断した。

(三) 海象

本件安全審査においては、①潮位については、本件敷地より南東約一二キロメートルに位置する敦賀湾敦賀検潮所の観測記録による既往最高潮位は、東京湾中等潮位+1.28メートルとされており、②波浪については、昭和四八年八月から昭和四九年九月までの間の敷地前面海域における観測によると、有義波高は四メートル以下が九七パーセント、最大波高は9.57メートルとされているところ、本件原子炉施設の主要な建物の整地面高さはEL+21.0メートル以上であり、また、敷地前面に設けられている防波護岸は、これらに対して十分耐えられるように設計することとされていることから、海象によって本件原子炉施設の安全性が損なわれることはないと判断した。

6 社会環境

本件許可申請においては、本件敷地付近の社会環境について、原子炉を中心とする半径一〇〇キロメートル以内の人口分布、半径五キロメートル以内の集落及び公共施設、敦賀市等における産業活動、交通の状況、開発計画等について、関係行政機関が作成した統計資料等により調査されている。

本件安全審査においては、右調査とその結果について、次のとおり審査した。

(一) 人口分布

本件許可申請においては、仮想事故時の全身被曝線量の積算値を計算するための敷地を中心とした人口分布及び西暦二〇二五年における人口分布については、それぞれ昭和五〇年一〇月に実施された国勢調査の結果及び厚生省人口問題研究所が推計した資料を基に調査されている。

本件安全審査においては、右人口分布の調査は妥当であると判断した。

(二) 周辺の産業活動

本件許可申請においては、本件敷地周辺の産業活動について、関係行政機関作成の統計資料等により、敦賀市を中心として調査されており、右調査によれば、敦賀布における産業別就業状況は、第一次産業約一一パーセント、第二次産業約三八パーセント、第三次産業約五一パーセント(昭和五〇年国勢調査による。)とされている。

本件安全審査においては、本件敷地付近には申請者の新型転換炉「ふげん」、日本原子力発電敦賀原子力発電所、関西電力美浜原子力発電所を除いて特別な産業活動は見当たらず、敦賀市における主な産業は卸売・小売業、サービス業、製造業であり、これらの産業活動が本件原子炉施設の安全性に影響を与えることはないと判断した。

(三) 周辺の交通

本件許可申請においては、本件原子炉施設周辺の交通について、陸上交通は、鉄道路線として国鉄北陸本線及び小浜線が、道路として国道八号線、同二七号線及び北陸自動車道があるが、いずれも本件敷地中心から一〇キロメートル以上離れていること、最寄りの道路は本件原子炉施設の炉心からの最短距離が約1.2キロメートルの県道佐田立石敦賀線であること、海上交通は、重要港湾に指定されている敦賀港が本件敷地から約一二キロメートル離れたところにあること、航空関係については、本件敷地周辺に飛行場はなく、本件原子炉施設上空に定期航空路もないこと、本件原子炉施設周辺空域は航空自衛隊の練習区域となっているが、防衛庁通達によって発電所上空域は原則として飛行してはならないとされていることから、各交通関係については、本件原子炉施設の安全性に影響を及ぼすことはないものと判断した。

7 耐震設計

本件安全審査においては、本件原子炉施設の耐震設計について、耐震設計の方針、施設の耐震重要度の分類、地震力の算定、地震力と他の荷重の組合せ及び地震時における応力等の許容限界等の妥当性について検討し、本件原子炉施設が、想定されるいかなる地震力に対しても、これが大事故の誘因とならないよう、十分な耐震性を有するか否かについて審査した。

その結果、本件安全審査においては、次のとおり、本件原子炉施設の耐震設計の基本的方針は妥当であり、施設の耐震性を十分確保し得るものと判断した。

(一) 耐震設計の重要度分類

本件安全審査においては、LMFBRの設計の特徴を踏まえ、施設の持つ安全機能からみた耐震重要度分類の方針及び各施設の重要度分類の妥当性について検討し、本件原子炉施設が地震により機能を失うことによって想定される環境への影響の観点から、LMFBRの設計の特徴を十分に踏まえた耐震設計上の重要度分類がされているか否かを審査した。

(1) 耐震重要度分類の方針

本件許可申請においては、自ら放射性物質を内蔵しているか、又は内蔵している施設に直接関係しており、その機能喪失により放射性物質を外部に拡散する可能性のあるもの、これらの事態を防止するために必要なもの及びこれらの事故発生の際に外部に放散される放射性物質による影響を低減させるために必要なものであって、その影響効果の大きいものをAクラスとし、更に、Aクラスの施設のうち特に安全上重要な施設はASクラスとしている。また、右において影響効果が比較的小さいものをBクラスとし、Aクラス、Bクラスに属さないものをCクラスとしているが、ナトリウムの性状を考慮し、Aクラス以外の施設で大量の液体ナトリウムを内蔵する施設はBクラスとしている。

本件安全審査においては、右分類の方針は、放射性物質の外部放散による環境への影響を防止するために必要な機能を、その影響の程度の重大性に応じて分類する方針であり、妥当であると判断した。

(2) 各施設の重要度分類

(イ) 本件許可申請においては、主要な施設の重要度は次のように分類されている。

(a) Aクラスの施設

①原子炉冷却材バウンダリを構成する機器・配管、②制御棒及び制御棒駆動機構(原子炉自動停止時の制御棒挿入に関する部分)、③原子炉格納容器、④補助冷却設備及び二次主冷却系設備(中間熱交換器からみて蒸気発生器の止め弁まで)、⑤炉外燃料貯蔵槽のうち燃料貯蔵容器及び回転ラック並びに水中燃料貯蔵設備の燃料池及び貯蔵ラック、⑥ガードベッセル、⑦アニュラス循環排気装置、⑧原子炉カバーガス等のバウンダリを構成する機器・配管等。

なお、このうち①ないし⑤はASクラスとされている。

(b) Bクラスの施設

一次ナトリウム純化系設備、廃棄物処理設備、二次ナトリウム補助設備等。

(c) Cクラスの施設

発電器、蒸気タービン設備、淡水供給設備等、その他A及びBクラスに属さないもの。

(d) なお、主要施設の持つ機能を維持するために必要な補助施設は、主要設備と同等の重要度に分類される。また、これらの主要施設及び補助施設を支持する構造物については、その施設の耐震設計に用いられる地震動によって支持機能を失わないことを確認することとする。

(ロ) 本件安全審査においては、これらの各施設の重要度は、基本方針に従い、施設の機能に基づいて分類されており、また、要求される機能に関連する補助施設等も考慮して、当該機能が損なわれることがないように配慮されていると認められるので、妥当であると判断した。

(二) 地震力の算定

本件安全審査においては、地震力の算定に用いる層せん断力係数、震度、地震動、静的解析及び動的解析による地震力の算定方法について検討し、地震力の算定が施設の重要度に応じた適切な方法によっているか否かを審査した。

(1) 静的解析に基づく地震力

本件許可申請においては、標準せん断力係数を0.2とし、建物、構造物の振動特性、地盤の種類等を考慮して求められる層せん断力係数から、静的解析に基づく水平地震力を求め、また、鉛直地震力については、震度0.3を基準とし、建物、構造物の振動特性、地盤の種類等を考慮した高さ方向に一定の震度(鉛直震度)が垂直方向に作用するものとされた。

そして、静的解析に際しては、Aクラスの建物、構造物については、層せん断力係数の三倍及び鉛直震度から求められる地震力を静的地震力として用い、機器、配管では、建物、構築物に対する層せん断力係数の値を水平震度としたもの及び鉛直震度の1.2倍から求められる地震力が静的地震力とされ、Bクラスについては、層せん断力係数の1.5倍、Cクラスについては、層せん断力係数の1.0倍からそれぞれ求められる地震力が静的地震力とされた。

本件安全審査においては、右静的地震力の算定方法は、最新の知見に基づいたものであり、支障はないと判断した。

(2) 動的解析に基づく地震力

(イ) 本件許可申請においては、動的解析に基づく地震力について、次のとおりとされている。

(a) 動的解析は、各施設を集中質点系等の解析モデルに置換して、剛性及び減衰量を適切に評価し、地盤との相互作用を考慮した上、スペクトルモーダル解析法、時刻歴モーダル解析法又は時刻歴直接積分法によって行う。

(b) A及びASクラスの施設の地震応答解析は、基本的には施設が弾性的挙動をするものとして行われるが、建物、構築物については、基準地震動S2に対して弾性範囲をある程度以上超える場合にあっては、その超える程度を安全上支障のない範囲に制限した上、適切な減衰量、剛性を考慮するか、又は実験等に基づく復元力特性を考慮して行う。

(c) 動的解析に際しては、基準地震動を敷地のEL+五メートルの位置に想定し、設置される建物、構築物等の地震波動に与える影響を適切に考慮して入力地震動を定める。

(ロ) 本件安全審査においては、動的解析に基づく地震力の算定についての基本方針は妥当であると判断した。すなわち、

(a) 本件許可申請における動的解析の手法は、既に工学的に一般的になっていて実績もある上、弾性範囲をある程度以上超える場合には、建物、構築物の構造特性等を考慮して、十分その安全性を確認する方針となっており、支障はないと判断した。

(b) 本件許可申請における地震応答解析における地震動の取り扱いについては、重要な建物、構築物の設置レベル付近では、微小な粘土化帯の存在がみられるが、全体として堅硬な岩盤が分布し、その横波速度が約1.9キロメートル毎秒程度となっていること、これより下方はその横波速度もほぼ一様に漸増する傾向がみられることなどから、このような敷地の地盤条件で基準地震動を定めることは適切であると判断した。

(三) 荷重の組合せと許容限界

(1) 本件安全審査においては、原子炉施設の耐震設計においては、常時作用する荷重、運転時に施設に作用する荷重等と地震による荷重とを加算して考慮しなければならないとした上で、地震力と他の荷重との組合せ法の妥当性と、その組合せ荷重状態で施設に許容される応力限界等について検討し、A、B及びCクラスの施設については、弾性とみなされる範囲の状態を維持できるか否か、また、ASクラスについては、基準地震動S2による地震力に対して弾性とみなされる範囲を超えることがあっても、その施設の機能に影響を及ぼすおそれがない程度であるか否かを審査した。

(2) 本件許可申請においては、荷重の組合せと許容限界の基本的方針について、次のとおりとされている。

(イ) Aクラスの建物、構築物については、常時作用している荷重及び運転時に施設に作用する加重と、基準地震動S1による地震力又は静的地震力と組み合わせ、その結果発生する応力に対して、安全上適切と認められる規格及び基準による許容応力度を許容限界とする。

そして、ASクラスの建物、構築物については、右に加え、更に常時作用している荷重及び運転時に作用する荷重と基準地震動S2による地震力とを組み合わせ、その結果発生する応力に対して建物、構築物の終局耐力に妥当な安全余裕を持たせる。

(ロ) B、Cクラスの建物、構築物については、常時作用している荷重及び運転時に作用する荷重と静的地震力とを組み合わせ、その結果発生する応力に対し、安全上適切と認められる規格及び基準による許容応力度を許容限界とする。

(ハ) Aクラスの機器、配管については、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時及び事故時に生じるそれぞれの荷重と基準地震動S1による地震力又は静的地震力とを組み合わせ、その結果発生する応力に対して降伏応力又はこれと同等な安全性を有する応力を許容限界とする。

ASクラスの機器、配管については、右に加えて、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時及び事故時に生じるそれぞれの荷重と基準地震動S2による地震力を組み合わせ、その結果発生する応力に対して構造物が局部的に降伏して塑性変形する場合でも、過大な変形、亀裂、破損等が生じることによってその施設の機能に影響を及ぼすことがないこととする。

(ニ) B、Cクラスの機器、配管についても、Aクラスの場合と同様の荷重の組合せ及びその許容限界を用いる。

(ホ) 地震時に機能の維持を要求される施設に含まれる動的機器の地震時における動作機能については、実験等により確認する。

(ヘ) 地震力と組み合わせる運転時の異常な過渡変化時及び事故時に生じる荷重は、地震によって引き起こされる事象によって作用する荷重とするが、地震によって引き起こされるおそれがなくても、長期間作用する事故時の荷重については、基準地震動S1による地震力又は静的地震力との組合せを考慮する。

(3) 本件安全審査においては、右荷重の組合せと許容限界についての基本的方針を妥当であると判断した。すなわち、

(イ) 荷重の組合せに対する方針は、合理的で、妥当なものである。

(ロ) 許容限界については、建物、構築物の場合は、基準地震動S1による地震力、又は静的地震力に対しては安全上適切と認められる規格及び基準による許容応力度とされ、機器、配管の場合についても、材料の降伏応力程度とされていることから、弾性範囲にあると認められる。また、基準地震動S2による地震力に対して、建物、構築物については、終局耐力に余裕を考慮して許容限界を定め、十分な変形能力を有していることを、機器、配管については、過夫な変形、亀裂、破損を起こさないことをそれぞれ確認することにより、施設の機能を喪失しないことが基本方針とされているので支障はない。

(ハ) 重要な動的機器の動作機能については、実験等によってその機能を確認する方針とされているので適切である。

8 本件安全審査の結論

本件安全審査においては、調査審議の結果、本件原子炉施設の立地条件及び地震に係る安全性について、本件原子炉施設が具体的審査基準に適合し、その基本設計ないし基本的設計方針において、本件原子炉施設の周辺において発生するおそれのある地震を含め、本件原子炉施設の立地条件を考慮しても、本件原子炉施設の安全性を確保することができ、原子炉等による災害の防止上支障がないものとした。

二  当裁判所の判断

1  立地、気象、水理、社会環境に関する本件安全審査の調査審議及び判断の過程に重大かつ明白な瑕疵といえるような看過し難い過誤、欠落があるとは認められない。

2  地盤に係る安全性については、①敷地付近及び敷地周辺において、将来、土地の大きな陥没や火山活動など、大きな地変が発生し、本件敷地に影響を及ぼすおそれのないこと、②本件敷地において地すべりや山津波などが発生し、本件原子炉施設に損傷を与えるおそれのないこと、③敷地周辺で想定される地震等によって、本件敷地の地盤が崩壊するおそれのないことがそれぞれ必要であるところ、本件安全審査においては、本件敷地の地盤は、地震時にも崩壊などによって施設に影響を与えるおそれはなく、安定した地盤であること、本件原子炉施設を支持する地盤は、施設の自重や想定される地震時の荷重によって不等沈下や地盤破壊等が起こることはなく、本件原子炉施設の安全性を十分確保できることが確認されており、本件許可申請について右①ないし③が満たされることが確認されたということができるから、本件安全審査の調査審議及び判断の過程に重大かつ明白な瑕疵と言えるような看過し難い過誤、欠落があるとは認められない。

3  耐震設計については、原子炉施設の耐震設計が適切に行われたといいうるためには、①施設の耐震設計上の重要度分類が適切に行われていること、②設計用最強地震及び設計用限界地震想定の前提となる考慮すべき地震の選定が適切に行われていること、③設計用最強地震によってもたらされる基準地震動S1及び設計用限界地震によってもたらされる基準地震動S2について、地震動の諸特性が適切に決定されていること、④耐震設計が十分な耐震安全性を確保し得る適切な手法で行われることがそれぞれ必要であるところ、本件安全審査においては、本件許可申請について右①ないし④が満たされることが確認されたということができるから、本件安全審査の調査審議及び判断の過程に重大かつ明白な瑕疵といえるような看過し難い過誤、欠落があるとは認められない。

三  原告らの主張について

1 地震について

(一) 過去の被害地震(歴史地震)について

原告らは、被告が、敷地周辺に被害を及ぼした過去の地震を本件敷地からの震央距離が一五〇キロメートル以内のものに限ったことは不合理である旨主張する。

この点、前記(第二、五、5、(五))のとおり、「耐震設計審査指針」は、遠距離地震を考慮することを求めているところ、本件安全審査においては、基準地震動の策定に当たり、本件敷地からの震央距離が一五〇キロメートル以遠の歴史地震を考慮していないことは当事者間に争いがない。しかし、乙ニ三の一(証人木村調書一)二九丁裏、四三丁表によれば、これは、これら遠方の地震が本件敷地に与える影響が、考慮した地震のそれを下回るからであることが認められ、これに反する証拠はない。

したがって、本件安全審査において、震央距離が一五〇キロメートル以遠の歴史地震を考慮しなかったことは、不合理ではなく、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(二) 活断層の存在、連続性、同時活動性、活断層から起こる地震について

原告らは、活断層の存在、連続性、同時活動性、活断層から起こる地震等についての本件安全審査には誤りがある旨主張する。

(1) リニアメントについて

原告らは、本件敷地周辺には、白木―丹生間にほぼ南北方向に延びる延長約四キロメートルのリニアメント(以下「白木―丹生リニアメント」という。)が存在するほか、立石―浦底間にもリニアメントが、また本件敷地の近傍にやや不明瞭な三本のリニアメントがそれぞれ存在するなど、本件敷地は多数の断層に取り囲まれているとし、これらは活断層であるから、本件安全審査においてこれらを評価の対象としなかったことは不合理である旨主張する。

この点、乙ハ一及び乙ニ三の一(証人木村調書一)三〇丁裏ないし三二丁裏によれば、リニアメントは、断層の活動によって形成される場合もあれば、浸食等によって形成される場合もあることから、リニアメントに対応する活断層が存在するか否かは、断層変位を特徴づける他の地形的特徴の有無や地表踏査の結果に基づき判断する必要があることが認められるので、以下、原告らの指摘する各リニアメントについて検討する。

(イ) 白木―丹生リニアメントについて

乙ハ一によれば、白木―丹生リニアメントは、「[新編]日本の活断層」において、確実度Ⅲ、すなわち活断層の可能性があるが、変位の向きが不明であったり、他の原因によってリニアメントが形成された疑いが残るもので、活断層である確率が五〇パーセント以下のものと位置づけられていることが認められる。

そして、乙一六・六―三―三〇頁によれば、本件許可申請に際して、申請者は、白木―丹生間リニアメント付近の地質等について調査を行い、①右リニアメント沿いに、断層の存在を特徴づけるような変位地形は認められないこと、②右粘土化した部分を覆う地層(第四紀層の堆積層)に、活断層運動による変位は認められないことを確認したことが認められる。

また、乙ニ三の一(証人木村調書一)三六丁裏ないし三八丁裏によれば、本件安全審査においては、右申請者の調査の妥当性を確認した上、右リニアメントに対応する位置に、粘土化した花崗岩が所々認められたが、リニアメントが断層運動によって形成された場合には、その力学的作用によって元々の岩石組織は破砕されるのが一般的であるところ、粘土化した花崗岩の中の岩石組織は破砕されずそのまま残されていることが確認されており、リニアメントが断層運動によって形成された場合の一般的特徴がみられないこと、その他断層の活動の存在を示唆するような地形的特徴が認められないことなどから、白木―丹生リニアメント上に所々みられる粘土化帯は、断層活動以外の原因で生じた節理面(岩石の割れ目)を有する花崗岩が、熱水変質作用(地下深部の温度の高い水溶液等により、岩石を構成している鉱物が化学的に変質して新しい鉱物が生じる作用。)を受けて生じたものと考えられるとした。そして、他に右リニアメントに対応する断層が存在することを根拠づけるものはないとした上で、右リニアメントは、右の理由で粘土化した軟弱な部分が選択的に浸食されることによって低地帯が形成され、その端部が線状模様になった地形であると考えるのが合理的であり、活断層の活動によって形成された地形ではないと判断したことが認められ、その合理性に疑いを入れるような証拠はない。

したがって、同リニアメントに対応する断層が存在するとは認め難いというべきであり、他にこれを認めるに足りる証拠もない。

(ロ) 立石―浦底間のリニアメントについて

立石―浦底間のリニアメントは、平成三年に発刊された「[新編]日本の活断層」(甲ハ二三)において確実度Ⅲから確実度Ⅰに変更されたから、現時点では右リニアメントは活動層と判断するのが相当である。しかし、右リニアメントは、長さが約四キロメートルと短いから、これが活断層であるとしても本件原子炉施設の地盤の健全性に影響を及ぼすものではなく、本件安全審査の合理性を左右するものではないことが明らかである。

(ハ) 他のリニアメントについて

乙一六・六―三―三〇頁及び乙ニ三の一(証人木村調書一)三八丁表によれば、本件安全審査においては、白木―丹生リニアメント以外の三本のリニアメントについては、現地踏査の結果、右各リニアメントの延長線上に、局所的に、幅数センチメートルないし数十センチメートル程度、比較的連続性があるもので幅二メートル以下の粘土化帯が認められたが、粘土化帯をリニアメントが走行する方向に追跡したところ、破砕帯は認められず、未変質部分が現れ、堅岩露頭が分布することが観察されたこと、他に断層の存在を特徴づけるような変位地形は認められないことから、これらのリニアメントは断層の活動によって形成された地形ではないことを確認したことが認められ、その合理性に疑いを入れるような証拠はない。

したがって、これらのリニアメントに対応する断層が存在するものと扱わなかった本件安全審査に不合理な点はないというべきであるから、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(2) 敦賀半島西岸断層について

原告らは、城ケ崎沖合から敦賀半島の白木―丹生間の谷を通り、S―16断層の北部まで、延長約一九キロメートルの横ずれ段層(敦賀半島西岸断層)があり、これによってマグニチュード6.9の直下型地震が生じる旨主張する。

そして、原告らは、その根拠として、①リニアメントの存在、②三角末端面の存在、③三角形状の地塊の移動、④海底断層の存在等の地形的特徴を挙げるので、以下、これらの点について検討する。

(イ) リニアメントの存在について

原告らは、白木―丹生リニアメントに平行するリニアメントが存在することを根拠として主張し、甲ニ三の三(証人生越調書三)三七丁裏、三八丁表にはこれに沿う証言がある。

しかし、右証言は、リニアメントらしきものが白木―丹生リニアメントの西側にもう一本あるが、直線的にずっと続いているとは必ずしも確認できなかったというものにとどまるし、「[新版]日本の活断層」(乙ハ一)においても、白木―丹生リニアメントの西側にこれに平行するようなリニアメントが図示されていないことからすると、右リニアメントの存在自体、なお疑問が残るというべきである。

(ロ) 三角末端面について

原告らは、白木峠南方一キロメートルに存在する尾根筋には、西側側面が途中で断ち切られたような三角形状の地形があり、これが活断層運動によって形成された三角末端面であることを根拠として主張する。

しかし、乙ニ三の一(証人木村調書一)四四丁表ないし四七丁表には、①仮に右三角形状の地形が活断層運動によって形成された三角末端面であるとすれば、その西側斜面のすそを通ってリニアメントが走行しているのが普通であるが、右西側斜面にはリニアメントは認められない(なお、前記((1)、(イ))のとおり、白木―丹生間のリニアメントは断層運動により形成されたものではない。)、②原告ら主張のリニアメントの走向方向と、右三角形状の地形の等高線の走向方向とは一致しなければならないところ、両者の走行方向は斜交していて一致しない、③活断層運動によって三角末端面が形成される場合には、複数の三角末端面のすそが線状につながることが普通であるが、原告ら主張の断層の走行方向には右三角形状の地形の外に三角形状の地形は認められていない、④他に活断層運動による変位地形も認められないとの証言があり、これに反する証拠はない。そうすると、右三角形状の地形が、活断層運動によって形成された断層変位地形としての三角末端面に当たると認めることはできないというべきである。

(ハ) 地塊の移動について

原告らは、敦賀半島西岸断層、S―21ないしS―26断層及びS―12ないしS―17断層によって区切られる三角形の地塊(特牛崎地塊)を敦賀半島西岸断層に沿って南方に移動させた場合、山の尾根筋や海岸線が東西にわたってなめらかに連続することから、右地塊が北方に移動したことによって横ずれ断層である敦賀半島西岸断層が形成された旨主張する。

しかし、乙ニ三の一(証人木村調書一)四四丁表、同裏によれば、仮に右地塊が北方へ移動したものであるならば、右地塊の北縁には東西方向の断層がなければならないと認められるところ、乙一六・六―三―一〇一頁によれば、右地塊の北縁にあるS―12ないしS―14断層の走行方向はいずれもほぼ南北方向であり、その北にあるS―1ないしS―16の断層群の走行方向も同じく南北方向であることが認められるのであって、右地塊の移動から敦賀半島西岸断層の存在を根拠づけることはできないというべきである。

(ニ) 海底断層の存在について

原告らは、海上保安庁水路部の海底音波探査の結果、S―17断層と本件原子炉施設との間の海域(白木北方沖合)及び白木―丹生間のリニアメントの南側部分(美浜原子力発電所の南方付近)の海域にいくつもの枝分かれした断層が認められるとし、敦賀半島西岸断層が右の地点を走行する旨主張する。

しかし、乙一六・六―三―一〇一頁、一〇三頁によれば、海上保安庁水路部の資料においては、白木北方沖合については、S―17断層の部分に海底断層の存在が推定されるにとどまり、右断層と陸域との間には断層の存在は推定されていないこと、また、美浜原子力発電所の南方付近の海底にも断層の存在は示されていないことが認められる。また、S―17断層と陸域との間に活断層の存在を示す地形的な特徴も認められない。したがって、海底断層の存在から敦賀半島西岸断層の存在を根拠づけることはできないというべきである。

(ホ) なお、原告らは、甲ハ四九の海上保安庁水路部の海底音波探査記録によれば、敦賀半島西岸半島の存在を示す地層の乱れがあることがうかがわれる旨主張するが、右証拠は不鮮明なものである上、地層の乱れがすなわち断層であるということにもならないから、右証拠から同断層の存在を認めることはできない。

(ヘ) 以上からすると、敦賀半島西岸断層の存在を認めるに足りる証拠はないから、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(3) 海底断層S―1、甲楽城断層、山中断層及び柳ケ瀬断層の連続性、同時活動性について

(イ) 原告らは、海底断層S―1、甲楽城断層、山中断層及び柳ケ瀬断層は雁行しているから、一つの断層系として評価すべきであり、これらが一体となって活動すれば、被告が考慮すべき限界地震を上回る地震動が生じる旨主張する。

(ロ) しかし、前記(一、2、(一)、(2)、(ロ)、(b))に加え、甲ハ二三及び乙一六・六―三―九ないし一五頁によれば、本件安全審査においては、次のとおり、文献調査、空中写真判読、地形、地表、地質調査、海上保安庁の調査活動等に照らし、右各活断層の間に連続性は認められず、また、右各活断層が一つの断層系としてその全域が同時に活動するとは認められないことを確認したことが認められ、その合理性に疑いを入れるような証拠はない。

すなわち、①甲楽城断層の海域部については、海上保安庁水路部資料により、沖合数百メートルの海底に大谷沢沢口から干飯崎沖までに推定断層が図示されているが、音波探査結果によれば、干飯崎沖に断層が推定されるものの、この推定断層は干飯崎沖より北西方向へは延長していないと判断できるので、甲楽城断層とS―1断層との間に連続性は認められない(乙一六・六―三―一四頁、一五頁)。

②甲楽城断層の陸域については、大谷沢の沢口に認められた破砕帯を覆う扇状地の堆積物が断層によって変位を受けていないこと、大谷沢付近に変位地形がみられないことから、五万年前以降の活動はないと判断できる(乙一六・六―三―一五頁)。

③柳ケ瀬断層については、椿坂峠から南の部分では活動性は高いと考えられるが、椿坂峠から北の部分では、活動性は低いと考えられ、柳ケ瀬断層の活動性は、椿坂峠付近を境にして、北側と南側とで異なる(乙一六・六―三―一二頁)。

④山中断層は、柳ケ瀬断層北端部と甲楽城断層南端部の間に位置し、北西―南東方向に走向する長さ五キロメートルの断層である(甲ハ二三)。

⑤甲楽城断層と柳ケ瀬断層との関連については、空中写真判読からは両断層を結ぶリニアメントが認められないこと、地表地質調査の結果、柳ケ瀬断層北端部から甲楽城断層南端部へ連続する破砕帯が認められないこと、柳ケ瀬断層の両側の古生層は構成岩種や地質構造が明瞭に異なるが、甲楽城断層南端部では両側の地質に明瞭な差がないから、両断層の形成過程は異なると考えられること、柳ケ瀬断層は五〇ないし六〇度の西側傾斜、甲楽城断層は六〇度の東側傾斜ないしは九〇度の垂直方向であり、断層面の傾斜方向と傾斜角度が異なること、両断層の破砕帯にみられる条線が各々異なった産状を示していることなどから、両断層間に連続性は認められない(乙一六・六―三―一二頁、一三頁)。

(ハ) そうすると、甲楽城断層と柳ケ瀬断層との連続性は認められず、また、甲楽城断層と柳ケ瀬断層とが山中断層を介して連続する、あるいはこれらの断層が一つの断層系として同時に活動すると考える根拠もないというべきである。

(ニ) これに対して、甲ニ三の二(証人生越調書二)六三丁裏及び甲ニ三の四(証人生越調書四)四九丁表には、右各活断層が連続していなくても、これらが雁行していることのみから、一本の断層系として考慮すべきである旨の証言があるが、右考え方には、合理的根拠が述べられていないし、右考え方が学界において支持されているとも認められないから、採用できない。

また、原告らは、蝶番断層の場合は、一本の断層であっても傾斜が部分的に異なることがあるとして、柳ケ瀬断層と甲楽城断層の断層面の傾斜が異なることは、両者が一本の断層であることを否定する理由にはならない旨主張する。

しかし、乙ハ一四によれば、蝶番断層とは、断層の一方の地塊が断層面に垂直な方向を軸として、他方の地塊に対して相対的に回転運動した断層であると認められる。したがって、断層の両端で低下側が逆になることはあっても(すなわち、南北に走る断層の北半分では断層の西側が低下し、断層の南半分では断層の東側が低下するなど。)、断層の両端で断層面の傾きが逆になることはない(すなわち、南北に走る断層の北半分と南半分で、傾斜面が逆になることはない。)というべきである。しかし、前記(ロ)のとおり、甲楽城断層と柳ケ瀬断層とは傾斜が逆であるから、蝶番断層としての特徴を有していない。また、他に甲楽城断層と柳ケ瀬断層が蝶番断層であるとする学術的見解があるという証拠もない。

なお、原告らは、「[新編]日本の活断層」(甲ハ二三)では、甲楽城活断層は「西側対低下」とされているのに、本件許可申請書においては、甲楽城断層の傾斜について、「六〇度E」と記載されていることから(乙一六・六―三―一三頁)、甲楽城断層と柳ケ瀬断層の傾斜が異なるとした本件安全審査は、甲楽城断層の傾斜を誤って評価したものである旨主張するが、本件許可申請書の「六〇度E」の記載は、傾斜が東側方向の水平面から下方に六〇度傾いていることを意味するものと解されるから、逆断層である甲楽城断層においては、右記載は隆起側は東側で西落ち(西側低下)を示すことになるのであって、右記載は「[新編]日本の活断層」の記載と矛盾するものではない。

(ホ) したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(4) 野坂断層とS―21ないしS―27断層の連続性について

原告らは、野坂断層とS―21ないしS―27断層とは連続しており、右断層からはマグニチュード7.3の地震が発生する旨主張する。

しかし、乙一六・六―三―二六頁、二七頁、一〇一頁によれば、海上保安庁の音波探査において、S―21ないしS―27断層と野坂断層との間の海域に断層は推定されていないことが認められ、他に原告らの主張を認めるに足りる証拠はないから、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(5) S―15ないしS―17断層と白木―丹生リニアメントの同時活動性について

原告らは、S―15ないしS―17断層と白木―丹生リニアメントは連続している旨主張する。

しかし、甲ハ七〇及び乙一六・六―三―三〇頁、三一頁によれば、S―15ないしS―17断層について、海上保安庁水路部は、その海底地質構造図において、S―15、S―17断層を伏在断層としてその存在を推定しているにとどまっている上、活断層であるとはしていないことが認められる。また、前記((1)、(イ))のとおり、白木―丹生リニアメントは活断層運動によって生じたものとは認められない。したがって、S―15ないしS―17断層と白木―丹生リニアメントを一体として評価すべき理由はないから、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(6) 連続しない複数の断層の同時活動性について

原告らは、型が異なり連続性が認められない断層であっても、近傍に存在する場合には同時に活動する可能性があることを前提とした上で、①山中断層と甲楽城断層と柳ケ瀬断層、②白木―丹生リニアメントとS―15ないしS―17断層、③野坂断層とS―21ないしS―27断層、④木ノ芽峠断層(敦賀断層)と花折断層が同時に活動する可能性がある旨主張し、さらに、地震地体構造を考えると、①花折断層で地震が発生するとしても、木ノ芽峠断層も動くとみるべきであるから、震央距離は六〇キロメートルから五〇キロメートルとなる、②山中断層と甲楽城断層と柳ケ瀬断層は、一体となった断層系として考える必要があり、甲楽城断層の位置にマグニチュード7.8の地震が発生する旨主張する。

この点、平成七年の兵庫県南部地震において、近傍にある複数の断層が同時に活動したことは当事者間に争いがない。しかし、甲ハ六〇によれば、兵庫県南部地震は、六甲―淡路断層帯という、既知の活断層の密集体の一部が変位したことにより発生したものと解されているところ、右断層帯は従前から安全委員会において一連の断層として評価されていたものであったことが認められ、何ら関連性のない断層が、近傍にあるということだけを理由に同時に活動したものではない。したがって、兵庫県南部地震の発生をもって、断層が近傍に存在する場合には同時に活動する可能性があるということはできず、他に原告らの主張を認めるに足りる証拠はない。なお、後記(8)のとおり、金折裕司が提唱する「マイクロプレートモデル」は、そもそも、構造線を構成する複数の活断層が同時に活動し、格別に大きい地震を起こすことを内容とするものではない。

したがって、原告らの主張はその前提を欠くものである。なお、山中断層と甲楽城断層と柳ケ瀬断層が連続しないことは前記(3)の、②白木―丹生リニアメントとS―15ないし17断層の同時活動性がないことは前記(5)の、③野坂断層とS―21ないしS―27断層が連続しないことは前記(4)のとおりである。

(7) 木ノ芽峠断層(敦賀断層)と柳ケ瀬断層の同時活動性について

なお、甲ハ六六には、木ノ芽峠断層と柳ケ瀬断層が、約七〇〇年前に同時に活動した可能性があり、これを古文書のデータなどと照らし合わせると、一三二五年にこれらの断層が同時に活動して地震を引き起こした可能性が高く、将来、木ノ芽峠断層と柳ケ瀬断層が同時に動いた場合、マグニチュード7.2の地震が発生する可能性があるとの記載がある。しかし、本件安全審査においては、木ノ芽峠断層と柳ケ瀬断層が同時に活動することは想定していないが、前記(一、2、(一)、(1)、(ロ))のとおり、右一三二五年の地震(正中近江の地震)は、設計用最強地震の選定に当たって考慮しており、前記(一、2、(一)、(2)、(ニ)及び同(5)、(ロ))のとおり、木ノ芽峠断層及び柳ケ瀬断層から起こる地震については、それぞれマグニチュード7.2を想定して設計用限界地震として考慮しているから、右文献は本件安全審査の合理性を左右するものではない。

(8) マイクロプレートモデルについて

原告らは、金折裕司が提唱する「マイクロプレートモデル」に基づき、マイクロプレート境界である敦賀湾―伊勢湾構造線上にある甲楽城断層、柳ケ瀬断層系では大規模な地震が発生し、その場合、右境界から一一キロメートルの距離に位置する本件原子炉施設に危険が及ぶ旨主張する。

しかし、甲ハ三七によれば、マイクロプレートモデルは、マグニチュード6.4以上の被害地震が、活断層を結ぶ線で定義される構造線やブロック境界線に沿って発生していることから、中部日本のブロック構造モデルとして提唱され、その後日本列島全域に拡張された理論であること、その内容は、右ブロック境界の活動には静穏期と活動期とがあり、活動期に入ると地震が構造線やブロック境界線上で間欠的に発生し、境界全体が活動した断層で全て覆われると活動期が終息するというものであることが認められる。したがって、右理論は、構造線を構成する複数の活断層が同時に活動し、格別大きい地震が発生することを述べたものではなく、右理論により、甲楽城断層、柳ケ瀬断層系が一つの断層として活動するということはできない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(9) 近畿三角地帯について

原告らは、花折・金剛構造線、敦賀湾・伊勢湾構造線及び中央構造線によって囲まれる近畿三角地帯の底辺に当たる中央構造線の活動性が高まっており、そのうちの一〇〇キロメートルが動いた場合には、マグニチュード8.2の巨大地震が発生し、その場合、本件原子炉施設の敷地に大きな影響を与える旨主張する。

この点、右一〇〇キロメートルがどの範囲を指すのかについて、原告らの主張は不明確であるが、仮に本件原子炉施設の敷地に最も近いところ(奈良県五条から三重県伊勢までの約一〇〇キロメートル)を検討すると、甲ハ二三及び甲ニ三の四(証人生越調書四)三九丁裏、四〇丁表によれば、五条以西(近畿三角地帯の底辺の左側になる。)と以東とでは活動度に大きな相違があり、五条以東では約五〇万年前以降は活動が停止していることが、乙ハ五によれば、高見峠付近にはリニアメントがあるが、右リニアメントは、明瞭な活断層地形を示さないリニアメントであり選択的浸食により生じた可能性もあるため、「[新編]日本の活断層」では確実度Ⅲとされていることがそれぞれ認められ、近畿三角地帯の底辺に当たる中央構造線が一〇〇キロメートルにわたって活動する現実的可能性があると認めるに足りる証拠はないというべきである。

また、甲ニ三の四(証人生越調書四)四一丁表及び乙ハ六によれば、本件原子炉施設から中央構造線までは、最も近いところで約一五〇キロメートルの距離があることが認められ、また、甲ニ三の四(証人生越調書四)四一丁表、同裏及び乙ニ三の一(証人木村調書)添付⑩によれば、この距離で仮にマグニチュード8.2の地震が発生したとしても、震度Ⅴのゾーンに入ることが認められるから、本件原子炉施設の敷地に対するその影響は、考慮すべき限界地震として選定した甲楽城断層(震度Ⅵのゾーン)よりも小さいことが明らかであり、中央構造線の活動は、本件安全審査の合理性を左右するものではない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(10) 甲楽城断層による地震の想定について

原告らは、甲楽城断層による地震はマグニチュード7.3、本件敷地との最短距離約12.5キロメートル(震央距離一五キロメートル)として評価すべきであるのに、本件安全審査においてマグニチュード7.0、震央距離11.5キロメートルと評価したのは誤りである旨主張する。

この点、甲ハ六七・一九九頁には、甲楽城断層の位置に対応するとみられる「空白域D」に発生する地震としてマグニチュード7.3と記載されている。しかし、右は、長期間地震が発生していないブロック境界の断層について認められる空白域では、歪エネルギーが蓄積されているという空白域の考え方に基づくものであるところ、前記(第二、三、5、(一)、(2))のとおり、右考え方は、「歴史地震の発生が知られていないブロック境界については、地震の空白域や次の地震で破壊する領域を予測することが困難である。」として、「仮にそれを構成する大規模な活断層を次の地震での破壊域とみなし、地震危険度評価を試みる。」と断った上で、空白域を破壊域とあえて仮定し、想定される地震のマグニチュード等を試算しているにすぎないのであって、空白域において地震が発生する蓋然性があることや、その近辺の複数の活断層が同時活動する具体的可能性があることは述べられていない。したがって、甲ハ六七の記載から、本件安全審査における甲楽城断層の評価が不合理であるということはできない。

そして、前記(一、2、(一)、(2)、(ロ)、(b)、(ろ))のとおり、本件安全審査においては、甲楽城断層は大谷沢から干飯崎沖までの長さ二〇キロメートルの断層として考慮することが適切であるとしているが、乙一六・六―三―四頁、一五頁、六―五―三一頁によれば、右判断に当たっては、①地形調査の結果から、現海岸はリニアメント付近にあった断層崖が海岸浸食によって後退し、現在に至ったものと推定され、これによれば、右断層は海底に認められるリニアメント状地形の位置に推定するのが適切と考えられること、②海上保安庁の資料及び申請者の行った音波探査の結果によれば、海底のリニアメント状地形に沿って大谷付近から干飯崎沖までの約18.5キロメートルにわたり伏在断層が推定されること、③陸域については、大谷と敦賀市杉津の中間の沢に長さ約1.5キロメートルのリニアメントが認められるにすぎず、現地の露頭調査では、右陸域のリニアメントの位置に対応する大谷付近の大谷沢口に幅五〇ないし一二〇メートルの比較的規模の大きな破砕帯が認められることを確認していることが認められ、その合理性に疑いを入れるような証拠はない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

2 地盤について

(一) 岩級(岩盤)分類について

原告らは、岩級分類においては、CH級は「やや不良」、CL級以下は「不適」とされているのに、本件安全審査において、本件原子炉施設の基礎岩盤について、大部分がCH級からB級にあることから、「全体として堅硬、均質な花崗岩で構成されている」としていることは不当である旨主張する。また、一部にはCL級以下の岩盤も存在するから、本件原子炉施設の基礎岩盤が良好であるとはいえない旨主張する。

この点、甲ハ三によれば、田中式の岩級分類において、CH級は「やや不良」、CM級以下は「不適」とされていることが認められる。しかし、甲ハ三及び乙ニ三の二(証人木村調書二)八丁表によれば、右岩級分類はダムの基礎岩盤を対象としたものであり、「やや不良」、「不適」という評価内容も、ダム建設についてのものであること、本件原子炉施設の岩盤にかかる重量は、ダムより遙かに小さいことが認められるから、右評価内容はそのまま本件原子炉施設に当てはまるものではない(なお、本件安全審査においては、電研式の岩級分類が用いられている。)。

そして、乙一六・六―三―三五頁、三六頁、一三一ないし一三七頁によれば、本件安全審査においては、本件原子炉施設の基礎岩盤中には、CL級以下の岩盤が一部存在するものの、それはごくわずかなものがCH級以上の岩盤に包み込まれたような形で存在するにすぎず、大部分はCH級ないしB級の花崗岩からなる岩盤で構成されていることを確認した上で基礎岩盤が良好であるとしたことが認められるのであって、CL級以下の岩盤が存在することは、直ちに右判断の合理性を左右するものではないというべきである。

また、そもそも、乙一六・六―三―三九頁によれば、本件安全審査においては、岩級ごとに行った岩盤試験の結果に基づき、十分な支持力、せん断抵抗力等が認められたことを確認した上で本件原子炉施設の基礎岩盤が安全であると判断したことが認められ、岩級分類のみから右結論を導いているのではないから、岩盤の一部に「不適」とされるものがあったとしても、直ちに本件安全審査の合理性を左右するものではない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(二) 岩盤良好度評価(RQD評価)について

原告らは、ボーリング調査を基にした岩盤良好度評価(RQD評価)によれば、本件原子炉施設を設置する計画標高付近では、「非常に悪い」、「悪い」が圧倒的に多く、総合評価をすると、右の付近の花崗岩類の岩質は劣悪である旨主張する。

しかし、乙ニ三の二(証人木村調書二)七丁表、同裏によれば、RQD評価は、ボーリングコアを採取した際に、長さ一〇センチメートル以上のコアがどの程度採取されたかによって岩盤の良好度を評価しようとするものであり、岩盤試験等の手法が確立される以前に重視されていた評価方法であるが、これによって、岩盤の強度を直接に判断し得るものではないことが認められる。

また、そもそも、前記(一)のとおり、本件安全審査においては、岩級ごとに行った岩盤試験の結果に基づき、十分な支持力、せん断抵抗力等が認められたことを確認した上で判断しているのであって、RQD評価を直接の根拠として結論を導いたものではないから、RQD評価は、直ちに本件安全審査の合理性を左右するものではない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(三) サンドイッチ地盤について

原告らは、本件原子炉施設設置場所の地盤は、堅硬な岩盤の間にやや軟岩である岩盤が挟まれた、いわゆるサンドイッチ地盤であり、地震に極めて弱い地盤である旨主張する。

この点、甲ハ二二及び甲ニ三の二(証人生越調書二)九四丁裏によれば、サンドイッチ地盤とは、昭和五三年六月の宮城県沖地震後に、新聞記者が、ビルが設置されていた表層地盤について硬い地層と軟らかい地層が上下方向に交互に重なり合っている状態を便宜そのように呼んだものであり、学術用語として承認されたものではないことが認められる。

そして、本件原子炉施設は、表層地盤を除去して露出させた岩盤の上に設置されていることは当事者間に争いがないところ、表層地盤の内部に軟らかい地層が含まれることと、岩盤の内部に岩級の差異が存することとは異なるから、本件原子炉施設の基礎岩盤をサンドイッチ地盤と呼ぶことはできない。

また、前記(一)のとおり、本件安全審査においては、本件原子炉施設の基礎岩盤中には、CL級以下の岩盤が一部存在するものの、そのことが基礎岩盤の安全性に影響を及ぼすものでないことを確認している。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(四) 沖積地について

原告らは、本件原子炉施設の地盤は基盤をカットして造成した土地と沖積地との双方をまたいでいる旨主張する。

しかし、本件原子炉施設の地盤が沖積地をまたいでいることを認めるに足りる証拠はない。また、前記(一)のとおり、本件安全審査においては、本件原子炉施設の基礎岩盤中には、CL級以下の岩盤が一部存在するものの、そのことが基礎岩盤の安全性に影響を及ぼすものでないことを確認している。

したがって、沖積地をまたいでいることにより本件原子炉施設の地盤の安定性が確保されないとはいえず、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(五) 粘土化帯等について

原告らは、本件原子炉施設設置場所で採取されたボーリングコア中に粘土化帯、条線(条痕)、鏡肌等が認められるから、本件原子炉施設直下の岩盤は、断層活動によって粉砕されている旨主張する。

この点、乙一六・六―三―三六頁、一六八頁によれば、右岩盤には粘度を含む部分(粘土化帯)の存在が認められるが、この点について、乙ニ三の二(証人木村調書二)一二丁裏には、右粘度化帯は、相互に特定方向へ連続する関係は認められないことなどから、断層活動以外の原因すなわち節理面を有する花崗岩が熱水変質作用を受けて生じたものと考えられるとの証言がある。また、本件許可申請書のボーリング柱状図(乙一六・六―三―一六八頁)には、破砕帯がある旨の記載があるが、この点について、乙ニ三の二(証人木村調書二)一五丁表ないし一六丁裏には、右破砕帯もまた、ピンク粘土があるとされていることなどから、圧力がかかった熱水が入ったときの破砕であり、断層運動によって生じた破砕帯ではない旨の証言がある。そして、本件許可申請書のボーリング柱状図(乙一六・六―三―一四二頁、一四五頁)には、粘土化帯部分の一部に条線や鏡肌がみられるとの記載があるが、それらはごく一部にすぎない上、乙ニ三の二(証人木村調書二)一七丁表には、条線の方向も特定方向に連続していないことや、鏡肌に断層運動による条痕が付いていないことなどから、右条線や鏡肌もまた断層運動により生じたものではない旨の証言がある。また、甲ニ三の三(証人生越調書三)二一丁表ないし二二丁表にも、本件原子炉施設設置場所で採取されたボーリングコアの条線等について、これによって原子力施設に支障があるということはできない旨の証言がある。これらの事実からすると、粘土化帯の存在によって、本件原子炉施設直下の岩盤が断層運動によって粉砕していると認めることはできないというべきであるから、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(六) 敦賀市の報告書について

原告らは、敦賀市が昭和五六年三月に作成した「原子力発電所周辺地域地質調査書」(以下「地質調査書」という。)中に、「原子炉本体だけでなく、その付属設備、例えば用排水管など延長の長いものの工事との関係は、特に注意を要する。」との記載があることから、本件原子炉施設の地盤は不安定である旨主張する。

しかし、弁論の全趣旨によれば、右報告書には、「以上の調査事項・結果とも現在の学問レベルでよく努力したものと評価できる。しかし、人類の知識は次々と進歩し増している。今回特に問題となった2つのリニアメントは原子炉本体の場所ではないので、原子炉の耐震設計の関係から問題とされる。しかし、原子炉本体だけでなく、その付属設備、例えば用配水管など延長の長いものの工事との関係は、特に注意を要すると考えられる。」と記載されていることが認められ、右は、本件原子炉施設の付属施設についても耐震設計上の配慮をすべきことに注意を喚起したものにすぎず、具体的に本件原子炉施設の地盤が不安定であるとしたものではないと解されるから、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(七) 背後山地の安全性について

原告らは、右(六)の敦賀市の地質調査書が、「山地の崩壊・土石流の発生などが問題」であるとしていることから、本件原子炉施設の背後山地は、山津波や地滑りが発生するおそれがある旨主張する。

しかし、弁論の全趣旨によれば、右地質調査書には、本件原子炉施設の立地点には有意な活断層がないことを述べた上で、「はせ田地区の地形は、特に山地部の比高が高く、傾斜の勾配も急である。したがって、むしろ活断層よりも山地の崩壊・土石流の発生などが問題」であると記載されていることが認められ、右は、単に、山地部の比高及び傾斜勾配に着目して山地の崩壊等の可能性を一般的に指摘したものにすぎず、具体的に本件原子炉施設の背後山地に山津波や地滑りが発生するおそれがあるとしたものではないと解されるから、原告らのこの点についての主張は理由がない。

3 耐震設計について

(一) 施設の重要度分類について

原告らは、一次冷却材を内蔵する施設や使用済燃料を冷却するための施設を、いずれも耐震設計上AクラスとせずBクラスとしたのは不合理であり、耐震安全性を確保できない旨主張する。

この点、乙一六・八―一―一一五ないし一一七頁によれば、一次冷却材を内包する施設としては、一次ナトリウム充填ドレン系設備、一次ナトリウム純化系設備等を、使用済燃料を冷却するための施設としては、炉外燃料貯蔵槽冷却設備のうち地震後の冷却に必須でないもの、水中燃料貯蔵設備の燃料池水冷却浄化装置をBクラスとしていることが認められる。

しかし、乙一六・八―一―九九頁及び弁論の全趣旨によれば、本件安全審査においては、これらの機器、設備のうち、一次ナトリウム充填ドレン系設備、一次ナトリウム純化系設備等は、原子炉冷却材バウンダリにバルブを介して直接接続されるもので、一次冷却材を内包するものの、放射性物質を含む量が少なく、その機能が喪失した際の環境への影響も小さいといえることから、また、炉外燃料貯蔵槽冷却設備のうち地震後の冷却に必須でないもの、水中燃料貯蔵設備の燃料池水冷却浄化装置も同様の理由からBクラスとしたことを確認したことが認められ、これが不合理であるという証拠はない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(二) 基準地震動の策定について

原告らは、本件安全審査において、金井式及び松田式を用い、またいわゆる大崎の方法に基づいて基準地震動作成のための応答スペクトルの策定を審査したことは、十分保守的なものではなく、自然の地震波がこれを上回る可能性があるから、不合理である旨主張する。

(1) 松田式について

(イ) 原告らは、松田式が誤差を内包するものであり、単なる目安でしかなく、合理的な式とはいえない旨主張し、その根拠として、①活断層による断層線が全て地表に表れるとき限らず、断層線が短く評価されがちであり、現実の地震によって地表に現れた断層線の長さを松田式に適用した場合、地震規模の想定が過小評価となること、②松田式自体に大きな誤差が含まれること、③松田式を作成した松田時彦自身によって「新松田式」が提案されていることを挙げる。

(ロ) しかし、①の点については、本件安全審査においては、前記(一、2、(一)、(2))のとおり、地表に現れている部分だけではなく、地質学的見地等から、地下の地質構造も推定した上で活断層の長さの妥当性を評価し、その長さを松田式に当てはめており、原告らの主張するように、地表に現れている部分のみを断層線と評価しているわけではないから、原告らのこの点についての主張はその前提を欠くものである。

(ハ) ②の点については、乙ハ一六によれば、松田式は、断層の長さとその断層が引き起こす可能性のある最大のマグニチュードを推定するために提案された経験式であるが、他方で、断層の長さとその断層が引き起こす可能性のある最大のマグニチュードの関係について、保守的に評価することまでは目的としていないことが認められる。したがって、当該断層が引き起こす地震が松田式により算出された最大マグニチュードを超える大きさのものとなる可能性は否定できない。

しかし、弁論の全趣旨によれば、松田式は、本件原子炉施設を始め、他の原子炉施設においても活断層による地震のマグニチュードを算出する際に有用な経験式として、「新松田式」が提案された後も用いられていることが認められる。

また、①前記(一、2、(二)、(2))のとおり、設計に用いる基準地震動の模擬地震波(最大速度振幅はS1が19.0カイン、S2が22.0カイン)は、最強地震及び限界地震から求められた基準地震動の応答スペクトル(最大速度振幅はS1が13.8カイン、S2が18.2カイン)を下回らないようにいわば拡幅して作成されていること、②乙ハ一七及び乙ハ一八によれば、耐震設計において本件原子炉施設の床応答スペクトルを作成するに当たっては、適切な減衰定数を定めて求めた床応答スペクトルに対し、スペクトルが右下がりにある周期範囲ではスペクトルを右側、スペクトルが左下がりにある周期範囲では左側にそれぞれ一〇パーセント平行移動させるなどの方法でスペクトルの拡幅を行って安全側の地震力設定となるようにしていると認められること、③前記(一、7、(三)、(2))のとおり、ASクラスの建物、構築物については、常時作用している荷重及び運転時に作用する荷重と基準地震動S2による地震力とを組み合わせ、その結果発生する応力に対して建物、構築物の終局耐力に妥当な安全余裕を持たせるように設計し、ASクラスの機器、配管については、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時及び事故時に生じるそれぞれの荷重と基準地震動S2による地震力を組み合わせ、その結果発生する応力に対して構造物が局部的に降伏して塑性変形する場合でも、過大な変形、亀裂、破損等が生じることによってその施設の機能に影響を及ぼすことがないように設計されること、すなわち、原子炉冷却材バウンダリや制御棒駆動機構等、本件原子炉施設の安全上特に重要な施設については、工学的見地から発生することを予期することが適切と考えられる地震を超える地震に対し、弾性の範囲を超えて施設に変形等が生じるに至ったとしても、放射性物質の封じ込め等の当該施設に期待される安全機能が確保できるよう、十分な余裕を持たせて設計されると認められることからすれば、本件原子炉施設の耐震設計は、基準地震動の策定から個別具体的な耐震設計までの全体において保守性を確保するものということができる。

そうすると、松田式に誤差があるとしても、右誤差は、右の基準地震動の策定や個別具体的な耐震設計における保守性の確保によって吸収することが相当程度可能というべきであるところ、松田式の適用に当たって、現実の地震との間で右保守性の確保によっては吸収することのできないような多大な誤差が生じると認めるに足りる証拠はない。

したがって、松田式に誤差が含まれることから、直ちに本件原子炉施設の耐震設計に関する本件安全審査の結果を不合理であるということはできない。

(ニ) ③の点については、「新松田式」とは、松田時彦が、平成七年六月、最近の検討結果として、二本の直線で表される活断層の長さとそれによる地震のマグニチュードとの関係式を示したものであり、原告らは、これによると甲楽城断層のマグニチュードは大きくなる旨主張する。しかし、前記のとおり、松田式は、本件原子炉施設を始め他の原子炉施設における活断層による地震のマグニチュードを算出する際に有用な式として、「新松田式」が提案された後も用いられているが、これに対して、「新松田式」は策定根拠が全く明らかにされていない。そうすると、「新松田式」が策定されたことから直ちに松田式による甲楽城断層のマグニチュードの評価が過小評価であるということはできない。

(ホ) したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(2) 金井式について

(イ) 金井式の妥当性について

原告らは、金井式の作成の基礎となった観測データはマグニチュード4.0から5.1の地震のものであるから、マグニチュード七以上の大規模な地震に適用することはできず、また、遠距離の地震の場合、金井式の計算値は、実測値の四分の一から五分の一にしかならないとして、金井式を適用した本件原子炉施設の耐震設計では耐震安全性は確保されない旨主張する。

しかし、一般に、地震動の水平方向における最大速度振幅は、実測結果に基づいた経験式によって定めることができるとされており、弁論の全趣旨によれば、金井式は、本件原子炉施設を始め原子炉施設における解放基盤表面上での基準地震動策定に際して用いられ、現在も広く活用されている有用な経験式である。

また、乙ハ一五によれば、金井式は、日本海中部地震(マグニチュード7.7)、宮城県沖地震(マグニチュード7.4)、根室半島沖地震(マグニチュード7.4)及び十勝沖地震(マグニチュード7.9)の各地震について、地震の震源及び観測点が共に日本列島の太平洋岸沖にある場合は地震加速度の良い推定を与え、震源が太平洋岸又は日本海岸の沖合いずれにあっても、観測点が日本海側の場合は距離減衰の傾度が大きく、おおよそ震源距離一〇〇キロメートル以上の遠距離になると計算値は実測値より大きくなるとされていることが認められる。

したがって、マグニチュード七以上の地震、あるいは震央距離一〇〇キロメートル以上の遠くの地震についても、金井式は適用し得るものというべきであるから、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(ロ) 金井式の適用範囲について

原告らは、金井式の基礎となったデータは、本件原子炉施設の基礎岩盤よりかなり硬い岩盤上の観測データに基づいているから、金井式を本件原子炉施設に適用することはできない旨主張し、甲ニ三の二(証人生越調書二)二一丁表にはこれに沿う証言がある。

しかし、乙ハ一五によれば、金井式作成の基礎となった観測データは、日立鉱山の地下三〇〇メートルの、縦波速度が毎秒約5.5キロメートル、そこから推定される横波速度が毎秒約三キロメートルの岩盤上のものとされていることが認められるが、乙ハ九によれば、その後、昭和四〇年の松代群発地震の際、岩盤表面上における地震動の観測記録が得られたことから、その地震動データについても考慮が払われ、現在では、金井式は、解放基盤表面上の地震動の強さを推定する式としてふさわしいものとされていることが認められる。

そして、前記(一、3、(二)、(3))に加え、乙一六・六―三―三六ないし四〇頁によれば、本件安全審査においては、本件原子炉施設の基礎岩盤は堅硬、均質で相当な広がりのある解放基盤表面であることを確認したことが認められるから、金井式を本件原子炉施設の耐震設計に用いることに不合理な点はない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(ハ) 金井式の適用限界について

原告らは、金井式には、限界距離(原告らは、マグニチュード七の場合は13.6キロメートルであると主張する。)内の地震には適用できないから、右限界距離内の甲楽城断層(マグニチュード7.0、震央距離11.5キロメートル)から想定される地震に金井式を適用したのは不合理である旨主張する。

しかし、原告らの主張する限界距離の概念が学説上受け入れられていると認めるに足りる証拠はない。また、限界距離の概念を採用した場合、限界距離内での最大速度振幅をいかに算定するのか、そもそも不明である(甲ニ四の二(原告本人渡辺調書二)三八、三九頁によれば、限界距離までは金井式を適用し、限界距離内ではわずかずつ最大速度振幅が大きくなるとするか、断層モデルという別のモデルを使用するようであるが、その度合いや具体的な適用方法は明らかでない。)。

また、甲ニ四の二(原告本人渡辺調書二)四五頁によれば、甲楽城断層に金井式をそのまま適用する場合(乙ハ九によれば、大崎の方法では、近傍の地震については、距離が近づくにつれて最大加速度が増大するといった関係が成立しないことから、震央域という概念を用い、震央域の外縁部分における最大速度振幅を金井式に求め、震央域の内部においては、一定値をもって評価することが行われているところ、甲楽城断層のマグニチュード7.0の場合は、震央域外縁距離は一〇キロメートルとされ、震央距離が一〇キロメートルまでの範囲では金井式を用いて最大速度振幅を求め、それ以下の距離では、常に震央距離一〇キロメートルにおける最大速度振幅によって評価するが、甲楽城断層は震央距離が11.5キロメートルであるから、金井式をそのまま適用することになる。)と、原告らの主張する限界距離の考えに立った場合とで、求められる最大速度振幅の値に有意な差が生じることはないものと認められる。

したがって、本件安全審査において甲楽城断層による地震に金井式を適用したことが不合理であるということはできず、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(ニ) 金井式の誤差について

原告らは、金井式の誤差は少なくとも2.5倍程度ある旨主張し、その根拠として、田中貞二の「金井式に関する調査」と題する論文(甲ハ五五)のデータを基に計算した結果と、甲ハ九の図を指摘する。

しかし、原告らの指摘する田中論文(甲ハ五五)には、金井式の誤差について、マグニチュードの誤差を考慮しなければ平均値に対する一σの変動幅は約0.84倍から1.20倍、マグニチュードの誤差のみを考慮した場合の平均値に対する一σの変動幅は約0.64倍から1.57倍と記載されているのであって、2.5倍程度の誤差が生じるという記載はない(なお、原告らは、乙ニ四の一(証人近藤悟調書一)添付④の、一σの範囲にデータのある確率は0.6827、二σの範囲にある確率は0.9545、三σの範囲にある確率は0.9973であるとの記載から、右田中論文のマグニチュードの誤差のみを考慮した場合の「一σは約0.64から1.57」の数字を三倍して三σを求めると約2.5倍になる旨主張するが、右添付④の平均値に対する一σの変動幅は正規分布についてのものであって、金井式における震央距離及びマグニチュードと地震動の最大速度振幅の関係が正規分布になるとの証拠は全くないから、右は原告らの誤解によるものと思われる。)上、そのような実例があるとの証拠はなく、また、甲ハ九の図は、説明文中に、「この測定点がどのような場所を選んで設置されているかははっきりしない。」と記載されているところからみて、岩盤上の測定結果ではない可能性があるから、右を直ちに金井式による算出結果と対比することは相当でないから、金井式の誤差が少なくとも2.5倍であると認めるに足りる証拠はないというべきである。

そして、前記(イ)のとおり、金井式は、震源が太平洋岸又は日本海岸の沖合いずれにあっても、観測点が日本海側の場合はおおよそ震源距離一〇〇キロメートル以上の遠距離になると計算値は実測値より大きくなるとされていることが認められるのであって、金井式は日本海岸にある本件原子炉施設に関しては保守的な計算式ということができる。

もっとも、乙ハ九によれば、金井式は、茨城県の日立鉱山地下三〇〇メートルの坑道内で得られた地震観測記録等に基づく実験式を、近距離まで適用可能なものに改定したものであるが、岩盤上での震源距離及びマグニチュードと最大速度振幅との関係について保守的に評価することまでは目的としていないことが認められる。したがって、田中論文が指摘するような誤差をもって、現実にある断層で起きた地震の最大速度振幅が、金井式により算出された最大速度振幅を超える可能性があることは否定できない。

しかし、金井式は、前記(イ)のとおり、岩盤における最も確からしい地震の影響を評価する際に有用な経験式として、現在でも広く活用されているものであり、また、前記((1)、(ハ))のとおり、原子炉施設の耐震設計は、基準地震動の策定から個別具体的な耐震設計までの全体において保守性を確保する体系を採用しているといえる。したがって、金井式に誤差があるとしても、右誤差は、右の基準地震動の策定や個別具体的な耐震設計における保守性の確保によって吸収することが相当程度可能というべきであるところ、金井式の適用に当たって、現実の地震との間で右保守性の確保によっては吸収することのできないような多大な誤差が生じると認めるに足りる証拠はない。

したがって、金井式に誤差が含まれることから、直ちに本件原子炉施設の耐震設計に関する本件安全審査の結果を不合理であるということはできないから、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(3) 大崎の方法について

(イ) 実地震動の包絡について

原告らは、大崎の方法により求められる基準地震動の応答スペクトル(大崎スペクトル)は、すべての地震動を包含するものではないから、実地震動によって耐震設計で想定された以上の力が加わるおそれがある旨主張する。

しかし、乙ハ九によれば、「耐震設計審査指針」の解説の一部とすることを目的に作成された「原子力発電所設計用の基準地震動評価に関するガイドライン」において、大崎スペクトルと実地振動スペクトルとの差が数量的に比較されているが、これによると、大崎スペクトルは実地震動スペクトルをほぼ包絡しており、大崎スペクトルがわずかながら実地震動スペクトルを下回っているのは、マグニチュード六の遠距離地震に適用される標準スペクトルについて周期0.02ないし0.10秒の周期範囲と、マグニチュード七の中距離地震に適用される標準スペクトルについて0.02ないし0.13秒の周期範囲に限られることが認められる。

そうすると、一般に、建物の床応答スペクトルは、建物の固有周期において最大となるところ、甲ハ五二の添付⑭及び甲ニ四の一(原告本人渡辺調書一)五六頁、五七頁によれば、本件原子炉施設の原子炉建物の固有周期は約0.2秒であると認められるから、前記各周期範囲における大崎スペクトルと実地震動スペクトルとのわずかなスペクトル強度の差が、本件原子炉施設の原子炉建物の床応答スペクトルに及ぼす影響は極めて小さく、耐震設計上問題となるものではないというべきである。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(ロ) 安全余裕について

原告らは、大崎の方法には安全余裕がないから、右床応答スペクトルの示す加速度が想定以上に及ぶ可能性があり、実地震動によって耐震設計で想定された以上の力が加わるおそれがある旨主張する。

しかし、乙ハ九によれば、大崎スペクトルは、マグニチュード六の遠距離地震に適用される標準スペクトルについて周期0.02ないし0.10秒の周期範囲と、マグニチュード七の中距離地震に適用される標準スペクトルについて0.02ないし0.13秒の周期範囲を除いて、実地震動スペクトルを上回っており、この限りでは安全余裕があることが認められる。

また、前記((1)、(ハ))のとおり、床応答スペクトルを作成するに当たっては、適切な減衰定数を定めて求めた床応答スペクトルに対し、スペクトルが右下がりにある周期範囲ではスペクトルを右側、スペクトルが左下がりにある周期範囲では左側にそれぞれ一〇パーセント平行移動させるなどの方法でスペクトルの拡幅を行って安全側の地震力設定となるようにしているなど、本件原子炉施設の耐震設計は、基準地震動の策定から個別具体的な耐震設計までの全体において保守性を確保するものであり、基準地震動の模擬地震波の作成等の場面で保守的な想定をしている。

そして、弁論の全趣旨によれば、大崎の方法は、ほぼ解放基盤上と考えられる場所において実測された地震動特性を整理し、工学的検討を加えて標準化した応答スペクトルであり、本件原子炉施設を始め他の原子炉施設の耐震設計においても有用な方法として現在でも広く用いられていることが認められる。

このようにみると、大崎の方法には安全余裕が十分にはないとしても、そのことから直ちに、本件原子炉施設の耐震設計に従前の大崎スペクトルを用いたことが合理性を失うものではないというべきである。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(ハ) 修正大崎スペクトルについて

原告らは、長周期側の地震動をより大きく見積もる一九九四年版の大崎スペクトルが発表されたことにより、従前の大崎スペクトルは妥当性を失ったから、これを用いて行われた本件原子炉施設の耐震設計には不合理である旨主張する。

しかし、甲ハ五七によれば、修正大崎スペクトルは、作成者の大崎順彦自身が、一般の土木・建築構造物用として位置づけていることが認められ、右修正大崎スペクトルは、剛構造の原子力発電所よりも固有周期が長い建物等に適用することを予定したものというべきであって、原子力発電所に適用されるべきものとはいえない。また、前記(イ)のとおり、本件原子炉施設の原子炉建物の固有周期は短周期であるから、長周期側の地震動を大きく見積もる修正大崎スペクトルによって本件原子炉施設の耐震設計に従前の大崎スペクトルを用いたことが合理性を失うものではない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(ニ) 兵庫県南部地震について

原告らは、兵庫県南部地震の際に神戸大学のトンネル内で観測された地震動の応答スペクトルが大崎スペクトルを長周期側で上回ったことから、大崎の方法は合理性を失った旨主張する。

この点、乙ハ九によれば、大崎スペクトルは、露出した岩盤表面上ないしはごく岩盤表面に近い箇所、すなわちほぼ解放基盤表面上と考えられる箇所に設置された地震計によって観測された実地震動記録を基に作成されたものであることが認められる。

しかし、甲ハ六〇によれば、神戸大学で観測された地震動は、花崗岩上に厚さ1.3メートルの埋戻土又は表層土があり、さらに、その上の厚さ九五センチメートル上のコンクリート床上に設置された地震計によるものであって、解放基盤表面上と考えられる箇所に設置された地震計によるものではないことが認められ、また、乙ハ九によれば、大崎スペクトルは、横波速度の値がほぼ毎秒0.7ないし1.9キロメートルまでの範囲の堅さの岩盤に対してよく適用するとされていることが認められるのに対し、甲ハ六〇によれば、神戸大学に設置された地震計の直下九五センチメートルから二二五センチメートルまでの範囲にある埋戻土又は表層土の横波速度は、毎秒0.24キロメートル程度であることが認められる。

そうすると、神戸大学の地震計設置箇所が大崎の方法の前提となる解放基盤表面といえないことは明らかであるし、兵庫県南部地震の際に、神戸大学で観測された最大速度振幅が大きな値を示したのは、埋戻土や表層土といった表層地盤の増幅等の影響によるものと考えられており(甲ハ六〇)、表層地盤を取り除いて岩盤に直接設置されている本件原子炉施設をこれと同列に論じることはできないから、右神戸大学で観測された地震動によって大崎スペクトルの妥当性が失われるものではない。

さらに、地震動の応答スペクトルが、大崎スペクトルを長周期側で上回ったことについては、前記(イ)のとおり、本件原子炉施設の建物及び構築物は剛構造であり、その固有周期は約0.2秒程度であるから、本件原子炉施設の建物及び構築物が長周期側の地震動との共振によって大きな影響を受けるということはできない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(三) 構造計算について

原告らは、「設計及び工事の方法の認可申請書」添付の構造計算書中、ガードベッセルの耐震性に関する応力評価の中で、「下部サポート外面」における「一次応力+二次応力の判定」の欄において、求められた応力値(33.3)がかっこ内の値(30.2)を超えているにもかかわらず、結論において「地震時に発生する各応力は許容値を満足しており、安全である。」としていることは、誤りである旨主張する。

しかし、乙ハ一一によれば、右の応力値は、地震動のみによる一次応力と二次応力とを加えて求めた応力の最大値と最小値との差を示すものであり、右の差すなわち変動値が設計降伏点(SY)の二倍以下であれば疲れ解析は不要であるが、二SYを超えるときは弾塑性解析により求められる応力値を用いて疲れ解析を行うことが必要となるものであるところ、被告は、右の変動値(33.3)が判定値(30.2)を超えたため、疲れ解析を実施し、疲れ累積係数が0.001であり、許容値の1.0以下であることを確認し、許容値を満足すると判断したことが認められる。

なお、甲ニ四の二(原告本人渡辺調書二)六一ないし六四頁、六六頁、六七頁には、右判定値を超えた場合に疲れ解析をすることは適切でなく、右判定基準自体が誤りである旨の供述があるが、乙ハ一七及び乙ハ一九によれば、疲れ解析は、地震時の繰り返し荷重によって応力が繰り返し構造物にかかり、破損(疲労破損)に至ることを防止するために、「発電用原子力設備に関する構造等の技術基準」(昭和五五年通商産業省告示五〇一号)や原子力発電所耐震設計技術指針(社団法人日本電気協会)に基づいて行われる解析であることが認められ、右は疲労強度の点から材料の健全性を検討するものであるから、右判定基準は合理的なものということができる。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

四  まとめ

以上のとおり、本件安全審査においては、調査審議の結果、本件原子炉施設の立地条件及び地震に係る安全性について、本件原子炉施設が具体的審査基準に適合し、その基本設計ないし基本的設計方針において、本件原子炉施設の立地条件及び本件原子炉施設の周辺において発生するおそれのある地震を考慮しても、本件原子炉施設の安全性を確保することができ、原子炉等による災害の防止上支障がないものとしているが、右調査審議及び判断の過程に、重大かつ明白な瑕疵といえるような看過し難い過誤、欠落があるとは認められない。

第四  本件原子炉施設の安全設計

一  本件安全審査の内容

乙七ないし一〇、乙一四の一ないし三、乙一六、乙二二、乙二三、乙イ六並びに弁論の全趣旨によれば、本件原子炉施設の安全設計についての本件安全審査の内容について、次のとおりと認められる。

1 原子炉及び計測制御系

(一) 炉心設計

(1) 核設計

(イ) 本件安全審査においては、核設計手法の妥当性、反応度制御性等について検討し、炉心の核設計において、高速中性子を利用した増殖炉の核特性を考慮して、次の事項を満足するか否かについて審査した。

(a) 運転に伴う反応度の変化を安定に制御することができると共に、最大の反応度効果を有する制御棒が完全に引き抜かれた状態であっても常に炉心を臨界未満にできること。

(b) 通常運転時及び運転時の異常な過渡変化時において、プラントの各系統とあいまって、燃料の許容設計限界を超えないこと。

(c) すべての運転範囲で急速な固有の負の反応度フィードバック特性を有する設計であること。

(ロ) そして、本件安全審査においては、次の事項を確認した。

(a) 核設計手法は、先行炉である高速実験炉「常陽」の手法と基本的には同じであり、モーツアルト、FCA及びZPPR臨界実験解析等により、その妥当性が確認されている。

(b) 本件原子炉施設の反応度制御は、調整棒と後備炉停止棒からなる制御棒によって行われるが、調整棒は、原子炉を運転するために必要な出力補償反応度、燃焼補償反応度等を制御する機能を有しており、運転に伴う反応度変化を安定して制御できる設計とされる。

また、最も反応度効果の大きい調整棒一本が完全引抜位置に固着して挿入できない場合でも炉心を臨界未満にでき、かつ、臨界未満を維持できる設計となっている。更に、調整棒による原子炉停止系が不動作の場合でも、後備炉停止棒により炉心を臨界未満にし、維持できる設計とされる。なお、初装荷炉心においては、固定吸収体を半径方向ブランケット領域再内層に装荷することによっても過剰反応度を抑制することができる設計とされる。

(c) 炉心燃料領域は、内側炉心と外側炉心の二領域に分割され、外側炉心にプルトニウム富化度の高い燃料集合体を装荷することによって、出力分布の平担化を図っている。本件原子炉施設は、後記(第六、一、4)のとおり、運転時の異常な過渡変化時においても、プラントの各系統とあいまって、燃料の許容設計限界を超えることはない。

(d) 本件原子炉施設は、ドップラ係数、冷却材温度係数等を総合した固有の負の反応度フィードバック特性を有しており、後記のとおり、未臨界状態からの制御棒の異常な引き抜き等の運転時の異常な過渡変化時においても、急激な出力上昇を軽減できる。

(e) 本件原子炉施設の中性子エネルギー範囲では、核分裂生成物が大きな吸収断面積を有しないので、キセノンによる中性子束分布の空間的振動は発生せず、炉心内の出力分布は安定である。

(ハ) 本件安全審査においては、以上の事項を確認したことから、本件原子炉施設の核設計は妥当であると判断した。

(2) 熱流力設計

(イ) 本件安全審査においては、熱流力設計に用いる出力分布、サブチャンネル間の熱的混合効果、冷却材流量配分について検討し、炉心の熱流力設計が、通常運転時はもちろん、運転時の異常な過渡変化時においても、燃料の許容設計限界を超えないように、また、ナトリウムの沸騰による過大な反応度添加を防止できるように、次の事項を満足するか否かを審査した。

(a) 燃料最高温度はプルトニウム・ウラン混合酸化物の融点未満であること。

(b) 運転時の異常な過渡変化時における燃料被覆管肉厚中心最高温度は八三〇℃以下であること。

(c) 冷却材温度は沸点未満であること。

(d) 定格出力時の炉心燃料被覆管肉厚中心最高温度は六七五℃以下であること。

(ロ) そして、本件安全審査においては、次の事項を確認した。

(a) 炉心内の出力分布は、燃料の燃焼状態、制御棒の挿入状態により変化するため、各流量領域ごとにそれらの状態を考慮して最も発熱量の大きくなる状態での値を求め、熱流力設計用の出力分布としている。

(b) 燃料集合体内の隣接するサブチャンネル間の熱的混合割合を与える渦拡散係数については、実機寸法の模擬燃料集合体を用いたナトリウム流動試験結果に基づき、十分な余裕を見込んだ設計値が用いられている。

(c) 冷却材の流量配分は、炉心燃料集合体装荷領域を八流量領域に、ブランケット燃料集合体装荷領域を三流量領域に分割して行われ、各領域の流量は、燃料被覆管最高温度がほぼ均一になるように決められている。流量調節機構及び炉心構成要素各部の出力損失特性は、各種の水流動試験に基づいて評価されており、その妥当性が確認されている。

(d) プルトニウム・ウラン混合酸化物の融点は、未照射燃料では約二七四〇℃であるが、初期の燃焼効果を考慮し、燃料最高温度に対する設計上の上限値は二六五〇℃と設定されている。燃焼が進んだ段階では融点は漸減するが、線出力密度減少による燃料温度低下の方が大きくなるため、燃焼初期の燃料最高温度を二六五〇℃に制限することにより、燃焼進行後の燃料最高温度に対しても融点に対する裕度は十分確保できる。

また、燃料最高温度の計算値は、定格出力時で約二三五〇℃であるが、後記(第六、一、4)のとおり、運転時の異常な過渡変化時においても最高約二五六〇℃であるので、制限値よりも十分低い。なお、ブランケット燃料最高温度の融点に対する裕度は炉心燃料の場合に比べて十分大きい。

(e) 運転時の異常な過渡変化時における燃料被覆管肉厚中心最高温度の制限値は、燃料被覆管がプレナムガスの内圧により破損しないよう、炉外急速加熱試験データに安全余裕を考慮して設定されている。そして、後記(第六、一、4)のとおり、運転時の異常な過渡変化時における燃料被覆管肉厚中心最高温度は制限値より十分低い。

(f) 冷却材最高温度の計算値は、定格出力時で炉心燃料集合体において約六五九℃、ブランケット燃料集合体において約六九六℃であり、後記(第六、一、4)のとおり、運転時の異常な過渡変化時においても沸点より十分低い。

(g) 定格出力時の炉心燃料被覆管肉厚中心最高温度の制限値は、通常運転時における内圧クリープが、所定の燃焼度まで燃料被覆管の健全性を保持するための機械的強度の主要な制限因子となることから設定されたものであるところ、最高温度の計算値は、定格出力時で六七五℃以下とされている。

(ハ) 本件安全審査においては、以上の事項を確認したことから、本件原子炉施設の熱流力設計は妥当であると判断した。

(3) 動特性

(イ) 本件安全審査においては、動特性計算コードの妥当性及び運転中の設計負荷変化に対する安定性について検討し、本件原子炉施設を安定に運転するために、運転中の外乱に対して燃料の許容設計限界を超える状態となる過大な出力振動が生じないように自己制御性を持たせているか否か、十分な減衰特性を持たせる設計であるか否か、たとえ出力振動が生じても、それを検出して抑制できる設計であるか否かを審査した。

(ロ) そして、本件安全審査においては、動特性計算コードは、先行炉及び試験施設における実測データとの比較検討により、妥当なものと確認されていること、原子炉施設の安定性についても、プラスマイナス一〇パーセントのステップ状出力変化、プラスマイナス五パーセント毎分のランプ状出力変化及び五〇パーセント負荷喪失の設計負荷変化を与えた解析結果から、原子炉出力制御系、一次主冷却系及び二次主冷却系の流量制御系、給水流量制御系、主蒸気圧力制御系等を含めた原子炉施設の各系統の機能とあいまって、十分な減衰特性を有していることから、本件原子炉施設は十分な安定性を有すると判断した。

(4) 機械設計

(イ) 本件安全審査においては、被覆管及び燃料集合体の機械強度、変形、SUS三一六相当ステンレス鋼の耐スエリング性、燃料集合体の流路閉塞防止対策等について検討し、燃料要素については、高温ナトリウム中で使用され、かつ燃焼度が高いことから、燃料被覆管の内圧によるクリープ効果及びスエリング効果等を考慮した設計であるか否か、また、燃料集合体については、変形等を考慮すると共に流路閉塞を防止する設計であるか否かを審査した。

(ロ) そして、本件安全審査においては、次の事項を確認した。

(a) 炉心燃料要素の内圧は、ガスプレナムの容積を十分とることにより抑えられており、被覆管のクリープ寿命分数和は、燃焼進行後の核分裂生成ガスの放出率を一〇〇パーセントとして評価した場合においても約0.3であり、設計上の制限値である一以下となる。被覆管に生じる応力は、SUS三一六相当ステンレス綱の許容応力を十分に下回っており、また、全使用期間中に予想される各種出力変動による被覆管の累積疲労も設計疲労寿命と比べて十分小さい。

(b) 燃料被覆管に生じる歪みは、主として高速中性子の照射によるスエリングと照射クリープ変形に起因する外径増加で表すことができ、この外径増加は燃料集合体の冷却機能維持の観点から七パーセント程度までが許容できると評価されているところ、本件原子炉施設の炉心燃料要素は、核分裂生成ガスによる内圧やペレットと被覆管の相互作用等、原子炉の運転中に生じる諸現象を考慮して評価した被覆管の最大外径増加は、使用期間末期で約六パーセントとなる。

(c) 炉心燃料集合体を構成する各部品は使用期間中に予想される各種荷重に対して十分な強度を有する設計とされる。炉心燃料集合体の変形については、熱膨張、スエリング、照射クリープ等を考慮した列群としての評価をした結果、湾曲やふくれによって、スペーサ・パッド部以外でラッパ管同士が接触することはなく、また湾曲拘束の反力も集合体の健全性上過大となることはない。

(d) 燃料集合体は、燃料要素内部の自由間隙を狭めることにより、被覆管の健全性上問題となるような擦り痕の発生を抑える対策が講じられている。

(e) ブランケット燃料集合体については、集合体最高燃焼度が約五八〇〇MWD/Tと低く、燃料要素の外径増加、内圧、疲労寿命等は十分大きな設計余裕を有する。また、ブランケット燃料集合体の機械的強度は炉心燃料集合体と同等であり、その健全性は問題とならない。

(f) 本件原子炉施設においては、ワイヤスペーサを用いた標準の炉心燃料集合体のほかに、代替型炉心燃料集合体としてグリッドスペーサを用いた炉心燃料集合体が装荷される場合があるが、装荷位置と体数を限定することにより、前記(イ)の設計方針が満足されるので、その使用に問題はない。

(g) 燃料集合体は、輸送及び取扱中に受ける通常の荷重に対しても十分な強度を有する設計とされる。

(h) 燃料集合体の流路閉塞防止対策として、炉心燃料集合体の場合、冷却材流入孔がエントランスノズルの円筒側面上六方向に分散配置されており、これらが異物によって同時に塞がることのない設計としている。また、ブランケット燃料集合体については、連結管側のオリフィス板に十字型の溝を設け、冷却材が四方向から流入する構造とすることにより、流路閉塞を防止する対策が講じられている。

(i) 炉心槽、炉心支持板、炉内構造支持構造物、炉心上部機構等の原子炉容器内構造物は、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時、地震時及び事故時の荷重に対し、原子炉容器内の温度、圧力等を考慮して、必要な強度及び機能を保持する設計とされる。

(ハ) 本件安全審査においては、以上の事項を確認したことから、本件原子炉施設の炉心燃料集合体及びブランケット燃料集合体は、全使用期間にわたってその健全性が保たれるとして、本件原子炉施設の炉心に関する機械設計は妥当であると判断した。

(二) 計測制御系

(1) 制御室

(イ) 本件安全審査においては、中央制御室の事故時の接近性、居住性、主要ケーブル、制御盤等の火災対策、中央制御室外原子炉停止装置の機能について検討し、中央制御室には、通常運転時の操作はもちろん、事故時にも従事者が接近し、又は留まり、事故対策操作が可能であるように、換気設計、遮へい設計、不燃設計等が適切にされているか否か、また、中央制御室外の適切な場所から本件原子炉を停止することができるか否かを審査した。

(ロ) そして、本件安全審査においては、次の事項を確認した。

(a) 中央制御室には、通常運転操作、事故対策操作に必要な原子炉制御系、安全保護系、タービン設備、電気設備、放射線監視設備、プロセス計装設備等の計装制御装置が設置され、集中的に監視及び制御を行えるように設計される。

(b) 中央制御室の換気系は他の換気系とは独立して設けられ、事故時には外気との連絡口を遮断し、よう素除去フィルタを備えた閉回路循環方式が採用され、従事者は内部被曝から防護される。外気との遮断が長期にわたり、室内の雰囲気が悪くなった場合は、外気をよう素除去フィルタで浄化しながら取り入れることができる。また、中央制御室の遮へいは、事故時においても従事者が外部被曝から防護される設計とされる。右設計により、事故時に中央制御室へ接近し、留まって必要な操作を行う場合の被曝線量は十分低くなるので、通常運転時にはもちろん、事故時にも従事者が中央制御室に接近し、留まって必要な操作を行える。

(c) 中央制御室のケーブル、制御盤等は、原則として不燃性、難燃性材料を用い、独立性を考慮した設計がされ、火災が発生する可能性を極力少なくするよう配慮されると共に、火災検知器及び消火設備が設けられ、更に運転員が常時在室しているので早期火災検知及び早期消火が行える。

(d) 中央制御室において、何らかの原因により留まることができない場合にも、中央制御室から十分離れた場所に設けられた中央制御室外原子炉停止装置により原子炉を停止し、引き続き安全な状態に維持することが可能なように設計される。

(ハ) 本件安全審査においては、以上の事項を確認したことから、本件原子炉施設の制御室は所要の機能を果たす能力を有すると判断した。

(2) 計測制御設備

(イ) 本件安全審査においては、計測制御設備の種類、系統構成、機能等について検討し、計測制御設備が、通常運転時及び運転時の異常な過渡変化時において、炉心、原子炉冷却材バウンダリ、格納容器バウンダリ及びそれらに関連する系統の健全性を確保するために必要なパラメータが、適切な予想範囲に維持、制御されるか否か、これらのパラメータについて、予想変動範囲内での監視が可能であるか否か、事故時において、計測制御設備は、事故の状態を知り、対策を講じるために必要なパラメータを監視できる設計であるか否かを審査した。

(ロ) そして、本件安全審査においては、次の事項を確認した。

(a) 本件原子炉施設における計測制御設備は、通常運転時に起こり得る設計負荷変化及び外乱に対して監視及び制御を行えるよう設計される。また、炉心、原子炉冷却材バウンダリ、格納容器バウンダリ及びその関連する系統の健全性を確保するため、中性子束、制御棒位置、一次、二次各主冷却系の温度、流量、原子炉容器ナトリウム液位、原子炉格納容器床下雰囲気温度等の重要なパラメータの監視、制御を行えるよう設計される。これらのパラメータは、原子炉出力制御系、主冷却系流量制御系、給水流量制御系等の制御設備により適切な運転範囲内に維持し制御できる設計とされる。

(b) 一次冷却材漏えいのような事故時においても、原子炉格納容器床下雰囲気温度等を連続して監視及び記録できる設計とされる。

(c) また、一次アルゴンガス系及び原子炉格納容器内の放射性物質濃度については、事故時においてもサンプリングにより測定、監視できるよう設計される。そして、原子炉の停止状態及び炉心の冷却状態は、二種類以上のパラメータにより監視あるいは推定できる設計とされる。

(ハ) 本件安全審査においては、以上の事項を確認したことから、本件原子炉施設の計測制御設備の設計は妥当であると判断した。

(3) 電源設備

(イ) 電源設備は外部電源系、非常用所内電源系等から構成されている。

(ロ) 外部電源系

本件安全審査においては、外部電源系は、二回線以上の送電線により電力系統に接続されているか否かを審査し、本件原子炉施設は連繋する送電線は二七五キロボルト送電線二回線を有するので、外部電源系との電力系統連繋の多重性は確保されると判断した。

(ハ) 非常用所内電源設備

(a)本件安全審査においては、ディーゼル発電器及び直流電源の容量及び信頼性、ケーブル等の火災対策について検討し、外部電源喪失時に、一系統が作動しないと仮定しても、燃料の許容設計限界及び原子炉冷却材バウンダリの設計条件を超えることなく炉心を冷却できるか否か、また、一次冷却材漏えい事故が同時に起こったと仮定しても、炉心の冷却と共に、原子炉格納容器並びに安全上重要な系統及び機器の機能を確保できる容量と機能を有するか否かを審査した。

(b) そして、本件安全審査においては、次の事項を確認した。

(い) 非常用電源設備として、必要な容量を持つディーゼル発電機三台、蓄電池三組が各々分離独立した部屋に収納され、分離独立した非常用母線に接続される。

(ろ) ディーゼル発電機は、一次冷却材漏えい事故又は外部電源の喪失が発生した場合、原子炉を安全に停止させ又は工学的安全施設を動作させるのに必要な電力を約一〇秒で供給できる設計とされる。

(は) ディーゼル発電機及び蓄電池は、適切な定期試験及び検査が行える設計とされる。

(に) 所内ケーブル、制御盤等の絶縁材料は、可能な限り不燃性又は難燃性の材料が使用される。

(ほ) 本件原子炉施設の全動力電源喪失を想定した場合にも、原子炉は安全に停止できる。この場合、原子炉は自動的に停止し、全動力電源喪失の期間(三〇分程度)を通じ蓄電池を電源とする非常用照明、原子炉計装及びプロセス計装により、必要な運転監視を行うことができる。

(c) 本件安全審査においては、以上の事項を確認したことから、本件原子炉施設の非常用所内電源設備は、外部電源喪失と機器の単一故障を仮定しても、安全上重要な系統及び機器が所定の機能を果たすために十分な電力を供給する能力を有すると判断した。

2 原子炉停止系、反応度制御系及び安全保護系

(一) 原子炉停止系

(1) 本件安全審査においては、原子炉停止系の独立性、反応度停止余裕、制御棒落下時間、信頼性等について検討し、原子炉停止系が、次の事項を満足するか否かを審査した。

(イ) 少なくとも二つの独立した系を有する信頼性の高い設計であること。

(ロ) 少なくとも一つは、通常運転時及び運転時の異常な過渡変化時において、燃料の許容設計限界を超えることなく、炉心を臨界未満にでき、かつ、低温状態で臨界未満を維持できる設計であること。また、一つの系の不動作を仮定しても、炉心を臨界未満にでき、かつ、低温状態で臨界未満を維持できる設計であること。

(ハ) 少なくとも一つは、事故時において炉心を速やかに臨界未満にでき、かつ、低温状態で臨界未満を維持できる設計であること。

(ニ) 反応度効果の最も大きい制御棒が完全に炉心の外に引き抜かれて固着し、挿入できない時でも、炉心を臨界未満にでき、かつ、低温状態で臨界未満を維持できる設計であること。

(2) そして、本件安全審査においては、次の事項を確認した。

(イ) 原子炉停止系は、調整棒による主炉停止系及び後備炉停止棒による後備炉停止系の独立した二つの系統が設けられる。

(ロ) 主炉停止系は、最も反応度効果の大きい調整棒一本が完全引抜位置のまま挿入できない場合でも、低温状態において適切な余裕をもって臨界未満に維持できる。

(ハ) 仮に主炉停止系が不動作の場合であっても、後備炉停止系のみによって、低温状態において適切な余裕をもって臨界未満に維持できる。

(ニ) 原子炉緊急停止時の制御棒挿入時間は、全ストロークの八五パーセント挿入までを一ないし二秒としているが、この値は水中及びナトリウム中の落下試験によって十分満足されることが確認されている。

(ホ) 後記(第六、一、4及び同二、4)のとおり、運転時の異常な過渡変化時においても、炉心特性とあいまって、燃料の許容設計限界を超えることなく、原子炉を臨界未満にし、かつ、維持できる。また、事故時においても原子炉を臨界未満にし、かつ維持できる。

(3) 本件安全審査においては、以上の事項を確認したことから、本件原子炉施設の原子炉停止系の設計は妥当であると判断した。

(二) 反応度制御系

(1) 本件安全審査においては、制御棒の制御能力、急激な反応度添加等について検討し、反応度制御系は、負荷変動、温度変化、燃料の燃焼等によって生じる反応度変化を調整し、所要の運転状態に維持することができると共に、その最大反応度価値及び添加率から想定される反応度事故により原子炉冷却材バウンダリの破損等が生じないような設計であるか否かを審査した。

(2) そして、本件安全審査においては、次の事項を確認した。

(イ) 本件原子炉施設の通常運転時における反応度制御は、調整棒によって行うが、調整棒は、一〇本の粗調整棒と三本の微調整棒に分けられ、十分な反応度制御能力を有する設計とされる。

(ロ) 微調整棒は、主として負荷変動による反応度変化の調整を、粗調整棒は主として部分出力状態から低温状態までの温度変化及び燃料の燃焼に伴う反応度変化の調整を行う設計となっており、両者の組合せによって所要の運転状態を維持できる。

(ハ) 急激な反応度添加については、原子炉容器内の圧力が大気圧に比べてそれ程高くないので、制御棒飛び出しのような事象は起こり得ず、最大反応度価値を有する制御棒のステップ状反応度添加を想定する必要はない。また、制御棒の連続引き抜きによる反応度添加については通常運転時の制御棒引抜最大速度を制限することにより、かつ、駆動モータの最大駆動速度は電源と負荷の関係等から物理的に制限されるため、後記(第六、一、4及び同二、4)のとおり、運転時の異常な過渡変化時又は事故時の基準を超えるような過度な反応度添加率にはならない。

(3) 本件安全審査においては、以上の事項を確認したことから、本件原子炉施設の反応度制御系の設計は妥当であると判断した。

(三) 安全保護系

(1) 本件安全審査においては、安全保護系の起動条件、多重性、独立性、計測制御系との分離、運転時の異常な過渡変化時及び事故時の機能について検討し、安全保護系が、次の事項を満足するか否かを審査した。

(イ) 運転時の異常な過渡変化時にその異常状態を検知し、原子炉停止系等を自動的に作動させ、燃料の許容設計限界を超えないように設計されること。また、偶発的な制御棒引き抜きのような原子炉停止系のいかなる単一の誤動作に対しても、燃料の許容設計限界を超えないように考慮された設計であること。

(ロ) 事故時には直ちにこれを検知し、原子炉停止系及び工学的安全施設を自動的に作動させる設計であること。

(ハ) 通常運転時、運転時の異常な過渡変化時、保修時、試験時及び事故時において、その保護機能が喪失しないように、チャンネル相互を分離し、多重性を持たせたチャンネル間の独立性を確保できると共に、駆動源の喪失等不利な状態になっても最終的に安全な状態に落ち着くような設計であること。

(ニ) 計測制御系との部分的共用によって、安全保護系の機能を失わないように、計測制御系から分離される設計であること。

(ホ) 原則としてその機能を原子炉運転中に試験できる設計であること。

(2) そして、本件安全審査においては、次の事項を確認した。

(イ) 安全保護系は、運転時の異常な過渡変化時に、中性子束及び一次主冷却系流量等の変化を検出し、原子炉停止系を自動的に作動させ、プラントの各系統の機能とあいまって、後記(第六、一、4)のとおり、燃料の許容設計限界を超えることはない。また、制御棒引き抜きのような原子炉停止系の単一の誤動作に起因する炉心内の反応度又は出力分布の異常な過渡変化においても、原子炉停止系が作動して、燃料の許容設計限界を超えることはない。

(ロ) 安全保護系は、事故時に、中性子及び一次主冷却系流量、原子炉容器ナトリウム液位等の異常状態を検出し、原子炉停止系及び補助冷却設備等の工学的安全施設を自動的に作動させる設計とされる。

(ハ) 安全保護系は、安全保護機能を失う結果をもたらさないように、十分に信頼性のある少なくとも二チャンネルの安全保護回路が設けられ、更に、原子炉停止系及び工学的安全施設を作動させるための検出器は、原則として「2 out of 3」構成とし、多重性を持たせることにより、当該系を構成する機器又はチャンネルの単一故障あるいは使用状態からの単一の取り外しを行っても安全保護機能が損なわれない設計とされる。

(ニ) 安全保護系を構成するチャンネルは相互干渉が起こらないように、各チャンネル毎に専用のケーブルトレイ、計器ラック等を設けると共に、各チャンネル相互を可能な限り物理的、電気的に分離し、独立性を持たせる設計とされる。

(ホ) 安全保護系及び計測制御系の電源、検出器、ケーブル等は、原則として互いに分離する設計とされる。安全保護系の一部から、計測制御系への信号を取り出す場合には、信号の分岐箇所に絶縁増幅器を使用し、計測制御系の短絡、地絡又は断線によって安全保護系に影響を与えることのない設計とされる。

(ヘ) 安全保護系による保護動作は、フェイルセイフ又は故障と同時に現状維持とし、現状維持の場合には、同一の機能を持つ他の系統の保護動作が行えるようにすることにより、駆動源の喪失、系の遮断等、不利な状態になっても最終的に安全な状態に落ち着くように設計される。

(ト) 安全保護系は、原子炉運転中にも計測チャンネル及び論理回路トレインの試験ができるように設計される。計測チャンネル及び論理回路トレインは、多重性、独立性を持たせることにより、試験中でも残りのチャンネル及びトレインで保護機能を果たせるように設計される。

(3) 本件安全審査においては、以上の事項を確認したことから、本件原子炉施設の安全保護系の設計は妥当であると判断した。

3 原子炉冷却系

(一) 原子炉冷却材バウンダリ及び原子炉カバーガス等のバウンダリ

(1) 原子炉冷却材バウンダリ

(イ) 本件安全審査においては、通常運転時における原子炉冷却材バウンダリの圧力及び温度、昇温、降温速度の妥当性、運転時の異常な過渡変化時及び事故時に予想される熱的過渡変化に対する健全性、漏えい検出対策、急速な伝播型破断防止対策、運転開始後における定期的な試験可能性について検討し、原子炉冷却材バウンダリを構成する機器及び配管は、冷却材の漏えいや破損の発生する可能性が極めて小さくなるよう考慮された設計であるか否か、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時及び事故時において、その健全性を確保すると共に、原子炉冷却材バウンダリの漏えい検出、破壊の防止及び定期的な試験、検査ができる設計であるか否か、原子炉冷却材バウンダリの健全性について審査した。

(ロ) そして、本件安全審査においては、次の事項を確認した。

(a) 冷却材は沸騰を防止するために加圧する必要がないので、原子炉冷却材バウンダリの圧力は低い水準に保たれる。通常運転時の一次冷却材温度は、原子炉出力制御系、主冷却系流量制御系、中間熱交換器による適切な除熱等により、設定値を保つよう制御される。また、原子炉冷却材バウンダリについては、通常運転時の原子炉起動、停止時の昇温、降温速度を適切に抑えることとしている。

(b) 外部電源喪失、制御棒の異常な引き抜き等の運転時の異常な過渡変化に対しては、原子炉停止に至る安全保護回路が設けられるほか、原子炉冷却材バウンダリの過度の温度上昇を防止するため、ポニーモータによる循環ポンプの低速運転及び補助冷却設備による除熱等により、原子炉冷却材バウンダリの運転時の異常な過渡変化時の最高温度は、後記(第六、一、4)のとおり、最高使用温度の1.4倍又は六〇〇℃のいずれか低い方を超えることはない。

(c) 事故時において、原子炉冷却材バウンダリの温度が最も高くなるのは、後記(第六、二、4)のとおり、燃料スランピング事故であるが、この事故時においても、原子炉は自動停止し、原子炉冷却材バウンダリの温度は、最高使用温度の1.6倍又は六五〇℃のいずれも超えることはない。また、蒸気発生器伝熱管破損事故に代表されるナトリウム・水反応を伴う事象に対しては、二次主冷却系を設けることによってその影響を緩和するので、原子炉冷却材バウンダリの健全性が損なわれることはない。

(d) 原子炉冷却材バウンダリを構成する機器及び配管の使用材料としては、脆性破壊のおそれがないオーステナイト系ステンレス鋼が使用され、内圧が低いこととあいまって急速な伝播型破断が防止される。また、原子炉容器の母材及び溶接部等については、試験片を原子炉容器内に挿入し、中性子照射等による材料特性の変化を監視できる設計とされる。

(e) 原子炉冷却材バウンダリからの冷却材漏えいに対しては、バウンダリを構成する機器及び配管にサンプリング型又は接触型ナトリウム漏えい検出器が設けられ、これらにより速やかに検出できるようにされる。更に、安全保護系としての原子炉容器ナトリウム液位、原子炉格納容器床下雰囲気温度、ガードベッセル内漏えいナトリウム液位及び原子炉格納容器床上放射能の測定によって冷却材漏えいを検出できるようにされる。したがって、冷却材漏えいの速やかな検出が可能であり、また、確実な検出が十分できる。

(f) 原子炉冷却材バウンダリとなる機器及び配管は、原子炉の運転開始後、重要な部分に対し、供用期間中定期的に検査が行えるように、検査箇所へ検査機器等を接近できるよう配置が考慮される。

(ハ) 本件安全審査においては、以上の事項を確認したことから、本件原子炉施設の原子炉冷却材バウンダリの健全性は十分に確保されると判断した。

(2) 原子炉カバーガス等のバウンダリ

本件安全審査においては、原子炉カバーガス等のバウンダリが、異常な原子炉カバーガスの漏えいやバウンダリの破損の発生する可能性が十分小さくなるよう考慮された設計であるか否か、原子炉カバーガスのバウンダリの健全性を審査した。

そして、本件安全審査においては、原子炉冷却材バウンダリと合わせて原子炉からの放射性物質の放散に対する閉じた障壁を形成する原子炉カバーガス等のバウンダリについては、原子炉施設の寿命中を通じて高い信頼性を得るように、適切な材料選択、耐震設計等を行い、定格出力時の原子炉カバーガス圧力は十分低く抑える設計とされることから、異常な原子炉カバーガスの漏えい又はバウンダリの破損の発生する可能性は十分小さいとして、本件原子炉施設の原子炉カバーガス等のバウンダリの健全性は十分確保されると判断した。

(二) 二次主冷却系(中間冷却系)

(1) 本件安全審査においては、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時及び事故時における熱の輸送能力、蒸発器又は過熱器における伝熱管破損時の二次冷却材への水漏えいの対策、中間熱交換器の伝熱管破損時の二次冷却材中への一次冷却材の漏えい防止対策について検討し、二次主冷却系は、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時及び事故時において、一次主冷却系からの熱を確実に水・蒸気系あるいは補助冷却設備に輸送できる設計であるか否か、蒸発器又は過熱器における伝熱管からの水漏えいが生じた場合であっても、その影響により重要な構築物等の安全機能が失われることがない設計であるか否か、また、中間熱交換器伝熱管破損時に二次主冷却系に一次冷却材が漏れ出すことのない設計であるか否かを審査した。

(2) そして、本件安全審査においては、次の事項を確認した。

(イ) 通常運転時には、回転数可変の主モータによる一次及び二次主冷却系循環ポンプの運転を行い、一次主冷却系から二次主冷却系に伝えられた熱を蒸気発生器を介して水・蒸気系に伝達できる設計とされる。

(ロ) 運転時の異常な過渡変化時及び事故時においても、原子炉が自動停止された後は、ポニーモータにより一次及び二次主冷却系循環ポンプの運転を行い、炉心の崩壊熱及び他の残留熱は、一次主冷却系、二次主冷却系の一部、補助冷却設備を用いて除去される設計とされる。

(ハ) 二次主冷却系と水・蒸気系との境界となる蒸発器又は過熱器において伝熱管の破損が生じると、二次冷却材のナトリウムと水との反応が生じるが、これに対応するために、水漏えい検出設備を設け、二次冷却材のナトリウム中及び蒸気発生器カバーガス中の水素濃度を監視する。小漏えい時には、検出設備からの漏えい警報を受け、運転員の判断により水漏えい信号を発する。右信号により、蒸気発生器の水・蒸気側の遮断、内部の水、蒸気の急速なブロー、二次主冷却系循環ポンプ主モータのトリップ等の操作が自動で行われる。

(ニ) 万一、多量のナトリウム・水反応が発生した場合は、蒸発器のカバーガス圧力計又は蒸発器と過熱器のそれぞれに設けられる圧力開放板の開放検出器によって検出し、前述と同様の操作が自動的に行われる。

(ホ) 蒸発器及び過熱器には、圧力開放板を介して、ナトリウム・水反応生成物収納設備が備えてあり、万一多量のナトリウム・水反応が発生した場合でも、二次主冷却系の過度の圧力上昇は防止される。

(ヘ) 二次主冷却系は、一次主冷却系より高圧に維持し、万一、一次主冷却系との境界となる中間熱交換器において伝熱管に破損が生じても、一次冷却材が二次冷却材中に漏れ出すことのない設計とされる。なお、中間熱交換器伝熱管の破損による二次冷却材の一次主冷却系への漏えいは、一次ナトリウムオーバフロータンク及び二次ナトリウムオーバフロータンクの液位監視によって検知する。

(3) 本件安全審査においては、以上の事項を確認したことから、本件原子炉施設の二次主冷却系の設計は妥当であると判断した。

(三) 残留熱除去に係る系統

(1) 本件安全審査においては、残留熱除去に係る系統の除熱能力及び信頼性について検討し、残留熱除去に係る系統が、原子炉停止時に、燃料の許容設計限界を超えず、原子炉冷却材バウンダリの健全性を損なわないように、炉心からの核分裂生成物の崩壊熱及び他の残留熱を除去できるか否か、また、一次冷却材漏えい事故等の想定される事故に対して、燃料の重大な損傷を防止できるか否かを審査した。

(2) そして、本件安全審査においては、次の事項を確認した。

(イ) 炉心からの核分裂生成物の崩壊熱及び他の残留熱は、原子炉の通常停止直後においては、一次主冷却系、二次主冷却系を経て、蒸発器により除去され、発生蒸気は復水器により処理される。その後、原子炉を低温停止状態に移行する段階においては、補助冷却設備空気冷却器により大気に伝達することによって、熱除去が行われる。また、運転時の異常な過渡変化時及び事故時の原子炉停止時には、核分裂生成物の崩壊熱及び他の残留熱は、一次主冷却系、二次主冷却系の一部、補助冷却設備を経て、補助冷却設備空気冷却器によって大気に伝達され、原子炉冷却材バウンダリの健全性を損なうことなく、原子炉を低温状態に移行できる設計とされる。

(ロ) 補助冷却設備は、一次主冷却系、二次主冷却系に対応して、三系銃から構成され、補助冷却設備の動的機器は一次及び二次主冷却系循環ポンプのポニーモータと共に非常用電源にも接続されている。また、補助冷却設備は、一次主冷却系設備及び二次主冷却系設備とあいまって、自然循環により核分裂生成物の崩壊熱及び他の残留熱を除去できる設計とされる。

(ハ) 後記(第六、二、4、(二)、(5))のとおり、一次冷却材漏えい事故に対しても、ガードベッセル等により原子炉冷却材を確保し、補助冷却設備による一系統の運転によっても必要な熱除去能力を有する設計とされる。

(ニ) 主冷却系の一部が使用できないメンテナンス時の核分裂生成物の崩壊熱及び他の残留熱の除去においては、複数の補助冷却設備、あるいは補助冷却設備及びメンテナンス冷却系により大気に伝達することによって熱除去が行える設計とされる。メンテナンス冷却系の動的機器は非常用電源にも接続される。

(ホ) 残留熱除去に係る系統の信頼性を評価した結果、残留熱除去機能の喪失に至る確率は十分に低く、系統は高い信頼性を有する。

(3) 本件安全審査においては、以上の事項を確認したことから、本件原子炉施設の残留熱除去に係る系統の設計は妥当であると判断した。

(四) 冷却水系

本件安全審査においては、冷却水系の熱除去能力等について検討し、冷却水系が、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時及び事故時に、重要な熱構築物等の全熱負荷を最終的な熱の逃がし場に確実に伝達できるか否かを審査した。

そして、本件安全審査においては、重要な構築物等の冷却水系として、原子炉補機冷却水設備及び原子炉補機冷却海水設備が設けられること、原子炉補機冷却水設備は、原子炉補機等と原子炉補機冷却水を冷却する原子炉補機冷却海水設備との間にある中間冷却設備であり、制御用空気圧縮機、水中燃料貯蔵設備等の除熱を行う設計とされ、原子炉補機冷却海水設備は、原子炉補機冷却水熱交換器、ディーゼル発電機、機器冷却設備冷凍機、コンクリート冷却設備冷凍機及び空調用冷凍機の除熱を行い、最終的な熱の逃がし場である海水に熱を放出する設計とされること、これらの冷却水系は独立性及び多重性を有し、また動的機器は非常用電源にも接続されることを確認し、本件原子炉施設の冷却水系は、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時及び事故時においてその機能を果たし得るものであり、その設計は妥当であると判断した。

4 原子炉格納施設

(一) 原子炉格納容器及び付属設備

(1) 本件安全審査においては、原子炉格納容器の設計が、次の事項を満たすか否かを審査した。

(イ) 原子炉格納容器は、想定される事故条件のもとでの圧力、温度に耐え、かつ、その場合にも所定の漏えい率を超えないこと。

(ロ) 原子炉格納容器は、定期的に所定の圧力で原子炉格納容器全体の漏えい率試験及び検査ができること。

(ハ) 原子炉格納容器は、電線、配管等の貫通部及び出入口の重要な部分の漏えい率試験及び検査ができること。

(ニ) 原子炉格納容器のバウンダリは、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時、保修時、試験時及び事故時において、脆性的挙動を示さず、かつ、急速な伝播型破断を生じないこと。

(ホ) 原子炉格納容器を貫通する配管系は、原子炉格納容器の機能を確保するために必要な隔離能力を有すると共に、ベローを有する配管貫通部は、漏えい検出又は漏えい試験ができること。

(ヘ) 原子炉格納容器を貫通する配管に設けられる隔離弁は、定期的な動作試験が可能であり、かつ、弁の漏えい率が許容設計限界内にあることを確認できること。

(ト) 原子炉冷却材バウンダリに連絡するか、原子炉格納容器内に開口し、原子炉格納容器内を貫通している各配管は、事故時に必要する配管及び計測配管のような特殊な細管を除き、動力源の単一故障によっても自動隔離機能を喪失しない隔離弁を設けること。

(チ) 原子炉格納容器内側又は外側において閉じた系は、原則として、少なくとも一個の自動隔離弁を実用上可能な限り原子炉格納容器に接近して設けること。

(2) そして、本件安全審査においては、次の事項を確認した。

(イ) 本件原子炉施設の原子炉格納容器は、種々の条件を考慮し、最高使用圧力0.5キログラム毎センチメートルG、最高使用温度一五〇℃で設計されるが、事故想定後原子炉格納容器内圧が負圧となった場合でも原子炉格納容器の健全性を確保するため、原子炉格納容器設計外圧よりも小さい設定値で自動的に弁を用いて外気を導入するバキュームブレーカが設けられる。

(ロ) 原子炉格納容器と外部遮へい建物との間の配管、エアロック等の格納容器貫通部を含む区画はアニュラス部とし、事故時に原子炉格納容器から漏出する放射性物質を保持するのに十分な気密構造とされる。

(ハ) 原子炉格納容器の漏えい率は、最高使用圧力、常温窒素雰囲気において1%/d以下となる設計とされる。

(ニ) 原子炉格納容器は、定期的に漏えい率が設計値を超えないことを確認するために、全体漏えい率試験が行える設計とされる。

(ホ) 原子炉格納容器を貫通する電線、配管、エアロック等の重要な部分については、個々に試験が行える設計とされる。また、原子炉格納容器を貫通する配管系は、事故条件のもとでの圧力、温度に耐えられるように設計される。また、ベローを有する配管貫通部は、テストタップを取り付け、漏えい等試験が行える設計とされる。

(ヘ) 原子炉格納容器を貫通する配管系に設けられる隔離弁は、定期的な動作試験ができる設計とされると共に、弁の漏えい等試験が実施できるように、テストタップが設けられる。また、原子炉格納容器を貫通し、原子炉冷却材バウンダリに連絡するか、原子炉格納容器内に開口する配管には、原則として、原子炉格納容器内外にそれぞれ一つずつの自動隔離弁が設けられる。右隔離弁は、実用上可能な限り原子炉格納容器に接近して設けられ、単一故障を想定しても所定の機能が失わないようにされる。これらの隔離弁は、一次冷却材漏えい事故時等に必要とされる配管等を除いて、隔離信号により隔離される。

(ト) 原子炉格納容器を貫通している系統で隔離弁を設置していない配管は、事故時にその機能を必要とする系統であり、バキュームブレーカ用格納容器床上圧力計配管、安全保護系格納容器床上圧力計配管及び二次主冷却系配管である。両圧力計配管は、事故時にその機能を必要とする計測用細管であって、内部にはシリコン油が満たされており、かつ、原子炉格納容器バウンダリとして設計されることから、特に隔離弁を設けておらず、二次主冷却系配管は、事故時に炉心崩壊熱等を除熱するのに必要な配管であって、原子炉格納容器の内側の配管は原子炉格納容器バウンダリとして設計され、原子炉格納容器外側も開口していない閉回路で、かつ、二次主冷却材圧力は一次主冷却材圧力よりも高いことから、隔離弁を設けていない。

(チ) 原子炉格納容器の内側において閉じた系には、原子炉格納容器外側に実用上可能な限り原子炉格納容器に接近した位置に隔離弁が設けられる。

(リ) 原子炉格納容器は、耐震設計上Asクラスに属し、設計用限界地震による地震力に対してその安全機能が保持できるように設計され、脆性的挙動及び急速な伝播型破断を防止するために、原子炉格納容器本体及び貫通部は最低使用温度より一七℃低い以上温度で破壊靭性試験を行い、これに適合する材料が使用される。

(3) 本件安全審査においては、以上の事項を確認したことから、本件原子炉施設の原子炉格納容器の設計は妥当であると判断した。

(二) アニュラス浄化系

(1) 本件安全審査においては、アニュラス部の負圧達成能力、微粒子用フィルタユニットによるナトリウム・エアロゾル除去能力、よう素用フィルタユニットによるよう素除去能力等について検討し、アニュラス循環排気装置が、原子炉施設の破損、故障等に起因して、原子炉内の燃料の破損等による多量の放射性物質の放散の可能性がある事故時において、原子炉格納容器からの漏えい気体中に含まれるよう素を除去し、現境に放出される放射性物質の濃度を減少させることができるか否かを審査した。

(2) そして、本件安全審査においては、次の事項を確認した。

(イ) 本件原子炉施設のアニュラス循環排気装置は、それぞれ一〇〇パーセント容量の微粒子用フィルタユニット、よう素用フィルタユニットが設置され、非常用電源にも接続される循環排気ファン等から構成される二系統からなり、外部電源喪失及び系統内の単一故障を想定しても、その機能を果たし得る設計とされる。

(ロ) アニュラス部は常時負圧に保たれているが、よう素用フィルタユニットは、バイパスして排気することにより、バイパスラインからよう素用フィルタユニットへの系統切替えは八分以内に自動でできるように設計される。また、粒子用フィルタユニットのナトリウムエアロゾル除去効率及びよう素用フィルタユニットのよう素除去効率は九九パーセント以上となる設計とされる。この系統切替時間と除去効率は、後記(第六、二、4、第七、一、3及び同4)の解析結果からみても妥当である。

(ハ) アニュラス循環排気装置は、原子炉運転中でも、一系統ずつの起動試験及び性能チェックが可能なように設計される。

(3) 本件安全審査においては、以上の事項を確認したことから、本件原子炉施設のアニュラス循環排気装置の設計は妥当であると判断した。

5 燃料取扱い及び廃棄物処理系

(一) 燃料取扱い及び貯蔵設備

(1) 本件安全審査においては、燃料取扱い及び貯蔵設備の設計が、次の事項を満たすか否かを審査した。

(イ) 燃料貯蔵設備は、適切な格納機能、貯蔵容量を有し、また、想定されるいかなる場合でも未臨界性を有すること。

(ロ) 燃料取扱設備に対しては、適切な試験、検査ができると共に、燃料落下防止対策が講じられていること。

(ハ) 使用済燃料貯蔵設備は、放射線遮へい、冷却材の冷却及び浄化並びに漏えい防止及び検知機能を有し、想定される燃料落下時にも損傷しないこと。

(ニ) 燃料の取扱場所は、崩壊熱の除去能力の喪失に至る状態及び過度の放射線レベルが検出でき、かつ、その事態を適切に従事者に伝えるか又は自動的に対処できること。

(2) そして、本件安全審査においては、次の事項を確認した。

(イ) 新燃料貯蔵ラック、燃料池及び炉外燃料貯蔵槽の貯蔵ラックは、所定の位置以外には燃料集合体を挿入できない構造とされ、各ラックのセルに一体ずつ適切に収納される。

(ロ) 新燃料は、新燃料貯蔵ラック及び炉外燃料貯蔵槽に、使用済燃料は炉外燃料貯蔵槽及び燃料池に貯蔵されるが、これらの貯蔵施設の容量は、新燃料貯蔵ラックで約五〇体、炉外燃料貯蔵槽で約二五〇体、燃料池で約一四〇〇体であり、通常運転時に必要となる新燃料及び使用済燃料の適切な容量を貯蔵できる設計である。

(ハ) 新燃料貯蔵室は、水が充満するのを防止するために排水口が設けられるが、容量一杯の新燃料を貯蔵した状態で、貯蔵ラックが純水で満たされるという厳しい異常状態を想定しても、実効増倍率は0.95以下に保たれる設計とされる。また、新燃料貯蔵室には、水消火設備を設けない設計とされるが、いかなる密度の水分で満たされた場合でも臨界未満になる設計とされる。

(ニ) 使用済燃料等を貯蔵する燃料池及び炉外燃料貯蔵槽の貯蔵ラックは、貯蔵燃料の臨界を防止するために、適切な燃料集合体間距離を取ることにされており、容量一杯の燃料を貯蔵しても、実効増倍率は0.95以下に保たれる設計とされる。

(ホ) 燃料取扱器等の安全上重要な機器は、定期的な試験、検査が可能な設計とされる。

(ヘ) 使用済燃料貯蔵設備の上は、使用済燃料輸送容器等の重量物が通過できないようになっており、また、燃料取扱設備は、取扱中の燃料集合体の落下を防止する対策がとられる。

(ト) 炉外燃料貯蔵槽は、燃料貯蔵容器上部に気密及び遮へいのための炉外燃料貯蔵遮へいプラグが設けられ、また燃料池は、側面にコンクリート壁による遮へいが設けられ、使用済燃料の上部には十分な水深があることから、燃料取扱い及び貯蔵時に適切な遮へい効果を有する。

(チ) 炉外燃料貯蔵冷却設備は、独立の三系統の冷却系からなり、全貯蔵容量の使用済燃料を貯蔵したとしても、崩壊熱の除去及び純化が十分となる設計とされ、一系統のみの運転でも炉外燃料貯蔵槽の出口ナトリウム温度を約三〇〇℃以下に保つことができる。

(リ) 燃料池水冷却浄化装置は、ポンプ及び冷却器の多重性を有し、全貯蔵容量の使用済燃料を貯蔵したとしても、崩壊熱の除去及び浄化が十分できる設計とされ、燃料池水平均温度を五二℃以下に保つことができる。なお、冷却材の温度が異常に上昇した場合には、燃料取扱設備操作室に警報を発する設計とされ、冷却材の漏えい防止及び漏えい検知について設計上配慮される。炉外燃料貯蔵層及び燃料池は、燃料集合体の取扱中の万一の落下を想定しても、著しい冷却材の減少を引き起こすような損傷は生じない設計とされる。使用済燃料の原子炉容器から炉外燃料貯蔵槽までの移送、炉外燃料貯蔵槽から燃料池までの移送は、いずれにおいても冷却系は取扱中の燃料からの崩壊熱を十分除去できる設計とされる。燃料取扱設備室の空気は、フィルタユニットを内蔵する換気装置によって浄化され、排気筒から排気筒モニタによって放射能を監視しながら排気される。

(ヌ) 燃料取扱事故が発生した場合には、十分信頼性のある検出器により事故が検出され、燃料取扱設備の排気は、排気系統を切り換え、よう素除去効率九五パーセントのフィルタを内蔵するフィルタユニットによって浄化されて排気筒から排出される。燃料取扱事故時の換気装置の機能は、後記(第六、二、4、(三)、(1))の燃料取扱事故の解析結果からみても妥当である。

(ル) 使用済燃料貯蔵エリアには、放射線監視のためのエリアモニタが設置され、万一、放射能レベルが異常に上昇した場合には、中央制御室に警報を発する設計とされる。

(3) 本件安全審査においては、以上の事項を確認したことから、燃料取扱場所の放射能レベル検出及び空気浄化は適切に行われるとして、本件原子炉施設の燃料取扱い及び貯蔵設備の設計は妥当であると判断した。

(二) 放射性気体廃棄物処理設備

(1) 本件安全審査においては、放射性気体廃棄物の発生量と処理能力、放出管理、換気設備の性能等について検討し、放射性気体廃棄物処理設備が、適切なろ過、貯留、減衰、管理等を行うことにより、周辺環境に放出される放射性物質の濃度及び量を合理的に達成できる限り低減できる設計であるか否かを審査した。

(2) そして、本件安全審査においては、次の事項を確認した。

(イ) 一次アルゴンガス系設備の圧力制御に伴い排出される廃ガス等の放射性希ガスを含んだ廃ガスは、活性炭吸着塔装置にて、キセノンは約三〇日間、クリプトンは約四〇時間保持できる設計とされる。

(ロ) 換気設備の系統には、微粒子フィルタを設置することにより、放出放射性物質の量を低減する設計とされる。

(ハ) 放射性気体廃棄物処理設備及び換気設備からの放射性気体廃棄物は、放射性物質の濃度を監視し、排気筒から放出されることとされる。

(ニ) 放射性気体廃棄物による一般公衆の被曝線量は、後記(第五、一、2、(三))のとおり、放出される放射性液体廃棄物によるものと合計しても、「許容被曝線量等を定める件」の定める「公衆の許容被曝線量」を十分下回っており、合理的に達成できる限り低くするための設計上の対策が取られている。

(3) 本件安全審査においては、以上の事実を確認したことから、本件原子炉施設の放射性気体廃棄物処理設備の設計及び処理方法は妥当であると判断した。

(三) 放射性液体廃棄物処理設備

(1) 本件安全審査においては、放射性液体廃棄物の発生量と処理能力、放出管理等について検討し、放射性液体廃棄物処理設備が、適切なろ過、蒸発処理、脱塩処理貯留、減衰、管理等を行うことにより、周辺環境に放出される放射性物質の濃度及び線量を合理的に達成できる限り低減できる設計であるか否かを審査した。

(2) そして、本件安全審査においては、次の事項を確認した。

(イ) 放射性液体廃棄物処理設備には、処理する廃液の性状に応じて、廃液受入タンク、洗濯廃液受入タンク、廃液蒸発濃縮装置、洗濯廃液蒸発濃縮装置、脱塩塔等が設けられるが、これらの設備は、処理容量等からみて、発生廃液を十分処理する能力を有する。

(ロ) 右設備は、適切な材料の選定、タンク水位等の警報、インタロック等による漏えいの発生防止、漏えい検知器等による漏えいの早期検知及び主要な機器を独立した区画に設けるか、周辺に堰を設けるか等による漏えいの拡大防止等が行える設計とされる。

(ハ) 右設備で処理された処理水は、その一部が機器洗浄水として再使用されるが、洗濯廃液の処理水等放射能レベルの著しく低いものは、あらかじめ放射性物質の濃度が十分低いことを確認した後、モニタによって監視しながら復水器冷却水と混合希釈して放出する。

(ニ) 放射性液体廃棄物放出による一般公衆の被曝線量は、後記(第五、一、2、(三))のとおり、放出される放射性気体廃棄物によるものと合計しても、「公衆の許容被曝線量」を十分下回っており、合理的に達成できる限り低くするための設計上の対策もとられている。

(3) 本件安全審査においては、以上の事実を確認したことから、本件原子炉施設の放射性液体廃棄物処理設備の設計及び処理方法は妥当であると判断した。

(四) 放射性固体廃棄物処理設備

(1) 本件安全審査においては、従事者の被曝低減対策、放射性固体廃棄物の発生量、固体廃棄物貯蔵庫の貯蔵及び遮へい能力等について検討し、放射性固体廃棄物処理設備が、遮へい、遠隔操作等によって、従事者の被曝線量を合理的に達成できる限り低減できる設計であるか否か、また、放射性個体廃棄物貯蔵設備が、発生する放射性固体廃棄物を貯蔵する容量が十分であると共に、放射性固体廃棄物の貯蔵による本件敷地周辺の空間線量率を合理的に達成できる限り低減できる設計であるか否かを審査した。

(2) そして、本件安全審査においては、次の事項を確認した。

(イ) 濃縮廃液及び使用済樹脂は、アスファルト固化装置によりアスファルトと混合加熱し、水分を蒸発して、ドラム詰めされる。ドラム充填室には、従事者の被曝線量を低減できるよう、遮へい壁、鉛ガラス等が設けられるが、ドラム缶の移動及びドラム詰めは遠隔操作で行える設計とされる。圧縮可能な雑固体廃棄物は、ベイラにて圧縮処理し、ドラム詰めされる。また、使用済活性炭はドラム詰めされ、使用済排気用フィルタ類は梱包される。

(ロ) 固体廃棄物貯蔵庫は、推定される放射性固体廃棄物の約一五年分を貯蔵保管でき、必要に応じて増設される。また、使用済制御棒集合体等は、その放射能を減衰させるため、水中燃料貯蔵設備及び固体廃棄物貯蔵プールに貯蔵保管される。

(ハ) 放射性固体廃棄物の貯蔵保管に当たっては、従事者の被曝線量を低減するため、必要なものについては十分な遮へいを設けると共に、遠隔操作が可能なように設計される。

(ニ) 固体廃棄物貯蔵庫からの直接線量及びスカイシャイン線量は、原子炉格納容器内線源等によるものと合計して、人の居住の可能性のある本件原子炉施設敷地境界外において、合理的に達成できる限り低くなるように設計され、管理される。

(3) 本件安全審査においては、以上の事実を確認したことから、本件原子炉施設の放射性固体廃棄物処理設備及び放射性固体廃棄物貯蔵設備の設計及び処理方法は妥当であると判断した。

6 放射線防護及び処理施設

(一) 放射線防護設備

(1) 本件安全審査においては、遮へい設計方針、機器の配置、放射性物質の漏えい防止対策及び換気能力等について検討し、放射線防護設備が、従事者等が立入場所において不必要な放射線被曝を受けないように、作業性等を考慮して所要の措置を講じた設計であるか否かを確認した。

(2) そして、本件安全審査においては、次の事項を確認した。

(イ) 遮へいについては、従事者等が受ける被曝線量が、法令で定められた許容値を超えないようにすることはもちろん、不必要な放射線被曝を防止するため、従事者等の関係各場所への立入頻度、滞在時間等を考慮し、原子炉本体遮へい、一次冷却系遮へい、原子炉格納容器外部遮へい、燃料取扱及び貯蔵設備遮へい等が設けられる。

(ロ) 機器の配置については、放射性物質を内蔵するタンク、ポンプ、熱交換器等は、原則として区分された区域に配置し、制御盤等の保修頻度の高い電気計装品は、放射線量率の低い区域に配置される。また、放射線量率の高い区域に設けられる機器の操作は、遠隔又は自動操作ができるように設計される。

(ハ) 放射性物質の漏えい防止対策については、一次冷却材等の放射性物質の濃度の高い液体が可能な限り漏えいしない設計とされ、万一、漏えいが生じた場合でも、汚染が拡大しないよう、機器が独立した区画内に配置され、又はこれらの機器の周辺には堰が設けられる。また、主要な床ドレンには漏えい検知器が設置されることにより、漏えいの早期発見が可能な設計とされる。

(ニ) 換気設備は、原子炉格納施設、原子炉補助建物、中央制御室等の各区域の換気に必要な容量を有し、作業環境の空気を清浄に保つことができる設計となっている。また、各換気設備のフィルタは、点検及び交換ができる設計とされる。

(3) 本件安全審査においては、以上の事実を確認したことから、本件原子炉施設の放射線防護設備の設計は妥当であると判断した。

(二) 放射線監視及び管理設備

(1) 本件安全審査においては、放射線管理設備が、従事者等を放射線被曝から防護するため、放射線被曝を十分に監視及び管理できると共に、必要な情報を中央制御室又は適当な管理場所に通報できる設計であるか否か、また、本件敷地周辺の放射線を監視するため、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時及び事故時において、原子炉格納容器、放射性物質の放出経路、本件敷地周辺等を適切にモニタリングできるか否かを審査した。

(2) そして、本件安全審査においては、次の事項を確認した。

(イ) 従事者等の放射線被曝の監視及び管理について、管理区域を設定して人の出入りを管理すると共に、これらの区域内においては、外部放射線量率及び空気中の放射性物質の濃度等を監視し、その結果を管理区域内等の諸管理に反映する。

(ロ) 管理区域内への立入り及び物品の搬出入を管理するための出入管理設備及び汚染管理設備が設けられるほか、エリアモニタリング設備、プロセスモニタリング設備、放射線サーベイ設備及び個人管理関係設備が設けられる。

(ハ) エリアモニタリング設備は、中央制御室及び管理区域内の主要箇所の空間線量率を、また、プロセスモニタリング設備は、主要系統の放射能レベルを中央制御室に指示記録し、異常時には中央制御室及びその他必要な箇所に警報を発する設計とされる。

(ニ) 本件敷地周辺の放射線監視については、放出源の監視用として、原子炉施設内にプロセスモニタリング設備(排気筒モニタ、排水モニタ)が設けられ、野外監視用として、野外管理用モニタリング設備が設けられる。

(ホ) 原子炉格納容器内雰囲気のモニタリングは、格納容器ガスモニタ及び格納容器ダストモニタによって連続的に行い、また、原子炉格納容器内の雰囲気ガスをサンプリングすることにより、放射性物質の濃度等を測定することもできる設計とされる。また、一次冷却材及び一次アルゴンガス中の放射性物質の濃度は、サンプリング測定できる設計とされる。更に、放射性物質の放出径路である排気筒、復水器冷却水放水路にモニタを設置するほか、必要箇所においてサンプリング測定できる設計とされる。排気筒のモニタリング、原子炉格納容器内雰囲気ガスのサンプリング等による監視及び測定は、事故時においても対応しうる設計とされる。

(ヘ) 野外監視用としては、発電所周辺にモニタリングポスト及びモニタリングポイントが設置される。また、放射性物質の異常放出等があった場合には、モニタリングカーにより放射線測定等を行い、放出された放射性物質の周辺環境に及ぼす影響を監視できる。

(ト) 事故時に必要な放射線監視設備は、非常用電源に接続される。

(3) 本件安全審査においては、以上の事実を確認したことから、本件原子炉施設の放射線監視及び管理設備の設計は妥当であると判断した。

7 本件安全審査の結論

本件安全審査においては、本件原子炉施設の安全設計は妥当であると判断した。そして、更に、本件原子炉の施設の平常運転に伴う一般公衆の被曝線量評価(後記第五)を行って本件原子炉施設の平常運転時における安全性を確認し、また、運転時の異常な過渡変化、事故、技術的には起こるとは考えられない事象の各解析評価(後記第六)を行って、本件原子炉施設の事故防止対策に係る安全性を確認した。

8 設置変更許可申請

なお、本件許可処分の後、申請者は、昭和六〇年二月一八日付け及び昭和六一年九月二九日付けでそれぞれ原子炉設置変更許可申請をし、昭和六一年三月二五日付け及び昭和六二年二月六日付けでそれぞれ右設置変更が許可され、それに基づいて、①一次アルゴンガス系設備に設けられる常温活性炭吸着塔の放射能減衰能力を向上し(他方で、希ガス除去・回収設備は削除された)、②右に述べた液体廃棄物処理設備の廃液蒸発濃縮装置からの濃縮廃液や使用済樹脂をアスファルト固化するとしていたものを、プラスチック固化することとし、③本件原子炉施設の従業員が使用した衣類等の洗濯については洗濯廃液蒸発濃縮装置を削除し、ドライクリーニングを採用するなどの設備変更が行われた。これらについては、右設置変更許可に際しての安全審査において、平常運転時における被曝低減対策に係る安全性が確保されると評価されている。

二  当裁判所の判断

1 原子炉施設の安全性の確保とは、前記(第一、三、2)のとおり、原子炉施設の有する潜在的危険性を顕在化させないよう、放射性物質の環境への放出を可及的に少なくし、これによる災害発生の危険性を社会通念上容認できる水準以下に保つことである。したがって、本件原子炉施設の安全設計が妥当であるといえるためには、その基本設計ないし基本的設計方針において、第一に、原子炉の平常運転に伴って環境へ放出される放射性物質による公衆の被曝線量を十分低く抑えることができるよう、平常運転時の被曝低減対策が講じられ、安全性を確保しうるものとなっていることが必要であり、第二に、原子炉の平常運転を乱す異常な事象が発生することのないよう、また、仮にこれが起きた場合であっても異常を拡大させることなく、また、放射性物質が環境に放出されることのないようにし、公衆の被曝線量を十分低く抑えることができるよう、各種の事故防止対策が講じられ、安全性を確保しうるものとなっていることが必要である。

2(一) そして、平常運転時の被曝低減対策としては、本件原子炉施設の平常運転時における原子炉施設に内包される放射性物質としては、①燃料としての核燃料物質、②燃料の核分裂反応によって生じる核分裂生成物、③炉心燃料集合体等の炉心構成要素の構造材等が中性子により放射化されることによって生じる放射化生成物があるから、その基本設計ないし基本的設計方針において、

(1) 放射性物質が燃料被覆管内から一次系中に現れることをできるだけ防止し、また、一次系中に現れた放射性物質については、これをできるだけ一次系内に閉じ込めることができること

(2) 一次系外に現れた放射性物質を、その形態に応じて適切に処理し得る放射性廃棄物処理施設が設けられ、一次系外に現れる放射性物質の環境への放出をできる限り低く抑えることができること

(3) 平常運転に伴って環境に放出される放射性物質の放出量及び環境における濃度、線量率等を適切に監視することができる放射線監視及び管理設備が設けられていること

が確認されれば、原子炉の平常運転に伴って環境へ放出される放射性物質による公衆の被曝線量を十分低く抑えることができ、平常時の被曝低減対策が講じられ、安全性が確保されているものと評価することができる。

(二) また、事故防止対策としては、その基本設計ないし基本的設計方針において、

(1) 所要の異常発生防止対策が講じられること、すなわち、原子炉が安定した運転を維持しえ、また、燃料被覆管、原子炉冷却材バウンダリ及び原子炉カバーガス等のバウンダリの各々の健全性が確保できること

(2) 所要の異常拡大防止対策が講じられること、すなわち、原子炉施設において何らかの異常が発生した場合にも、所要の措置が取れるように、その異常の発生を確実に検知し得ること、何らかの異常が発生した場合に、その異常が拡大したり、さらには、放射性物質が環境へ異常に放出するおそれのある事態に発展することを未然に防止するために、原子炉を速やかに停止し、原子炉が緊急停止した後も炉心を冷却できること

(3) 所要の放射性物質異常放出防止対策が講じられること、すなわち、仮に放射性物質を環境に異常に放出するおそれのある事態が発生した場合においてもなお、放射性物質の環境への異常な放出を防止できること

が確認されれば、各種の事故防止対策が講じられ、安全性を確保しうるものと評価することができる。

3 そこで、本件安全審査をみるに、本件安全審査においては、前記一の内容等から、次の事項が確認されたということができる。

(一) 平常時の被曝低減対策について

(1) 放射性物質の一次系中への出現の抑制と一次系内への閉じ込めについては、①燃料被覆管の健全性、炉心構成要素等の構造材等の健全性が確認されたこと(1、(一)、(4))によって、放射性物質が燃料被覆管内から破壊・腐食等によって一次系中に現れるのを抑制できることが確認されたといえ(なお、炉心構成要素の構造材等が中性子により放射化されることによって生じる放射化生成物が一次冷却材に溶け込むことも考えられるが、これについては、炉心構成要素の構造材にナトリウムとの共存性に優れたステンレス鋼を用い、一次冷却材ナトリウムの純度管理を行い得るコールドトラップ等を設けて右構造材等を腐食の生じ難い状態に保つ(乙一六・八―一―二五頁)ことにより抑制される。)、②一次系が十分な強度を持たせた機器、配管等から構成されること(3、(一)、(1)及び同(2))、一次アルゴンガス系に放射能を減衰できる常温活性炭吸着塔の設置が確認されたこと(5、(二)、(2))によって、一次系中に現れた放射性物質をできるだけ一次系内に閉じ込めることができることが確認されたといえる。

(2) 放射性廃棄物処理施設については、気体廃棄物処理設備、液体廃棄物処理設備、固体廃棄物処理設備の健全性が確認されたこと(一、5、(二)ないし(四))によって、一次系外に現れる放射性物質の環境への放出をできる限り低く抑えることができることが確認されたといえる。

(3) 放射線監視及び管理設備については、その性能及び健全性が確認されたこと(6、(二))によって、放射線物質の放出量及び放出後の環境中における濃度、線量率等を監視することができることが確認されたといえる。

(二) 事故防止対策について

(1) 異常発生防止対策については、原子炉がすべての運転範囲で固有の負の反応度フィードバック特性を有する設計であること(1、(一)、(1))、燃料被覆管や原子炉冷却材バウンダリ及び原子炉カバーガス等のバウンダリの健全性を確保するために必要な諸変数が適切な範囲に維持され、かつ、監視できる設計であること(1、(二)、(2))から、原子炉の運転は安定した状態に維持されることが確認された。また、燃料被覆管(1、(一)、(4))、原子炉冷却材バウンダリ(3、(一)、(1))、原子炉カバーガス等のバウンダリ(3、(一)、(2))の各健全性が確認された。これによって、所要の異常発生防止対策が講じられていることが確認されたといえる。

(2) 異常拡大防止対策については、異常の発生を確実に検知し得る設計であること(1、(二)、(2))、何らかの異常が発生した場合に、原子炉を速やかに停止し、原子炉が緊急停止した後も炉心を冷却できること(1、(二)、(1)、2、(一)、同(三)及び3、(三))等安全保護系の信頼性が確認されたことから、所要の異常拡大防止対策が講じられていることが確認されたといえる。

(3) 放射性物質異常放出防止対策については、工学的安全施設として、原子炉が緊急停止した後に炉心を冷却するための補助冷却設備が設置されること(3、(三))、一次冷却材の漏えいが生じた場合であっても、漏えいしたナトリウムを受け止め、炉心の冷却の維持に必要な冷却材を確保するためのガードベッセルが設置されること(3、(三))、原子炉バウンダリから漏えいした放射性物質を封じ込めるために、原子炉格納容器、外部遮へい建物及び両者の間の負圧の密閉部分(アニュラス部)からなる原子炉格納施設が設置されること(4、(一))、アニュラス部を常に負圧に保ち、原子炉格納容器からアニュラス部に漏えいした放射性物質を除去するために、アニュラス循環排気装置が設置されること(4、(二))、配管の破損等による一次アルゴンガス漏えい事故が生じた場合であっても、常温活性炭吸着塔内に吸着した放射性物質を環境に異常に放出することを防止するための一次アルゴンガス系収納施設が設置されること(乙一六・八―七―一五頁)が確認され、その信頼性が確認されたことから、所要の放射性物質異常放出防止対策が講じられていることが確認されたといえる。

4  このようにみると、本件原子炉施設の安全設計についての本件安全審査における調査審議及び判断の過程に、重大かつ明白な瑕疵といえるような看過し難い過誤、欠落があるとは認められないというべきである。

三  原告らの主張について

1 多重防護の考え方について

原告らは、本件安全審査における多重防護の考え方では安全は確保できない旨主張する。

しかし、前記(第一、四、2、(二))のとおり、①異常事象の発生を防止し(異常の発生防止)、次に、②仮に異常事象が発生したとしても、それが拡大し事故(周辺環境へ放射性物質を大量に放出するに至るおそれのある事態)に発展することを防止し(異常事象の拡大及び事故への発展の防止)、更には③万一事故に発展したとしても周辺環境へ放射性物質が大量に放出されることを防止する(放射性物質の異常放出の防止)という考え方に立脚した設計がされていれば、本件原子炉施設の安全性を確保することができるといえるところ、本件安全審査にいう「多重防護」も右の考え方をいうのであるから、安全性の確保について十分な合理性を有するものである。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

2 原子炉の安定した運転の維持について

(一) ボイド係数について

原告らは、本件原子炉施設は、ナトリウムの沸騰によりボイド係数が正となるから、原子炉の安定した運転の維持は困難であり、本質的に欠陥を有する旨主張する。

本件原子炉施設において、ナトリウムが沸騰した場合のボイド係数は炉心中央付近で正であることは当事者間に争いがない。しかし、前記(一、1、(一)、(2))のとおり、本件安全審査においては、ナトリウムが沸騰しないように設計されていることを確認しており、これを敷衍すると次のとおりである。

① 乙一六・八―三―三〇ないし三三頁、五二頁、五四頁によれば、本件安全審査においては、原子炉の主たる出力を担う炉心燃料集合体からの発熱が、ブランケット燃料集合体からの発熱の約九倍以上あるので、炉心燃料集合体に対しては高い圧力でナトリウムを供給してナトリウムの流量を大きくし、ブランケット燃料集合体に対しては低い圧力でナトリウムを供給してナトリウムの流量を小さくするよう、原子炉容器内には、炉心燃料集合体にナトリウムが流入する高圧プレナムとブランケット燃料集合体にナトリウムが流入する低圧プレナムとが設けられていること、炉心燃料集合体及びブランケット燃料集合体からの発熱は、いずれも周辺領域から中心領域に近づくにしたがって大きくなるため、炉心燃料集合体を装荷する領域については、内側炉心五領域と外側炉心三領域との八流量領域に、また、ブランケット燃料集合体を装荷する領域については、三流量領域にそれぞれ分割した上、炉心燃料集合体については、エントランスノズルが挿入される連結管に設ける流量調節機構(スリット)並びにエントランスノズルのオリフィス孔との組合せにより、また、ブランケット燃料集合体については、連結管下端に設ける流量調節機構により、分割した領域ごとに発熱に応じたナトリウムの流量を確保すること、これにより、定格出力時における炉心燃料集合体部及びブランケット燃料集合体部の各ナトリウムの最高温度は、それぞれ約六五九℃及び約六九六℃と、いずれもナトリウムの沸点(大気圧下で約八八〇℃)に対して十分余裕あるものとなることを確認したことが認められ、その合理性に疑いを入れるような証拠はない。したがって、本件原子炉施設においてナトリウムが沸騰しボイドが生じることは想定し難い。

② また、沸騰以外にナトリウム中にボイドが生じる要因としては、カバーガスのナトリウム中への混入等が考えられるところ、本件安全審査においては、後記(第六、二、4、(一)、(3))のとおり、ナトリウム液面真下に液面の波立ちを防止するディッププレートが設けられることによって、ナトリウム液面の波立ちは生じにくく、このため、液面上のカバーガスがナトリウムに混入することはないこと、仮に何らかの原因によりナトリウム中に気泡が混入したとしても、炉内構造物等にガス抜き孔が設けられることから、混入した気泡はカバーガス中に排出され、原子炉容器下部プレナムでの気泡の滞留は防止されること、ナトリウムを充てんする際にナトリウムと共にガスが混入したとしても、一次主冷却系配管、弁及び中間熱交換器に設けられたガス抜きラインによってガス抜きが行われ、右ガスがナトリウム中に残存することがないことを確認しており、これを不合理とする証拠はない。

③ そして、前記(1、(一)、(1))に加え、証人秋山の証言(秋山調書(一)九丁裏、一〇丁表)、乙一六・八―三―二六頁、五〇頁及び乙イ二によれば、本件安全審査においては、ドップラ係数、燃料温度係数、冷却材温度係数等を総合した出力係数がすべての運転範囲で常に負に保たれ、すべての運転範囲において、原子炉固有の負の反応度フィードバック特性を有していることを確認したことが認められ、これを不合理とする証拠はない。

④ なお、本件安全審査においては、後記(第六、二、(一)、(3))のとおり、「事故」として「気泡通過事故」(原子炉容器内の一次冷却材中に気泡が混入し、燃料集合体下部のエントランスノズルを通して、一次冷却材と共に右気泡が炉心内を通過するという事象)を想定した解析評価について審査しているが、右解析評価においては、炉内構造物等に設けられるガス抜き孔の効果を無視した場合に滞留することとなる最大量の気泡が通過するものとして、原子炉容器下部プレナム中の高圧プレナムの連結管間隙空間容積のうちスリット上端より上の部分の体積に相当する二〇リットルの気泡を考えるものとし、また、右気泡が炉心支持板の下部から一斉に燃料集合体へ上昇するなどの厳しい前提条件を仮定しても、解析の結果、ナトリウムの最高温度は過度に上昇することはなく、ナトリウムは沸騰しないとの結果が得られており、その妥当性を確認している。

さらに、後記(第六、一及び同二)のとおり、本件安全審査においては、「運転時の異常な過渡変化」として、「出力運転中の制御棒の異常な引き抜き」、「一次冷却材流量減少」及び「蒸気発生器伝熱管小漏えい」等を、また、「事故」として、「制御棒急速引抜事故」及び「一次冷却材漏えい事故」等を想定した解析評価について審査しているが、解析の結果、いずれの事象においても、ナトリウムは沸騰しないとの結果が得られており、その妥当性を確認している。また、後記(第六、三)のとおり、本件安全審査においては、「技術的には起こるとは考えられない事象」として、「一次主冷却系配管大口径破損事象」及び「一次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象」を想定した解析評価について審査しているが、解析の結果、ナトリウムの沸騰は生じるものの、炉心は冷却され、かつ、原子炉格納容器の健全性は損なわれないこと等から、放射性物質の放散は適切に抑制されるとの結果が得られており、その妥当性を確認している。

このようにみると、本件原子炉施設においてボイド係数を問題にする必要はないというべきである。

原告らは、チェルノブイリ四号炉において、反応度事故が発生したことを指摘する。しかし、後記(第八、二)のとおり、右の事故の原因は、チェルノブイリ四号炉はRMBKであるため常にボイドが存在するのに、ボイド係数が大きな正の値となり、ボイド係数に燃料温度係数等を総合した出力係数が、定格出力運転時には負の値であるものの、低出力運転時には正の値となる炉心特性を有していたこと及び運転員の規則違反にあるところ、右事故の原因は、本件原子炉施設に共通するものではなく、右事故の発生は本件原子炉施設の安全性を左右するものではない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(二) 即発中性子の寿命と遅発中性子の割合について

原告らは、本件原子炉施設は、軽水炉と比べると、即発中性子の寿命が短く、かつ、遅発中性子の割合が少ないから、即発臨界に至る可能性が高い旨主張する。

この点、本件原子炉施設における即発中性子の寿命(一〇〇万分の一秒)は、軽水炉のそれ(一万分の一秒)より短いこと、本件原子炉施設におけるすべての中性子に占める遅発中性子の割合(0.0034ないし0.0038)は、軽水炉のそれ(0.005ないし0.007)の半分程度であることは、当事者間に争いがない。

しかし、そのことから直ちに本件原子炉施設が軽水炉に比べて即発臨界に至る可能性が高いということはできない。

すなわち、原子炉において核分裂反応に伴って発生する中性子には、核分裂反応に際し即発的に発生する即発中性子と、ある程度遅れて発生する遅発中性子とがあり、原子炉が臨界状態で運転されているときには、即発中性子だけで臨界状態とされているのではなく、遅発中性子が寄与することにより臨界状態とされているところ、即発中性子の寿命は、軽水炉であれ高速増殖炉である本件原子炉施設であれ、一万分の一秒以下であるため、即発中性子を利用して原子炉を制御することはできず、原子炉の制御は、遅発中性子を利用して行われることは当事者間に争いがない。

そうすると、即発中性子の寿命の長短は、原子炉制御の困難さとは直接関連するものではなく、他方、達発中性子の寿命は、軽水炉においても、本件原子炉施設においても、平均して一〇秒程度であるから、この点で本件原子炉施設の制御が軽水炉より困難であるということはできない。

もっとも、軽水炉においても、本件原子炉施設においても、炉心に投入される反応度がすべての中性子に占める遅発中性子の割合と同じ値になった場合には、いわゆる即発臨界となり、もはや原子炉の制御を行うことはできないところ、本件原子炉施設の遅発中性子割合は、軽水炉のそれの半分程度であるから、数値的には、即発臨界に至るまでの反応度は軽水炉より小さく、容易に即発臨界に至ることになる。しかし、右遅発中性子の割合を念頭に置いて、炉心に投入される反応度がすべての中性子に占める遅発中性子の割合の値に比し十分に小さくなるように設計すれば、余裕を持って反応度を制御することができる。

そして、証人秋山の証言(秋山調書一・二一丁裏、二二丁表)によれば、本件原子炉施設において制御棒操作により炉心に投入される反応度は、最大の場合であっても、一秒当たり0.00008△k/k以下であり、すべての中性子に占める遅発中性子の割合の値に比し約一〇〇分の二以下と十分に小さくなっていること、すなわち、即発臨界となるときの反応度の大きさ(一ドル=一〇〇セント)に比し、一秒当たり約二セント(0.00008÷0.0034ないし0.0038)と十分に小さな値であることを確認したことが認められ、その合理性に疑いを入れるような証拠はない。

そうすると、本件原子炉は制御棒の操作により十分な時間的余裕をもって反応度を制御できるといえるから、本件原子炉施設が軽水炉に比べて即発臨界に至る可能性が高いということはできない。

そして、前記(一、1、(二)、(1))に加え、乙一六・八―一―四五頁、四九頁、八―九―一頁、一七ないし二一頁によれば、本件安全審査においては、本件原子炉施設の通常運転時に原子炉出力を変更する場合や、運転状態を乱すような何らかの外乱が入った場合、原子炉出力等を安定に制御し、併せて、炉心の中性子束、一次冷却系の流量、原子炉容器出口のナトリウム温度等の重要な諸変数を適切な範囲に維持するために、原子炉制御設備が設置されることを確認したことが認められ、その合理性に疑いを入れるような証拠はない。

また、前記(一、1、(一)、(1))のとおり、本件安全審査においては、本件原子炉施設は、原子炉固有の負のフィードバック効果を有するので、何らかの原因によって通常運転を逸脱するような異常な正の反応度が投入された場合にも、これによる原子炉出力の上昇は抑制されること、右反応度の異常に伴って中性子束が異常に上昇した場合には、中性子束検出器がこれを検出し、原子炉トリップ信号が自動的に発せられ、原子炉停止系が作動することによって直ちに炉心へ制御棒が挿入されて原子炉が自動停止し、次いで補助冷却設備によって炉心が冷却されること、検出器には、中性子束検出器のほか、一次主冷却系循環ポンプ回転数検出器や一次主冷却系流量検出器等があり、一次主冷却系循環ポンプの回転数又は一次主冷却系の流量等と中性子束との不一致を検知した場合にも、原子炉トリップ信号が自動的に発せられることを確認したことが認められ、その合理性に疑いを入れるような証拠はない。

このようにみると、本件原子炉は、その基本設計ないし基本的設計方針において、即発臨界に至る可能性は極めて低いということができる。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(三) 原子炉固有の負のフィードバック効果について

原告らは、出力係数は計算値にすぎないから、本件原子炉施設がすべての運転範囲で原子炉固有の負のフィードバック効果を有するとはいえない旨主張する。

しかし、前記(一、1、(一)、(1))のとおり、本件安全審査においては、本件原子炉施設が原子炉固有の負のフィードバック効果を有することを確認しており、他方、右出力係数の妥当性に疑いを入れるような証拠は全くないから、原告らのこの点についての主張は理由がない。

3 燃料被覆管の健全性について

(一) スエリング、圧力の上昇等について

原告らは、本件原子炉施設の燃料被覆管の健全性は維持しえない旨主張し、その根拠として、①燃料ペレットのスエリングに伴う燃料被覆管の膨張、②燃料被覆管のスエリング、③核分裂生成物(FP)ガスによる燃料被覆管内の圧力の上昇、④燃料被覆管の温度変化による熱応力、⑤燃料集合体内部の温度差や冷却材の流動圧による炉心燃料要素の湾曲、⑥右湾曲によるラッパ管への接触によって発生する燃料被覆管の損傷、⑦右湾曲によって発生する冷却材の流路の閉塞に伴う温度上昇、⑧燃料ペレットの融点の低下、⑨焼きしまり及びクラックによる溶融等を指摘する。

以下、原告らの主張する点それぞれについて検討する。

(1) ①ないし⑦の主張について

証人秋山の証言(秋山調書一・二六丁表)及び乙一六・八―三―四頁、七ないし九頁によれば、本件安全審査においては、燃料ペレットの熱膨張やスエリングによって、燃料被覆管が過大な力を受けないように、燃料ペレットと燃料被覆管との間には適切な間隔が設けられること、燃料の核分裂反応が進み、燃料ペレットが膨らんで燃料被覆管との間隙がなくなった時点では、燃料被覆管自体がスエリング及びクリープによってその内径が増加するため、燃料被覆管が燃料ペレットから過大な力を受けることはないこと、燃料被覆管のスエリングは、照射実績により、直接燃料被覆管の健全性を損なうものではないことが示されていること、燃料被覆管の内部にガスプレナムという空間が設けられること、燃料被覆管は、応力や圧力、通常運転時及び運転時の異常な過渡変化時における温度変化に十分耐えうる強度を有するステンレス鋼製とされ、湾曲拘束による応力等に対して十分な強度を有することを確認しており、その合理性に疑いを入れるような証拠はない。

また、本件安全審査においては、前記(2、(一))のとおり、各燃料集合体の発熱量に見合うように、燃料集合体ごとに冷却材の流量が適切に配分されることを確認しており、また、乙一六・八―三―五頁、一〇頁によれば、燃料被覆管を冷却する冷却材の流路を確保するため、各燃料被覆管にはそれぞれワイヤスペーサが巻かれることにより、たとえ燃料被覆管が湾曲しても、燃料集合体のラッパ管に接触したり冷却材の流路が閉塞することのないことを確認したことが認められ、その合理性に疑いを入れるような証拠はない。

そうすると、本件原子炉施設においては、原告の主張する①ないし⑨の事象のうち、①ないし⑦の事象が起こることは想定し難いということができる。

(2) ⑧燃料ペレットの融点の低下について

前記(一、1、(一)、(2))に加え、乙一六・八―三―二頁、七頁、八頁によれば、本件安全審査においては、①本件原子炉施設の通常運転時における燃料ペレットの最高温度は、燃料温度が最高となる燃焼開始直後でも約二三五〇℃であり、過出力状態においても約二六〇〇℃であること、②一方、本件原子炉施設で使用されるプルトニウム・ウラン混合酸化物燃料ペレットの融点は、未照射燃料では約二七四〇℃であり、燃焼初期には燃焼に伴うプルトニウムの濃度変化や酸素と金属元素との比率の変化によって融点が低下するが、その場合も二六五〇℃以上であること、③燃焼が進んだ段階では、融点は二六五〇℃より低下するものの、融点の低下よりも燃焼に伴う燃料の線出力密度の減少による燃料ペレット温度の低下の方が大きいので、最も厳しい条件となるのは燃焼初期であり、このときの燃料ペレットの設計温度を二六五〇℃とすることによって、すべての運転範囲において燃料ペレットの溶融を防ぐことができることを確認したことが認められ、その合理性に疑いを入れるような証拠はない。

したがって、本件原子炉施設においては、燃焼に伴う燃料ペレットの融点の変化により、燃料が溶融し、燃料被覆管の健全性が損なわれることは想定し難いということができる。

なお、乙一六・八追補―Ⅳ―一ないし四頁によれば、本件原子炉施設の燃料ペレットの設計上の設計最高温度は、未照射のプルトニウム・ウラン混合酸化物燃料の融点に関し、E・A・エイトケンとS・K・エバンスによって行われたプルトニウム濃度及び酸素と金属元素との比率を変えた測定の結果(一九六九(昭和四四)、一九七一(昭和四六)年)や、核分裂生成物の蓄積の影響に関し、小泉益通らによって行われた模擬核分裂生成物を添加したプルトニウム・ウラン混合酸化物燃料に対する一トン当たり一七万メガワット日相当の燃焼度までの融点の測定の結果(一九六九年)を基に、燃焼度が一トン当たり五万メガワット日までは二六五〇℃、燃焼度が一トン当たり五万メガワット日以上は右温度から一トン当たり一万メガワット日ごとに七℃の割合で低下するとした上で、測定の誤差等をも考慮して設定されたものであり、また、右温度制限値は、実際に照射されたプルトニウム・ウラン混合酸化物燃料(最大燃焼度一トン当たり約二〇万メガワット日)について測定された米国のデータと比較しても保守側にあることを確認したことが認められる。

(3) ⑨燃料ペレットの焼きしまり及びクラックについて

原告らは、燃焼が進むと、燃料ペレットに焼きしまり又は温度差等を原因とするクラック(ひび割れ)が生じ、これによって燃料被覆管が損傷する旨主張する。

この点、甲イ二八には、燃焼が進むと、燃料ペレットは体積を減じ、変形して被覆管内部に隙間ができ、外圧によって被覆管がつぶれてペレットはクラックを起こし、このクラックが拡大する旨の記載がある。

しかし、右記載は、理論的な可能性を指摘したものにすぎず、右記載から直ちに本件原子炉施設の燃料ペレットにおいて同様の事態が生じるということはできない。また、乙イ七一によれば、本件安全審査においては、燃焼初期に発生する燃料ペレットの焼きしまり及びクラック等については、本件原子炉施設と同一の仕様の燃料ペレットを用いた日本原子力研究所の材料試験炉JMTRにおける照射試験により、照射によって燃料カラム長(燃料被覆管内に複数ある燃料ペレットの最上端から最下端までの長さ)及び径方向に燃料の健全性にとって問題となるような収縮が生じることはないことを確認したことが認められ、その合理性に疑いを入れるような証拠はない。

また、乙一六・八―三―七頁、八頁、六四頁及び乙イ五六によれば、本件安全審査においては、燃焼が進んだ段階での燃料のふるまいについても、本件原子炉とほぼ同一の仕様の燃料要素を用いた英国のドーンレイ炉、仏国のラプソディー炉及び「常陽」における照射実績から、本件原子炉の定格線出力密度(一センチメートル当たり約三六〇ワット)を上回る一センチメートル当たり四七〇ワット以上の線出力密度及び本件原子炉の最高燃焼度(一トン当たり約九万八〇〇〇メガワット日)を上回る一トン当たり約一一万メガワット日の燃焼度においても、燃料要素の健全性が確保されることを確認したことが認められる。

したがって、本件原子炉施設においては、燃料ペレットの焼きしまり及びクラック等の燃料のふるまいが原因となって燃料が溶融し、燃料被覆管の健全性が損なわれることは想定し難いということができる。

(二) 一次冷却材流量減少時の健全性について

原告らは、本件原子炉において、何らかの原因で一次冷却材の流量が減少した場合、燃料が溶融して再臨界を起こす危険性がある旨主張し、その根拠として、本件原子炉施設の燃料の最高温度が燃料の融点に近い上、燃焼開始後に右融点が低下することを指摘する。

しかし、後記(第六、一及び同二)のとおり、本件安全審査においては、本件原子炉ではすべての運転範囲において燃料の溶融が防がれることを確認しており、また、「運転時の異常な過渡変化」として「一次冷却材流量減少事象」を、「事故」として「一次冷却材漏えい事故」を想定した解析評価について審査しているが、解析の結果、いずれの事象においても、燃料温度は融点を十分に下回るとの結果が得られており、その妥当性を確認している。

したがって、本件原子炉施設においては、一次冷却材の流量減少によって燃料が溶融することは想定し難いということができる。

4 原子炉冷却材バウンダリの健全性について

(一) 配管等の健全性について

(1) 熱応力やクリープ疲労等に対する配管の健全性について

原告らは、本件原子炉施設は、軽水炉と比べると、配管の受ける熱応力が大きく、このため、配管の肉厚を薄くし、配管の引き回しを長くしているが、これらの措置によっては配管にかかる熱応力を吸収することは困難であり、また、原子炉の運転、停止、異常時の温度上昇、緊急停止等によって繰り返し配管に熱応力が加えられると、これによる繰り返しひずみとクリープとの相互作用によって配管の疲労寿命が低下し、配管が破損、破断する旨主張する。

しかし、前記(一、3、(一)、(1))に加え、乙一六・八―一―二五頁、六六頁、六七頁、七〇頁、八―四―二ないし四頁、八―五―二頁によれば、本件安全審査においては、原子炉冷却材バウンダリを構成する機器及び配管には、高温での強度に優れたステンレス鋼が使用されること、原子炉冷却材バウンダリに及ぶ熱的過渡変化が抑制されるように、本件原子炉施設の通常運転時には、冷却材の温度をほぼ一定に維持できるように原子炉制御設備が設置されると共に、本件原子炉施設の起動時又は停止時には、冷却材ナトリウムの昇温速度又は降温速度を制限することを確認したことが認められ、その合理性に疑いを入れるような証拠はない。そうすると、本件原子炉施設には、機器や配管等について、クリープ破断、過大なクリープ変形、疲労破損、クリープ疲労破損等の防止について適切な配慮がされているということができ、本件原子炉施設の配管が熱応力やクリープ疲労等によって破損、破断することは想定し難いということができる。

なお、乙一六・一〇―三―二四頁によれば、本件安全審査においては、一次主冷却系設備及び二次主冷却系設備の各配管を引き回すに当たっては、エルボ(曲げ管)を用い、エルボの撓性(たわめることができる性質)により配管の熱膨張による変形が吸収されるようになっていることを確認したことが認められる。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(2) ナトリウム中の不純物による腐食や浸炭、脱炭に対する配管の健全性について

原告らは、①冷却材として使用されるナトリウムが酸化ナトリウム等となって配管の材料であるオーステナイト系ステンレス鋼を激しく腐食させ、②一次主冷却系においては、配管の材料であるオーステナイト系ステンレス鋼中の炭素がナトリウム中に溶解して高温部から低温部に移行し、二次主冷却系においては、蒸発器の伝熱管の材料であるクロム・モリブデン鋼から脱炭した炭素がナトリウム中に溶解し、その配管の材料であるオーステナイト系ステンレス鋼に浸炭するとし、右の腐食や浸炭、脱炭によって配管等が破損したり、破断したりする旨主張する。

以下、原告らの主張する点それぞれについて検討する。

(イ) ナトリウム中の不純物による配管の腐食について

乙一六・八―一―二五頁、八―五―二頁、八―八―三頁、六頁、三五頁、三七頁によれば、本件安全審査においては、ナトリウム中の不純物を除去するためにコールドトラップが設置され、これによって、本件原子炉施設の通常運転中のナトリウム中酸素濃度は一〇ppm(一ppmは一〇〇万分の一)以下に保たれることを確認したことが認められ、その合理性に疑いを入れるような証拠はない。したがって、ナトリウム中に不純物が生じ、右不純物による腐食によって配管が破損したり、破断したりすることは想定し難いということができる。

(ロ) 浸炭、脱炭について

浸炭や脱炭は、活性炭素濃度の相違(これは、温度や材料の種類により異なる。)により、ナトリウムを介して炭素が移行し、ナトリウム接液部の構造材の表面近傍の炭素濃度が変化することであり、これが起こると材料の強度特性に影響を及ぼすおそれがある。

この点、弁論の全趣旨によれば、一次主冷却系設備の材料であるオーステナイト系ステンレス鋼は、浸炭する傾向となること、また、二次主冷却系設備の配管や過熱器の伝熱管の材料であるオーステナイト系ステンレス鋼と、蒸発器の伝熱管の材料であるクロム・モリブデン鋼とにおける活性炭素濃度の相違により、オーステナイト系ステンレス鋼は浸炭し、また、クロム・モリブデン鋼は脱炭される傾向にあることが認められる。しかし、本件原子炉施設において、浸炭や脱炭が材料の強度特性に影響を及ぼす程度に至ることをうかがわせるに足りる証拠はなく、これら浸炭、脱炭による材料の強度特性への影響を考慮し、配管の具体的な設計において、浸炭、脱炭による強度低下を考慮した設計とすることは十分可能であるということができるから、浸炭、脱炭は、本件安全審査の対象となる本件原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針の合理性を左右するものではないというべきである。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(二) 配管における破損の様相について

(1) 原告らは、一次主冷却系設備や二次主冷却系設備における配管の破損は、ナトリウムと構造材との共存性、熱応力、クリープ疲労、地震による外力等、複雑な原因が組み合わさって起こるものであるから、本件原子炉施設においても瞬時両端完全破断が起こる旨主張する。

しかし、証人斉藤(斉藤調書一・四一丁表ないし四二丁表、八八丁表)は、一次主冷却系設備の配管及び二次主冷却系設備の配管については、右(一)のとおり、それが破損する可能性は低く抑えられているし、万一、破損が生じるとしても、右破損は、熱膨張や過渡的な熱応力の繰り返しによるものが支配的であるため、肉厚を貫通した疲労き裂の形態をとるため、冷却材の漏えいは配管の表面部に生じた微小な開口部からの漏えいとなる上、配管内は低圧であるから、急速な破断に進展するおそれはなく、また、右漏えいは、ナトリウム漏えい検出器により早期に検出され、原子炉を停止するなどの所要の措置が採られることから、漏えい先行型破損(LBB)の様相となる旨証言しており、右証言は十分合理的であり、信用できる。

したがって、配管の瞬時両端完全破断が起こることは想定し難いから、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(2) 原告らは、一九八六(昭和六一)年一二月にアメリカのサリー原子力発電所二号炉(PWR)で発生した二次系給水ポンプ入口配管の大口径破断事故を根拠に、本件原子炉施設においても、一次主冷却系設備の配管において大口径破断が起こる可能性がある旨主張する。

この点、後記(第八の二)のとおり、右事故の原因は、不十分な水質管理の下に生じた腐食と不適切な配管の接続によって生じた冷却水の流れの急変による侵食とが重なって配管の内面が著しく減肉され、破断するに至ったことにある。しかし、サリー二号炉はPWRであるところ、PWRは、配管内の圧力が一〇〇気圧を超えるが、本件原子炉施設の一次主冷却系の配管内の圧力は八気圧程度であり、PWRと比べて十分の一にも及ばないことは当事者間に争いがない。そうすると、前記(一、3、(一)、(1))のとおり、本件安全審査においては、一次主冷却系設備の配管の健全性を確認しているが、仮に破断が起こることを仮定しても、大口径破断を起こすことは考えられない。

したがって、右サリー二号機の事故は、本件安全審査の合理性を左右するものではない。

(3) 原告らは、平成三年六月に本件原子炉施設の二次主冷却系配管が設計とは逆方向に変位した事象、一九九〇(平成二)年四月にスーパーフェニックスで発生した二次系ナトリウム漏えい事故、一九六六(昭和四一)年一〇月のフランスの実験炉ラプソディでの二次系ナトリウム注入配管破裂事故、一九六七(昭和四二)年五月の英国の高速実験炉DFRでの一次冷却系配管からのナトリウム漏えい事故等、国内外の高速増殖炉において発生した事故例を挙げ、本件原子炉施設の一次、二次主冷却系設備の配管においても瞬時両端完全破断が起こる可能性がある旨主張する。

しかし、乙イ四七・三・四・四―三頁及び乙イ四八・三・四・四―一頁及び乙ニ二の一(証人川島調書一)一七丁表、一八表によれば、本件原子炉施設で生じた事象は、二次主冷却系設備の配管が原子炉格納容器を貫通する部位に気密性をもたせるために設けられたベローズ(蛇腹状の伸縮可能な継手)を製作するに当たって、その剛性を計算値よりも硬く製作したために生じたものであったことが認められるところ、右は機器の製作の問題であり、本件原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針に関連するものではないから、本件安全審査の合理性を左右するものではない。

また、甲イ五一及び甲イ九三によれば、原告らの主張する海外の高速増殖炉における事故は、いずれも二次主冷却系設備の配管が瞬時に両端完全破断したものではないことが認められるから、これらの事故等が発生した事実から本件原子炉施設において一次、二次主冷却系設備の配管が瞬時に両端完全破断する可能性があるということはできない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(三) 配管、機器等の保守点検について

原告らは、一次冷却材のナトリウムが放射化されるため原子炉の停止中も一次主冷却系設備の配管には近づくことができず、また、原子炉の停止中も凝固を避けるためにナトリウムを高温に保つので、配管等の保守点検作業が不可能である旨主張する。

しかし、具体的な保守点検作業の方法は本件安全審査の対象となるものではないから、原告らの右主張は、その前提において失当である。

5 原子炉カバーガスのバウンダリの健全性について

原告らは、フランスのスーパーフェニックスにおいて一九九〇(平成二)年六月に発生した原子炉容器内のナトリウム液面を覆っているアルゴン・カバーガス中に空気が混入した事故が発生したことを挙げ、本件原子炉施設においても同様の事故が起こる旨主張する。

この点、後記(第八、五)のとおり、右事故の原因は、フィルタカートリッジ系カバーガスの放射能測定系のポンプシール膜が部分的に裂け、空気がカバーガスに混入し、その結果、一次系ナトリウムが酸素等により汚染し、プラギング温度が上昇したことにあるが、これに対し、乙一六・八―八―一〇頁、三八頁によれば、本件安全審査においては、本件原子炉施設の一次アルゴンガス系内の圧力は、右アルゴンガス系が配置される各部屋の雰囲気の気圧よりも若干高くなるように保持されることを確認したことが認められ、その合理性に疑いを入れるような証拠はない。したがって、本件原子炉施設において、仮に右アルゴンガス系の設備に破損が生じたとしても、アルゴン・カバーガス中に空気が混入することは想定し難い。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

6 蒸気発生器について

原告らは、本件原子炉施設の蒸気発生器につき、①蒸気発生器の伝熱管は、応力腐食割れ、腐食、脱炭、浸炭などにより損傷する、②蒸気発生器の伝熱管に採用されているヘリカルコイル型は、溶接時における残留応力が問題であると共に、伝熱管の組立てが困難である、③供用期間中の検査に使用するとされている探傷用プローブが、本件原子炉施設の総合機能試験の際に一部の伝熱管に挿入できなかったことからすると、伝熱管内には四ミリメートル以上の溶接の垂れ込みがあるなどと主張して、本件原子炉施設においては蒸気発生器伝熱管破損事故が発生するおそれがある旨主張する。また、原告らは、④本件安全審査において水漏えい検出設備である水素計の設置箇所や機能が審査されていないのは不当である旨主張する。この点についての当裁判所の判断は、原告らの主張が多岐にわたるので、蒸気発生器伝熱管破損事故に関する原告らの主張に対する判断と併せて、後記(第六、七)において別項を設けて判断する。

7 原子炉停止系の信頼性について

(一) 共通原因故障について

原告らは、本件原子炉施設には、原子炉停止系として作動原理を同じくする調整棒及び後備炉停止棒の二系統のスクラム機構しかないので、調整棒と後備炉停止棒とにコモンモード・フェイリア(共通原因故障)が発生した場合には原子炉が停止不能の状態に陥る旨主張する。そして、この点、甲イ一三、甲イ一三九及び甲ニ六の二(証人小林調書五)三七頁ないし三九頁には、他の原子炉施設において共通原因故障が現実に発生した旨の証言ないし記載がある。

しかし、前記(一、2、(一)及び同(三))に加え、乙一六・八―一―五二頁、五四頁、六一頁、六二頁、八―三―一五ないし一八頁、八―九―三〇頁、三一頁、乙イ二及び乙イ七九によれば、本件安全審査においては、①本件原子炉施設の原子炉停止系は、互いに独立した主炉停止系と後備炉停止系とから構成されており、このうちいずれか一方の系統が作動しさえすれば本件原子炉を確実に停止することができること、②原子炉停止系を作動させる安全保護系を構成する検出器、論理回路及び原子炉トリップ遮断器は、同じ機能を有するものが二つ以上設けられており(多重性)、かつ、右検出器等は、その各々が環境条件の変動(機器がさらされる雰囲気の温度、湿度の上昇等)や運転状態の変動(機器に供給される電源の喪失等)があっても、同時に故障したり、一つの機器に故障が生じても、その影響を受けて他の機器が故障したりすることがないように考慮した対策が講じられている(独立性)こと、③原子炉の緊急停止に際しては、重力により制御棒が炉心内に挿入されるが、加速機構も働き、主炉停止系の制御棒はガス圧力により、後備炉停止系の制御棒はばねの力により、それぞれ炉心内に加速挿入される設計となっていること、④原子炉停止系の制御棒を保持する電磁石及び右加速機構は、個々の制御棒駆動機構ごとに個別に備え付けられ、独立性を有していることを確認したことが認められ、その合理性に疑いを入れるような証拠はない。

したがって、本件原子炉施設においては、原子炉停止系及び安全保護系が共通の原因によって故障が生じることはなく、本件原子炉施設が停止不能の状態に陥ることは想定し難いということができるから、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(二) 自己融着について

原告らは、ナトリウム中での自己融着によって制御棒が固着し、原子炉の緊急停止が阻害される旨主張する。

自己融着とは、同一の金属材料が高温下で互いに強い力で接触した場合に、材料間の原子の拡散により融着する現象であり、金属材料の一般的性質である。しかし、仮に本件原子炉施設において自己融着が起こるとしても、それは適切な設備の保守、点検により十分回避することが可能であるといえるから、自己融着は本件安全審査の対象となる本件原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針の妥当性を左右するものではないというべきである。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(三) セイラム一号炉、浜岡一号炉の事故について

原告らは、一九八三(昭和五八)年二月に米国のセイラム一号炉(PWR)において、制御棒が電流遮断器(本件原子炉施設の原子炉トリップ遮断器に相当する。)の固着により自動的に挿入されなかった事象や、昭和六三年二月に中部電力株式会社の浜岡一号炉(BWR)において、原子炉再循環ポンプが停止した時に原子炉が緊急停止しなかったことを挙げて、本件原子炉施設においても、原子炉の緊急停止に失敗するおそれがある旨主張する。

しかし、乙イ七四によれば、浜岡一号炉では、もともと原子炉再循環ポンプの停止信号によって直接原子炉を緊急停止する仕組みにはなっていないことが認められ、これに反する甲イ一三は採用できない。したがって、原告らの主張はその前提を欠くものである。

また、後記(第八、一三)のとおり、セイラム一号炉の固着の原因は、電流遮断器可動部(ラッチ部)の潤滑が適切でなかったという保守点検上の過誤によるものであった。したがって、右事故は本件原子炉施設の基本設計ないし基本設計方針と関連するものではなく、本件安全審査の合理性を左右するものではない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(四) 地震時の電源喪失について

原告らは、地震などによって停電が起こった場合は、制御棒を挿入する原子炉緊急停止装置が同時に故障し、原子炉の緊急停止に失敗する旨主張する。

この点、甲イ一九九にはこれに沿う記載があり、また、甲ニ六の一(証人小林調書四)四五頁、四六頁にも同旨の証言がある。

しかし、前記(一、2、(一)及び同(三))に加え、乙一六・八―一―三五頁、一一三頁、八―九―二八頁、二九頁、四二頁、八―一〇―五ないし七頁及び乙イ五によれば、本件安全審査においては、①一定以上の地震動を検知した場合や外部電源を喪失した場合には、安全保護系の原子炉トリップ信号(「地震加速度大」信号、「常用母線電圧低」信号)により、原子炉は緊急停止すること、②原子炉緊急停止装置は、安全上特に重要な施設としてAsクラスの耐震設計が行われ、系統的にも多重性、独立性を有していること、③主炉停止系及び後備炉停止系の各制御棒については、全体モックアップ試験を行って、地震時でもこれを挿入し得ることが総合的に確認されたこと、④外部電源喪失に対しても、非常用電源設備が備えられているほか、原子炉緊急停止装置には、電源を喪失した場合、制御棒保持用マグネットが消磁して即時に制御棒が自動的に炉心に挿入されるというフェイルセイフ機能があることを確認したことが認められ、その合理性に疑いを入れるような証拠はない。

したがって、本件原子炉施設においては、設計用限界地震を想定しても、緊急停止機能が失われることはなく、地震とそれに伴う外部電源の喪失によって、原子炉を緊急停止することができなくなることは想定し難いということができるから、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(五) 制御棒駆動電動機の駆動荷重増加について

なお、本件原子炉施設の試運転中の平成四年九月二八日に、主炉停止系の一三本ある制御棒駆動機構のうち、微調整棒用の駆動機構三本において、制御棒を駆動する電動機の駆動荷重が増加するという事象が生じ、平成六年一一月一一日及び平成七年五月二四日にも右三本のうち一本に同様の事象が発生した。

しかし、乙イ七三によれば、右荷重増加の原因は、制御棒駆動機構の駆動軸と上部案内管部の遮へい体との間隙に、ナトリウム化合物が付着したことによるものであり、右ナトリウム化合物はアルゴンガス中の不純物とナトリウム蒸気等の反応により生成されたものと推定されるところ、右事象は、①増加した荷重の程度が荷重限界を下回るものであったこと、②荷重の増加が一時的なものであり、すぐに通常の荷重に復帰したこと、③主炉停止系の他の制御棒駆動機構一〇本及び後備炉停止系の制御棒駆動機構六本には、右のような事象は生じてなかったことから、原子炉の安全性に影響を及ぼすものではなかったことが認められる。したがって、右事象の発生は、本件安全審査の合理性を左右がするものではないというべきである。

8 緊急炉心冷却装置(ECCS)について

原告らは、緊急炉心冷却装置が存在しない本件原子炉施設は、安全性が確保されない旨主張する。

この点、軽水炉においては、緊急炉心冷却装置の設置が要求されているが(「安全設計審査指針」指針四〇参照)、乙ニ二の一(証人川島調書一)三六丁裏、三七丁表によれば、これは、軽水炉では、冷却材(軽水)が高温、高圧で使用されるため、冷却材が漏えいした場合、圧力が低下することにより冷却材が沸騰(減圧沸騰)し、炉心から冷却材が喪失する事態となる可能性があるためであることが認められる。

しかし、前記(2、(1))のとおり、本件原子炉施設においては、冷却材ナトリウムはいかなる運転範囲においても沸騰することはなく、また、証人斉藤の証言(斉藤調書一・八八丁裏、八九丁表)、乙一六・八―一―二九頁、乙イ四及び乙ニ二の一(証人川島調書一)三六丁裏ないし三九丁裏によれば、後記(第六、二、4、(二)、(5)、(ロ))にも示すとおり、本件安全審査においては、配管の高所引回し及びガードベッセルの設置により、冷却材が漏えいした場合であっても、冷却材は最低限保持されなければならない液位(エマージェンシ・レベル)以上に保持されること、冷却材の漏えい時に、配管のむち打ちや流出流体のジェット力によってガードベッセル等が損傷を受けることはないことを確認したことが認められ、その合理性に疑いを入れるような証拠はない。

したがって、本件原子炉施設において冷却材が喪失する事態に陥ることは想定し難いから、本件原子炉施設に緊急炉心冷却装置がないからといって、その安全性が確保されないものではなく、原告らのこの点についての主張は理由がない。

9 「フェイルセイフ」及び「フール・プルーフ」について

原告らは、本件原子炉施設には、フェイルセイフ(故障、誤動作が生じたときに機器は安全側に作動するという原則)、フール・プルーフ(人為的ミスにより重大な事態を引き起こすことがあり得ないという原則)が成り立たない旨主張する。

しかし、前記(一、2、(三))のとおり、本件安全審査においては、安全保護系について、フェイルセイフの設計とされることを確認したことが認められ、これが不合理であるとする証拠はない。したがって、本件原子炉施設においてフェイルセイフが成り立たないということはできない。

フール・プルーフについては、確かに、後記第八のチェルノブイリ事故、TMI事故等にみられるように、基本設計において安全性が確保し得るものとされた原子炉施設であっても、その後の段階である建設、運転等において重大な瑕疵があれば、基本設計上は予想されていなかった重大な事故が発生する可能性があることは否定することができない。すなわち、運転段階においていかなる人為ミスが生じた場合であっても、絶対に事故を起こさない設計とすることは理想であるとしても、現実的には不可能ということができ、本件原子炉施設の安全性を確保するためには、一定水準以上の運転管理等が行われることが必要と解される。

しかし、そのことは、明らかに本件原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針とは直接関係しないから、本件安全審査の合理性を左右するものではない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

四  まとめ

以上のとおり、本件原子炉施設の安全設計についての本件安全審査における調査審議及び判断の過程に、重大かつ明白な瑕疵といえるだけの看過し難い過誤、欠落があるとは認められないというべきである。

第五  本件原子炉施設の平常運転時における安全性

一  本件安全審査の内容

乙七ないし一〇、乙一四の一ないし三、乙一六、乙二二、乙二三及び乙イ六並びに弁論の全趣旨によれば、本件原子炉施設の平常運転時における公衆の被曝線量評価(平常運転時における安全性)についての本件安全審査の内容につき、次のとおりと認められる。

1 意義

平常運転時における公衆の被曝線量評価は、平常運転時における被曝低減対策としての安全設計の妥当性を確認した上で、その妥当性を別個の側面から確認するために、本件原子炉施設の通常運転時に周辺環境に放出される放射性物質による一般公衆の被曝線量が、「許容被曝線量等を定める件」の定める「公衆の許容被曝線量」を十分下回るだけでなく、合理的に達成できる限り低く保たれ得ること(ALARAの考え方を満たすこと)を定量的に確認するために行うものである。

2 本件許可申請における本件原子炉施設周辺の一般公衆の被曝線量の評価内容

本件安全審査においては、本件許可申請における本件原子炉施設周辺の一般公衆の被曝線量評価について、次のとおりと確認した。

(一) 大気中に放出される放射性物質の年間放出量

(1) 気体廃棄物中の放射性物質は、核分裂生成物である放射性希ガス及び放射性よう素並びに一次冷却材中の不純物及び炉上部カバーガスのアルゴン等の放射化反応により生成する放射性アルゴンである。

(2) 年間放出量の計算は次の項目に分けて行われている。

(イ) 気体廃棄物処理設備から放出される希ガス及びよう素

気体廃棄物処理設備に収集される気体廃棄物は、一次アルゴンガス系設備の圧力制御に伴い排出される廃ガス、燃料取扱い及び貯蔵設備のガス置換に伴い排出される廃ガス、使用済燃料の洗浄廃ガス、遮へいプラグ周りの機器のガス置換に伴い排出される廃ガス等であり、気体廃棄物処理設備に移行する希ガス及びよう素の量は、各廃ガスごとに、廃ガス中に混入する一次アルゴンガスの量、一次アルゴンガス中の希ガス及びよう素の濃度等を考慮して計算されている。さらに、燃料取扱い及び貯蔵設備からの廃ガスについては、燃料取扱時に欠陥燃料から燃料移送ポット内に放出される希ガス及びよう素についても考慮して計算されている。

気体廃棄物処理設備から排気筒を経て放出される希ガスの量は、気体廃棄物処理設備に移行したキセノン、クリプトンが、活性炭吸着装置においてそれぞれ三〇日間、四〇時間保持されるものとして計算されている。よう素については、希ガスと同様に活性炭吸着搭に導かれ、ほとんど除去されるので放出量の計算に当たっては無視されている。

(ロ) 原子炉格納施設の換気により放出される希ガス及びよう素

原子炉格納施設の換気により放出される気体廃棄物中の放射性物質は、機器、弁等から原子炉格納容器内に漏えいした炉上部カバーガス中に含まれる希ガス及びよう素であり、その希ガス及びよう素の量は、炉上部カバーガスの漏えい率、炉上部カバーガス中の放射性物質の濃度、原子炉停止時の換気回数、原子炉運転時の換気量、原子炉格納容器内での減衰時間等を考慮して、原子炉停止時と原子炉運転中に分けて計算されており、原子炉停止時の換気回数は、先行軽水炉の最近の運転実績等を参考にして年一〇回としている。

(ハ) 原子炉補助建物の換気により放出される希ガス及びよう素

原子炉補助建物の換気により放出される気体廃棄物中の放射性物質は、一次アルゴンガス系設備及び気体廃棄物処理設備から原子炉補助建物に漏えいした一次アルゴンガス、放射性廃ガス等の中に含まれる希ガス及びよう素であり、換気により放出される希ガス及びよう素の量は、一次アルゴンガス、放射性廃ガス等の漏えい率及び漏えいしたガス中の放射性物質の濃度等を用い、原子炉補助建物における減衰効果を無視して計算されている。

(ニ) 共通保修設備から放出されるよう素

共通保修設備から放出される気体廃棄物中の放射性物質は、機器洗浄廃ガスの中に含まれるよう素(機器洗浄の際に機器表面に付着していた一次冷却材から移行したもの)であり、その量は、一次冷却材中のよう素の洗浄廃ガスへの移行率等を考慮して計算されている。

(3) 計算の結果、希ガスの年間放出量は約二三〇〇キュリー、よう素の年間放出量は、よう素一三一約0.0044キュリー、よう素一三三約0.0004キュリーであるとされた。なお、他に放射化生成物としてアルゴン三七、アルゴン三九、アルゴン四一が生成されるが、これらの年間放出量はそれぞれ約五キュリー、約四〇キュリー、約一〇キュリーであり、希ガスの年間放出量に含めて評価されている。

(二) 海洋中に放出される放射性物質の年間放出量

(1) 液体廃棄物は機器、使用済燃料等の洗浄の際に生じる廃液、各建物機器からのドレン、床ドレン、防護衣類等を除染する際に生ずる洗濯廃液等であり、これらの中に含まれる主な放射性物質は、一次冷却材中に漏えいした核分裂生成物、一次冷却材中の放射性腐食生成物及び放射化ナトリウムである。

発生した液体廃棄物は、その性状に応じて分離回収された後、液体廃棄物処理設備で蒸発濃縮、脱塩等の処理が行われ、処理水は放射性物質の濃度、水質等を考慮して再使用、再処理又は所外放出される。

(2) 環境に放出される液体廃棄物の量は、処理モード、処理設備の性能、処理水の再使用の割合等を考慮して計算されており、その結果、液体廃棄物の年間放出量の計算値は約三五〇〇立方メートルで、その中に含まれる放射性物質の量はトリチウムを除いて約0.14キュリーとされた。ただし、液体廃棄物中の放射性物質による被曝線量の計算を行うに当たっては、処理水の再使用の条件等を考慮して、放射性物質の年間放出量はトリチウムを除いて二キュリー、トリチウムについては海外高速炉の実状を参考として二五〇キュリーとされた。

(三) 被曝線量の計算

(1) 気体廃棄物中の希ガスによる全身被曝線量

気体廃棄物中の希ガスによる全身被曝線量の計算は、排気筒から放出され拡散移動する放射性雲からのガンマ線による外部全身被曝線量を対象に行われ、計算に当たっては、希ガスの年間放出量及びガンマ線の実効エネルギーを基礎に、連続放出、間けつ放出の放出モードを考慮して、気象資料の統計整理により得られた風向別大気安定度別風速逆数の総和及び平均を用いて「線量評価指針」に示された方法により、周辺監視区域外における希ガスのガンマ線による全身被曝線量が計算さた。

計算の結果、希ガスのガンマ線による全身被曝線量は、周辺監視区域外の最大となる場所において年間約0.074ミリレムであるとされた。

(2) 液体廃棄物中の放射性物質による全身被曝線量

液体廃棄物中の放射性物質による全身被曝線量の計算は、放射性物質が海産物を介して人体に摂取される場合の内部全身被曝線量を対象に行われ、計算に当たっては、人体の放射性物質の摂取率は、海水中の放射性物質濃度、海産物の濃縮係数、海産物摂取量等を考慮して、「線量評価指針」に示された方法により、周辺監視区域外における全身被曝線量が計算された。なお、海水中の放射性物質濃度については、復水器冷却水放水口濃度が用いられた。

計算の結果、液体廃棄物中の放射性物質による全身被曝線量は、年間約0.066ミリレムであるとされた。

(3) 甲状腺被曝線量の計算

甲状腺被曝線量の計算は、気体廃棄物中のよう素及び液体廃棄物中のよう素に着目し、これが呼吸、葉菜及び海産物を介して、成人、幼児及び乳児にそれぞれ摂取される場合の内部甲状腺被曝線量を対象に行われた。気体廃棄物中のよう素による甲状腺被曝経路は、呼吸摂取、葉菜摂取及び牛乳摂取があるが、本件原子炉施設近辺においては乳牛が飼育されておらず、また、牧草地もないことから、被曝経路としては、呼吸摂取と葉菜摂取が扱われた。

人体のよう素摂取率は、空気中又は海水中のよう素濃度、呼吸率、空気中のよう素が葉菜に移行する割合、海産物の濃縮係教、食物摂取量等を考慮して、「線量評価指針」に基づき計算されたが、右計算に当たっては、よう素の地表空気中濃度は、年間放出量と、気象資料の統計整理により得られた風向別大気安定度別風速逆数の総和及び平均を用いて求め、海水中のよう素濃度は、復水器冷却水放水口濃度が用いられた。また、人体に摂取されたよう素の甲状腺に移行する割合は、摂取食物中に含まれる安定よう素の量によって変化することを考慮し、各被曝経路における安定よう素摂取量に応じて計算された。

計算の結果、よう素に起因する甲状腺被曝線量は、本件敷地境界外の最大となる場所において、幼児及び乳児がよう素を呼吸及び葉菜を介して摂取し、かつ、海草類を摂取するとした場合が最大となり、その値は年間約0.66ミリレムであるとされた。

3 本件安全審査における評価

本件安全審査においては、本件許可申請における本件原子炉施設周辺の一般公衆の被曝線量評価について、次のとおり、妥当であると判断した。

(一) 計算方法の妥当性

放射性物質の環境への放出については、海外高速炉における燃料被覆管の欠陥の程度等の実績を参考とし、放射性物質が原子炉から排気口又は放水口に至るまでの過程について解析し、放出径路ごとに計算されている。

大気中に放出された放射性物質による一般公衆の被曝線量は、本件敷地における一年間の気象資料を用いて算出された空気中濃度を基に計算され、また、海洋中に放出された放射性物質による一般公衆の被曝線量は、復水器冷却水放水口濃度を用いて計算されている。

放射性物質の環境への放出量及び一般公衆の被曝線量の計算は、「線量評価指針」を参考とし、その評価に際しては、LMFBRの設計の特徴を考慮して行われている。

以上のような本件許可申請における計算方法は、「線量評価指針」の考え方を参考としており、また、炉型の違いにより同指針の方法が直接適用できない放出放射性物質の発生源の計算については、本件原子炉施設の設計条件、運転計画及び関連する試験研究の成果に基づいて行われており、妥当である。

(二) 計算結果の妥当性

計算された周辺監視区域外での被曝線量の最大値は、全身被曝線量が年間約0.14ミリレム、甲状腺被曝線量が年間約0.66ミリレムであり、本件原子炉施設は、通常運転時における環境への放射性物質の放出量について、「許容被曝線量等を定める件」の定める「公衆の許容被曝線量」を下回るのみならず、ARALAの考え方を満たすような設計上の対策が講じられていると判断した。

なお、右で評価された被曝線量のほかに、本件原子炉施設からの直接線量及びスカイシャイン線量並びにベータ線による皮膚被曝線量、海水浴中に受ける被曝線量、大気中に放出された粒子状放射性物質に起因する被曝線量等があるが、直接線量及びスカイシャイン線量は、本件敷地境界外で合理的に達成できる限り低くなるように原子炉施設を設計し、管理することとしていること、これらの線量は、距離が離れるに従って急激に減少するという性質を持っているため、一般公衆の被曝線量に寄与する地点は周辺監視区域近傍に限られること、ベータ線による皮膚被曝線量等については、「発電用軽水型原子炉施設の安全審査における一般公衆の被曝線量評価について」に示されているように、一般に極めて小さい寄与しか与えないことから、これらによる線量を考慮しても、周辺監視区域外における被曝線量は、「許容被曝線量等を定める件」の定める「公衆の許容被曝線量」を十分下回っている。

(三) 結論

以上から、本件安全審査においては、調査審議の結果、本件原子炉施設の平常運転時における安全性について、本件原子炉施設が具体的審査基準に適合し、その基本設計ないし基本的設計方針において、平常運転時における公衆の被曝線量を十分低く抑えることができ、原子炉等による災害の防止上支障がないものとした。

二  当裁判所の判断

1 被曝線量評価において用いられた計算方法には、特段不合理な点があるとは認められない。

2 そして、右解析の結果得られた周辺監視区域外での被曝線量の最大値は、全身被曝線量が年間約0.14ミリレム、甲状腺被曝線量が年間約0.66ミリレムであり、いずれも、「許容被曝線量等を定める件」の定める「公衆の許容被曝線量」年間0.5レムはもちろん、現在妥当性を有する「線量当量限度を定める件」の定める「公衆の許容被曝線量」年間0.1レムをも十分に下回っている。また、右被曝線量は、「発電用軽水炉施設周辺の線量目標値に関する指針について」の定める放射性希ガスからのガンマ線による全身被曝線量及び液体廃棄物中の放射性物質に起因する全身被曝線量の合計値について年間五ミリレム、放射性よう素に起因する甲状腺被曝線量について年間一五ミリレムの線量目標値をも下回っており、ALARAの考え方も満たしているといえる。そうすると、平常運転時における公衆の被曝線量を十分低く抑えることができるとの結論においても、特段不合理な点は認められないというべきである。

3  したがって、本件安全審査における平常運転時における安全性についての調査審議及び判断の過程に、重大かつ明白な瑕疵といえるような看過し難い過誤、欠落があるとは認められない。

三  原告らの主張について

1 気体廃棄物の評価について

(一) 燃料被覆管の欠損率について

原告らは、評価条件として、燃料被覆管の欠損率(欠陥率)を一パーセントとする根拠はない旨主張する。

しかし、前記(第四、三、3)のとおり、本件原子炉施設の燃料被覆管は健全性が維持され得る。さらに、これに加え、乙一六・八―九―八頁、九頁、二八頁、四二頁によれば、本件安全審査においては、本件原子炉施設には、燃料の破損の発生及び破損燃料の存在位置を検知し得る破損燃料検出装置が設置され、かつ、燃料破損時に設定値を超えると、炉心を保護するため「破損燃料検出」の原子炉トリップ信号が自動的に発せられ、原子炉は緊急停止する設計になっていることを確認したことが認められる。そうすると、燃料被覆管の欠陥率が一パーセントの状態(これは、乙一六・八―三―二八頁によれば、燃料要素約三万三〇〇〇本のうちの約三三〇本が破損した状態に当たる。)で運転されるということは、ほとんど起こり得ないことということができ、右評価条件は十分保守的であるといえる。したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(二) 粒子状放射性物質について

原告らは、気体廃棄物中に存在するコバルト六〇、マンガン五四、ストロンチウム九〇、セシウム一三七等の粒子状放射性物質を評価していないのは不当である旨主張する。

しかし、乙イ六九によれば、右核種は、原子炉施設の平常運転時の気体廃棄物中にはほとんど存在しないことが認められるから、被曝評価に与える影響は小さいものと認められる。したがって、右核種の評価を行わないことが、原子炉施設の平常運転時における周辺公衆の被曝線量評価の目的に照らして不合理であるとはいえない。

なお、乙一六・九―四―一二頁、一八頁、九―五―六ないし八頁によれば、液体廃棄物による被曝評価においては、右核種は、その放出及び放出経路が評価された上で考慮されていることが認められる。

(三) 希ガスの放出回数について

原告らは、原子炉格納施設の換気による希ガスの放出回数を年間一〇回とする根拠はない旨主張する。

しかし、乙一六・八―一四―三頁によれば、右換気は、原子炉停止時に申請者の従業員が原子炉格納容器内に立ち入る際にされるものであることが認められるところ、前記(一、2、(一)、(2)、(ロ))のとおり、本件安全審査においては、右換気回数は、先行軽水炉の最近の運転実績等を参考にして想定したものであることを確認している。また、弁論の全趣旨によれば、我が国の原子力発電所の年間停止回数の平均値は二回未満であることが認められる。したがって、右評価条件は十分保守的ということができ、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(四) 計算過程について

原告らは、①気体廃棄物中の希ガスによる全身被曝線量評価は、適切な現地実験を行わずに、パスキル拡散式を用いて計算していること、②大気中の濃度計算では、風がほとんどない静穏時の拡散を有風時に置き換えて計算していることなど、計算過程に問題があり不当である旨主張する。

しかし、乙四・一二六頁、一二七頁、一三七ないし一三九頁、一四六頁によれば、右線量評価は、「気象指針」に準拠したものであることが認められるから、何ら不当な点はない。したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

なお、乙四・一四六頁によれば、「気象指針」が静穏時の風速を秒速0.5メートルとして有風時の拡散式を適用することとしているのは、静穏時に適用できる適切な拡散式が現在存在しないところ、一般的に静穏時とされている場合でも、感度のよい風速計で見ると秒速0.5メートル以上の風速を示していることが多く、静穏時においても大気による拡散希釈は行われているものと考えられる上、静穏時における放射性雲からのガンマ線被曝も極端に高い観測値が得られていないことによるものであることが認められ、右拡散式に特段不合理な点は認められない。

2 液体廃棄物の評価について

(一) 原告らは、放射性液体廃棄物の年間放出量について、①共通保修設備廃液の二〇パーセントが処理後再使用しないまま放出されるとしていること、②液体廃棄物中の放出核種とその構成比、③トリチウムの放出量を二五〇キュリーとしていることの三点は、根拠がなく恣意的である旨主張する。

しかし、①については、乙一六・九―四―一一頁、一二頁によれば、本件安全審査においては、そもそも共通保修設備廃液は、蒸発濃縮後、濃縮廃液は固体廃棄物として処理し、蒸留水は脱塩塔で更に浄化した後、原則として再使用されることを確認したことが認められ、その合理性に疑いを入れるような証拠はない。したがって、その二〇パーセントが放出されるとした評価条件は十分保守的ということができる。②については、乙一六・九―四―一二頁、二三頁によれば、本件安全審査においては、燃料被覆管の欠陥率一パーセント等の条件を前提に、各種放射性廃棄物処理設備の性能等を考慮した上で核種と構成比が算定されていることを確認したことが認められ、その合理性に疑いを入れるような証拠はない。③については、前記(一、2、(二)、(2))のとおり、本件安全審査においては、海外の高速炉の実情を参考にして設定されたものであることを確認したことが認められ、その合理性に疑いを入れるような証拠はない。

(二) なお、原告らは、①被曝線量評価に用いられている濃縮係数は、仮定的なものであり、これに基づいた被曝線量評価は現実性がない、②海産物摂取量について、周辺住民の中でも標準的なものを対象とし、極端な摂取をする極めて少数の住民を対象としていないのは、安全側に立った評価とはいえない、③放射性液体廃棄物による外部被曝線量評価を行っていないのは過小評価であるなどと主張するが、これらはすべて「線量評価指針」に準拠したものであり、右評価条件を設定した「線量評価指針」が合理的であることは、前記(第二、三、4)のとおりである。

したがって、原告らのこれらの主張はいずれも理由がない。

3 プルトニウムについて

原告らは、本件原子炉施設において燃料として用いられているプルトニウム(プルトニウム二三九。以下同じ。)は、放射性物質の中で最も毒性の強い物質であり、これを十分管理することはできないから、本件原子炉施設の安全性は確保されない旨主張する。

しかし、前記(第一、三、2)のとおり、原子炉施設の安全性の確保とは、原子炉施設の有する潜在的危険性を顕在化させないよう、放射性物質の環境への放出を可及的に少なくし、これによる災害発生の危険性を社会通念上容認できる水準以下に保つことであるから、本件原子炉施設においてこれが満たされている限り、本件原子炉施設の安全性は確保されているということができる。したがって、本件原子炉施設において燃料としてプルトニウムを用いているということだけで、本件原子炉施設の安全性が確保されないということはできない。

ところで、プルトニウムは、①天然には存在しない人工放射性核種である、②アルファ線放射性核種であり、比放射能(単位質量あたりの放射能)がウラン二三五より高い、③半減期が二万四一〇〇年と長いという特徴を有することは当事者間に争いがない。

しかし、前記(第一、三、1、(二)、(2))のとおり、放射線には、アルファ線、ベータ線、中性子線、ガンマ線、エックス線といった種類があるが、右種別のほかに人工放射性核種の放射線と自然放射性核種の放射線とで違いがあるという証拠はない。そして、乙ロ三によれば、放射線の種類の相違による人体に与える影響の相違は、被曝の影響を全ての放射線に共通する尺度で評価するために用いられる線量当量の単位(レム又はシーベルト)を定めるに当たって、吸収線量及び生体の組織による相違とともに考慮されていることが認められる。

また、右のとおり線量当量は吸収線量を考慮に入れた単位であるところ、前記(第一、三、1、(二)、(4))のとおり、吸収線量(単位はラド又はグレイ)とは、照射された放射線が物質に当たった時に、その物質にそのエネルギーが吸収される量であるから、放射線の照射量を決定する要素として半減期の長さも考慮されているということができる。

そうすると、原子炉施設の安全性が確保されているか否かを判断するためには、右線量当量を単位として放射性物質の環境への放出量を評価し、その影響がこれを無視することができる程度まで低いか否かを問題とすれば足り、それ以上に、プルトニウムが人工放射性核種であること、アルファ放射性核種であることや半減期の長さを独立に評価する必要はない。

なお、②の点については、乙ロ一八によれば、プルトニウムの比放射能は、ウラン二三五と比べれば高いが、天然に存在するラジウム、ラドンのそれよりは低いから、プルトニウムだけが特別に危険であるとはいえない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

四  まとめ

以上のとおり、本件安全審査においては、調査審議の結果、本件原子炉施設の平常運転時における安全性について、本件原子炉施設が具体的審査基準に適合し、その基本設計ないし基本的設計方針において、平常運転時における公衆の被曝線量を十分低く抑えることができ、原子炉等による災害の防止上支障がないものとした本件安全審査における調査審議及び判断の過程に重大かつ明白な過誤、欠落があるとは認められない。

第六  本件原子炉施設の事故防止対策に係る安全性

一  運転時の異常な過渡変化の解析評価に関する本件安全審査

乙七ないし一〇、乙一四の一ないし三、乙一六、乙二二、乙二三及び乙イ六並びに弁論の全趣旨によれば、運転時の異常な過渡変化の解析評価についての本件安全審査の内容につき、次のとおりと認められる。

1 意義

運転時の異常な過渡変化の解析評価は、事故防止対策としての安全設計がされていることを前提として、原子炉施設の運転状態において、原子炉施設寿命期間中に予想される機器の単一故障又は誤動作若しくは運転員の単一誤操作などによって、原子炉の通常運転を超えるような外乱が原子炉施設に加えられた状態及びこれらと類似の頻度で発生し、原子炉施設の運転が計画されていない状態に至る事象を想定し、これらの事象が発生した場合における安全保護系、原子炉停止系等の設計の妥当性を確認するために行うものである。

2 本件安全審査の審査方針

本件安全審査においては、運転時の異常な過渡変化として選定された事象が妥当であるか否かを審査した上、「評価の考え方」に基づき、「安全評価審査指針」等を参考として、それぞれの事象について次の項目を具体的な判断基準として取り上げ、申請者の実施した運転時の異常な過渡変化の解析を審査、評価した。

(一) 燃料被覆管が、プレナムガスの内圧により破損しないよう、被覆管肉厚中心温度は八三〇℃以下であること。

(二) 冷却材が沸騰しないよう、炉心ナトリウム温度は沸点未満であること。

(三) 燃料被覆管が燃料溶融により破損しないよう、燃料温度は融点未満であること。

(四) 原子炉冷却材バウンダリの温度は、六〇〇℃、最高使用温度(℃)の1.4倍のいずれをも超えないこと。

3 本件許可申請における解析対象

本件許可申請においては、運転時の異常な過渡変化として、次の事象が取り上げられている。

(一) 炉心内の反応度又は出力分布の異常な変化

①未臨界状態からの制御棒の異常な引き抜き、②出力運転中の制御棒の異常な引き抜き、③制御棒落下

(二) 炉心内の熱発生又は熱除去の異常な変化

①一次冷却材流量減少、②一次冷却材流量増大、③外部電源喪失、④二次冷却材流量減少、⑤二次冷却材流量増大、⑥給水流量喪失、⑦給水流量増大、⑧負荷の喪失

(三) ナトリウムの化学反応

蒸気発生器伝熱管小漏えい

4 本件許可申請における運転時の異常な過渡変化の解析内容

本件安全審査においては、本件許可申請における運転時の異常な過渡変化の解析内容について、次のとおりと確認した。

(一) 炉心内の反応度又は出力分布の異常な変化

(1) 未臨界状態からの制御棒の異常な引き抜き

(イ) 事象の内容

制御棒駆動機構の誤動作又は運転員の誤操作により未臨界状態から制御棒が連続的に引き抜かれ、中性子束が急速に上昇する場合を想定する。

(ロ) 解析条件

(a) 過渡変化の初期状態として、原子炉は未臨界状態にあるものとする。

(b) 初期の原子炉熱出力は定格値の1.1パーセントとし、原子炉核出力は定格値の一〇のマイナス六乗パーセントとする。

(c) 炉心の冷却材流量は定格値の四九パーセント、原子炉容器入口ナトリウムの初期温度は三〇〇℃とする。

(d) 最大の反応度価値を持つ調整棒一本が最大速度で引き抜かれるものとし、反応度挿入率は三セント毎秒とする。

(ハ) 解析結果

異常発生後、「出力領域中性子束高(低設定)」の信号により、原子炉は自動停止する。この事象による最大到達原子炉出力は定格値の約四八パーセント、燃料最高温度は約五九〇℃、被覆管肉厚中心最高温度は約三六〇℃、炉心のナトリウム最高温度は約三六〇℃にとどまる。

したがって、燃料、被覆管及び冷却材の温度はいずれも制限値を十分下回っており、燃料の健全性が損なわれることはない。また、原子炉冷却材バウンダリの温度は、制限値を十分に下回るので、原子炉冷却材バウンダリの健全性が問題となることはない。

(2) 出力運転中の制御棒の異常な引き抜き

(イ) 事象の内容

原子炉出力制御系の誤動作又は運転員の誤操作などにより、原子炉出力運転状態から制御棒が連続的に引き抜かれ、中性子束が急速に上昇する場合を想定する。

(ロ) 解析条件

(a) 原子炉は定格出力運転状態にあるものとする。

(b) 最大の反応度価値を持つ調整棒一本が最大速度で引き抜かれるものとし、反応度挿入率は三セント毎秒とする。

(ハ) 解析結果

異常発生後、「出力領域中性子束高(高設定)」の信号により、原子炉は自動停止する。この事象による原子炉の最大出力は定格値の約一一八パーセントであり、燃料最高温度は約二四五〇℃、被覆管肉厚中心最高温度は約七〇〇℃である。また、炉心のナトリウム最高温度は約六九〇℃にとどまり、被覆管肉厚中心温度及びナトリウム温度については、初期原子炉出力が定格値の九一パーセントの場合が最も厳しくなるが、それぞれ約七二〇℃、約七一〇℃である。

したがって、燃料、被覆管及び冷却材の温度はいずれも制限値を十分下回っており、燃料の健全性が損なわれることはない。また、原子炉冷却材バウンダリの温度は、制限値を十分に下回るので、原子炉冷却材バウンダリの健全性が問題となることはない。

(3) 制御棒落下

(イ) 事象の内容

原子炉出力運転中に、制御棒駆動装置の故障又は誤動作によって、制御棒一本が引抜位置から炉心内に落下した場合を想定する。

(ロ) 解析条件

(a) 原子炉は定格出力運転状態にあるものとする。

(b) 調整棒一本の落下による原子炉出力の減少幅が小さく、原子炉が自動停止に至らない場合として、マイナス二〇セントの反応度が挿入されるものとする。

(c) 制御棒落下による最大線出力の増加率は一〇パーセントとする。

(d) 原子炉出力制御系は自動運転されているものとする。

(ハ) 解析結果

調整棒が落下し、負の反応度が挿入されるので、原子炉出力及び原子炉容器出口ナトリウム温度を設定値に制御する原子炉出力制御系の動作によって微調整棒が引き抜かれ、初期運転状態の近傍に復帰する。この事象による原子炉の最大出力は定格値の約一〇四パーセントである。燃料最高温度は約二五六〇℃、被覆管肉厚中心最高温度は約七一〇℃である。また、炉心のナトリウム最高温度は約六九〇℃となる。

したがって、燃料、被覆管及び冷却材の温度はいずれも制限値を十分下回っており、燃料の健全性が損なわれることはない。また、原子炉冷却材バウンダリの温度は制限値を十分に下回るので、原子炉冷却材バウンダリの健全性が問題となることはない。

(二) 炉心内の熱発生及び熱除去の異常な変化

(1) 一次冷却材流量減少

(イ) 事象の内容

原子炉出力運転中に一次主冷却系循環ポンプ主モータの電源喪失等により、炉心流量が減少する場合を想定する。

(ロ) 解析条件

(a) 原子炉は定格出力運転状態にあるものとする。

(b) 定格出力運転中に一次主冷却系循環ポンプ一台の主モータがトリップし、同ポンプはポニーモータによる低速運転に移行するものとする。

(ハ) 解析結果

一次冷却系循環ポンプのトリップが発生すると、そのループの冷却材流量が減少し、「一次主冷却系循環ポンプ回転数低」信号により原子炉は自動停止する。原子炉容器出口ナトリウム温度は約五四〇℃まで、原子炉容器入口ナトリウム温度は約四三〇℃までの上昇にとどまる。被覆管肉厚中心最高温度は約七一〇℃にとどまり、炉心のナトリウム最高温度は約七〇〇℃となる。また、燃料温度は初期値よりわずかに上昇するだけである。

したがって、燃料、被覆管及び冷却材の温度はいずれも制限値を十分下回っており、燃料の健全性が損なわれることはない。また、原子炉冷却材バウンダリの温度は、制限値を十分に下回るので、原子炉冷却材バウンダリの安全性が問題となることはない。

(2) 一次冷却材流量増大

(イ) 事象の内容

原子炉出力運転中に一次主冷却系流量制御系の故障等によって、炉心流量が異常に増大し、原子炉出力が上昇する場合を想定する。

(ロ) 解析条件

(a) 原子炉は定格出力運転状態にあるものとする。

(b) 一次冷却材流量は、同流量制御系の故障により、一ループの一次主冷却系循環ポンプの回転数の上限値に対応する流量まで増大するものとする。

(c) 原子炉出力制御系は自動運転されているものとする。

(d) 制御棒引き抜き阻止による原子炉出力の抑制は無視するものとする。

(ハ) 解析結果

一次冷却材流量の増大により、中間熱交換器一次側出口ナトリウム温度が異常に上昇し、「中間熱交換器一次側出口ナトリウム温度高」信号により原子炉は自動停止する。原子炉容器出口ナトリウム温度は、定格運転時に比べてほとんど上昇しない。原子炉容器入口ナトリウム温度は約四三〇℃までの上昇にとどまる。また、燃料最高温度は約二四八〇℃、被覆管肉厚中心最高温度は約六九〇℃にとどまる。炉心のナトリウム最高温度は約六八〇℃にとどまり、沸点に達しない。

したがって、燃料、被覆管及び冷却材の温度はいずれも制限値を十分下回っており、燃料の健全性が損なわれることはない。また、原子炉冷却材バウンダリの温度は制限値を十分に下回るので、原子炉冷却材バウンダリの健全性が問題となることはない。

(3) 外部電源喪失

(イ) 事象の内容

送電系統又は所内電源設備の故障等により、外部電源が喪失し、運転状態が乱される場合を想定する。

(ロ) 解析条件

(a) 原子炉は定格出力運転状態にあるものとする。

(b) 最も厳しい場合として、所内常用電源の供給がすべて失われるものとする。

(ハ) 解析結果

電源喪失が発生すると、一次、二次主冷却系循環ポンプの駆動力が喪失し、「常用母線電圧低」信号により原子炉は自動停止する。原子炉容器出口ナトリウム温度は約五四〇℃まで、原子炉容器入口ナトリウム温度は約四三〇℃までの上昇にとどまる。また、被覆管肉厚中心最高温度は約七三〇℃、炉心のナトリウム最高温度は約七二〇℃にとどまる。燃料温度は初期値よりわずかに上昇するだけである。

したがって、燃料、被覆管及び冷却材の温度はいずれも制限値を十分下回っており、燃料の健全性が損なわれることはない。また、原子炉冷却材バウンダリの温度は、制限値を十分に下回るので、原子炉冷却材バウンダリの健全性が問題となることはない。

(4) 二次冷却材流量減少

(イ) 事象の内容

原子炉出力運転中に、二次主冷却系循環ポンプ主モータの電源喪失等により、二次冷却材流量が減少し、原子炉容器入口ナトリウム温度が上昇することを想定する。

(ロ) 解析条件

(a) 原子炉は定格出力運転状態にあるものとする。

(b) 定格出力運転中に二次主冷却系循環ポンプ一台がトリップし、同ポンプはポニーモータによる低速運転に移行するものとする。

(ハ) 解析結果

二次主冷却系循環ポンプのトリップが発生すると、「二次主冷却系循環ポンプ回転数低」信号により原子炉は自動停止する。原子炉容器出口ナトリウム温度は定格運転時に比べてほとんど上昇せず、原子炉容器入口ナトリウム温度についても約四三〇℃までの上昇にとどまる。被覆管肉厚中心最高温度は約六八〇℃であり、炉心のナトリウム最高温度は約六七〇℃である。また、燃料温度は初期値以上に上昇することはない。

したがって、燃料、被覆管及び冷却材の温度はいずれも制限値を十分下回っており、燃料の健全性が損なわれることはない。また、原子炉冷却材バウンダリの温度は、制限値を十分に下回るので、原子炉冷却材バウンダリの健全性が問題となることはない。

(5) 二次冷却材流量増大

(イ) 事象の内容

原子炉出力運転中に、二次主冷却系循環ポンプの可変速流体継手付M―Gセットの故障等により、二次冷却材流量が増大し、原子炉容器入口ナトリウム温度が低下し、原子炉出力が上昇する場合を想定する。

(ロ) 解析条件

(a) 原子炉は定格出力運転状態にあるものとする。

(b) 二次冷却材流量は、同流量制御系の故障により一ループの二次主冷却系循環ポンプの回転数の上限値に対応する流量まで増大するものとする。

(c) 原子炉出力制御系は自動運転されているものとする。

(ハ) 解析結果

二次冷却材流量の増大により、蒸発器出口ナトリウム温度が異常に上昇し、「蒸発器出口ナトリウム温度高」信号により原子炉は自動停止する。原子炉容器出口ナトリウム温度は定格運転時に比べほとんど上昇しない。原子炉容器入口ナトリウム温度は約四四〇℃までの上昇にとどまる。また、燃料最高温度は約二三六〇℃、被覆管肉厚中心最高温度は約六八〇℃にとどまる。炉心のナトリウム最高温度は約六七〇℃にとどまる。

したがって、燃料、被覆管及び冷却材の温度はいずれも制限値を十分下回っており、燃料の健全性が損なわれることはない。また、原子炉冷却材バウンダリの温度は、制限値を十分に下回るので、原子炉冷却材バウンダリの健全性が問題となることもない。

(6) 給水流量喪失

(イ) 事象の内容

主給水ポンプの故障等により、給水流量が喪失し、蒸気発生器での除熱が不足し、原子炉容器入口ナトリウム温度が上昇することを想定する。

(ロ) 解析条件

(a) 原子炉は定格出力運転状態にあるものとする。

(b) 主給水ポンプが二台同時にトリップするものとする。

(ハ) 解析結果

主給水ポンプ二台がトリップすると、蒸気発生器の給水流量が減少し、蒸気発生器での除熱量が減少するため、蒸発器出口ナトリウム温度が上昇し、「蒸発器出口ナトリウム温度高」信号により原子炉は自動停止する。原子炉容器出口ナトリウム温度は定格運転時に比べてほとんど上昇しない。原子炉容器入口ナトリウム温度は約四五〇℃までの上昇にとどまる。また、被覆管肉厚中心最高温度は、約六八〇℃にとどまり、炉心のナトリウム最高温度は約六七〇℃までの上昇にとどまる。なお、燃料温度は初期値以上に上昇することはない。

したがって、燃料、被覆管及び冷却材の温度はいずれも制限値を十分下回っており、燃料の健全性が損なわれることはない。また、原子炉冷却材バウンダリの温度は制限値を十分に下回るので、原子炉冷却材バウンダリの健全性が問題となることはない。

(7) 給水流量増大

(イ) 事象の内容

給水設備の故障等により、給水流量が増大し、原子炉容器入口ナトリウム温度が低下し、原子炉出力が増加する場合を想定する。

(ロ) 解析条件

(a) 原子炉は定格出力運転状態にあるものとする。

(b) 給水流量は主給水ポンプ二台の回転数の上限値に対応する流量まで上昇するものとする。この時、蒸発器出口蒸気温度の制御は行われないものとする。また、蒸発器出口蒸気温度の低下による給水遮断は生じないものとする。

(c) 原子炉出力制御系は自動運転されているものとする。

(ハ) 解析結果

蒸気発生器の給水流量が定格値の約一三〇パーセントまで増大し、蒸気発生器における熱交換量が増加するため、蒸発器出口ナトリウム温度及び中間熱交換器一次側出口ナトリウム温度がそれぞれ約一一℃、約八℃低下する。この結果、原子炉容器出口ナトリウム温度は一時的に降下するが、原子炉出力制御系の動作により、過渡変化の始まる前の温度近傍に復帰する。原子炉出力は定格値の約一〇八パーセントまで上昇して整定する。原子炉容器入口ナトリウム温度も定格値以上に上昇することはない。また、燃料最高温度は二四五〇℃、被覆管肉厚中心最高温度は約六八〇℃、炉心のナトリウム最高温度は約六七〇℃にとどまる。

したがって、燃料、被覆管及び冷却材の温度はいずれも制限値を十分下回っており、燃料の健全性が損なわれることはない。また、原子炉冷却材バウンダリの温度は、制限値を十分に下回るので、原子炉冷却材バウンダリの健全性が問題となることはない。

(8) 負荷の喪失

(イ) 事象の内容

外部送電系統の故障やタービン制御系統の誤動作あるいはタービンの故障によりタービン負荷が喪失し、給水ポンプがトリップして蒸気発生器の除熱が不足し、原子炉容器入口ナトリウム温度が上昇する場合を想定する。

(ロ) 解析条件

(a) 原子炉は定格出力運転状態にあるものとする。

(b) 負荷が完全に喪失するものとし、このとき主給水ポンプがトリップするものとする。

(c) 一次主冷却系の除熱に対して厳しい条件として、負荷喪失によるタービンのトリップ及び「タービントリップ」信号に基づく原子炉の自動停止は無視する。また、この場合タービンバイパス弁及び主蒸気逃し弁は働かないものとし、過熱器出口安全弁及び蒸発器出口安全弁が作動するものとする。

(ハ) 解析結果

定格値の一〇〇パーセントから〇パーセントへの負荷喪失が発生すると、タービンの余剰蒸気は過熱器出口安全弁及び蒸発器出口安全弁から系外へ放出される。主給水ポンプの停止に伴い蒸気発生器への給水流量が減少し、蒸気発生器の除熱能力が減少するため蒸発器出口ナトリウム温度が上昇し、「蒸発器出口ナトリウム温度高」信号により原子炉は自動停止する。原子炉容器出口ナトリウム温度は、定格運転時に比べほとんど上昇しない。原子炉容器入口ナトリウム温度は約四五〇℃までの上昇にとどまる。また、被覆管中心温度は約六八〇℃、炉心のナトリウム最高温度は約六七〇℃までの上昇にとどまる。なお、燃料温度は初期値以上に上昇することはない。

したがって、燃料、被覆管及び冷却材の温度はいずれも制限値を十分下回っており、燃料の健全性が損なわれることはない。また、原子炉冷却材バウンダリの温度は、制限値を十分に下回るので、原子炉冷却材バウンダリの健全性が問題となることはない。

(三) ナトリウムの化学反応

(1) 蒸気発生器伝熱管小漏えい

(イ) 事象の内容

蒸気発生器の伝熱管で水の小漏えいが生じ、ナトリウム中への水漏えいにより微小な規模のナトリウム・水反応が生じる場合を想定する。

(ロ) 解析条件

(a) 原子炉は定格出力運転状態にあるものとする。

(b) 解析対象ループは、水素の輸送遅れ時間を考慮し、二次主冷却系配管長が最長のループとする。

(c) 水漏えいの位置は水漏えい検出器での遅れ時間を考慮し、蒸発器の管束部上部とする。

(d) 水漏えい率範囲は0.1グラム毎秒以下とする。

(ハ) 解析結果

水漏えい検出設備により、水漏えいを早期に検出し、十分な時間的余裕をもって運転員が水漏えい信号を発し、それに基づいて、水・蒸気側の遮断、内部保有水のブロー等のプラント自動停止操作が行われ、ナトリウム・水反応は停止される。隣接伝熱管の損耗は無視でき、その健全性が損なわれることはない。

また、この場合、プラント自動停止操作が行われると、二次主冷却系循環ポンプがトリップされ、「二次主冷却系循環ポンプ回転数低」信号により、原子炉は自動停止し、炉心及び原子炉冷却材バウンダリにとっては、前記((4))の「二次冷却材流量減少事象」と同様な過渡変化となる。燃料の健全性並びに原子炉冷却材バウンダリの健全性が問題となることはない。

5 本件安全審査における評価

(一) 事象選定の妥当性

運転時の異常な過渡変化として取り上げられている事象については、「評価の考え方」に基づき、「安全評価審査指針」等を参考として、事象選定解析の結果をも考慮して炉心内の反応度又は出力分布の異常な変化、炉心内の熱発生又は熱除去の異常な変化、ナトリウムの化学反応それぞれに対して、過渡変化の結果が厳しくなる事象が選定されており、事象の選定は妥当であると判断した。

(二) 解析方法の妥当性

(1) 事象の解析に当たって考慮する範囲については、サイクル期間中の炉心燃焼度変化や燃料交換等による長期的な変動及び運転中予想される異なった運転モードが考慮されており、計測制御系、安全保護系等の作動状況及び運転員の操作の態様が考慮されている。解析に使用されているモデル及びパラメータについては、それぞれの事象に応じて評価の結果が厳しくなるように選定されており、また、パラメータに不確定因子が考えられる場合には、安全余裕が見込まれている。

(2) 解析に当たっては、作動を要求される安全系の機能別に結果を最も厳しくする単一故障が仮定されており、事象の影響を緩和するのに必要な運転員の手動操作のための時間的余裕は適切に見込まれている。また、各事象の解析に使用されている計算コードは、実験結果等との比較によりその使用の妥当性が確認されている。したがって、解析に用いられている条件及び手法は妥当であると判断した。

(三) 解析結果の妥当性

いずれの事象の解析結果においても、被覆管肉厚中心温度、炉心ナトリウム温度、燃料、原子炉冷却材バウンダリの温度はいずれも制限値を十分下回っていると判断した。

(四) 結論

以上から、本件安全審査においては、本件原子炉施設は、自己制御性と安全保護機能の動作があいまって、運転中に起こる異常な過渡変化を安定に収束し、燃料及び原子炉冷却材バウンダリの健全性を保持できる設計であると判断した。

二  各種事故解析に関する本件安全審査

乙七ないし一〇、乙一四の一ないし三、乙一六、乙二二、乙二三及び乙イ六並びに弁論の全趣旨によれば、各種事故解析についての本件安全審査の内容につき、次のとおりと認められる。

1 意義

各種事故の解析評価は、事故防止対策としての安全設計がされていることを前提として、発生頻度は極めて小さいが、万一発生した場合には、原子炉施設からの放射能の放出の可能性がある事象を選定し、これらの事象の発生及び拡大を防止するために、各種の対策が取られていることを確認した上で、万一これが発生した場合にも、その拡大を防止し、周辺への放射能の異常な放出を抑止するための十分な安全防護対策がされているといえるか否か、安全防護機能の設計の妥当性を確認するために行うものである。

2 本件安全審査の審査方針

本件安全審査においては、事故として選定された事象が妥当であるか否かを審査した上、それぞれの事象について、事故の発生及び拡大を防止するための対策が取られていることを確認し、また、「評価の考え方」に基づき、「安全評価審査指針」を参考にして、次の項目を具体的な判断基準として取り上げ、事故の解析を審査、評価した。

(一) 炉心は大きな損傷に至ることなく、かつ、十分な冷却が可能であること。

(二) 原子炉冷却材バウンダリの温度は、六五〇℃、最高使用温度(℃)の1.6倍のいずれをも超えないこと。

(三) 格納容器バウンダリの温度及び圧力は最高使用温度(一五〇℃)及び最高使用圧力(0.5キログラム毎平方センチメートルG)以下であること。

(四) 周辺の公衆に対し著しい放射線被曝のリスクを与えないこと。

3 本件許可申請における解析対象

(一) 炉心内の反応度の増大に至る事故

①制御棒急速引抜事故、②燃料スランピング事故、③気泡通過事故

(二) 炉心冷却能力の低下に至る事故

①冷却材流路閉塞事故、②一次主冷却系循環ポンプ軸固着事故、③二次主冷却系循環ポンプ軸固着事故、④主給水ポンプ軸固着事故、⑤一次冷却材漏えい事故、⑥二次冷却材漏えい事故、⑦主蒸気管破断事故、⑧主給水管破断事故

(三) 燃料取扱いに伴う事故

①燃料取替取扱事故

(四) 廃棄物処理設備に関する事故

①気体廃棄物処理系破損事故

(五) ナトリウムの化学反応

①ダンプタンクからのナトリウム漏えい事故、②オーバフロー系からのナトリウム漏えい事故、③コールドトラップからのナトリウム漏えい事故、④蒸気発生器伝熱管破損事故

(六) 原子炉カバーガス系に関する事故

①一次アルゴンガス漏えい事故

4 本件許可申請における各種事故の解析内容

(一) 炉心内の反応度の増大に至る事故

(1) 制御棒急速引抜事故

(イ) 事故の内容

原子炉の起動時又は出力運転中に、何らかの原因で、調整棒一本が技術的に考え得る最大度で連続的に引き抜かれることにより、異常な反応度が挿入され、原子炉出力及び炉心各部の温度が上昇する事故を想定する。

(ロ) 事故発生及び拡大の防止のための対策

(a) この事故の発生を防止するために次の対策が講じられるので、事故発生の可能性は極めて低い。

(い) 制御棒駆動機構は、駆動モータの回転数に対応する引抜速度以上の急速な引き抜きは、制御回路及び駆動モータ単体の容量の限界により起こらないようにする。

(ろ) 制御棒は同時に一本しか引き抜けず、かつ、急速に引き抜くことができないように制限する設計とする。

(b) 万一事故が発生した場合も、原子炉自動停止により終結する。

(ハ) 事故解析

(a) 未臨界状態からの制御捧急速引抜事故

(い) 解析条件

①事故発生時の初期状態として、原子炉は未臨界状態にあるものとする。

②初期の原子炉熱出力は、定格値の1.1パーセント、原子炉核出力は定格値の一〇のマイナス六乗パーセントとする。

③炉心の冷却材流量は定格値の四九パーセント、原子炉容器入口のナトリウムの初期温度は三〇〇℃とする。

④制御棒急速引抜事故による反応度挿入率は、調整棒駆動モータの物理的に考え得る最大速度に対応する反応度に余裕を見込んで七セント毎秒とする。

(ろ) 解析結果

事故発生後、「出力領域中性子束高(低設定)」の信号により、原子炉は自動停止する。この場合の最大出力は定格値の約八二パーセント、燃料最高温度は約六九〇℃、被覆管肉厚中心最高温度及びナトリウム最高温度は共に約三八〇℃までの上昇にとどまる。

したがって、燃料及び被覆管の各温度は過度に上昇することはなく、炉心冷却能力が失われることはない。

(b) 出力運転中の制御棒急速引抜事故の解析

(い) 解析条件

①原子炉出力は定格出力の一〇二パーセントとする。

②制御棒急速引き抜きによる反応度挿入率は、調整棒駆動モータの物理的に考え得る最大速度に対応する反応度に余裕を見込んで、七セント毎秒とする。

(ろ) 解析結果

事故発生後、「出力領域中性子束高(高設定)」の信号により、原子炉は自動停止する。この場合の最大出力は定格値の約一二一パーセント、燃料最高温度は約二四二〇℃、被覆管肉厚中心最高温度は約七〇〇℃、ナトリウム最高温度は約六八〇℃までの上昇にとどまる。なお、被覆管肉厚中心温度及びナトリウム温度については、初期原子炉出力が定格値の約八六パーセントの場合が最も厳しくなり、それぞれ約七二〇℃、約七一〇℃となる。

したがって、燃料、被覆管及びナトリウムの各温度は過度に上昇することはなく、炉心の冷却能力が失われることはない。また、原子炉冷却材バウンダリの温度は制限値を十分に下回るので、原子炉冷却材バウンダリの健全性が損なわれることはない。

(2) 燃料スランピング事故

(イ) 事故の内容

原子炉出力運転中に、何らかの熱的あるいは機械的原因で燃料ペレットが燃料被覆管内で下方に密に詰まる事故を想定する。

(ロ) 事故発生及び拡大の防止のための対策

(a) この事故の発生を防止するために次の対策が講じられるので、事故発生の可能性は極めて低い。

(い) 燃料製作時には、燃料焼結、成形に十分に注意を払う。また、燃料体の製造及び検査を厳格に行う。

(ろ) 被覆管を高精度で製作し、燃料ペレットとの間には必要以上に間隙が生じないようにする。

(は) 燃料集合体の運搬及び取扱時には十分な注意を払い、燃料集合体に損傷が加わらないようにする。

(b) 万一事故が発生した場合にも、事故拡大の防止を図るため、次の対策が講じられる。

(い) 保護動作の設定値に達しない程度の軽微な原子炉出力の上昇に備えて、原子炉容器出口ナトリウム温度を一定に制御する原子炉出力制御系の動作やセットバック動作により、原子炉出力が異常に上昇することを防止する設計とする。

(ろ) 運転状態の監視及び炉心の異常監視を行うために、炉心燃料集合体の出口に温度計等を設置し、異常が発生すれば中央制御室に警報が発せられ、運転員の注意を喚起する。

(は) 原子炉出力が異常に上昇した場合、原子炉自動停止により終結する。

(ハ) 事故解析

(a) 解析条件

①原子炉出力は定格出力の一〇二パーセントとする。

②スランピング現象は、最大の反応度価値をもつ一体の燃料集合体内の全燃料要素で同時に発生するものとする。

③スランピングにより、燃料は理論密度の一〇〇パーセントになって炉心下部に落下するものとする。上部軸方向ブランケットは、最初の位置にそのまま残るものとする。

④スランピングによる反応度挿入はステップ状とする。

(b) 解析結果

事故発生後、「原子炉容器出口ナトリウム温度高」信号により、原子炉は自動停止する。燃料集合体のスランピングによる挿入反応度の最大値は約七セントであり、この場合、原子炉の最大出力は定格値の約一一五パーセントにとどまり、燃料最高温度は約二五八〇℃であり、融点に達しない。被覆管肉厚中心最高温度は約七二〇℃、ナトリウム最高温度は約七一〇℃にとどまり、沸点に達しない。

したがって、燃料、被覆管及びナトリウムの各温度は過度に上昇することはなく、炉心の冷却能力が失われることはない。また、原子炉冷却材バウンダリの温度は制限値を十分に下回るので、原子炉冷却材バウンダリの健全性が損なわれることはない。

(3) 気泡通過事故

(イ) 事故の内容

何らかの原因により、原子炉容器内の一次冷却材中に気泡が混入し、燃料集合体下部のエントランスノズルを通して、気泡が冷却材と共に炉心内を通過する事故を想定する。

(ロ) 事故発生及び拡大の防止のための対策

(a) この事故の発生を防止するために次の対策が講じられるので、事故発生の可能性は極めて低い。

(い) 原子炉容器出口ノズルは液面下約五メートルに設置し、また、原子炉容器上部プレナム中にディッププレートを設置することにより、液面の波立ちを生じにくくし、カバーガスを巻き込むことがないようにする。

(ろ) 一次冷却材充てんの際、一次主冷却系配管、弁及び中間熱交換器に設けられたガス抜きラインによりガス抜きを行いうる設計とし、残存ガスの混入を防止する。また、炉内構造物等には、ガス抜き穴を設け、下部プレナムでのガスの滞留を防止する。

(は) 原子炉容器入口ノズルから原子炉容器下部プレナムへ流入したナトリウムは、高圧プレナム又は低圧プレナムを経て燃料集合体その他の炉心構成要素へと至るが、その間に下部プレナム中での旋回流の効果並びにフローホール、プレナム、連結管、燃料集合体エントランスノズル等に設けたオリフィス孔などを通過するため、仮に大きな気泡が炉容器入口ノズルから混入したとしても、燃料集合体等に至るまでには微細な気泡に分断されて炉心部が気泡で覆われることのない設計とする。

(b) 万一事故が発生した場合も、原子炉自動停止により終結する。

(ハ) 事故解祈

(a) 解析条件

①原子炉出力は、定格出力の一〇二パーセントとする。

②気泡の大きさは、最大量として、高圧プレナム内の連結管の形状から二〇リットルとし、これが一斉に全炉心を通過するものとする。

③気泡によって覆われた燃料要素と気泡との熱伝達に関しては、燃料要素の温度が高くなるように断熱とする。

(b) 解析結果

事故発生後、「出力領域中性子束高(高設定)」の信号により原子炉は自動停止する。原子炉の最大出力は定格値の約一六三パーセントに達するが、燃料最高温度は初期温度よりわずかに上昇するだけであり、融点を十分下回る。被覆管肉厚中心最高温度は約六八〇℃、ナトリウム最高温度は約六七〇℃であり、沸点には達しない。

したがって、燃料、被覆管及びナトリウムの各温度は過度に上昇することはなく、炉心の冷却能力が失われることはない。また、原子炉冷却材バウンダリの温度は制限値を十分に下回るので、原子炉冷却材バウンダリの健全性が損なわれることはない。

(二) 炉心冷却能力の低下に至る事故

(1) 冷却材流路閉塞事故

(イ) 事故の内容

原子炉出力運転中に、炉心の冷却材中の不純物が蓄積したり、炉心に異物が詰まったりして局部的に冷却材の流路が閉塞し、燃料要素が過熱される事故を想定する。

(ロ) 事故発生及び拡大の防止のための対策

(a) この事故の発生を防止するために次の対策が講じられるので、事故発生の可能性は極めて低い。

(い) 燃料要素の材料選定、設計、製作、据付、試験、検査等は、諸規格、基準に適合させるようにし、また、品質管理や工程管理を十分に行う。

(ろ) 一次冷却材の純度は、適切な管理の下に、十分な純度を維持する。

(は) 炉心燃料集合体は、冷却材の流入口において各方向に多数の穴を開け、各方向の穴が同時に塞がることがないようにする。

(b) 万一事故が発生した場合にも、事故拡大の防止を図るため、次の対策が講じられる。

(い) 運転状態の監視及び炉心の異常監視のために炉心燃料集合体の出口に温度計等を設置し、異常が発生すれば中央制御室に警報が発せられ、運転員の注意を喚起する。

(ろ) 燃料被覆管が破損した場合には、燃料要素より放出される核分裂生成物を破損燃料検出装置で検出する。

(ハ) 事故解析

(a) 解析条件

①原子炉出力は、定格出力の一〇二パーセントとする。

②燃料集合体内の一サブチャンネルが瞬時に完全閉塞された場合を想定する。

③閉塞物質の物性値は構造材の値を使用する。

④閉塞の軸方向位置は炉心部上端とする。

⑤冷却材の流れによる軸方向の熱移行は考慮しないものとする。

⑥核分裂生成ガスのジェット衝突領域での被覆管外表面熱伝達係数は実験データに基づき1W/cm2℃とする。

(b) 解析結果

閉塞された流路に接する燃料要素の被覆管肉厚中心最高温度は約七三〇℃であり、また、仮にある燃料要素が破損して、隣接燃料要素に核分裂生成ガスがジェット衝突した場合を想定しても、被覆管肉厚中心最高温度は約七六〇℃であって、被覆管破損の制限値以下である。そして、核分裂生成ガス放出の継続時間は高々数分間程度であり、その後は被覆管温度は初期の温度に復帰する。

したがって、燃料集合体内の一サブチャンネルが閉塞された場合においても、被覆管の温度は過度に上昇することはなく、仮にある燃料要素が破損し核分裂生成ガスが放出することを想定した場合においても、隣接燃料要素の健全性が損なわれることはない。

(2) 一次主冷却系循環ポンプ軸固着事故

(イ) 事故の内容

原子炉出力運転中に、一台の一次主冷却系循環ポンプの回転軸が何らかの原因で瞬時に固着することにより、一次冷却材流量が急減し、炉心冷却能力が低下する事故を想定する。

(ロ) 事故発生及び拡大の防止のための対策

(a) この事故の発生を防止するために次の対策が講じられるので、事故発生の可能性は極めて低い。

(い) 一次主冷却系循環ポンプの材料選定、設計、製作、据付、試験、検査等は、諸規格、基準に適合させるようにし、また、品質管理や工程管理を十分に行う。

(ろ) 一次主冷却系循環ポンプ及びモータの故障を検出して警報を出して運転員の注意を喚起すると共に、異常が継続した場合には自動的にポンプを停止する設計とする。

(b) 万一事故が発生した場合も、原子炉自動停止により終結する。また、事故ループの一次主冷却系での逆流を防止するため、原子炉容器入口に近い配管部に逆止弁を設ける。

(ハ) 事故解析

(a) 解析条件

①原子炉出力は、定格出力の一〇二パーセントとする。

②事故を想定するループの一次主冷却系循環ポンプは、最も厳しい場合を仮定して瞬時に回転を停止するものとする。

(b) 解析結果

事故が発生すると、そのループの流量は急速に減少し、「一次主冷却系循環ポンプ回転数低」の信号により、原子炉は自動停止する。原子炉トリップ信号により、健全な一次、二次主冷却系循環ポンプもトリップされ、炉心流量が減少し、原子炉出力も低下する。健全なループの一次、二次主冷却系循環ポンプの回転数がコーストダウンし、所定の値になった時点で、健全な二つのループの一次、二次主冷却系循環ポンプはポニーモータによる低速運転に自動的に引き継がれ、炉心流量は定格値の約五パーセントが確保される。

原子炉容器出口ナトリウム温度は、事故発生直後一時的に約五四〇℃まで上昇するが、原子炉容器入口ナトリウム温度は約四四〇℃までの上昇にとどまる。燃料最高温度は初期温度よりわずかに上昇するだけであり、融点を十分下回る。被覆管肉厚中心最高温度は約八〇〇℃であり、被覆管破損の制限値以下である。炉心のナトリウム最高温度は約七九〇℃であり、沸点に達しない。

したがって、燃料、被覆管及びナトリウムの各温度は過度に上昇することはなく、炉心の冷却能力が失われることはない。また、原子炉冷却材バウンダリの温度は制限値を十分に下回るので、原子炉冷却材バウンダリの健全性が損なわれることはない。

(3) 二次主冷却系循環ポンプ軸固着事故

(イ) 事故の内容

原子炉出力運転中に、何らかの原因で一台の二次主冷却系循環ポンプの回転軸が瞬時に固着することにより、二次冷却材流量が急減し、中間熱交換器での除熱能力が低下する事故を想定する。

(ロ) 事故発生及び拡大の防止のための対策

(a) この事故の発生を防止するために次の対策が講じられるので、事故発生の可能性は極めて低い。

(い) 二次主冷却系循環ポンプの材料選定、設計、製作、据付、試験、検査等は、諸規格、基準に適合させるようにし、また、品質管理や工程管理を十分に行う。

(ろ) 二次主冷却系循環ポンプ及びモータの故障を検出して警報を出し、運転員の注意を喚起すると共に、異常が継続した場合には自動的にポンプを停止する設計とする。

(b) 万一事故が発生した場合も、原子炉自動停止により終結する。

(ハ) 事故解析

(a) 解析条件

①原子炉出力は、定格出力の一〇二パーセントとする。

②事故を想定するループの二次主冷却系循環ポンプは、最も厳しい場合を仮定して瞬時に回転を停止するものとする。

(b) 解析結果

事故が発生すると、そのループの流量は急速に減少し、「二次主冷却系循環ポンプ回転数低」の信号により原子炉は自動停止する。原子炉トリップ信号により健全な一次、二次主冷却系循環ポンプもトリップされ、炉心流量の減少及び原子炉出力の低下が生じる。健全なループの一次、二次主冷却系循環ポンプの回転数がコーストダウンし、所定の値になった時点で、一次、二次主冷却系循環ポンプはポニーモータによる低速運転に自動的に引き継がれ、炉心流量は定格値の約四パーセントが確保される。

原子炉容器出口ナトリウム温度は初期値よりほとんど上昇せず、原子炉容器入口ナトリウム温度は約四五〇℃までの上昇にとどまる。被覆管肉厚中心最高温度は約七三〇℃であり、被覆管破損の制限値以下である。炉心のナトリウム最高温度は約七三〇℃であり、沸点に達しない。また、燃料温度は初期値から上昇することはない。

したがって、燃料、被覆管及びナトリウムの各温度は過度に上昇することはなく、炉心の冷却能力が失われることはない。また、原子炉冷却材バウンダリの温度は制限値を十分に下回るので、原子炉冷却材バウンダリの健全性が損なわれることはない。

(4) 主給水ポンプ軸固着事故

(イ) 事故の内容

原子炉出力運転中に、何らかの原因で一台の主給水ポンプの回転軸が瞬時に固着することにより、給水流量が急減し、蒸気発生器での除熱能力が低下する事故を想定する。

(ロ) 事故発生及び拡大の防止のための対策

(a) この事故の発生を防止するために次の対策が講じられるので、事故発生の可能性は極めて低い。

(い) 主給水ポンプの材料選定、設計、製作、据付、試験、検査等は、諸規格、基準に適合させるようにし、また、品質管理や工程管理を十分に行う。

(ろ) 主給水ポンプの故障を検出して警報を出し、運転員の注意を喚起すると共に、異常が継続した場合には自動的にポンプを停止する設計とする。

(b) 万一事故が発生した場合も、原子炉自動停止により終結する。

(ハ) 事故解析

(a) 解析条件

①原子炉出力は、定格出力の一〇二パーセントとする。

②軸固着が生じた主給水ポンプは、最も厳しい場合を仮定して瞬時に回転を停止するものとする。

(b) 解析結果

事故が発生すると、各ループの蒸気発生器給水流量が減少し、これに伴い、蒸発器及び過熱器での除熱量が減少するので、蒸発器出口ナトリウム温度が上昇し、「蒸発器出口ナトリウム温度高」信号により原子炉は自動停止する。そして、原子炉トリップ信号により、一次、二次主冷却系循環ポンプがトリップする。一次、二次主冷却系循環ポンプの回転数がコーストダウンし、所定の値になった時点で、一次、二次主冷却系循環ポンプはポニーモータによる低速運転に自動的に引き継がれ、炉心流量は定格値の約七パーセントが確保される。

この事故において、原子炉容器出口ナトリウム温度は初期値よりほとんど上昇せず、原子炉容器入口ナトリウム温度は約四四〇℃までの上昇にとどまる。被覆管肉厚中心最高温度は約六八〇℃であり、被覆管破損の制限値以下である。炉心のナトリウム最高温度は約六七〇℃であり、沸点に達しない。また、燃料温度は初期値よりほとんど上昇することはない。

したがって、燃料、被覆管及びナトリウムの各温度は過度に上昇することはなく、炉心の冷却能力が失われることはない。また、原子炉冷却材バウンダリの温度は制限値を十分に下回るので、原子炉冷却材バウンダリの健全性が損なわれることはない。

(5) 一次冷却材漏えい事故

(イ) 事故の内容

原子炉出力運転中に、何らかの原因で原子炉冷却材バウンダリの配管が破損し、一次冷却材が漏えいする事故を想定する。配管破損の形態としては、一次主冷却系配管における割れ状の漏えい口又は一次主冷却系配管に接続するドレン系統等の小口径配管における最大規模の漏えい口を想定する。

(ロ) 事故発生及び拡大防止のための対策

(a) この事故の発生を防止するために次の対策が講じられるので、事故発生の可能性は極めて低い。

(い) 一次主冷却系の配管、機器の材料選定、設計、製作、据付、試験、検査等は、諸規格、基準に適合させるようにし、また、品質管理や工程管理を十分に行う。

(ろ) 一次主冷却系の配管、機器には、高温強度とナトリウム環境効果に対する適合性が良好なステンレス鋼を使用する。

(は) 一次主冷却系の配管は、エルボを用いて引き回し、十分な撓性を備えたものとする。

(に) 冷却材温度変化による熱応力等を制限すると共に、このような応力を考慮した設計とする。

(ほ) 一次主冷却系の配管、機器は、設計地震力に十分耐えるように設計される。

(へ) 一次冷却材の純度管理により腐食を防止する。

(と) 一次主冷却系の配管、機器は、内部の冷却材流速が適切で、過大な圧力損失や浸食のおそれのない設計とする。

(b) 万一事故が発生した場合にも、事故拡大の防止を図るため、次の対策が講じられる。

(い) 原子炉冷却材バウンダリを構成する配管、機器には、ナトリウム漏えい検出器を設置する。

(ろ) ナトリウム漏えい量に対応し、「原子炉容器ナトリウム液位低」信号、「ガードベッセル内漏えいナトリウム液位高」信号、「原子炉格納容器床下雰囲気温度高」信号のいずれかによって原子炉を自動停止するようにする。

(は) 一次主冷却系の循環に支障を来すことなく安全に炉心の冷却が行えるように、原子炉容器出口ノズルの上端より上方に適切な余裕をもって、最低限保持されなければならない液位(エマージェンシ・レベル)を規定し、この液位以上に原子炉容器内ナトリウム液位が保持される設計とする。

(に) 漏えいしたナトリウムの熱的影響を緩和するため、①原子炉容器室及び一次主冷却系室内は低酸素濃度の窒素雰囲気に保ち、ナトリウムが漏えいした場合の燃焼反応を抑制する、②漏えいしたナトリウムがコンクリートと直接接触することを防止するために、床面等に鋼製のライナあるいは貯留槽を設置する、③内部コンクリートの長期にわたる温度上昇を抑制するために、コンクリート冷却設備を設置する、④原子炉容器室において、ガードベッセル外の配管部から漏えいしたナトリウムは、配管周りに設置した覆いにより、ガードベッセル内に導き、更に、ガードベッセルからの溢流分がある場合には、溢流管により貯留槽に収納し、長期的に保持する対策を行う、⑤一次主冷却系室において、ガードベッセル外の配管部から漏えいしたナトリウムは、中間床の開口部を介して下部室の床ライナ上に貯留して長期的に保持する、などの対策を行うことにする。

(ほ) 万一、原子炉格納容器雰囲気中へ放射性物質が漏えいした場合においても、原子炉格納容器により閉じ込められ、わずかにアニュラス部へ漏えいした放射性物質は、同部を常時負圧に維持することにより直接大気中へ漏えいすることのないようにする。

(ハ) 事故解析

(a) 炉心冷却能力の解析

(い) 解析条件

①原子炉出力は、定格出力の一〇二パーセントとする。

②配管の破損位置は、破損口の内側圧力が最も高く、最大の流出速度を与える原子炉容器入口ノズル付近とする。

③破損口の大きさは割れ状の漏えい口として十分大きな二二平方センチメートルとする。

④外部電源は使用できないものとする。

⑤単一故障として、一系統において、ポニーモータによるポンプ低速運転への引き継ぎは行われないこと、二台ある汲み上げポンプのうちの一台が機能しないことを仮定する。

(ろ) 解析結果

事故直後のナトリウムの流出流量は約八〇キログラム毎秒と、炉心での通常運転時流量約四二七〇キログラム毎秒に比較してわずかであり、炉心冷却に対する影響は小さい。

ナトリウムの流出に伴って原子炉容器のナトリウム液位が低下し、事故発生約一九〇秒後に、「原子炉容器ナトリウム液位低」信号により、原子炉は自動停止し、原子炉トリップ信号により一次及び二次主冷却系循環ポンプはトリップする。ナトリウムの流出流量は循環ポンプがトリップしてコーストダウンするに従って減少し、ポンプが低速運転に移行した時点で約三四キログラム毎秒である。炉心流量はポンプのコーストダウンに従って減少し、事故後約二三〇秒で定格流量の約六パーセントに落ち着く。事故後二三〇秒の時点では、炉心の崩壊熱は原子炉定格出力の約四パーセントであるので、炉心の冷却は十分に行われ、また、原子炉冷却材バウンダリの温度は過度に上昇することはない。被覆管肉厚中心最高温度は約七四〇℃であり、被覆管破損の制限値以下である。炉心のナトリウム最高温度は約七三〇℃であり、沸点に達しない。また、燃料最高温度は初期値よりほとんど上昇することはない。

したがって、燃料、被覆管及びナトリウムの各温度は過度に上昇することはなく、炉心の冷却能力が失われることはない。また、原子炉容器のナトリウム液位は、ガードベッセル又は配管の高所引き回しによってエマージェンシ・レベル以上に維持され、冷却材の循環に支障を来すことはない。

(b) 漏えいナトリウムによる熱的影響の解析

(い) 解析条件

①原子炉出力運転中に、ナトリウムが二二平方センチメートルの破損口から漏えいして部屋の床ライナ上に溜まるものとし、ナトリウムの流出過程を考慮する。

②破損位置はホットレグ(中間熱交換器入口)配管とするが、ナトリウム漏えい量については、ナトリウム液位が整定するまでの漏えいが最大となる位置を想定し、更にオーバフロー系によるナトリウム汲み上げの影響も考慮して二一〇立方メートルとする。漏えいナトリウムの温度は一次主冷却系ホットレグ温度に余裕をみて五三一℃とする。

③室内の初期酸素濃度は3v/oとする。

④室内は内外圧差100mmaqに対して100%/dの通気率があるものとする。また、外部は空気雰囲気とする。

⑤漏えいナトリウムと酸素との反応式は、2Na+1/2O2→Na2O+104kcal/molとする。

(ろ) 解析結果

漏えいナトリウムが落下する中間床鋼板及び貯留される床ライナの最高温度はいずれも約四一〇℃であり、設計温度五三〇℃以下にとどまる。建物コンクリートの最高温度は約一二〇℃であり、事故発生三〇日後には六四℃以下に低下し、コンクリートの健全性を損なうことはない。原子炉格納容器の内圧上昇は約0.028キログラム毎平方センチメートルであり、最高使用圧力0.5キログラム毎平方センチメートルGを十分下回り、温度上昇もわずかである。なお、この場合のナトリウム燃焼量は約2.7トンである。

したがって、原子炉格納容器の健全性が問題となることはない。

(c) 核分裂生成物の放出量及び被曝線量の評価

(い) 解析条件

①事故発生直前まで、原子炉は定格出力の一〇二パーセントで長時間にわたって運転されていたものとする。

②通常運転時に一パーセントの燃料欠陥率を想定する。

③漏えいナトリウムを貯留する部屋に放出される核分裂生成物の量は、希ガスは漏えいナトリウム中の全量及び原子炉格納容器内一次アルゴンガス中の全量、よう素は燃焼ナトリウム中の全量及び原子炉格納容器内一次アルゴンガス中の全量とする。漏えいナトリウム量は二一〇立方メートル、燃焼ナトリウム量は2.7トンとする。

④漏えいナトリウムを貯留する部屋に放出されたよう素のうち、九五パーセントはエアロゾルの形態をとり、残り五パーセントはエアロゾルの形態をとらないものとする。

⑤漏えいナトリウムを貯留する部屋に放出されたエアロゾル状よう素はプレートアウト等による減衰を考慮するが、非エアロゾル状よう素及び希ガスは右減衰効果を考えない。

⑥漏えいナトリウムを貯留する部屋から原子炉格納容器床上への漏えい率は100%/d(100mmaq時)として事故時圧力により換算するが、最低漏えい率は100%/dとする。

⑦原子炉格納容器床上へ漏えいしたエアロゾル状よう素はプレートアウト等による減衰を考慮するが、非エアロゾル状よう素及び希ガスは右減衰効果を考えない。

⑧原子炉格納容器からの漏えい率は、この事故時の原子炉格納容器圧力に対応する漏えい率を下回らない値とする。

⑨原子炉格納容器からの漏えいは、九七パーセントがアニュラス部に生じ、残り三パーセントはアニュラス部外に生じるものとする。

⑩アニュラス循環排気装置のよう素用フィルタユニットのよう素除去効率は九九パーセントとする。

⑪よう素用フィルタユニットへの系統切替達成までの一〇分間はよう素除去効果は考慮しないものとする。

⑫原子炉格納容器内の放射能による直接線量及びスカイシャイン線量については原子炉格納容器等の遮へいを考慮して評価する。

⑬事故の評価期間は原子炉格納容器内圧が原子炉格納容器からの漏えいが無視できる程度に低下するまでの期間として、三〇日間とする。

⑭環境への核分裂生成物の放出は、排気筒より行われるものとする。

⑮環境に放出された核分裂生成物の大気中の拡散については「気象指針」に従って評価するものとする。

(ろ) 解析結果

大気中に放出される核分裂生成物の量は、よう素約0.031キュリー(よう素一三一等価量、以下同じ。)、希ガス約六八キュリー(ガンマ線エネルギー0.5MeV換算値、以下同じ。)である。この大気中に放出された核分裂生成物の放射性雲による被曝線量及び原子炉格納容器内に浮遊する放射能による直接線量及びスカイシャイン線量を計算した結果、本件敷地境界外で最大となる場所において小児甲状腺約0.00024レム、全身約0.0041レムである。

(6) 二次冷却材漏えい事故

(イ) 事故の内容

原子炉出力運転中に、何らかの原因で二次主冷却系配管が破損し、二次冷却材が漏えいする事故を想定する。

(ロ) 事故発生及び拡大の防止のための対策

(a) この事故の発生を防止するために次の対策が講じられるので、事故発生の可能性は極めて低い。

(い) 二次主冷却系の配管、機器の材料選定、設計、製作、据付、試験、検査等は、諸規格、基準に適合させるようにし、また、品質管理や工程管理を十分に行う。

(ろ) 二次主冷却系の配管、機器には、高温強度とナトリウム環境効果に対する適合性が良好なステンレス鋼を使用する。

(は) 二次主冷却系の配管は、エルボを用いて引き回し、十分な撓性を備えたものとする。

(に) 冷却材温度変化による熱応力等による応力を制限すると共に、このような応力を考慮した設計とする。

(ほ) 二次主冷却系の配管、機器は、設計地震力に十分耐えられる設計とする。

(へ) 二次冷却材の純度管理により腐食を防止する。

(と) 二次主冷却系の配管、機器は、内部の冷却材流速が適切で過大な圧力損失や浸食のおそれのない設計とする。

(b) 万一事故が発生した場合にも、事故拡大の防止を図るため、次の対策が講じられる。

(い) 二次主冷却系の機器、配管を収納する部屋には、ナトリウムの漏えい検出器及び火災検知器を設置する。

(ろ) ナトリウム漏えいに伴って、中間熱交換器での除熱能力が低下する場合には、「中間熱交換器一次側出口ナトリウム温度高」信号により原子炉は自動停止するようにする。

(は) 漏えいしたナトリウムとコンクリートが直接接触することを防止するために、床面に鋼製のライナを設置し、漏えいしたナトリウムは、貯留タンク内へ導くか、ダンプタンク、オーバフロータンク、貯留タンクを設置している部屋の底部へ導き貯留する設計とする。これらの部屋には燃焼抑制板を設置し、漏えいしたナトリウムの燃焼による影響を抑制する。

(に) 火災検知器の信号で空調ダクトを全閉とし、また、火災検知器、ナトリウム漏えい検出器等によって漏えいが確認された場合には手動でオーバフロータンクからの汲み上げを停止する等、熱的影響の拡大を防止できるようにする。

(ほ) 各室への出入口近傍には、ナトリウム用消火設備を設置し、また、防護服、防護マスク及び携帯用空気ボンベ等の消火支援器具を配置する。

(ハ) 事故解析

(a) 炉心冷却能力の解析

(い) 解析条件

①原子炉出力は、定格出力の一〇二パーセントとする。

②二次主冷却系循環ポンプと中間熱交換器入口の間で配管破損が生じるものと考え、中間熱交換器二次側での除熱能力が瞬時に完全喪失するものとする。

(ろ) 解析結果

中間熱交換器での二次側流量が喪失することにより、そのループの中間熱交換器一次側出口ナトリウム温度が上昇し、「中間熱交換器一次側出口ナトリウム温度高」の信号により原子炉は自動停止し、これに伴い、原子炉出力は急速に低下する。原子炉トリップ信号により、一次、二次主冷却系循環ポンプはトリップされ、冷却材流量はコーストダウンする。ポンプの回転数が所定の値になった時点で、一次、二次主冷却系循環ポンプはポニーモータによる低速運転に自動的に引き継がれ、炉心流量は定格値の約四パーセントが確保される。

原子炉容器出口のナトリウム温度は初期温度よりほとんど上昇しない。また、中間熱交換器一次側出口のナトリウム温度は、約五三〇℃までの上昇にとどまる。被覆管肉厚中心最高温度は約七七〇℃であり、被覆管破損の制限値以下である。炉心のナトリウム最高温度は約七七〇℃であり、沸点に達しない。燃料最高温度は初期値よりほとんど上昇することはない。

したがって、被覆管及びナトリウムの各温度は過度に上昇することはなく、炉心の冷却能力が失われることはない。また、原子炉冷却材バウンダリの温度は制限値を十分に下回るので、原子炉冷却材バウンダリの健全性が損なわれることはない。

(b) 漏えいナトリウムによる熱的影響の解析

(い) 解析条件

①原子炉出力運転中に、室内空間容積が最大の二次主冷却系配管室又は最小の過熱器室でナトリウムが漏えいするものとする。漏えいナトリウムは室内雰囲気と反応して燃焼するものとし、流出過程を考慮する。

②破損口の大きさは割れ状の漏えい口として十分大きな一五平方センチメートルとする。漏えいナトリウムの温度は五〇七℃とする。

③室内の初期酸素濃度は21v/oとする。

(ろ) 解析結果

二次主冷却系配管及び過熱器室の床ライナの最高温度は、約四一〇℃及び約四五〇℃であり、いずれも設計温度五〇〇℃を下回る。建物コンクリートの温度は最高約一二〇℃であり、コンクリートの健全性が損なわれることはない。また、ナトリウムの燃焼に伴う雰囲気圧力の上昇は、それぞれ約0.26キログラム毎平方センチメートル及び約0.11キログラム毎平方センチメートルであり、いずれも建物耐圧値の0.6キログラム毎平方センチメートルGを下回る。

したがって、漏えいナトリウムの熱的影響により建物の健全性が問題となることはない(なお、昭和六〇年二月一八日付け原子炉設置変更許可申請に際して、床ライナの最高温度は五三〇度に変更された。)。

(7) 主蒸気管破断事故

(イ) 事故の内容

原子炉出力運転中に何らかの原因で蒸気発生器とタービンの間の主蒸気管が破断し、蒸気の流出から水・蒸気系の運転が行えなくなり、蒸気発生器での除熱能力が低下する事故を想定する。

(ロ) 事故発生及び拡大の防止のための対策

(a) この事故の発生を防止するために次の対策が講じられるので、事故発生の可能性は極めて低い。

(い) 主蒸気管の材料選定、設計、製作、据付、試験、検査等は、諸規格、基準に適合させるようにし、また、品質管理や工程管理を十分に行う。

(ろ) 主蒸気圧力が異常に高くなることを防止するため、タービンバイパス弁、主蒸気逃し弁、過熱器出口安全弁及び蒸発器出口安全弁を設ける。

(b) 万一事故が発生した場合も、原子炉自動停止により終結する。

(ハ) 事故解析

(a) 解析条件

①原子炉出力は、定格出力の一〇二パーセントとする。

②主蒸気の流出量が最大となるように、三ループの主蒸気管の結合点とタービンの間で主蒸気管の完全破断が生じるとする。

(b) 解析結果

主蒸気管の破断により、タービン駆動の主給水ポンプの蒸気源が喪失し、蒸気流量は事故発生直後一時的に増大した後減少する。この結果、蒸発器出口ナトリウム温度は一時的に低下した後上昇し、「蒸発器出口ナトリウム温度高」信号により原子炉は自動停止する。また、原子炉トリップ信号により、一次主冷却系循環ポンプはトリップされ、コーストダウンにより各流量が低下した後、一次、二次主冷却系循環ポンプの回転数が所定の値になった時点で、一次、二次主冷却系循環ポンプはポニーモータによる低速運転に自動的に引き継がれ、炉心流量は定格値の約七パーセントが確保される。

原子炉容器出口ナトリウム温度は初期値よりほとんど上昇せず、原子炉容器入口ナトリウム温度は約四六〇℃までの上昇にとどまる。被覆管肉厚中心最高温度は約六八〇℃であり、被覆管破損の制限値以下である。炉心のナトリウム最高温度は約六七〇℃であり、沸点に達しない。また、燃料最高温度は初期値より上昇することはない。

したがって、被覆管及びナトリウムの各温度は過度に上昇することはなく、炉心の冷却能力が失われることはない。また、原子炉冷却材バウンダリの温度は制限値を十分に下回るので、原子炉冷却材バウンダリの健全性が損なわれることはない。

(8) 主給水管破断事故

(イ) 事故の内容

原子炉出力運転中に何らかの原因で主給水ポンプと蒸気発生器の間の主給水管が破断し、蒸気発生器への給水量の減少から水・蒸気系の運転が行えなくなり、蒸気発生器での除熱能力が低下する事故を想定する。

(ロ) 事故発生及び拡大の防止のための対策

(a) この事故の発生を防止するために、主給水管の材料選定、設計、製作、据付、試験、検査等は諸規格、基準に適合させるようにし、また、品質管理や工程管理を十分に行い、破断の可能性を少なくする対策が講じられるので、事故発生の可能性は極めて低い。

(b) 万一事故が発生した場合も、原子炉自動停止により終結する。

(ハ) 事故解析

(a) 解析条件

①原子炉出力は、定格出力の一〇二パーセントとする。

②給水の流出量が最大となるように、主給水ポンプと三ループの蒸気発生器給水管分岐点の間で完全破断が生じるとする。

③蒸気発生器の水、蒸気側の除熱量が瞬時に零になるものとする。

(b) 解析結果

主給水管の破断により、蒸発器出口ナトリウム温度が上昇し、その結果、「蒸発器出口ナトリウム温度高」信号により原子炉は自動停止する。また、原子炉トリップ信号により、一次、二次主冷却系循環ポンプはトリップされ、コーストダウンにより各流量が低下した後、一次、二次主冷却系循環ポンプの回転数が所定の値になった時点で、一次、二次主冷却系循環ポンプはポニーモータによる低速運転に自動的に引き継がれ、炉心流量は定格値の約七パーセントが確保される。

原子炉容器出口ナトリウム温度は初期値よりほとんど上昇せず、原子炉容器入口ナトリウム温度は約四六〇℃までの上昇にとどまる。被覆管肉厚中心最高温度は約六八〇℃であり、被覆管破損の制限値以下である。炉心のナトリウム最高温度は約六七〇℃であり、沸点に達しない。また、燃料最高温度は初期値より上昇することはない。

したがって、被覆管及びナトリウムの各温度は過度に上昇することはなく、炉心の冷却能力が失われることはない。また、原子炉冷却材バウンダリの温度は制限値を十分に下回るので、原子炉冷却材バウンダリの健全性が損なわれることはない。

(三) 燃料取扱いに伴う事故

(1) 燃料取替取扱事故

(イ) 事故の内容

燃料取替作業中に、燃料出入設備において取扱中の燃料移送ポットが何らかの原因により破損し、燃料移送ポット中のナトリウムが全て喪失して、燃料被覆管の破損を生じる事故を想定する。

(ロ) 事故発生及び拡大の防止のための対策

(a) この事故の発生を防止するために次の対策が講じられるので、事故発生の可能性は極めて低い。

(い) 燃料取扱設備のうち、安全上重要な機器の材料選定、設計、製作、据付、試験、検査等は、諸規格、基準に適合させるようにし、また、品質管理や工程管理を十分に行い、破損や漏えいの起こる可能性を少なくする。

(ろ) 燃料吊上機構は、駆動源の喪失に対し現状維持の設計とする。

(は) 燃料をつかんでいる間グリッパが閉じないよう機械的インターロック装置を設ける。

(に) 燃料吊上機構は、故障が生じないよう設計上考慮し、操作開始前に十分な試験、検査を行う。

(ほ) 燃料出入設備による燃料取替作業中、使用済燃料はナトリウムの入った燃料移送ポットに収容し、燃料移送ポットは気密性の高い燃料出入設備本体に収容し、かつ、燃料出入設備本体には外部から冷却できる間接冷却装置を設け、取扱中の燃料の温度が過度に上昇することのない設計とする。

(b) 万一事故が発生した場合にも、事故拡大の防止を図るため、次の対策が講じられる。

(い) 燃料出入設備による燃料取替作業中に燃料が破損し、ガス状の核分裂生成物が放出された場合に、燃料出入設備がこの漏えいを抑制する設計とする。

(ろ) 燃料出入設備通路へガス状の核分裂生成物が漏えいした場合においても、燃料出入設備通路の雰囲気ガスは、燃料取扱設備室換気装置によって常時排気筒へ導く設計とし、また「燃料出入設備気相部放射能高」信号により、換気装置の排気フィルタユニット及び排気ファンを非常用に切り替え、フィルタにより浄化した後排気筒へ導き、大気中へ放出される核分裂生成物の量を抑制する。

(ハ) 事故解析

(a) 解析条件

①事故はサイクル末期の最大出力燃料集合体の移送時に生じたとする。

②事故は原子炉停止の一〇日後に生じたとし、原子炉停止後の放射能の減衰は考えるものとする。

③燃料被覆管の全てが破損し、燃料要素ガスプレナム中の核分裂生成物が燃料出入設備内に放出されるものとする。

④燃料出入設備内の気相部より建物への漏えい率は、0.1%/dとする。

⑤「燃料出入設備気相部放射能高」の信号により、換気装置の排気フィルタユニット及び排気ファンは非常用に切り替えられるものとする。

⑥燃料取扱設備換気装置のフィルタのよう素除去効率は九五パーセントとする。

⑦環境への核分裂生成物の放出は、排気筒より行われるものとする。

⑧環境に放出された核分裂生成物の大気中の拡散については、「気象指針」に従って評価するものとする。

(b) 解析結果

大気中に放出される核分裂生成物の量は、よう素約二二キュリー、希ガス約六八キュリーであり、この大気放出に伴う被曝線量は、本件敷地境界外で最大となる場所において、小児甲状腺約0.17レム、全身約0.000061レムである。

(四) 廃棄物処理設備に関する事故

(1) 気体廃棄物処理設備破損事故

(イ) 事故の内容

何らかの原因で気体廃棄物処理設備の一部が破損し、その系に保持されていた核分裂生成物が系統外に放出される事故を想定する。

(ロ) 事故発生及び拡大の防止のための対策

(a) この事故の発生を防止するために次の対策が講じられるので、事故発生の可能性は極めて低い。

(い) 気体廃棄物処理設備の配管及び機器の材料選定、設計、製作、据付、試験、検査等は諸規格、基準に適合させるようにし、また、品質管理、工程管理を十分に行い、破損や漏えいの起こる可能性を少なくする。

(ろ) 廃ガス貯槽のガス圧が貯槽の最高使用圧力を下回るように、廃ガス圧縮機の吐出圧力を決め、破損の可能性を少なくする。

(b) 万一事故が発生した場合にも、事故拡大の防止を図るため、次の対策が講じられる。

(い) 廃ガス受入弁及び廃ガス貯槽出口弁を設け、放射性ガスの放出を抑制する。

(ろ) 気体廃棄物処理設備から原子炉補助建物内に核分裂生成物が放出されたとしても、換気設備によって、常時排気筒に導く。

(は) 排気筒には、放射性ガスの監視装置を設け、周辺環境に対する最終の監視を行う。

(ハ) 事故解析

(a) 解析条件

(い) 事故発生の直前まで、原子炉は定格出力の一〇二パーセントで長時間運転されていたものとする。

(ろ) 通常運転時に一パーセントの燃料欠陥率を想定する。

(は) 廃ガス貯槽へは、廃ガス貯槽の貯留容量に見合う最大量の希ガスが流入したものと仮定し、その時点で、希ガス貯槽にたくわえられていた全ての核分裂生成物が瞬時に原子炉補助建物内へ放出されるものとする。

(に) 原子炉補助建物内へ放出された核分裂生成物は、瞬時に大気へ放散されるものとする。

(ほ) 環境に放出された核分裂生成物の大気中の拡散については、「気象指針」に従って評価するものとする。

(b) 解析結果

大気中に放出される核分裂生成物の量は、よう素約0.19キュリー、希ガス約九七〇キュリーであり、この大気放出に伴う被曝線量は、本件敷地境界外で最大となる場所において、小児甲状腺約0.042レム、全身約0.0041レムである。

(五) ナトリウムの化学反応

(1) ダンプタンクからのナトリウム漏えい事故

(イ) 事故の内容

メンテナンス時に一次主冷却系室を空気雰囲気に置換した状態で、何らかの原因により一次ナトリウム充填ドレン系のダンプタンクからの放射性物質を含んだナトリウムが漏えいする事故を想定する。

(ロ) 事故発生及び拡大の防止のための対策

(a) この事故の発生を防止するために、一次ナトリウム充填ドレン系のダンプタンク及びその接続配管の材料選定、設計、製作、据付、試験、検査等は、諸規格、基準に適合させるようにし、また、品質管理や工程管理を十分に行い、破損や漏えいの起こる可能性を少なくする対策が講じられるので、事故発生の可能性は極めて低い。

(b) 万一事故が発生した場合にも、事故拡大の防止を図るため、次の対策が講じられる。

(い) ダンプタンクにナトリウムをドレンし、雰囲気を空気に置換した場合には、当該室のドアは常時閉とし、ナトリウム漏えい事故が生じた場合にも、雰囲気を外気と遮断し、ナトリウムの燃焼を抑制する。

(ろ) ナトリウム漏えい検出器でナトリウム漏えいを早期に検出して中央制御室に警報を発すると共に、火災感知器等によりナトリウムの燃焼を検知して、当該室の雰囲気遮断弁を閉じる設計とする。

(は) 漏えいしたナトリウムがコンクリートと直接接触することを防止するために、床面等に鋼製のライナを設置する。

(に) 原子炉格納容器雰囲気中に放射性物質が漏えいした場合においても、原子炉格納容器の隔離を行い、大気中に放出される放射性物質の量を抑制する。

(ハ) 事故解析

(a) 漏えいナトリウムによる熱的影響の解析

(い) 解析条件

①ナトリウムの漏えい量は、一次ナトリウム充填ドレン系のダンプタンク内に貯留されるナトリウムの最大量二〇〇立方メートルとし、その温度は二〇〇℃とする。漏えいしたナトリウムは瞬時に床ライナ上に溜まり、プールを形成するものとする。

②室内の初期酸素濃度は21v/o(空気雰囲気)とする。

③室内は内外圧差100mmaqに対して100%/dの通気率があるものとする。また、外部は空気雰囲気とする。

(ろ) 解析結果

ナトリウムを貯留する一次主冷却系室床ライナの最高温度は約二九〇℃であり、設計温度五三〇℃を十分に下回っている。原子炉格納容器の内圧上昇は約0.003キログラム毎平方センチメートルであり、最高使用圧力0.5キログラム毎平方センチメートルGを十分に下回っている。また、温度の上昇もわずかである。なお、この場合のナトリウム燃焼量は約5.2トンである。

したがって、原子炉格納容器の健全性が問題になることはない。

(b) 核分裂生成物の放出量及び被曝線量の評価

(い) 解析条件

①原子炉停止直前まで、原子炉は定格出力の一〇二パーセントで長時間にわたって運転されていたものとする。

②通常運転時に一パーセントの燃料欠陥率を想定する。

③外部電源は使用できないものとする。

④原子炉停止後一〇日の時点でナトリウム漏えいを想定する。

⑤漏えいナトリウムを貯留する部屋に放出される核分裂生成物の量は、希ガスが漏えいナトリウム中の全量及び原子炉格納容器内一次アルゴンガス中の全量、よう素が燃焼ナトリウム中の全量及び原子炉格納容器内一次アルゴンガス中の全量とする。漏えいナトリウム量は二〇〇立方メートル、燃焼ナトリウム量は5.2トンとする。

⑥漏えいナトリウムを貯留する部屋に放出されたよう素のうち、九五パーセントはエアロゾルの形態をとり、残り五パーセントはエアロゾルの形態をとらないものとする。

⑦漏えいナトリウムを貯留する部屋に放出されたエアロゾル状よう素はプレートアウト等による減衰を考慮するが、非エアロゾル状よう素及び希ガスは右減衰効果を考えない。

⑧漏えいナトリウムを貯留する部屋から原子炉格納容器床上への漏えい率は100%/d(100mmaq時)として事故時圧力により換算するが、最低漏えい率は100%/dとする。

⑨原子炉格納容器床上へ漏えいしたエアロゾル状よう素はプレートアウト等による減衰を考慮するが、非エアロゾル状よう素及び希ガスは右減衰効果を考えない。

⑩原子炉格納容器からの漏えい率は、この事故時の原子炉格納容器圧力に対応する漏えい率を下回らない値とする。

⑪原子炉格納容器からの漏えいは九七パーセントがアニュラス部に生じ、残り三パーセントはアニュラス部外に生じるものとする。

⑫アニュラス循環排気装置のよう素用フィルタユニットのよう素除去効率は九九パーセントとする。

⑬よう素用フィルタユニットへの系統切替達成までの一〇分間はよう素除去効果は考慮しないものとする。

⑭原子炉格納容器内の放射能による直接線量及びスカイシャイン線量については原子炉格納容器等の遮へいを考慮して評価する。

⑮事故の評価期間は原子炉格納容器内圧が原子炉格納容器からの漏えいが無視できる程度に低下するまでの期間として、三〇日間とする。

⑯環境への核分裂生成物の放出は、排気筒より行われるものとする。

⑰環境に放出された核分裂生成物の大気中の拡散については、「気象指針」に従って評価するものとする。

(ろ) 解析結果

大気中に放出される核分裂生成物の量は、よう素約0.011キュリー、希ガス約2.0キュリーである。この大気中に放出された核分裂生成物の放射性雲による被曝線量及び原子炉格納容器内に浮遊する放射能による直接線量及びスカイシャイン線量を計算した結果、本件敷地境界外で最大となる場所において、小児甲状腺約0.000084レム、全身約0.000044レムである。

(2) オーバフロー系からのナトリウム漏えい事故

(イ) 事故の内容

原子炉の出力運転中に何らかの原因により一次ナトリウムオーバフロー系から放射性物質を含んだナトリウムが漏えいする事故を想定する。

(ロ) 事故発生及び拡大の防止のための対策

(a) この事故の発生を防止するため、一次ナトリウムオーバフロー系の配管及び機器の材料選定、設計、製作、据付、試験、検査等は、諸規格、基準に適合させるようにし、また、品質管理や工程管理を十分に行い、破損や漏えいの起こる可能性を少なくする対策が講じられるので、事故発生の可能性は極めて低い。

(b) 万一事故が発生した場合にも、事故拡大の防止を図るため、次の対策が講じられる。

(い) ナトリウム漏えい検出器でナトリウムの漏えいを早期に検出して中央制御室に警報を発するようにする。更に、オーバフロータンクの液位が異常に低下した場合には、オーバフロータンク内の液面計でナトリウムの漏えいを検出し、警報を発して運転員に注意を喚起し、運転員は、これらの警報に基づき、一次ナトリウムオーバフロー系の電磁ポンプを停止させる等の漏えい抑制措置をとるようにする。

(ろ) ナトリウム漏えい量が増加した場合、「原子炉格納容器床下雰囲気温度高」信号等により、一次ナトリウムオーバフロー系の電磁ポンプによる汲み上げを自動的に停止する。

(は) 原子炉格納容器雰囲気中に放射性物質が漏えいした場合においても、原子炉格納容器を隔離し、大気中に放出される放射性物質の量を抑制する。

(に) 一次ナトリウムオーバフロー系の配管、機器を設置する部屋は、低酸素濃度の窒素雰囲気に保つことにより、ナトリウムが漏えいした場合の燃焼反応を抑制する。

(ほ) 漏えいしたナトリウムがコンクリートと直接接触することを防止するために、床面等に鋼製のライナを設置する。

(ハ) 事故解析

(a) 解析条件

①事故発生直前まで、原子炉は定格出力の一〇二パーセントで長時間にわたって運転されていたものとする。

②通常運転時に一パーセントの燃料欠陥率を想定する。

③外部電源は使用できないものとする。

④漏えいナトリウムを貯留する部屋に放出される核分裂生成物の量は、希ガスが漏えいナトリウム中の全量及び原子炉格納容器内一次アルゴンガス中の全量、よう素が燃焼ナトリウム中の全量及び原子炉格納容器内一次アルゴンガス中の全量とする。漏えいナトリウム量は一九〇立方メートル、燃焼ナトリウム量は2.7トンとする。

⑤漏えいナトリウムを貯留する部屋に放出されたよう素のうち、九五パーセントはエアロゾルの形態をとり、残り五パーセントはエアロゾルの形態をとらないものとする。

⑥漏えいナトリウムを貯留する部屋に放出されたエアロゾル状よう素はプレートアウト等による減衰を考慮するが、非エアロゾル状よう素及び希ガスは右減衰効果を考えない。

⑦漏えいナトリウムを貯留する部屋から原子炉格納容器床上への漏えい率は100%/d(100mmaq時)として事故時圧力により換算するが、最低漏えい率は100%/dとする。

⑧原子炉格納容器床上へ漏えいしたエアロゾル状よう素はプレートアウト等による減衰を考慮するが、非エアロゾル状よう素及び希ガスは右減衰効果を考えない。

⑨原子炉格納容器からの漏えい率は、この事故時の原子炉格納容器圧力に対応する漏えい率を下回らない値とする。

⑩原子炉格納容器からの漏えいは九七パーセントがアニュラス部に生じ、残り三パーセントはアニュラス部外に生じるものとする。

⑪アニュラス循環排気装置のよう素用フィルタユニットのよう素除去効率は九九パーセントとする。

⑫よう素用フィルタユニットへの系統切替達成までの一〇分間はよう素除去効果は考慮しないものとする。

⑬原子炉格納容器内の放射能による直接線量及びスカイシャイン線量については原子炉格納容器等の遮へいを考慮して評価する。

⑭事故の評価期間は原子炉格納容器内圧が原子炉格納容器からの漏えいが無視できる程度に低下するまでの期間として、三〇日間とする。

⑮環境への核分裂生成物の放出は、排気筒より行われるものとする。

⑯環境に放出された核分裂生成物の大気中の拡散については、「気象指針」に従って評価するものとする。

(b) 解析結果

大気中に放出される核分裂生成物の量は、よう素約0.031キュリー、希ガス約六八キュリーである。この大気中に放出された核分裂生成物の放射性雲による被曝線量及び原子炉格納容器内に浮遊する放射能による直接線量及びスカイシャイン線量を計算した結果、本件敷地境界外で最大となる場所において、小児甲状腺約0.00024レム、全身約0.0041レムである。

(3) コールドトラップからのナトリウム漏えい事故

(イ) 事故の内容

原子炉の出力運転中に何らかの原因により一次ナトリウム純化系のコールドトラップから放射性物質を含んだナトリウムが漏えいする事故を想定する。

(ロ) 事故発生及び拡大防止のための対策

(a) この事故の発生を防止するために、一次ナトリウム純化系の配管及び機器の材料選定、設計、製作、据付、試験、検査等は、諸規格、基準に適合させるようにし、また、品質管理や工程管理を十分に行い、破損や漏えいの可能性を少なくする対策が講じられるので、事故発生の可能性は極めて低い。

(b) 万一事故が発生した場合にも、事故拡大の防止を図るため、次の対策が講じられる。

(い) ナトリウム漏えい検出器でナトリウムの漏えいを早期に検出して中央制御室に警報を発するようにする。更に、一次ナトリウムオーバフロータンクの液位が異常に低下した場合には、オーバフロータンク内の液面計でナトリウムの漏えいを検出し、警報を発して運転員に注意を喚起し、運転員は、これらの警報に基づき、オーバフロー系の電磁ポンプを停止させる等の漏えい抑制措置をとるようにする。

(ろ) ナトリウム漏えい量が増加した場合、「原子炉格納容器床下雰囲気温度高」信号等により、一次ナトリウムオーバフロー系の電磁ポンプによる汲み上げを自動的に停止する。

(は) 原子炉格納容器雰囲気中に放射性物質が漏えいした場合においても、原子炉格納容器を隔離し、大気中に放出される放射性物質の量を抑制する。

(に) 一次ナトリウム純化系の配管、機器を設置する部屋は、低酸素濃度の窒素雰囲気に保つことにより、ナトリウムが漏えいした場合の燃焼反応を抑制する。

(ほ) 漏えいしたナトリウムがコンクリートと直接接触することを防止するために、床面等に鋼製のライナを設置する。

(ハ) 事故解析

(a) 漏えいナトリウムによる熱的影響の解析

(い) 解析条件

①原子炉出力運転中に、ナトリウムが七〇立方メートル漏えいするとし、漏えいナトリウムの温度は五三一℃とする。

②ナトリウムの流出過程を考慮して解析する。

③室内の初期酸素濃度は3v/oとする。

④室内は内外圧差100mmaqに対して100%/dの通気率があるものとする。また、外部は空気雰囲気とする。

(ろ) 解析結果

ナトリウムを貯留する一次ナトリウム純化系室床ライナの最高温度は約四八〇℃であり、設計温度五三〇℃を下回っている。原子炉格納容器の内圧上昇は約0.021キログラム毎平方センチメートルであり、最高使用圧力0.5キログラム毎平方センチメートルGを十分に下回っている。また、温度の上昇もわずかである。なお、この場合のナトリウム燃焼量は約2.0トンである。

したがって、原子炉格納容器の健全性が問題になることはない。

(b) 核分裂生成物の放出量及び被曝線量の評価

(い) 解析条件

①事故発生直前まで、原子炉は定格出力の一〇二パーセントで長時間にわたって運転されていたものとする。

②通常運転時に一パーセントの燃料欠陥率を想定する。

③外部電源は使用できないものとする。

④ナトリウム漏えいに伴い、コールドトラップに蓄積されている全てのよう素が流出するものとする。

⑤漏えいナトリウムを貯留する部屋に放出される核分裂生成物の量は、希ガスが漏えいナトリウム中の全量及び原子炉格納容器内一次アルゴンガス中の全量、よう素が燃焼ナトリウム中の全量及び原子炉格納容器内一次アルゴンガス中の全量とする。漏えいナトリウム量は七〇立方メートル、燃焼ナトリウム量は2.0トンとする。

⑥漏えいナトリウムを貯留する部屋に放出されたよう素のうち、九五パーセントはエアロゾルの形態をとり、残り五パーセントはエアロゾルの形態をとらないものとする。

⑦漏えいナトリウムを貯留する部屋に放出されたエアロゾル状よう素はプレートアウト等による減衰を考慮するが、非エアロゾル状よう素及び希ガスは右減衰効果を考えない。

⑧漏えいナトリウムを貯留する部屋から原子炉格納容器床上への漏えい率は100%/d(100mmaq時)として事故時圧力により換算するが、最低漏えい率は100%/dとする。

⑨原子炉格納容器床上へ漏えいしたエアロゾル状よう素はプレートアウト等による減衰を考慮するが、非エアロゾル状よう素及び希ガスは右減衰効果を考えない。

⑩原子炉格納容器からの漏えい率は、この事故時の原子炉格納容器圧力に対応する漏えい率を下回らない値とする。

⑪原子炉格納容器からの漏えいは、九七パーセントがアニュラス部に生じ、残り三パーセントはアニュラス部外に生じるものとする。

⑫アニュラス循環排気装置のよう素用フィルタユニットのよう素除去効率は九九パーセントとする。

⑬よう素用フィルタユニットへの系統切替達成までの一〇分間はよう素除去効果は考慮しないものとする。

⑭原子炉格納容器内の放射能による直接線量及びスカイシャイン線量については原子炉格納容器等の遮へいを考慮して評価する。

⑮事故の評価期間は原子炉格納容器内圧が原子炉格納容器からの漏えいが無視できる程度に低下するまでの期間として、三〇日間とする。

⑯環境への核分裂生成物の放出は、排気筒より行われるものとする。

⑰環境に放出された核分裂生成物の大気中の拡散については、「気象指針」に従って評価するものとする。

(ろ) 解析結果

大気中に放出される核分裂生成物の量は、よう素約0.089キュリー、希ガス約六二キュリーである。この大気中に放出された核分裂生成物の放射性雲による被曝線量及び原子炉格納容器内に浮遊する放射能による直接線量及びスカイシャイン線量を計算した結果、本件敷地境界外で最大となる場所において、小児甲状腺約0.00068レム、全身約0.0032レムである。

(4) 蒸気発生器伝熱管破損事故

(イ) 事故の内容

原子炉出力運転中に、何らかの原因で蒸気発生器の伝熱管が破損し、ナトリウム・水反応による顕著な圧力上昇が生じるような大規模な水漏えい事故を想定する。

(ロ) 事故発生及び拡大の防止のための対策

(a) この事故の発生を防止するために次の対策が講じられるので、事故発生の可能性は極めて低い。

(い) 蒸気発生器の伝熱管の材料選定、設計、製作、据付、試験、検査等は、諸規格、基準に適合させるようにし、また、品質管理や工程管理を十分に行う。

(ろ) 蒸気発生器は、水側、ナトリウム側とも高い純度管理のもとで運転され、水側及びナトリウム側からの伝熱管の材料腐食を抑制する。

(は) 水漏えい検出設備を設置することにより、万一、伝熱管小破損が生じた場合には、早期に水漏えいを検出し、運転員により発せられる水漏えい信号に基づくプラント運転自動停止操作により、ナトリウム・水反応を終息させる。

(b) 万一事故が発生した場合にも、事故拡大の防止を図るため、次の対策が講じられる。

(い) 蒸発器と過熱器は、いずれも圧力開放板を介してナトリウム・水反応生成物収納設備に接続され、事故が生じた蒸気発生器内のナトリウム側圧力が圧力開放板の設定圧力まで上昇すると、圧力開放板は自動的に破れてナトリウム・水反応生成物収納設備に開放され、圧力の顕著な上昇が抑制されるようにする。

(ろ) ナトリウム・水反応により発生する水素ガスは収納設備に放出され、これに付随するナトリウム及び反応生成物のうち液体、固体は、収納容器で分離回収されることとし、水素ガスは収納容器用圧力開放板を介して大気へ放出、燃焼処理される。

(は) 蒸発器に設けたカバーガス圧力計及び蒸発器又は過熱器の圧力開放板の開放検出信号によって、蒸気発生器の水、蒸気側の遮断、内部保有の水及び蒸気の急速ブロー、二次主冷却系循環ポンプ主モータトリップ等の一連のプラント自動停止操作が行われ、ナトリウム・水反応現象が停止されるようにする。

(に) 蒸気発生器、二次主冷却系配管、中間熱交換器、二次主冷却系循環ポンプ等の機器、配管は、ナトリウム・水反応による圧力上昇に対して構造強度上十分な余裕を持つ設計とする。

(ほ) 一次、二次主冷却系循環ポンプにポニーモータを設置し、ポンプトリップ時にポニーモータによる低速運転を行い、一ループのみにても定格出力時炉心流量の約四パーセントを確保し、原子炉停止後の崩壊熱除去が行える設計とする。

(ハ) 事故解析

(a) 解析条件

①原子炉出力は、定格出力の一〇二パーセントとする。

②解析対象ループは、二次主冷却系配管長が最短のループとする。

③初期スパイク圧評価としては、蒸発器の管束部下部において伝熱管一本が瞬時に完全破断を起こすものとする。準定常圧評価としては、伝熱管破損伝播の影響を考慮し、伝熱管四本が同時に完全破断するものとする。

④蒸気発生器及びナトリウム・水反応生成物収納容器の圧力開放板は、設定圧力に誤差を考慮した最大圧力で開放するものとする。

(b) 解析結果

破断初期において蒸発器胴部に作用するいわゆる初期スパイク圧力のピーク値は約二三キログラム毎平方センチメートルであり、蒸発器の胴の歪みは少さく、塑性歪みには至らない。この初期スパイク圧の伝播に対して、中間熱交換器及び二次主冷却系の機器、配管は塑性歪みを生じるには至らず、各設備の健全性は保たれる。

また、初期スパイク圧減衰後から事故終止まで持続している準定常圧は、伝熱管破損伝播による影響も含め、蒸気発生器において約九キログラム毎平方センチメートル以下及び中間熱交換器二次側において約一三キログラム毎平方センチメートル以下であり、準定常圧に対しても蒸気発生器、二次主冷却系機器、配管及び中間熱交換器の歪みは塑性歪みには至らず、各設備の健全性が損なわれることはない。

したがって、この事故が生じると、ナトリウム・水反応生成物収納設備の作動により、プラント自動停止操作が行われ、「二次主冷却系循環ポンプ回転数低」信号により原子炉は自動停止する。これに伴い、健全ループの各循環ポンプはポニーモータにより低速運転され、炉心の冷却能力が失われることはなく、また、原子炉冷却材バウンダリの健全性が損なわれることはない。

(六) 原子炉カバーガス系に関する事故

(1) 一次アルゴンガス漏えい事故

(イ) 事故の内容

原子炉出力運転時に、何らかの原因により原子炉補助建物内の常温活性炭吸着塔付近の一次アルゴンガス系の配管が破損し、核分裂生成物を含んだ一次アルゴンガスが原子炉補助建物内の常温活性炭吸着塔収納設備内に放出される事故を想定する。

(ロ) 事故発生及び拡大の防止のための対策

(a) この事故の発生を防止するために、一次アルゴンガス系の配管及び機器の材料選定、設計、製作、据付、試験、検査等は、諸規格、基準に適合させるようにし、また、品質管理や工程管理を十分に行い、破損や漏えいの可能性を少なくする対策が講じられるので、事故発生の可能性は極めて低い。

(b) 万一事故が発生した場合にも、事故拡大の防止を図るため、次の対策が講じられる。

(い) 一次アルゴンガス系の常温活性炭吸着塔は、気密性の高い常温活性炭吸着塔収納設備内に収容される。

(ろ) 一次アルゴンガスが漏えいした場合、小規模の漏えいに対しては、一次アルゴンガス系設備室の放射線監視装置で検知できるようにし、運転員の手動操作によって一次アルゴンガス系設備排気側の原子炉格納容器隔離弁、一次アルゴンガス系収納施設隔離弁を閉鎖する等の漏えいの抑制措置をとることができる設計とする。また、大規模な漏えいが生じた場合には、「一次アルゴンガス系流量高」の異常信号により検知し、自動的に一次アルゴンガス系設備排気側の原子炉格納容器隔離弁、一次アルゴンガス系収納施設隔離弁を閉鎖する等の漏えいの抑制措置を取ることのできる設計とする。

(は) 一次アルゴンガス系から、原子炉補助建物内に放射性ガスが放出されたとしても、換気設備によって常時排気筒に導く。

(に) 排気筒には放射性ガスの監視装置を設け、周辺環境に対する最終の監視を行う。

(ハ) 事故解析

(a) 解析条件

①事故発生直前まで、原子炉は定格出力の一〇二パーセントで長時間運転されていたものとする。

②通常運転時に一パーセントの燃料欠陥率を想定する。

③外部電源は使用できないものとする。

④常温活性炭吸着塔内に貯留されている核分裂生成物は、圧力が大気圧になるまで放出されるとする。更に、その後も残存量の一〇パーセントが拡散により漏えいするものとする。

⑤一次アルゴンガス系収納施設の漏えい率は事故後初期は100%/dとし、その後は一次アルゴンガス系収納施設の内圧の低下に応じた漏えい率とする。

⑥常温活性炭吸着塔収納設備より原子炉補助建物内へ漏えいした核分裂生成物は全て大気に放出されるとする。

⑦事故の評価期間は、一次アルゴンガス系収納施設の内圧が一次アルゴンガス系収納施設からの漏えいが無視できる程度に低下するまでの期間として、三〇日間とする。

⑧環境に放出された核分裂生成物の大気中の拡散については、「気象指針」に従って評価するものとする。

(b) 解析結果

大気中に放出される核分裂生成物の量は、よう素約1.1キュリー、希ガス約二万四〇〇〇キュリーであり、この大気放出に伴う被曝線量は、本件敷地境界外で最大となる場所において小児甲状腺約0.22レム、全身約0.077レムである。

5 本件安全審査における評価

(一) 事象選定の妥当性

事故として取り上げられている事象については、「評価の考え方」に基づき、「安全評価審査指針」等を参考とし、事象選定解析の結果をも考慮して炉心内の反応度の増大、炉心冷却能力の低下、燃料取扱いに伴う事故、ナトリウムの化学反応、原子炉カバーガス系に関する事故のそれぞれに対して事故の結果が厳しくなる事象が選定されており、妥当であると判断した。

(二) 解析方法の妥当性

(1) 事象の解析に当たって考慮する範囲については、サイクル期間中の炉心燃焼度変化や燃料交換等による長期的な変動及び運転中予想される異なった運転モードが考慮されているほか、工学的安全施設等の動作状況及び運転員の操作の態様も考慮されている。解析に使用されているモデル及びパラメータについては、それぞれの事象に応じて評価の結果が厳しくなるように選定されており、また、パラメータに不確定因子が考えられる場合には、十分な安全余裕が見込まれている。

(2) 解析に当たっては、作動を要求される安全系の機能別に、結果を最も厳しくする単一故障が仮定されており、事象の影響を緩和するのに必要な運転員の手動操作のための時間的余裕は適切に見込まれ、工学的安全施設の動作が要求される場合には、外部電源の喪失が考慮されている。また、各事象の解析に使用されている計算コードは、実験結果等との比較によりその使用の妥当性が確認されている。これらのことから、右解析の方法は妥当であると判断した。

(三) 解析結果の妥当性

いずれの事故の解析結果においても、炉心は大きな損傷に至ることなく、かつ、十分な冷却が可能であり、冷却材バウンダリの温度、格納容器バウンダリの温度及び圧力は制限値を下回り、周辺の公衆に対し著しい放射線被曝のリスクを与えることもないと判断した。

(四) 結論

以上から、本件安全審査においては、事故事象によっても、炉心の冷却能力が長期間にわたり十分確保され、核分裂生成物の放出に対しても敷地周辺への影響は大きくならないよう十分抑止されているとして、本件原子炉施設の安全防護機能の設計は妥当であると判断した。

三  技術的には起こるとは考えられない事象の解析評価に関する本件安全審査

乙七ないし一〇、乙一四の一ないし三、乙一六、乙二二、乙二三及び乙イ六並びに弁論の全趣旨によれば、技術的には起こるとは考えられない事象の解析についての本件安全審査の内容につき、次のとおりと認められる。

1 意義

技術的には起こるとは考えられない事象の解析評価は、事故防止対策としての安全設計がされていることを前提として、発生頻度は無視し得るほど極めて低いが、炉心が大きな損傷に至るおそれがある事象を選定し、この事象とこれに続く事象経過に対する防止対策との関連において、放射性物質放散に対する障壁の抑制機能を評価するため、原子炉施設の深層防御の観点から行うものである。

2 本件安全審査の審査方針

本件安全審査においては、「評価の考え方」に基づき、起因となる事象の発生を仮定して、事象経過に対する防止対策との関連において炉心損傷の程度を評価し、一部の機器等に設計条件を超える結果が生じても、放射性物質放散に対する障壁としての原子炉冷却材バウンダリのナトリウム保持機能等又は格納容器バウンダリによる最終的な放射性物質の放散に対する抑制機能が適切に保たれ、事象に応じて放射性物質の放散が適切に抑制されるか否かを審査、評価した。

そして、右審査においては、放射性物質の放散が適切に抑制されることの判断基準について、「立地審査指針」及び「プルトニウムに関するめやす線量について」に示されているめやす線量を参考とした。

3 本件許可申請における解析対象

(一) 局所的燃料破損事象

(1) 燃料要素の局所的過熱事象

(2) 集合体内流路閉塞事象

(二) 一次主冷却系配管大口径破損事象

(三) 反応度抑制機能喪失事象

(1) 一次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象

(2) 制御棒異常引抜時反応度抑制機能喪失事象

4 本件許可申請における技術的には起こるとは考えられない事象の解析内容

(一) 局所的燃料破損事象

(1) 事象の内容

原子炉出力運転中に何らかの原因によって燃料が局所的に溶融し、溶融部分が周辺の炉心燃料に伝播する事象であり、この場合、炉心の大規模な損傷が生じるおそれがある。

起因事象としては、燃料要素に局所的過熱が生じ燃料が溶融する事象(燃料要素の局所的過熱事象)と集合体内の冷却材流路の閉塞が生じ燃料が損傷する事象(集合体内流路閉塞事象)を想定する。

(2) 事故経過に対する防止対策

(イ) 燃料の製造工程は自動化されており、燃料の富化度を変えるたびに全工程をクリーンアップするという工程管理上の配慮と十分な品質管理により、富化度の異なる燃料が誤装荷されることのないようにする。

(ロ) 万一この事象が発生し、燃料被覆管が破損した場合には、燃料要素より放出される核分裂生成物をカバーガス法破損燃料検出装置あるいは遅発中性子法破損燃料検出装置で検出し、中央制御室に警報を発して運転員の注意を喚起する。更に、事象が進展し放出される核分裂生成物が増加すれば、遅発中性子法破損燃料検出装置からの原子炉トリップ信号により、原子炉を自動停止する。

(3) 燃料要素の局所的過熱事象の解析

(イ) 解析条件

①炉心中央部で燃料の相対線出力が二〇〇パーセントとなると仮定する。

②溶融燃料と冷却材の相互作用に寄与する溶融燃料の初期放出量は一〇グラムとする。

③溶融燃料と冷却材の相互作用による燃料微粒子化時定数は一〇ミリ秒とし、粒子化後の燃料の半径は一七七マイクロメートルとする。

④燃料放出による冷却材流路の閉塞率は九〇パーセントとし、閉鎖軸方向長さは一センチメートルと三センチメートルの両者を仮定する。

⑤溶融燃料初期放出に伴い、遅発中性子法破損燃料検出装置及びカバーガス法破損燃料検出装置により発せられる燃料破損警報による手動での原子炉停止は無視する。

(ロ) 解析結果

放出された溶融燃料と冷却材の相互作用により圧力が発生すると共に、ガスブランケッティング作用により被覆管の温度が上昇する。発生圧力によるラッパ管の変形は弾性範囲内であって、隣接ラッパ管の健全性が損なわれることはなく、また、被覆管の温度は七〇〇℃未満であって、周囲の燃料被覆管が破損することはない。

燃料粒子による冷却材流路閉塞が軸方向長さ一センチメートルの場合は、溶融燃料放出による破損伝播は生じない。軸方向長さ三センチメートルの場合には、緩慢な破損伝播が生じるが、隣接燃料集合体のラッパ管の健全性は確保され、原子炉は燃料破損に伴う遅発中性子法破損燃料検出装置からの原子炉トリップ信号により自動停止される。なお、原子炉停止後のポニーモータ運転時においても、炉心のナトリウム最高温度は約六八〇℃にとどまり、沸点に達しない。

(4) 集合体内流路閉塞事象の解析

(イ) 解析条件

①燃料集合体中央部で流路面積の三分の二が閉塞するものとする。

②集合体内流路閉塞率に対応する流量は、模擬燃料集合体の流動試験で得られた閉塞率と流量低下率との関係を適用する。

③燃料集合体の出口温度計による異常の検出、破損燃料発生に伴う遅発中性子法破損燃料検出装置及びカバーガス法破損燃料検出装置により発せられる燃料破損警報による手動での原子炉停止は無視する。

(ロ) 解析結果

冷却材流路閉塞に伴い、閉塞部下流域の冷却材流量は低下し、冷却材温度及び燃料被覆管温度が上昇するが、閉塞した燃料集合体のナトリウム最高温度は炉心部での沸点未満であって、ナトリウムの沸騰は生ぜず、また、被覆管肉厚中心最高温度は九八〇℃未満であって、燃料被覆管は溶融することはない。

燃料被覆管からの核分裂生成ガスの放出を仮定した場合、核分裂生成ガスにより隣接被覆管温度が上昇し、局所的破損が拡大することがあるが、その場合にも遅発中性子法破損燃料検出装置からの原子炉トリップ信号により原子炉は自動停止される。なお、原子炉停止後のポニーモータ運転時においても、炉心のナトリウム最高温度は約七三〇℃にとどまり、沸点に達しない。

(二) 一次主冷却系配管大口径破損事象

(1) 事象の内容

原子炉出力運転中に何らかの原因によって炉心の冷却が損なわれる事象であって、この場合、燃料が溶融し炉心の大規模な損傷を生じるおそれがある。

起因事象としては、一次主冷却系配管の大規模な破断が生じ、冷却材が流出する事象を想定する。

(2) 事故経過に対する防止対策

(イ) 原子炉容器入口配管のガードベッセル付け根部において、ガードベッセル本体と入口配管部ガードベッセル内空間を仕切る構造を設けることにより、配管破損時に入口配管部ガードベッセル内の漏えいナトリウムの液位を上昇させ、破損口からのナトリウムの流出を早期に低減する。

(ロ) 入口配管部ガードベッセル上端からガードベッセル本体上端に通じるナトリウムの溢流回収路を設け、入口配管部ガードベッセルから外部に溢れ出るナトリウム量を抑え、ガードベッセル内液位を確保する。

(ハ) 「原子炉容器ナトリウム液位低」信号により原子炉が自動停止する際に、一次主冷却系循環ポンプに可変速流体継手付M―Gセットの回転慣性を付加することにより、炉心への冷却材流入量の低下を抑制する。原子炉の自動停止に際しては、補助冷却設備起動信号が発せられ、その後は補助冷却設備空気冷却器及びポニーモータによる一次、二次主冷却系循環ポンプの低速運転により炉心の冷却を行うと共に、ディーゼル発電機を起動し、電源喪失に備える。

(ニ) 「原子炉容器ナトリウム液位低低」信号により原子炉容器とオーバフロータンクを連絡しているカバーガス連通管止め弁を全開し、原子炉容器液位低下によるカバーガス圧力の降下を促進することにより、破損口からのナトリウムの流出を抑制する。

(3) 炉心冷却能力の解析

(イ) 解析条件

①一次主冷却系配管の破損位置は原子炉容器入口ノズル部とし、破損口の大きさは両端完全破断とする。

②原子炉は「原子炉容器ナトリウム液位低」信号により自動停止されるものとする。

③「原子炉容器ナトリウム液位低」信号により、一次主冷却系循環ポンプの可変速流体M―Gセットの切離しが阻止され、その回転慣性を考慮するものとする。

(ロ) 解析結果

原子炉自動停止による補助冷却設備作動信号によって、補助冷却設備による崩壊熱除去が開始され、ポニーモータによる一次、二次主冷却系循環ポンプの低速運転に移行する。

炉心において最も厳しい結果を示す中心部の燃料最高温度、燃料被覆管肉厚中心最高温度及びナトリウム最高温度は、それぞれ約二三九〇℃、約九九〇℃及び約九九〇℃となり、燃料及び被覆管の溶融は生じず、燃料の破損割合は約三パーセントと小さく、炉心は大きな損傷に至ることはない。

(4) 流出ナトリウムの熱的影響の解析

(イ) 解析条件

①流出したナトリウムの燃焼形態としては、流出過程におけるスプレー化、中間床上及び最終貯留部でのプール形成を考慮するものとする。

②室内の初期酸素濃度は3v/oとする。

③流出ナトリウム量は一八〇立方メートルとし、流出ナトリウム温度は五二九℃とする。

④一次主冷却系室から原子炉格納容器床上への漏えい量は圧力差100mmaqに対して100%/dの割合とする。

(ロ) 解析結果

流出したナトリウムの燃焼量は約2.2トンで、これによる一次主冷却系室床ライナ温度の最高値は約四八〇℃で設計温度の五三〇℃を下回っている。原子炉格納容器の内圧上昇は、約0.022キログラム毎平方センチメートルにとどまり、最高使用圧力の0.5キログラム毎平方センチメートルGを超えることはない。

また、温度上昇もわずかであり、したがって、原子炉格納容器の健全性が損なわれることはない。

(5) 被曝評価

(イ) 解析条件

①一次主冷却系室内に放出される核分裂生成物の量は、希ガスが全燃料要素ギャップ中内蔵量の一〇パーセント及び漏えいナトリウム中の全量、よう素が全燃料要素ギャップ中内蔵量の一〇パーセント及び漏えいナトリウム中の全量合計のナトリウム燃焼割合分とする。

②一次主冷却室に放出されるよう素のうち、九五パーセントはエアロゾルの形態をとり、残り五パーセントはエアロゾルの形態をとらないものとする。

③一次主冷却室内のエアロゾル状よう素はプレートアウト等による減衰を考慮するが、非エアロゾル状よう素及び希ガスは右減衰効果を考えない。

④原子炉格納容器床上へ漏えいしたエアロゾル状よう素はプレートアウト等による減衰を考慮するが、非エアロゾル状よう素及び希ガスは右減衰効果を考えない。

⑤一次主冷却室から原子炉格納容器床上雰囲気中への漏えい率は100%/d(100mmaq時)とし、最低漏えい率は100%/dとする。

⑥原子炉格納容器からの漏えい率は、この事象時の原子炉格納容器圧力に対応する漏えい率を下回らない値とする。

⑦原子炉格納容器からの漏えいは、九七パーセントがアニュラス部に生じ、残り三パーセントはアニュラス部外に生じるものとする。

⑧アニュラス循環排気装置のよう素用フィルタユニットのよう素除去効率は九九パーセントとする。よう素用フィルタユニットへの系統切替達成までの一〇分間はよう素除去効果を考慮しない。

⑨原子炉格納容器内の放射能による直接線量及びスカイシャイン線量については原子炉格納容器等の遮へいを考慮して評価する。

⑩事故継続時間は三〇日間とする。

⑪環境への核分裂生成物の放出は、排気筒より行われるものとする。

⑫環境に放出された核分裂生成物の大気中の拡散については、「気象指針」に従って評価するものとする。

(ロ) 解析結果

大気中に放出される核分裂生成物の量は、よう素約1.9キュリー、希ガス約九六〇〇キュリーであり、この大気放出に伴う被曝線量は、本件敷地境界外で最大となる場所において小児甲状腺約0.015レム、成人甲状腺約0.0037レム、全身約0.02レムである。

(三) 反応度抑制機能喪失事象

(1) 事象の内容

原子炉出力運転中に何らかの原因によって炉心流量が減少し、若しくは異常な反応度が挿入された際に、反応度抑制機能が喪失する事象であり、この場合、燃料が溶融し炉心の大規模な損傷が生じるおそれがある。

起因事象としては、外部電源喪失により炉心流量が減少し(一次冷却材流量減少時)、若しくは制御棒が連続的に引き抜かれることにより炉心に異常な反応度が挿入され(制御棒異常引抜時)、原子炉の自動停止が必要とされる時点で反応度抑制機能喪失を重ね合わせた事象を想定する。

(2) 事故経過に対する防止対策

(イ) 遮へいプラグ下面に作用する圧力により生じるプラグ等の隙間を通ってナトリウムが炉上部ピットへ噴出することを抑制する構造とする。

(ロ) 事象発生後の炉心の崩壊熱は、自然循環により除去できる構造とする。

(ハ) 「原子炉格納容器床上雰囲気圧力高」信号又は「原子炉格納容器床上雰囲気放射能高」信号により原子炉格納容器の隔離が行われる。原子炉格納容器は機密性が高く、また、わずかにアニュラス部へ漏えいした放射性物質は、アニュラス部が常時負圧に維持されているため、直接大気中に漏えいすることはなく、更に、アニュラス循環排気装置は、アニュラス部の空気を浄化再循環すると共に、浄化した空気の一部を排気筒より放出する。

(3) 一次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象の解析

(イ) 炉心冷却能力の解析

(a) 解析条件

①炉心の状態は平衡炉心の燃焼末期とする。

②外部電源喪失と反応度抑制機能喪失を重ね合わせた事象を対象とする。

③炉心損傷後の膨張過程における有効仕事量の評価に当たっては、二相燃料の等エントロピー膨張を仮定する。

④構造物の耐衝撃評価に当たっては、膨張過程における最大有効仕事量として五〇〇メガジュールを考慮する。

⑤崩壊熱除去の評価に当たっては、一次主冷却系、二次主冷却系及び補助冷却設備の自然循環のみを期待する想定とする。

(b) 解析結果

炉心はナトリウム沸騰、被覆管溶融移動、燃料スランピングが生じた時点で即発臨界に達し、膨張によって未臨界となる。炉心損傷後の最大有効仕事量は約三八〇メガジュールとなる。炉心部で発生する圧力荷重によって、原子炉容器に歪みが生ずるが、ナトリウムが漏えいするような破損は生じない。また、一次主冷却系機器、配管についても一部歪みが生じるものの、ナトリウムが漏えいするような破損は生じない。炉心部から放出された溶融燃料は、周辺のナトリウム及び構造材に熱を伝達すると共に、原子炉容器内構造物水平部等に保持される。

崩壊熱の除去については、崩壊熱の除去のために必要な一次主冷却系の循環流路が確保されており、その自然循環と二次主冷却系及び補助冷却設備の作動により除熱機能は確保される。二次主冷却系の二ループの強制循環除熱(ポニーモータ一台不作動)を想定した場合には、除熱能力は更に大きくなる。なお、遮へいプラグ下面へのナトリウムスラグの衝突に伴うナトリウムの原子炉格納容器床上部への噴出量は約二九〇キログラムとなる。

(ロ) 噴出ナトリウムの熱的影響の解析

(a) 解析条件

①原子炉格納容器床上へのナトリウム噴出量を四〇〇キログラムとする。

②ナトリウムは床上雰囲気中で瞬時に空気と反応するものとし、その燃焼熱と原子炉格納容器雰囲気中へ放出された核分裂生成物の崩壊熱の全てが、原子炉格納容器内雰囲気ガスの温度上昇に費やされるものとする。

(b) 解析結果

四〇〇キログラムのナトリウム噴出に伴い、原子炉格納容器内雰囲気ガスは、初期に温度が約一四〇℃、内圧が約0.33キログラム毎平方センチメートルGまで上昇した後、下降し続ける。

したがって、原子炉格納容器内圧、温度とも設計値を下回っており、放射性物質の放散を抑制できる。

(ハ) 被曝評価

(a) 解析条件

①原子炉格納容器床上に放出される核分裂生成物の量は、炉内存在量に対して、希ガスが一パーセント、よう素が一パーセント、プルトニウムが0.1パーセントとする。

②放出されるよう素のうち、九五パーセントはエアロゾルの形態をとり、残り五パーセントはエアロゾルの形態をとらないものとする。

③原子炉格納容器床上へ漏えいしたエアロゾル状よう素はプレートアウト等による減衰を考慮するが、非エアロゾル状よう素及び希ガスは右減衰効果を考えない。

④原子炉格納容器からの漏えい率は、この事象時の原子炉格納容器圧力に対応する漏えい率を下回らない値とする。

⑤原子炉格納容器からの漏えいは、九七パーセントがアニュラス部に生じ、残り三パーセントはアニュラス部外に生じるものとする。

⑥アニュラス循環排気装置のよう素用フィルタユニットのよう素除去効率は九九パーセントとする。よう素用フィルタユニットへの系統切替達成までの一〇分間はよう素除去効果は考慮しないものとする。

⑦原子炉格納容器内の放射能による直接線量及びスカイシャイン線量については原子炉格納容器等の遮へいを考慮して評価する。

⑧事故継続時間は三〇日間とする。

⑨環境への希ガス、よう素等の核分裂生成物の放出は排気筒より行われるものとする。

⑩環境に放出された希ガス、よう素等の大気中の拡散については、「気象指針」に従って評価するものとする。

(b) 解析結果

大気中に放出される放射能は、よう素約七七キュリー、希ガス約二六〇〇キュリー及びプルトニウム約2.0キュリーである。このよう素及び希ガスの大気放出に伴う被曝線量は、本件敷地境界外で最大となる場所において、小児甲状腺約1.1レム、成人甲状腺約0.37レム、全身約0.069レムである。プルトニウムの大気放出に伴う被曝線量は、本件敷地境界外で最大となる場所において、骨表面、肺及び肝のそれぞれに対し約0.071ラド、約0.014ラド及び約0.015ラドである。

(4) 制御棒異常引抜時反応度抑制機能喪失事象の解析

(イ) 解析条件

①炉心の状態は、初装荷炉心の燃焼初期とする。

②制御棒の異常な引き抜きと反応度抑制機能喪失を重ね合わせた事象を対象とする。

(ロ) 解析結果

冷却材流路に放出された溶融燃料は冷却材の移動と共に掃き出され、炉心は未臨界となる。また、炉心部は部分的な損傷にとどまり、事象終了後の炉心部の冷却は確保できる。したがって、本事象の結果は一次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象に包絡される。

5 本件安全審査における評価

(一) 事象選定の妥当性

取り上げられている事象は、「評価の考え方」に基づき、海外LMFBRの評価例等も参考として選定されており、妥当であると判断した。

(二) 解析方法の妥当性

事象の解析に当たって考慮する範囲については、サイクル期間中の炉心燃焼度変化や燃料交換等による長期的な変動及び運転中予想される異なった運転モードが考慮されているほか、工学的安全施設等の動作状況及び運転員の操作の態様も考慮されている。解析に使用されているモデル及びパラメータについては、それぞれの事象に応じて合理的に選定されており、また、各事象の解析に使用されている計算コードは、実験結果等との比較によりその使用の妥当性が確認されている。これらのことから、右解析の方法は妥当であると判断した。

(三) 解析結果の妥当性

いずれの事象の解析結果においても、放出される放射性物質による本件敷地境界外の公衆の被曝線量は「立地審査指針」及び「プルトニウムに関するめやす線量について」に示されているめやす線量を下回る放射性物質の放散が適切に抑制されると判断した。

(四) 結論

以上から、本件安全審査においては、技術的には起こるとは考えられない事象によっても炉心は冷却され、防止対策との関連において放射性物質の放散が適切に抑制されるとして、妥当であると判断した。

四  本件安全審査の結論

本件安全審査においては、調査審議の結果、本件原子炉施設の事故防止対策に係る安全性について、本件原子炉施設が具体的審査基準に適合し、その基本設計ないし基本的設計方針において、事故防止対策に係る安全性を確保し得るもの、すなわち、事故防止対策との関連において、原子炉等による災害の防止上支障がないものとした。

五  当裁判所の判断

1 「運転時の異常な過渡変化」、「事故」、「技術的には起こるとは考えられない事象」の三種類に分けて通常運転時を超える異常状態を想定している点については、「運転時の異常な過渡変化」は、本件原子炉の使用期間内に一度は起こる可能性のある燃料被覆管又は原子炉冷却材バウンダリに過度の損傷をもたらす可能性のある事象であり、その解析は、その発生を想定した場合に、右異常な過渡変化を安定して終止させ、燃料被覆管及び原子炉冷和材バウンダリの健全性を確保するために設置された安全保護設備等の設計の妥当性を総合的に確認することを目的として行われるもの、「事故」は「運転時の異常な過渡変化」を超える異常な状態であって、発生頻度は小さいが、万一、発生した場合には本件原子炉施設から環境へ放射性物質を異常に放出するおそれがある事象であり、その解析は、その発生を想定した場合に、その拡大を防止し放射性物質が環境へ異常に放出することを抑止するために設置された工学的安全施設等の設計の妥当性を総合的に確認することを目的として行われるもの、「技術的には起こるとは考えられない事象」は、LMFBRの運転実績が僅少であることから、発生頻度は無視し得るほど極めて低いが、その結果が重大であると想定される事象であり、その解析評価は、その発生を仮定した場合に、その起因となる事象とこれに続く事象経過に対する防止対策との関連において、放射性物質の放散が適切に抑制されることを目的として行われるものであって、それぞれその目的を異にするものであるから、このような多方面からの評価によって本件原子炉施設における事故防止対策に係る安全機能が適切に確保され得ることを確認することに、特段不合理な点があるとは認められない。

2 また、「運転時の異常な過渡変化」、「事故」、「技術的には起こるとは考えられない事象」の各事象の解析評価において用いられた解析条件には、特段不合理な点があるとは認められない。

3 そして、右各事象の解析結果からは、次のようにいうことができる。

(一) 「運転時の異常な過渡変化」の解析結果については、いずれの事象においても燃料及び原子炉冷却材バウンダリの健全性が損なわれないことが碓認されたといえる。

(二) 「事故」の解析結果については、いずれの事故においても、炉心の冷却能力が失われたり、原子炉格納容器、原子炉冷却材バウンダリの健全性が損なわれることなく事故が終息すること、本件原子炉施設付近の周辺公衆の被曝も、全身被曝線量についてはいずれの事故においても「線量当量限度を定める件」の定める「公衆の許容被曝線量」年間0.1レム(なお、「許容被曝線量等を定める件」の定める年間0.5レムは現在妥当性を失っていることは、前記(第二、二、2)のとおりである。)を下回り、一次アルゴンガス漏えい事故における小児の甲状腺被曝線量のみが0.22レムと、右0.1レムを超えているものの、公衆が過大な被曝を受けることがないことが確認されたといえる。

(三) 「技術的には起こるとは考えられない事象」の解析結果については、炉心は冷却され、本件原子炉施設の付近住民が、「立地審査指針」、「プルトニウムに関するめやす線量について」に定める「めやす線量」を超える被曝をすることがないことが確認されたといえる。

(四) そうすると、本件原子炉施設における事故防止対策に係る安全性が適切に確保され得るという結論においても、特段不合理な点は認められないというべきである。

4  以上のとおり、本件安全審査における本件原子炉施設の事故防止対策に係る安全性についての調査審議及び判断の過程に重大かつ明白な瑕疵といえるような看過し難い過誤、欠落があるとは認められない。

六  原告らの主張について

1 「運転時の異常な過渡変化」及び「事故」の解析評価について

原告らは、「運転時の異常な過渡変化」及び「事故」の解析評価についての本件安全審査には種々の重大かつ明白な瑕疵がある旨主張する。

(一) 事象の選定について

原告らは、本件許可申請に際しては、限られたいくつかの「運転時の異常な過渡変化」や「事故」を想定して解析評価したものにすぎず、不十分である旨主張する。

この点、多数の機器で複雑に構成された原子炉施設においては、理論上発生する可能性のある事故を網羅的に検討するならば、極めて多数の事故等を想定し得ることは明らかである。しかし、「安全評価審査指針」は、軽水炉の安全評価を行うに際して想定すべき事象として、加圧水型軽水炉(PWR)については「運転時の異常な過渡変化」として一四種類、「事故」として九種類、沸騰水型軽水炉(BWR)については「運転時の異常な過渡変化」として一二種類、「事故」として六種類を定めている(乙四・二六八頁、二六九頁)。また、「安全評価審査指針」は、「原子炉の運転状態において原子炉施設寿命期間中に予想される機器の単一故障又は誤動作若しくは運転員の単一誤操作などによって、原子炉の通常運転を超えるような外乱が原子炉施設に加えられた状態及び、これらと類似の頻度で発生し、原子炉施設の運転が計画されていない状態にいたる事象」を「運転時の異常な過渡変化」とし、「運転時の異常な過渡変化を超える異常状態であって、発生頻度は小さいが、発生した場合は原子炉施設からの放射能の放出の可能性があり、原子炉施設の安全性を評価する観点から想定する必要のある事象」を「事故」としていること、そして、「運転時の異常な過渡変化」については、原子炉施設が制御されずに放置されると、燃料又は原子炉冷却材圧力バウンダリに過度の損傷をもたらす可能性のある事象を想定し、これら事象が発生した場合における安全保護系、原子炉停止系等の設計の妥当性を確認するという観点から、「事故」については、原子炉施設からの放射線による敷地周辺への影響が大きくなる可能性のある事象を想定し、これらの事象が発生した場合における工学的安全施設等の設計の妥当性を確認するという観点から、それぞれの目的、範囲に従って評価の対象とすべき代表的事象を選定するとしていること、類似の「運転時の異常な過渡変化」又は類似の「事故」が二つ以上ある場合には、結果が最も厳しくなるもので代表させることができるとしていること、安全性の解析に当たっては、当該原子炉の通常運転範囲全域について考慮すると共に、想定された事象に加え、作動を要求される安全系の機能別に結果を最も厳しくする単一故障を仮定し、かつ、工学的安全施設の作動が要求される場合には外部電源の喪失を仮定しなければならず、解析に当たって使用するモデル及びパラメータは評価の結果が厳しくなるように選定しなければならないとしている(乙四・二六四ないし二六七頁)。

そして、「評価の考え方」は、右「安全評価審査指針」を参考とし、これにLMFBRの特徴を考慮して「運転時の異常な過渡変化」及び「事故」の解析評価を行うことが必要であるとし、「運転時の異常な過渡変化」として一二種類、「事故」として一四種類を例示している(乙四・四九二ないし四九四頁)。

右「安全評価審査指針」及び「評価の考え方」の定めは、原子炉施設の安全審査においては、原子炉施設の事故防止対策に係る安全性を確認するために、原子炉施設寿命期間中に現実に発生するおそれがあると想定される事象のうち、安全保護系、原子炉停止系、工学的安全施設等の設計の妥当性を確認するという観点から、評価の対象とすべき代表的な具体的事象を適切に選定して、これらにつき評価結果が厳しくなるような前提条件を設定した上で解析評価し、安全性を確保することができるとの結論が得られれば、他の態様の事故については、選定された事故よりも原子炉施設の安全性を損なうおそれが少ないものとして、具体的な解析を行うまでもなく原子炉施設の安全性が確保されるという考え方に基づいているものと解することができるところ、右考え方を不合理であるとする証拠はない。したがって、本件原子炉施設について解析評価の対象として選定された事象の数が少ないことをもって、直ちに本件安全審査が不合理であるということはできない。

もちろん、具体的に想定して解析する事故等は、代表的な事象を適切に選定したものでなければならないが、この点については、各解析評価に関する部分で判断を示すことにする。

(二) 単一故障の仮定について

原告らは、異常事態の発生には多重故障やいくつかの誤操作が関与しているにもかかわらず、本件原子炉施設の「運転時の異常な過渡変化」及び「事故」の解析評価に際して、機器の単一故障のみを仮定しているのは不合理である旨主張する。

この点、「安全設計審査指針」は、安全系(「安全設計審査指針」でいう「安全上重要な構築物、系統及び機器」の一部をなすものであって、かつ、想定すべき事象により生じる異常な状態を速やかに収束させ、又はその拡大を防止し、あるいはその結果を緩和することを主たる機能とするもの。)に属する各系統は、単一故障を仮定してもその安全機能を損なわない設計であることを要求していること、「安全評価審査指針」は、各事象の解析に当たっては、想定された事象に加え、作動を要求される安全系の機能別に結果を最も厳しくする「単一故障」を仮定することをそれぞれ要求している(乙四・三〇頁、二六七頁)。

ところで、「安全評価審査指針」において右の単一故障の仮定を要求しているのは、安全系の設計が「安全設計審査指針」の要求を満足していることを確認すると共に、作動を要求されている諸系統間の協調性や、手動操作を必要とする場合の運転員の役割等を合め、安全系全体としての機能と性能を確認しようとするものであることが認められ、右によれば、原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針の妥当性を確認するために行う「運転時の異常な過渡変化」及び「事故」の解析評価は、単に安全系の設計が「安全設計審査指針」の要求を満足することを確認することを目的とするものではなく、安全系全体を統合的に検討しようとするものであり、その目的において十分な合理性を有する。

そして、「安全評価審査指針」は、単一故障の仮定を考慮すべき範囲として、当該想定事象に対して安全機能を果たすべき系統全般、すなわち、当該事象に対して作動が要求される全ての安全系であって、補助施設や非常用電源も含むとしていること、単一故障の仮定は、当該事象に対して果たされるべき安全機能の観点から結果を最も厳しくするものを選定し、かつ、一つの選定事象について二つ以上の安全機能が要求される場合には、機能別に単一故障を仮定しなければならないとしていること、事故の解析に当たって、工学的安全施設の作動が要求される場合には、外部電源の喪失を考慮しなければならないとされていることが認められる(乙四・二六七頁)。

右によれば、単一故障の仮定といっても、機能別、すなわち作動を要求される系統ごとに順次単一故障を仮定するのであるから、単に一つの故障のみを仮定するものではなく、また、結果を最も厳しくする単一故障を仮定するのであるから、結果を同じくする複数の故障を仮定することと同視し得る。また、工学的安全施設の作動に関しては外部電源の喪失も考慮するとしているのであるから、必然的に複数の故障を仮定するものであることが明らかである。もちろん、放射性物質の拡散に対する多重防壁のすべてが、無条件に機能しないということも理論上は仮定できる。しかし、前記(第一、四、2、(二))のとおり、本件原子炉施設においては、事故防止対策としての安全設計として、①異常事象の発生を防止し(異常の発生防止)、次に、②仮に異常事象が発生したとしても、それが拡大し事故(周辺環境へ放射性物質を大量に放出するに至るおそれのある事態)に発展することを防止し(異常事故の拡大及び事故への発展の防止)、更には③万一事故に発展したとしても周辺環境へ放射性物質が大量に放出されることを防止する(放射性物質の異常放出の防止)設計がされ、本件安全審査においてその妥当性が確認されているのであって、「運転時の異常な過渡変化」及び「事故」の解析は、右のように本件原子炉施設の安全設計の妥当性を確認した上で、更にあえて「運転時の異常な過渡変化」及び「事故」の発生を想定し、「運転時の異常な過渡変化」については、炉心が損傷に至る前に収束され通常運転に復帰できる状態になること、「事故」については、炉心の溶融のおそれがないこと及び放射線による敷地周辺への影響が大きくならないよう核分裂生成物放散に対する障壁の設計が妥当であることを確認し、右安全設計の妥当性を別の側面から確認するためのものである。このような「運転時の異常な過渡変化」及び「事故」の解析評価の目的、そして、本件原子炉施設の安全保護系や工学的安全施設については、前記(第四、一、2、(三)、同4及び第四、二、3、(二))のとおり、①強度等において十分な余裕をもった設計となっていること、②外部電源が喪失した場合においても、非常用電源をその電源とするなど所定の機能が発揮されるようになっていること、③原子炉の運転開始後においても定期的にその性能確認のための試験、検査が実施できる構造となっていることなど、設計上非常に高い信頼性を有しており、異常事象や事故が発生したとしても、その発生に伴って作動することが要求される安全保護系や工学的安全施設に同時に故障が発生する可能性は極めて低いことが確認されていることからすると、右のような単一故障の仮定には十分な合理性があるといえ、理論上多重防護のすべてが無条件に機能しないということを仮定し得るからといって、「運転時の異常な過渡変化」及び「事故」の解析評価において、全ての機器の不作動やこれに近い仮定を前提としても安全性が確認されなければならないとすることは、そもそも解析評価の目的と矛盾し、合理性に欠けるというべきである。

したがって、「運転時の異常な過渡変化」及び「事故」の解析評価における機器の単一故障の仮定は合理的であり、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(三) 「二次冷却材漏えい事故」について

(1) 原告らは、「二次冷却材漏えい事故」に係る解析評価(漏えいナトリウムによる熱的影響評価)の解析条件として、二次主冷却系配管の破損口の大きさを一五平方センチメートルの割れ状の破損口としていることについて、右解析条件は恣意的なものであり、瞬時両端完全破断を解析条件として仮定すべきである旨主張し、その根拠として、フランスの高速原型炉スーパーフェニックスにおいては二次系ナトリウム配管が完全破断する事故を想定していることを指摘する。

この点、「二次冷却材漏えい事故」とは、本件原子炉の出力運転中に二次主冷却系配管が破損して、二次冷却材であるナトリウムが漏えいする事象であるところ、証人斉藤の証言(斉藤調書一・四二丁表、八八丁裏)によれば、二次主冷却系配管に万一破損が生じるとしても、配管の内圧が低いために、右破損は肉厚を貫通した疲労亀裂という形態をとり、急速な破断に発展するおそれはないこと、また、肉厚を貫通した疲労亀裂の大きさは、設計上想定される応力の繰り返し回数を超えて配管の肉厚を貫通するまで応力が繰り返し加えられたと仮定しても、長さが管の直径の二分の一、幅が管の厚さの二分の一のスリット状の大きさを超えることはないことが認められる。そうすると、本件安全審査において、申請者が漏えいナトリウムによる熱的影響の解析条件として、破損口の大きさを右スリット状の漏えい口の大きさに相当する一五平方センチメートルとしたことを合理的と判断したことは妥当というべきであり、フランスのスーパーフェニックスの事故想定は、右認定を覆すものではない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(2) 原告らは、「二次冷却材漏えい事故」の解析評価(漏えいナトリウムによる熱的影響評価)において、①床ライナの温度上昇がより大きい小、中規模漏えい時の局所的なナトリウムの燃焼による床ライナの温度上昇が解析評価されていないこと、また、②界面反応による腐食が解析条件において考慮されていないことは不当である旨主張する。

しかし、①の点については、乙イ四一及び乙イ四五によれば、右解析評価は、炉心冷却能力の解析評価において前提とする二次主冷却系の系統分離が、漏えいナトリウムの熱的影響によって損なわれないか否かを確認することを目的とするものであること、右評価の目的からすると、右系統分離のための障壁を形成する建物、構築物の健全性に最も大きな影響を及ぼすのは、事故ループにおける雰囲気温度の上昇に伴う内圧の上昇であり、内圧の上昇については、大規模漏えいの場合の方が小、中規模漏えいの場合よりも大きいことから、右内圧の上昇が実際よりも十分に厳しい結果となるように、考えられる最大規模の漏えいを想定した上で、漏えいしたナトリウムの燃焼形態についても、右の内圧の上昇が実際よりも厳しい結果になるように、スプレイ燃焼するという条件が設定されたことが認められる。

このように、右解析評価は、床ライナ自体の定量的な機械的健全性を確認するためのものではなく、右解析条件は、床ライナの健全性にとって最も厳しい条件として設定されたものではない。確かに、右評価の際には、床ライナの温度上昇も併せて評価されているが、乙イ四五によれば、これは、内圧の上昇に着目した右条件下において、機械強度的に余裕のある床ライナが設置され得ることを念のために確認したにすぎないものと認められる。したがって、床ライナの温度上昇がより厳しい小、中規模漏えい時の局所的なナトリウムの燃焼による床ライナの温度上昇が解析評価されていないことは、右解析評価の合理性を左右するものではない。

また、②の点ついても、同様に、右解析評価は、床ライナの機械的健全性を確認するための解析評価ではないから、右解析評価において界面反応による腐食を考慮していないことは、右解析評価の合理性を左右するものではない(なお、弁論の全趣旨によれば、右解析評価において想定されている大規模漏えい時には、ナトリウムが床ライナ上でプール燃焼するため、ナトリウム、酸素及び鉄の界面がほとんど存在しないことが認められる。)。

もっとも、前記(第六、二、4、(二)、(6)、(ロ)、(b))に加え、証人佐藤の証言(佐藤調書二八、二九頁)、乙一六・八―一―六頁、七頁、九頁、二七頁、二八頁、三一頁、三二頁及び乙イ四五によれば、本件安全審査においては、冷却材として使用されるナトリウムは、化学的に活性であり、酸素やコンクリートに含まれる水とも激しく反応するため、漏えいしたナトリウムとコンクリートが直接接触すると、ナトリウムとコンクリート中の水分が反応し、圧力上昇やコンクリートの脆弱化により建物の健全性が失われることがあり、建物の健全性が失われると、二次主冷却系の他の系統に影響が及ぶ可能性があることから、ナトリウムの化学反応及びナトリウム火災に対する対策の一つとして、漏えいしたナトリウムとコンクリートが直接接触することを防止するために、鋼製の床ライナを設置し、これによって、ナトリウムが万一漏えいした場合であっても、漏えいナトリウムとコンクリートとの直接接触を防止するという基本設計ないし基本的設計方針について審査し、妥当であることを確認したことが認められる。

そうすると、ナトリウム漏えい時の床ライナの温度上昇のために、床ライナの漏えいナトリウムとコンクリートとの直接接触を防止する機能が損なわれる場合、例えば、床ライナの温度が床ライナの融点を超えた場合や、床ライナが熱膨張して壁面と干渉し又は局所的なひずみが発生して床ライナに損傷が生じる場合には、床ライナにより漏えいナトリウムとコンクリートとの直接接触を防止するという基本設計ないし基本的設計方針の妥当性が失われる可能性がある。

ところが、右のとおり、「二次冷却材漏えい事故」に係る解析評価(漏えいナトリウムによる熱的影響評価)は、床ライナの機械的健全性を確認するための解析評価ではなく、本件安全審査に際しては、床ライナの機械的健全性を確認するための事故の解析評価は行われていないことになる。そこで、この点に関して、本件安全審査の調査審議及び判断の過程に、重大かつ明白な瑕疵といえるような看過し難い過誤、欠落があるか否かについて検討するが、この点については、本件ナトリウム漏えい事故及びその後に得られた知見が関連するので、後記八に別項を設けて判断する。

(四) 「蒸気発生器伝熱管破損事故」について

原告らは、「蒸気発生器伝熱管破損事故」に係る解析評価の解析条件について、①初期スパイク圧の設計基準リーク(前提事象として伝熱管一本が瞬時に両端完全破断することを仮定する)、準定常圧の設計基準リーク(伝熱管四本が同時に両端完全破断する水リーク率を想定する)は、いずれも恣意的で合理性がない、②主蒸気止め弁の開固着又は主蒸気管破断を想定していないのは不合理である旨主張し、本件原子炉施設において「蒸気発生器伝熱管破損事故」が発生した場合には、炉心にまで影響が及び、炉心溶融事故となる可能性がある旨主張する。この点については、原告らの主張が多岐にわたるので、蒸気発生器の安全設計に関する原告らの主張に対する判断と併せて、後記七において別項を設けて判断する。

(五) 「燃料スランピング事故」について

原告らは、スランピング現象が最大の反応度価値を持つ一体の燃料集合体内の全燃料要素で同時に発生するという解析条件は、恣意的に反応度の範囲を限定したものであること、燃焼の進展に伴う融点の低下を考慮していないこと、スランピングした燃料による燃料被覆管の脆化を考慮していないことを理由に、「燃料スランピング事故」に係る解析評価は不合理である旨主張する。

(1) 解析条件について

証人斉藤の証言(斉藤調書一・一八丁表ないし一九丁裏)、乙ニ二の二(証人川島調書二)五四丁表ないし五八丁表及び乙ニ二の七(証人川島調書七)二六丁裏ないし二八丁裏によれば、「燃料スランピング事故」は、ステップ状の正の反応度が投入された場合に、本件原子炉施設の炉心の冷却能力が失われることはないか、また、原子炉冷却材バウンダリの健全性が損なわれることはないかを評価するために想定された事故であり、燃料スランピングは、本件原子炉の炉心の応答特性を把握するために、ステップ状の正の反応度が投入される物理モデルとして想定された事象であって、万一の場合に現実に本件原子炉施設においてそのような事故が起こり得ることを前提としたものではないことが認められる。

そして、前記(二、4、(一)、(2))に加え、証人斉藤の証言(斉藤調書一・二一丁表ないし二二丁表、二三丁表)及び乙一六・一〇―三―七頁によれば、本件安全審査においては、最大の反応度価値を有する燃料集合体の一六九本の燃料要素すべてで同時にスランピングが生じるという解析条件は保守的であり、妥当であると判断したことが認められるところ、前記(二、4、(一)、(2)、(ロ)、(a))のとおり、本件原子炉施設には燃料スランピングの発生防止対策が十分に講じられていること、証人斉藤の証言(斉藤調書一・二一丁表ないし二二丁表、二三丁表)によれば、我が国の高速実験炉「常陽」や海外の高速炉において、このような現象は起きていないことが認められることに照らせば、右本件安全審査の判断に不合理な点はないというべきである。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(2) 燃料の融点の低下について

前記(第四、一、1、(一)、(2)及び同三、3、(一)、(2))のとおり、本件安全審査においては、燃焼の進展に伴う燃料融点の低下については、一般的には燃焼が進んだ段階では融点が漸減するとはいえるが、他方、出力密度が減少することによる燃料温度の低下の方が大きくなるため、結局、燃料温度が最高となるのは燃焼開始直後であることを確認したことが認められる。

したがって、燃焼の進展に伴う融点の低下は、右事象の評価結果に影響を及ぼすものではないといえるから、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(3) スランピングした燃料の燃料被覆管への接触について

前記(1)のとおり、「燃料スランピング事故」は、ステップ状の正の反応度が炉心に投入された場合の炉心の応答特性を把握するための物理モデルとして想定されたものであり、スランピングを起こした燃料ペレットが燃料被覆管に接触するか等、燃料ペレット自体の挙動を解析するものではない。すなわち、乙ニ二の二(川島調書二)五四丁表ないし五八丁表によれば、スランピング現象については、それにより炉心に投入される正の反応度の大きさを求めるためだけに想定されるものであり、解析に際しては、右により求められた正の反応度の大きさを前提とした上で、健全な形状の燃料要素を有する炉心を解析対象として燃料温度等が計算されることが認められる。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(4) 中性子照射による燃料被覆管の脆化について

乙一六・一〇―一―二頁によれば、本件安全審査においては、右解析評価において判断基準の一つとしている燃料被覆管の肉厚中心温度に関する制限値につき、実際に中性子を照射した燃料被覆管に対する急速加熱試験の結果等を基に安全余裕を持たせて設定された値であることを確認したことが認められ、その合理性に疑いを入れるような証拠はない。そうすると、中性子照射による燃料被覆管の脆化によって、燃料被覆管の健全性が影響を受けるとはいえないから、これを考慮していないことは、本件安全審査の合理性を左右するものではない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(六) 「気泡通過事故」について

原告らは、ナトリウム沸騰のように気泡が炉心近くで連続して発生するという前提条件を置いた場合には、投入される反応度が更に大きく、しかも持続することを指摘し、「気泡通過事故」の解析評価の解析条件として、二〇リットルの気泡が一斉に炉心を通過するとしたことは恣意的で、不合理である旨主張する。

しかし、「気泡通過事故」は、何らかの原因により原子炉容器内の一次冷却材中に気泡が混入し、燃料集合体下部のエントランスノズルを通じて、一次冷却材と共に右気泡が炉心内を通過するという事故であるところ、証人斉藤の証言(斉藤調書一・二七丁表ないし二九丁表)及び乙ニ二の二(証人川島調書二)三七丁表によれば、本件原子炉施設において何らかの原因により一次冷却材中に気泡が混入し滞留する場合の気泡の最大量は、気泡の排出経路であるガス抜き孔の効果を無視した場合であっても、原子炉下部プレナム中の高圧プレナムの連結管間隙空間容積のうちスリット上端より上の部分の体積に相当する量(二〇リットル)であることが認められる。そうすると、ナトリウムの沸騰を除けば、右二〇リットルが気泡混入の物理的最大値ということができる。

そして、ナトリウムの沸騰については、前記(第四、三、2、(一))のとおり、本件原子炉施設においてナトリウムが沸騰することは想定し難いから、ナトリウムが沸騰するという前提を置かないことは、本件安全審査の合理性を左右するものではない。

したがって、原告らのこの点の主張は理由がない。

2 「技術的には起こるとは考えられない事象」について

原告らは、「技術的には起こるとは考えられない事象」の解析評価についての本件安全審査には種々の重大かつ明白な瑕疵がある旨主張する。

(一) 事象の起こる可能性について

(1) 原告らは、反応度事故に基づく「炉心崩壊事故」(「炉心溶融」から「出力暴走」等に至る事故現象)を「技術的には起こるとは考えられない事象」とし、「事故」(設計基準事故)として扱っていないのは不合理である旨主張し、その根拠として、①本件原子炉施設は、軽水炉と比べると、即発中性子の寿命が短く、かつ遅発中性子の割合が少ないため、異常な反応度が投入された場合には容易に燃料が溶融すること、②ボイド反応度が正であること、③炉心内の燃料が反応度を最も高くするように配置されておらず、炉心内には臨界になり得る量の数倍ないし十数倍の核分裂性物質が燃料として装荷されているため、炉心の変形等によって正の反応度が投入されること、④炉心の発熱密度が高いことを挙げる。

しかし、①については、前記(第四、三、2、(二))のとおり、本件原子炉施設において即発中性子の寿命が軽水炉のそれと比べて短く、また、遅発中性子の割合が軽水炉のそれと比べて少ないことは、本件原子炉施設の安定した制御に当たって問題となるものではない。

②についても、前記(第四、三、2、(一))のとおり、本件原子炉施設においてナトリウムが沸騰しボイドが生じることは想定し難いから、これにより反応度事故が起こることは想定し難い。

③、④については、本件原子炉施設の炉心には、原子炉の運転を維持するため、最小臨界量を超えた燃料が装荷されており、プルトニウムは、高速中性子に対する核分裂断面積(核分裂を起こす確率)が熱中性子に対するそれと比べて小さいため、本件原子炉においては、プルトニウム富化度の高い燃料を用いると共に、炉心燃料要素の配列を密にして核分裂連鎖反応を効率的に起こさせるようになっていることは当事者間に争いがない。したがって、本件原子炉施設は、同規模の出力の軽水炉と比べると、炉心に装荷される核分裂性物質が多く、また、発熱密度(炉心の単位体積当たりの発熱量)も大きい。しかし、前記(第四、一、1、(一)、(2)、同(4)及び同三、2、(一))のとおり、本件安全審査においては、本件原子炉施設について、炉心燃料集合体の変形による反応度投入を防止する対策が取られていること、冷却材ナトリウムは軽水に比べ冷却能力に優れている上、冷却材は炉心に安定して供給され、発熱量に応じた流量が確保されることを確認しているから、本件原子炉施設において、燃料の配置、燃料の装荷量及び発熱密度の点から炉心崩壊事故が発生する可能性があるとはいえない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(2) 「一次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象」について

原告らは、停電によるポンプ停止時に制御棒挿入装置が故障する可能性があるから、「一次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象」は現実に起こり得るものであって、「技術的には起こるとは考えられない事象」として解析評価することは不当である旨主張する。

この点、「一次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象」は、外部電源の喪失に伴う一次冷却材流量の減少と、緊急停止の失敗とを重ね合わせた事象であるから、個別に検討する。

(イ) 外部電源の喪失に伴う一次冷却材流量の減少について

前記(第四、一、1、(二)、(3))に加え、乙一六・八―一―三九頁、四七頁、四八頁、八―四―六頁、七頁、一〇―二―一二頁、一九頁、二〇頁によれば、本件安全審査においては、外部電源の喪失に備えて、本件原子炉施設の非常用所内電源設備は、必要な容量を持つディーゼル発電機三台、蓄電池三組が各々独立した部屋に収納され、かつ、独立分離した非常用母線に接続されていること、外部電源喪失時に、ディーゼル発電機三台のうち一台が起動に失敗すると仮定したとしても、燃料の許容設計限界及び原子炉冷却材バウンダリの設計条件を超えることなく原子炉を停止して冷却できること、一次主冷却系循環ポンプは、それ自体の構造として、万一、主モータの駆動電源が喪失した場合であっても、冷却材流量が急激に減少することのないようポンプの回転慣性が設定されている上、非常用電源で駆動されるポニーモータがこれを引き継ぎ、一定の炉心部流量を確保する設計とされていることを確認していることが認められ、その合理性に疑いを入れるような証拠はない。

したがって、本件原子炉施設においては、外部電源が万一喪失した場合においても、一次冷却材流量の減少により、燃料の許容設計限界及び原子炉冷却材バウンダリの設計条件を超えるような事態に陥ることは想定し難いから、原告らのこの点ついての主張は理由がない。

(ロ) 緊急停止の失敗について

前記(第四、一、2、(一)及び同(三))に加えて、乙一六・八―九―一六頁、二五頁、二六頁、四二頁、八―一―一九頁、二三頁、二五頁、五二ないし五四頁、六一頁ないし六三頁、八―三―一八頁によれば、本件安全審査においては、仮に外部電源喪失その他の理由により一次冷却材の流量が減少した場合、本件原子炉施設の安全保護系は、中性子束及び一次冷却材流量、原子炉容器ナトリウム液位等の異常状態から多様な原子炉緊急停止信号が発せられること、本件原子炉の緊急停止を行う安全保護系及び原子炉停止系は、地震時の加重に対しても十分な強度を有するように設計されること、安全保護系については、それを構成する回路等に、同じ機能を有するものを二つ以上設け(多重性)、かつ、右の回路等が、同時に故障することがないように独立性が確保されるように考慮した対策が講じられるから、安全保護系を構成する右の回路等の一つが故障した場合にも、その安全機能は確実に維持され、原子炉停止系に原子炉トリップ信号を発することができること、原子炉停止系は、互いに独立した主炉停止系と後備炉停止系とから構成されており、いずれも本件原子炉の緊急停止時に作動して炉心へ制御棒が挿入されるが、このうちいずれか一方の原子炉停止系が作動しさえすれば本件原子炉を確実に停止することができる構造となっていること、安全保護系及び原子炉停止系は、いずれも外部電源が喪失した場合にも制御棒を自動的に炉心に挿入して原子炉を停止できるように、いわゆるフェイルセイフ機能を持たせる設計となっていること、本件原子炉施設の安全保護系及び原子炉停止系は、想定されるいかなる地震力に対してもその機能が保持できるように耐震設計が講じられることが確認されたことが認められ、その合理性に疑いを入れるような証拠はない。

したがって、本件原子炉施設においては、外部電源が万一喪失した場合においても、緊急停止に失敗するような事態に陥ることは想定し難いから、原告らのこの点ついての主張は理由がない。

(3) 原告らは、本件原子炉は、軽水炉において考慮されている制御棒の抜け出し事故や冷却材喪失事故と同様の事故の発生によって、「炉心崩壊事故」が発生する旨主張する。

しかし、制御棒が原子炉の運転中に何らかの原因で抜け出すことについては、弁論の全趣旨によれば、加圧水型原子炉においては、その炉内の圧力が約一六〇気圧という高い圧力であるため、圧力による制御棒の飛び出しを考慮する必要があることが認められるが、乙一六・八―四―一四頁によれば、本件原子炉施設の場合には、その炉内の圧力が原子炉容器入口で約八キログラム毎平方センチメートル、同出口で約一キログラム毎平方センチメートルと低圧であることが認められるから、右のような事態が発生することは想定し難い。

また、冷却材の喪失については、証人秋山の証言(秋山調書一・四四丁表ないし四五丁表)及び乙一六・八―一―七一頁、八―七―一〇頁によれば、本件安全審査においては、本件原子炉施設の一次主冷却系の機器及び配管は、原則として、原子炉容器出口ノズルの上端より上方に適切な余裕をもって最低限保持されなければならない液位(エマージェンシ・レベル)より上方に定めた基準高さ(システム・レベル)以上に配置することとし、また、右システム・レベル以下に配置する機器又は配管についてはガードベッセルの中に配置し、さらに、右ガードベッセルの上端の縁の高さはシステム・レベル以上になるようにし、かつ、ガードベッセルの空間容積は原子炉容器内ナトリウム液位をエマージェンシ・レベル以上に保持できるように定めるものとしており、このような一連の対策から、仮に原子炉冷却材バウンダリから冷却材が漏えいした場合も、漏えいしたナトリウムはガードベッセルによって保持され、炉心の冷却に必要な原子炉容器内のナトリウム液位は保持されることを確認したことが認められ、その合理性に疑いを入れるような証拠はない。そうすると、本件原子炉施設においては、炉心冷却に支障を来すような冷却材喪失事故が発生することは想定し難い。

したがって、制御棒の抜け出し事故や冷却材喪失事故を解析評価していないことは、本件安全審査の合理性を左右するものではなく、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(二) 解析評価における解析条件等について

(1) 原告らは、「技術的には起こるとは考えられない事象」の解析評価は既にその誤りが明らかとなったWASH―一四〇〇(ラスムッセン報告)等確率論的安全評価に基づくものであるから、不当である旨主張する。

しかし、「技術的には起こるとは考えられない事象」の解析評価は右の考え方を参考にしているものの、その評価値等に依拠していると認めるに足りる証拠はないから、原告らの主張はその前提を欠く。

(2) 原告らは、「炉心崩壊事故」は現時点では十分解明されていないこと、また、事象選定基準が不明確であるとして、「技術的には起こるとは考えられない事象」の解析評価は、最悪の事態を想定して行うべきであるのに、これを想定していないのは不合理である旨主張する。

しかし、前記(五、1)のとおり、「技術的には起こるとは考えられない事象」の解析評価は、「運転時の異常な過渡変化」及び「事故」の解析評価と同様、安全設計の妥当性を別の側面から確認するものであり、「事故」を超える範囲において当該原子炉施設の放射性物質の放散が適切に抑制されるか否かを確認するためにされる(そして、右確認の結果、各種の安全機能がどのように働くかも付随的に明らかにされる。)ものである。したがって、起因事象の選定においては、右解析の目的に照らし、代表的な具体的事象を適切に想定すれば足りるというべきであり、「運転時の異常な過渡変化」及び「事故」に係る安全評価で想定する範囲を大幅に超えて、右評価目的を損ねるような事象を想定する必要はないと解される。したがって、原告らの主張するようにただ「最悪の事態」を想定しなればならないものではない。

そして、「炉心崩壊事故」については、前記第四のとおり、本件安全審査においては、本件原子炉施設に所要の事故防止対策が講じられていることを確認しており、これらの事故防止対策を前提とする限り、本件原子炉施設において「炉心溶融」や「出力暴走」が起こるとはそもそも考えられないから、「技術的には起こるとは考えられない事象」の解析評価において起因事象として想定された「一次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象」及び「制御棒異常引抜時反応度抑制機能喪失事象」(これらが「炉心崩壊事故につながる可能性のある事象である。)の事象選定が不合理であるとはいえない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(3) 原告らは、「技術的には起こるとは考えられない事象」の解析評価において、「運転時の異常な過渡変化」及び「事故」と同様の保守的な解析条件を置いていないことは不合理である旨主張する。

この点、前記(五、1)のとおり、本件安全審査の「技術的には起こるとは考えられない事象」の解析評価は、LMFBRの運転実績が僅少であることから、「評価の考え方」に基づいて、「事故」より更に発生頻度は低く、その発生頻度は無視し得るほど極めて低いが、炉心が大きな損傷に至るおそれがある事象を選定し、この事象とこれに続く事象経過に対する防止対策との関連において、放射性物質放散に対する障壁の抑制機能を評価するため、原子炉施設の深層防御の観点から行うものであり、そして、弁論の全趣旨によれば、「技術的には起こるとは考えられない事象」の解析評価に当たっては、「事故」の範囲を超えるより厳しい事象(機器の多重故障等を仮定して初めて発生が想定できる発生頻度の小さい事象)の中から代表的なものを想定して、その起因事象の発生以降の事象経過をできる限り忠実に評価することとし、「評価の考え方」にいう「防止対策」のうち、事象経過の中で作動が期待できると判断するに足りる十分な根拠のある設備については、その作動を考慮した上で、放射性物質の放散が適切に抑制されることを確認することが認められる。

右から明らかなように、「技術的には起こるとは考えられない事象」の解析評価は、軽水炉には要求されておらず、本件原子炉施設のようなLMFBRについてのみ、その運転実績が僅少であることにかんがみて要求されるものである上、本件原子炉施設においてその発生を想定し難いことは、事故防止対策に係る安全設計並びに「運転時の異常な過渡変化」及び「事故」の解析評価によって既に確認されたということができるのであるから、「技術的には起こるとは考えられない事象」の解析評価は、その起因事象の選定の段階において、必然的に、機器の多重故障等の大きな保守的仮定が含まれることになる。そうすると、右起因事象に組み合わせる評価条件については、更に保守性を考慮しないとしても、また、解析評価に使用するモデル及びパラメータについて、最も確からしいものを用いた解析を行って事象経過を忠実にたどることとしても、不合理とはいい難く、かえって、「防止対策」との関連において、本件原子炉施設の安全余裕が確認できるほか、「事故」の範囲を超えるか否かや、事故シナリオが飛躍的に変化して、例えば再臨界を引き起こすような仮想的炉心崩壊事故に至り、周辺公衆に対する放射線被曝のリスクが急増することに至らないことを確認することも可能となり、評価結果の多面的活用にも道が開かれるということができる。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(三) 「一次主冷却系配管大口径破損事象」について

(1) 配管の破損位置について

原告らは、「一次主冷却系配管大口径破損事象」の解析評価において、配管の破断位置を原子炉容器の入口ノズル部としているが、配管の破断はどこで起きるか予測できないので、ガードベッセルに覆われていない部分における破断を仮定すべきであるから、右想定は不合理であり、本件原子炉施設においてはこれを超える事故が起こり得る旨主張する。

しかし、「一次主冷却系配管大口径破損事象」とは、原子炉出力運転中に一次主冷却系配管に大規模な破断が生じ、一次冷却材が流出するという仮定上の事象であるが、その評価に関し、その破断位置をどう仮定するかについては、炉心を冷却する能力を評価する観点から、破断によって炉心内のナトリウムの温度が最も高くなるような位置を仮定するのが望ましいということができる。そして、証人斉藤の証言(斉藤調書一・八七丁表ないし八八丁表)及び乙一六・一〇―四―一三頁によれば、本件安全審査においては、一次主冷却系配管の原子炉容器入口ノズル部、一次主冷却系循環ポンプ出口部、ガードベッセルに覆われていない原子炉容器入口配管高所部等について、右各部位が破断した場合の炉心内のナトリウムの最高温度を評価した結果、原子炉容器入口ノズル部に破断が生じた場合が最も高くなるとして、右部分を破断位置としたことは妥当であることを確認したことが認められ、その合理性に疑いを入れるような証拠はない。

これに対して、原告らは、破断位置を原子炉容器入口ノズル部としても、大口径配管破断が起こった場合には、配管がむちのようにしなる「ホイッピング現象」が起こるので、ガードベッセルが破損したり、破断口がガードベッセルの外に飛び出すなどして、原子炉容器内液位が保持できなくなる旨主張し、甲イ一九九にはこれに沿う記載がある。

しかし、証人斉藤の証言(斉藤調書一・八八丁裏、八九丁表)及び乙一六・八―一―二九頁によれば、一次主冷却系配管が破断したとしても、一次主冷却系配管内の冷却材の圧力は軽水炉に比して十分低く、冷却材の流出によって配管が「ホイッピング現象」を起こすような流出流体のジェット力が生じることはなく、これによりガードベッセル等が損傷するおそれはないことが認められる。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(2) ナトリウムの漏えい量及び燃焼量について

原告らは、「一次主冷却系配管大口径破損事象」の解析評価において、破損口から漏えいするナトリウムの量を一八〇立方メートルとし、また、解析結果として、右漏えいしたナトリウムの燃焼量を約2.2トンとしていることについて、右漏えい量及び燃焼量の想定は、「一次冷却材漏えい事故」におけるナトリウム漏えい量及び燃焼量よりも過小であり、不合理である旨主張する。

この点、前記(二、4、(二)、(5)及び三、4、(二)、(4))のとおり、「一次冷却材漏えい事故」の解析評価におけるナトリウム漏えい量は二一〇立方メートル、燃焼量は2.7トンであるのに対し、「一次主冷却系配管大口径破損事象」の解析評価におけるナトリウム漏えい量は一八〇立方メートル、燃焼量は2.2トンとされている。

しかし、証人斉藤の証言(斉藤調書一・九〇丁裏ないし九二丁表)及び乙一六・一〇―三―二九頁によれば、「一次冷却材漏えい事故」の解析評価におけるナトリウム漏えい量は、原子炉容器内のナトリウム液位が落ち着くまでの最大漏えい量を考えたこと、右最大漏えい量については、三系統ある一次主冷却系のうち配管が破損した系統を除く残りの二系統の循環ポンプが、ポニーモータによって駆動される低速運転へ移行したときに、一次主冷却系内のナトリウム液位のバランスを考慮して算出される漏えい量(一八〇立方メートル)と、オーバフロータンクからの最大汲み上げ量(二六立方メートル)とを合計して二一〇立方メートルとしたものであること、ナトリウムの燃焼量については、漏えいしたナトリウムの燃焼形態としては、破損口からスプレー状に漏えいしたナトリウムの燃焼と、一次ダンプタンク室でプール状に貯留したナトリウムの燃焼とを考慮し、また、燃焼に寄与する酸素量としては、一次主冷却系内の窒素雰囲気中にわずかに残存する酸素と漏えいナトリウムとの反応による燃焼熱を大きく見積もるために、右残存酸素は、窒素雰囲気に維持される場合のそれは二体積パーセント以下の濃度であるところ、右濃度に余裕を持たせて三体積パーセントと仮定するなどの厳しい前提条件の下で解析した結果、約2.7トンとしたものであることが認められる。

これに対して、証人斉藤の証言(斉藤調書一・九一丁表、同裏)及び乙一六・一〇―四―一四頁、一五頁によれば、「一次主冷却系配管大口径破損事象」の解析評価におけるナトリウム漏えい量は、原子炉容器内のナトリウム液位が落ち着くまでの最大漏えい量を考える点では「一次冷却材漏えい事故」と同じであるが、「一次主冷却系配管大口径破損事象」の解析評価における配管破損は両端完全破断の仮定であるため、破断口から漏えいするナトリウムの流出が速く、したがって原子炉容器内のナトリウム液位の低下も早くなるため、早期にオーバフロータンクからのナトリウム汲み上げ停止信号が発せられてナトリウムの汲み上げが停止されることから、オーバフロータンクからのナトリウムの汲み上げ量は無視できるとして、三系統ある一次主冷却系のうち配管が破損した系統を除く残りの二系統の循環ポンプが、ポニーモータによって駆動される低速運転へ移行したときに、一次主冷却系内のナトリウム液位のバランスを考慮して算出される漏えい量(一八〇立方メートル)としたものであること、ナトリウムの燃焼量については、「一次冷却材漏えい事故」と同様の条件の下で解析した結果、約2.2トンとしたものであることが認められる。

したがって、両者のナトリウム漏えい量及び燃焼量の違いは合理的であり、「一次主冷却系配管大口径破損事象」の解析評価におけるナトリウム漏えい量及び燃焼量の想定が過小で不合理であるということはできない。

(四) 「一次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象」について

(1) 計算コードの妥当性について

原告らは、「一次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象」の解析評価に用いられた「SAS―3D」コード、「VENUS―PM」コードの各計算コードは、パラメータを変えれば結果が大幅に変わる、不確かさの大きいものである上、コード全体の実験的検証ができていない旨主張する。

この点、弁論の全趣旨によれば、「SAS―3D」コード、「VENUS―PM」コードとも、多数のパラメータを有する複雑な計算コードであることが認められる。したがって、パラメータを変えれば得られる計算結果が大幅に変わることは明らかである。しかし、およそ適切なパラメータを代入することが不可能であるならばともかく、適切なパラメータを代入した場合には適切な結果が得られるのであれば、パラメータを変えれば計算結果が大幅に変わることのみから直ちに、当該計算コードの妥当性が否定されるものではないことは明らかである。そして、両計算コードが、適切なパラメータを代入することが不可能なものであることや、「一次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象」の解析評価において適切でないパラメータが代入されたことをうかがわせるような証拠はなく、かえって、本件安全審査においてその妥当性が確認されている。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(2) 計算コードの接続条件について

原告らは、「一次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象」の解析評価において、右事象の経過のうち、起因過程を「SAS―3D」コード、炉心崩壊過程を「VENUS―PM」コードによって解析し、両者は全反応度が一ドル近傍に到達した時点において接続するとしていることについて、①接続時点の明確性に欠ける、また、②その際、「SAS―3D」コードによる多数のチャンネルの計算結果を一本化して「VENUS―PM」コードに入力していることは不合理である旨主張する。

しかし、証人斉藤の証言(斉藤調書一・七〇丁裏、七一丁表、斉藤調書五・一五丁裏)によれば、「VENUS―PM」コードによる解析は、即発臨界を超え炉心崩壊に至る領域において妥当性を持つことが認められる。したがって、「SAS―3D」コードから「VENUS―PM」コードへの接続は、即発臨界に至った時点で行うのが適切ということになる。そして、乙ニ二の五(証人川島調書五)五〇丁表ないし五一丁裏によれば、全反応度が一ドル近傍(一ドルが即発臨界に達する反応度である。)に到達した時点において、「SAS―3D」コードを「VENUS―PM」コードに接続するという趣旨は、即発臨界に至った時点で両者を接続するが、コードの都合上その接続時点が前後に若干のずれを伴うことから「近傍」という表現がされていることが認められる。したがって、右接続時点が不明確であるということはできない。

また、証人斉藤の証言(斉藤調書一・七〇丁裏ないし七二丁表)によれば、本件安全審査においては、「VENUS―PM」コードは、「SAS―3D」コードのチャンネルに対応させた計算領域を設定して計算できること、「SAS―3D」コードで計算された燃料温度、冷却材ボイド率等、反応度の時間変化等は可能な限り忠実に「VENUS―PM」コードへ受け渡されていることが認められ、多数のチャンネルの計算結果を一本化しているという事実は認められない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(3) 燃料要素の破損位置、破損口の長さについて

原告らは、「一次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象」の解析評価において、①燃料要素の破損位置を軸方向中央部からやや上部の位置に想定し、②燃料ピンの破損口の長さを五センチメートルと想定したのは恣意的で、不合理であり、破損位置は中央とし、破損口の長さは三〇センチメートルとすべきである旨主張する。

この点、申請者の実施した「一次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象」の解析評価のうち、本件原子炉施設にとって有効とされたものは、いずれも、燃料要素の破損位置を軸方向中央部からやや上部の位置に想定し、燃料要素の破損口の長さを五センチメートルと想定たものであることは当事者間に争いがない。そして、乙ニ四の一(証人近藤悟調書一)四五頁、四六頁、一一〇頁によれば、燃料要素の破損位置を軸方向中央部とすると出力はより大きくなること、燃料要素の破損口を長くすると同じく出力はより大きくなることが認められる。

しかし、①の燃料要素の破損位置については、乙イ一八及び乙ニ四の一(証人近藤悟調書一)一一二頁によれば、実験(CABRI試験)結果によれば、破損口の位置は、概ね燃料要素の高さの約0.65(破損位置のフィッサイル下端からの高さ÷フィッサイル全長)の位置となったことが認められる。また、乙ニ四の一(証人近藤悟調書一)一二〇頁には、燃料要素の燃料が溶融して燃料要素の内圧が上昇するとき、燃料被覆管は、材料強度の弱いところで破損するところ、材料強度は、一般的に温度が高くなるほど低下し、本件原子炉施設の被覆管の温度分布は軸方向の上の部位が高く、したがって、軸方向の上の部位の強度が弱いことから、内圧と燃料被覆管の強度との兼ね合いで、燃料ピンの高さの0.6ないし0.7の位置で破損することが合理的に説明できる旨の証言があり、右証言は合理的であり信用できる。もっとも、乙ニ四の二(証人近藤悟調書二)二ないし四頁によれば、別の実験(TREAT―PFR試験)結果においては、燃料ピンが軸方向中央で破損したものもあったことが認められるが、同書証の九頁には、CABRI実験の方が、定常運転状態から模擬している点で、TREAT―PFRよりも精度が高い旨の証言があることに照らすと、右実験結果の存在をもって、本件原子炉施設において燃料ピンが軸方向中央で破損する可能性があると認めることはできない。したがって、燃料ピンの破損位置を軸方向中央部からやや上部の位置とした解析条件に不合理な点はないというべきである。

また、②の破損口の長さについては、乙ニ四の一(証人近藤悟調書一)四〇頁には、本件原子炉施設の炉心燃料要素は、直径6.5ミリメートル、炉心部の高さが九三センチメートルであるから、これが破損した瞬間に同時に三〇センチメートルにわたって穴が開くとは考え難い旨の証言があるところ、右証言は合理的であり信用することができる。また、他に燃料ピンの破損口の長さが瞬時に五センチメートルを超え得ることを認めるに足りる証拠はない。したがって、燃料ピンの破損口の長さを五センチメートルとした解析条件に不合理な点はないというべきである。

なお、原告らは、燃料の破損態様については実験的検証が不十分であるこ旨主張するが、実験的検証が少ないか否かは多分に評価の分かれるところであって、右原告らの主張は被告が想定した燃料の破損態様に不合理な点があることを具体的に指摘するものとはいえないし、右燃料の破損態様は右のとおり合理的根拠に裏付けられたものということができる。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(4) 反応度投入率の算定について

原告らは、反応度投入率が一秒当たり三五ドルとされる根拠が不明であり、

これよりも大きな反応度の投入が起こる旨主張する。

しかし、乙一六・一〇―四―二〇頁によれば、右反応度投入率の一秒当たり三五ドルは、一次冷却材流量減少と反応度抑制機能喪失との重ね合わせ事象において、最も厳しい結果を示す平衡炉心の燃焼末期に、ナトリウムの沸騰、燃料被覆管の溶融移動及び燃料のスランピングが生じた時点で即発臨界に達する時の反応度投入率であるが、右反応度投入率は「SAS―3D」コードにより算出されたものであることが認められる。また、証人斉藤の証言(斉藤調書一・七五丁表)によれば、本件安全審査においては、右反応度投入率はその前提となる条件が厳しく設定されていること、燃焼度の異なる三つの状態の炉心(初装荷炉心の燃焼初期、平衡炉心の燃焼初期及び平衡炉心の燃焼末期)について比較して最も厳しい結果を示した平衡炉心の燃焼末期での炉心状態を用いていること、使用されている計算コードは実験結果等に照らし妥当なものであることを確認したことが認められ、その合理性に疑いを入れるような証拠はない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(5) 炉心損傷後の最大有効仕事量について

(イ) 原告らは、炉心損傷後の最大有効仕事量を三八〇メガジュールとする解析結果を過小評価である旨主張し、その根拠として、①申請者が行った同一事象についての別個の解析結果においては炉心損傷後の最大有効仕事量は九九二メガジュールとなったこと、②一九五六年にH・A・ベーテとJ・H・テイトが提唱した解析モデル(いわゆる「ベーテ・テイトモデル」)に基づいて計算すれば、本件原子炉施設の炉心崩壊における機械的エネルギーはTNT火薬に換算して少なくとも三〇〇キログラムの爆発に相当すること、③旧西ドイツの高速原型炉SNR三〇〇において、炉心崩壊事故における機械的エネルギーについて、申請者の計算では最高三七〇メガジュール(本件原子炉施設と同じく一気圧までの膨張に換算すると約九三〇メガジュール)とされていたのが、ブレーメン大学ドンデラー博士らのグループが、初期遷移過程で再臨界に達した場合の機械的エネルギーを計算した結果、最大の場合には八〇六メガジュール(一気圧までの膨張に換算すると二〇二一メガジュール)となり、申請者が計算した三七〇メガジュールの約2.2倍の数値となったことを指摘する。

(ロ) しかし、①については、原告らの指摘する申請者が行った別の解析結果は、燃料棒の破損口を三〇センチメートルとして解析したものであるところ、前記(3)のとおり、右想定は非現実的であり、また、乙イ一六の一、乙イ三二及び乙ニ四の一(証人近藤悟調書一)三九ないし四二頁によれば、右解析は、単に「SAS―3D」コードの特性とパラメータの影響度を把握することを目的として、物理的に合理的な範囲を超えて大きくパラメータを変更して解析したものであることが認められるから、右解析結果をもとに、本件原子炉施設において実際に九九二メガジュールの機械的エネルギーが発生する可能性があるということはできない。

②については、証人斉藤の証言(斉藤調書一・七六丁表ないし七七丁裏)によれば、原告らの指摘する「ベーテ・テイトモデル」は、LMFBRの開発初期に、炉心崩壊に伴う機械的エネルギーの放出を簡便に評価するために作成された簡易モデルであること、このため、右モデルは、解析に当たり、単に炉心体積や熱出力の増加率のみによって炉心崩壊に伴う機械的エネルギーを算定するものにすぎず、炉心内の出力や温度の分布を考慮せず、ドップラ効果による負のフィードバック効果も無視する等極端な仮定を置いて評価する素朴なものであること、しかし、炉心崩壊に伴う機械的エネルギーの放出量は、単に炉心体積や熱出力の増加率のみによって的確に計算できるものではなく、炉心崩壊に伴う燃料被覆管の溶融と移動、炉内での燃料の態様、燃料とナトリウムの熱的な相互作用等多くの要因に基づいて計算されるものであるから、右モデルは、現在の科学的知見に照らして不合理であるというべきであること、右理論の提唱者ベーテ自身もこれを肯定していることが認められる。

③については、乙イ一九の一及び乙ニ四の一(証人近藤悟調書一)七九ないし八五頁によれば、ドンデラーの計算に対しては、カールスルーエ研究所グループが、燃料集合体におけるオリフィス孔の存在あるいは閉塞の形成という明白な事実を無視したことによる数値的不安定(コードの不完全性)による結果であり、コードの不完全さのみを修正して再計算をしたところ、一桁小さい八〇メガジュールという結論が出た旨批判していることが認められる。また、本件原子炉施設とSNR三〇〇はその構造が同一ではない。したがって、右計算結果から直ちに、本件原子炉施設における炉心崩壊事故においても同様の機械的エネルギーが発生するということはできない。また、セオファネスの結論も、直ちに本件原子炉施設における「一次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象」の解析評価に当てはまるものとはいえないし、これを認めるに足りる証拠もない。

(ハ) また、乙イ一八、乙イ三二及び乙ニ四の一(証人近藤悟調書一)七五ないし七八頁によれば、申請者は、本件許可処分後に、技術的知見の向上に伴い評価方法を改善し、評価にかかわる物理現象等の不確かさの低減を図った上で、再度「一次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象」の解析評価を行ったこと(以下「新たな解析評価」という。)、右解析評価の結果、「一次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象」において発生する最大の機械的エネルギーは、一気圧までの等エントロピー膨張による仕事量に換算して一一〇メガジュール、より詳細に物理現象に即した解析をし、原子炉容器等に作用する機械的エネルギーを炉心上部のナトリウムスラグ(ナトリウムの固まり)の運動エネルギーから求めた仕事量は一六メガジュールとなるとの結果が得られ、本件許可処分当時の最大有効仕事量が低減されたことが認められる。

この点、原告らは、新たな解析評価は機械的エネルギーの発生を小さくする事象を大きく見積もった結果によるのであって、右解析結果以上の機械的エネルギーが発生しないとする根拠はない旨主張する。

しかし、右解析の過程に具体的に不合理な点があるとは認められないし、他に本件原子炉施設において右解析結果以上の機械的エネルギーが発生すると認めるに足りる証拠もない。

(ニ) なお、原告らは、炉心崩壊事故の研究には実験データが少ないから、申請者が解析に用いた計算コードが妥当である保証はなく、これを使用して導かれた結論もそれが最大値となる保証はない旨主張する。しかし、実験データが少ないか否かは多分に評価の分かれるところであって、右原告らの主張は計算コードに不合理な点があることを具体的に指摘するものとはいえないし、他に計算コードが不合理であることを窺わせるような証拠もない。

(ホ) したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(五) 再臨界事故について

原告らは、本件原子炉施設においては、原子炉容器の破壊を伴い外部環境に壊滅的被害を与えるような再臨界事故が起こり得ると主張し、その根拠として、①炉心崩壊後に生じる塊状の堆積物(デブリ)の再集結による再臨界事故発生の可能性や、②最初の爆発に続くナトリウムの蒸気爆発により燃料が再び密に集められ、再臨界事故に至るというR・E・ウェッブの考え方を指摘する。

しかし、①のデブリの再集結については、証人斉藤の証言(斉藤調書一・七七丁裏ないし七九丁表)及び乙一六・一〇―四―二一頁によれば、本件安全審査においては、「一次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象」における本件原子炉施設の挙動の推移を評価した結果、溶融物質は原子炉容器内で分散し、最終的には各種の構造物の上に堆積層(デブリベッド)となって再配置されるが、右デブリベッドは広範囲にかつ薄く堆積するので、未臨界状態を保つ形状が維持されることを確認したことが認められる。また、前記((四)、(5)のとおり、「一次冷却材流量減少時反応度抑制機能喪失事象」の新たな解析評価においては、最も保守的なケースにおいては再臨界に至るものの、これにより発生する最大の機械的エネルギーは、一気圧までの等エントロピー膨張による仕事量に換算して一一〇メガジュールであり、これをナトリウムスラグが遮へいプラグに衝突する直前の運動エネルギー(IKE)に換算すると約一六メガジュールとなり、この程度の機械的エネルギーに対しては、一次系バウンダリ構造の健全性は余裕を持って保持されるとの結果が得られており、原子炉容器の破壊を伴うような再臨界が発生するとの結果は得られていない。したがって、本件原子炉施設において再臨界事故が発生する可能性があるとはいえない。

②のウェッブの考え方については、乙イ一五によれば、ドイツのカールスルーエ原子力センターが、「ウエッブの仮説には計算上重大な誤りと非現実的な事故条件が含まれており、しかも彼のシナリオは物理条件を逸脱している。」としていることが認められるから、その合理性には疑問があるといえ、右考え方から直ちに本件原子炉施設において再臨界事故が発生する可能性があるということはできない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(六) ポニーモータによる崩壊熱の除去について

原告らは、わずか八パーセントの流量しか持たないポニーモータによる冷却では崩壊熱を除去し得ないから、崩壊熱により重大な事故が起こり得る旨主張する。

しかし、証人斉藤の証言(斉藤調書一・七二丁表ないし七四丁裏、七九丁裏、八〇丁表)及び乙一六・一〇―四―二〇頁、二一頁によれば、本件安全審査においては、ポニーモータによる炉心の冷却を考慮しなくても、一次主冷却系、二次主冷却系及び補助冷却設備における各自然循環のみによって崩壊熱を除去するという前提条件で解析評価し、その結果、右崩壊熱を除去するに十分な除熱能力が確保され、これに二次主冷却系のポニーモータによる二ループの強制循環を仮定すれば、むしろ除熱能力はさらに大きくなり、崩壊熱を十分な余裕をもって除去できることを確認したことが認められ、その合理性に疑いを入れるような証拠はない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

七  蒸気発生器伝熱管破損事故について

原告らは、本件原子炉施設において、蒸気発生器伝熱管破損事故が発生するおそれがあり、また、その場合には、炉心にまで影響が及び、炉心溶融事故となる可能性があるから、本件安全審査は合理性を欠く旨主張する。

そこで、以下、右原告らの主張について検討するが、まず、本件原子炉施設の蒸気発生器の概要、蒸気発生器伝熱管破損事故の意義、本件安全審査の内容(事故防止対策に係る安全性を確保するための安全設計、「事故」の解析)について検討した上で、原告らの主張に対して判断を示すことにする。

1 本件原子炉施設の蒸気発生器設備の概要

次の事実は当事者間に争いがない。

本件原子炉施設の蒸気発生器は、二次冷却材ナトリウムの熱を水・蒸気系に伝達する熱交換器であり、ナトリウムの熱によって水を蒸気(過熱蒸気)に変える蒸発器と、蒸発器で生成された蒸気(過熱蒸気)を更に過熱する過熱器とからなり、いずれも、外径約三メートルの胴部の中に、ヘリカルコイル(らせん)形の伝熱管約一五〇本を内蔵する構造となっており、伝熱管の内部を被加熱体である水、蒸気が流れ、伝熱管の間を加熱体であるナトリウムが胴部の上部から下部へ下降し、伝熱管壁を介して熱交換が行われる。

蒸発器及び過熱器は、二次主冷却系三系統の系統ごとに各一基ずつ設置されており、蒸気発生器設備として、蒸発器及び過熱器のほか、ナトリウム・水反応生成物収納設備等が設置されており、また、蒸気発生器計装として、水漏えい検出設備等が設置されている。

2 事故の意義

蒸気発生器伝熱管破損事故とは、本件原子炉の出力運転中に、何らかの原因で蒸気発生器の伝熱管が破損し、大規模なナトリウム・水反応によって、当該蒸気発生器を有する二次主冷却系ループ内の圧力が過度に上昇した場合に、右の蒸気発生器を始め、当該蒸気発生器を有する二次主冷却系ループの中間熱交換器等が損傷するおそれのある事象である。

すなわち、蒸気発生器伝熱管が破損すると、圧力差によって水、蒸気がナトリウム中に漏えいしてナトリウム・水反応が生じ、次のように隣接する伝熱管等がその影響を受けるおそれがある。

(一) 水漏えい率(単位時間当たりの水漏えい量)が毎秒0.1グラム程度を下回る場合には、影響の及ぶ範囲は最初の漏えい管自身に限定され、反応生成物によってリーク孔が塞がれてナトリウム・水反応が終止するか、リーク孔が腐食により拡大する。

(二) 水漏えい率が毎秒0.1グラム程度を上回る程度になると、ナトリウム中に噴出する水、蒸気が、高温で腐食性の噴出流(リークジェット)を形成し、リークジェットにさらされた隣接伝熱管が、主として腐食によって損耗、減肉し、破損に至るおそれが生ずる(このような現象を「ウェステージ(損耗)現象」といい、初期事象に引き続き、ウェステージ現象によって隣接伝熱管に破損が伝播し、右伝熱管が破損することを「ウェステージ型破損」又は「ウェステージ型二次破損」という。)。

(三) 水漏えい率が毎秒一〇グラム程度以上になると、リークジェットが周囲の複数の隣接伝熱管に影響を及ぼすようになるため、伝熱管にウェステージ型破損が生じるおそれがある。

(四) 水漏えい率が毎秒約一キログラム程度を上回るようになると、隣接伝熱管にウェステージ型破損が発生するおそれがあるほか、ナトリウム・水反応によって生じる高温の反応熱のために伝熱管壁が過熱されて、伝熱管の機械的強度が低下し、伝熱管が内部の圧力によって急速に膨れて破裂する(この現象を「高温ラプチャ(破裂)現象」といい、高温ラプチャ現象によって隣接伝熱管が破損することを「高温ラプチャ型破損」という。)おそれが生じる。一般に、ウェステージ型破損よりも、高温ラプチャ型破損の方が、短時間に多数の伝熱管を破損させるおそれが高いとされる。

また、大量の水素ガスが発生して系内の圧力上昇が顕著となり、二次主冷却系各部や原子炉冷却材バウンダリである中間熱交換器伝熱管に圧力荷重を与えることから、機器の健全性が損なわれるおそれが生じる。

3 本件安全審査の内容

(一) 異常発生防止対策

乙一六・八―五―二頁、一〇―二―三七頁、一〇―三―六三頁、乙イ四三、乙ニ二の四(証人川島調書四)五八丁表、同裏及び乙ニ二の七(証人川島調書七)一三丁表ないし一六丁表によれば、本件安全審査においては、本件原子炉施設につき、蒸気発生器伝熱管からの水、蒸気の漏えいを防止するために、次の対策(異常発生防止対策)が講じられていることを確認したことが認められる。

(1) 伝熱管の材料には、蒸発器、過熱器のそれぞれについて、その使用条件に適合する材料が使用される。

(2) 伝熱管の溶接部は、構造信頼性や欠陥検出性に優れた突き合わせ溶接継手構造とした上、全自動の電気溶接機で施工し、非破壊検査等の所定の検査を行う。

(3) 伝熱管の腐食を防止するため、ナトリウム純度及び水質を管理するコールドトラップ、プラギング計、脱気器、復水脱塩装置等が設置される。

(二) 異常拡大防止対策(影響緩和対策)

乙一六・八―五―六頁、八―九―一五頁、一〇―二―三七頁、一〇―三―六二頁ないし六四頁及び乙イ四三によれば、本件安全審査においては、万一、蒸気発生器伝熱管が損傷し、水、蒸気の漏えいが発生した場合であっても、水、蒸気の漏えい規模が拡大したり、系内の圧力が顕著に上昇することを防止し、事象ないし事故を安全に終止させることができるように、次の影響緩和対策が講じられていることを確認したことが認められる。

(1) 設備等

(イ) 水・蒸気系と一次主冷却系との間には二次主冷却系が設けられる。

(ロ) 様々な規模の水漏えいに対し早期にその発生を検知するための設備として、水素計、カバーガス圧力計及び圧力開放板開放検出器が設置される。

(ハ) 大規模なナトリウム・水反応の影響を緩和するため、圧力開放板や反応生成物収納容器等から構成されるナトリウム・水反応生成物収納設備が設置される。

(2) 漏えいの検知等

微小な水、蒸気の漏えいが生じてナトリウム中水素濃度の上昇率が増加した場合には、ナトリウム中水素計の警報によって運転員が手動操作で水漏えい信号を発する。右上昇率が更に増加した場合には、自動的に水漏えい信号が発せられる。水、蒸気の漏えいが中規模以上である場合には、蒸発器カバーガス圧力計又は圧力開放板開放検出器により自動的に水漏えい信号が発せられる。

(3) 事象、事故の終止等

水漏えい信号が発せられると、漏えいの規模に関係なく、自動的に二次主冷却系循環ポンプ及び主給水ポンプの運転が停止し、蒸気発生器の水・蒸気側が遮断されると共に、水・蒸気系の高速ブロー系が作動して伝熱管内に保有する水、蒸気が急速にブロー(排出)され(過熱器及び蒸発器の隔離を含む右一連の動作を「蒸気発生器の緊急停止」という。)、ナトリウム・水反応は安全に終息する。また、原子炉は、右各ポンプの停止に伴う「二次主冷却系循環ポンプ回転数低」信号や「二次主冷却系流量低」信号によって緊急停止する。

蒸気発生器伝熱管から大規模な水、蒸気の漏えいが起こり、万一、ナトリウム・水反応により二次主冷却内の圧力が異常に上昇した場合には、蒸気発生器及び原子炉の各緊急停止に加え、圧力開放板が開放されて過度の圧力上昇を抑えると共に、右反応により生成した水素ガスやその他のナトリウム・水反応生成物は反応生成物収納容器内に回収され、右水素ガスは分離されて燃焼処理される。

(三) 事故の解析評価

(1) 設計基準リークの想定

証人斉藤の証言(斉藤調書一・四七表ないし五〇丁裏)、乙一六・一〇ー三―六五頁及び乙イ四三によれば、申請者は、「蒸気発生器伝熱管破損事故」の解析評価において、評価の前提として、安全上余裕を持って想定すべき伝熱管の最大水漏えい率(以下「設計基準リーク」という。)を設定したこと、水、蒸気がナトリウムに接した直後に発生する急峻な圧力パルス(初期スパイク圧)の評価の前提としては、伝熱管一本が瞬時に両端完全破断(いわゆるギロチン破断)した際の水漏えい率を、初期スパイク圧減衰後、事故終止まで持続する水素ガスの圧力(準定常圧)の評価の前提としては、水、蒸気の漏えいが周囲の伝熱管(隣接伝熱管)に影響を及ぼし、隣接伝熱管が二次的に破損するメカニズムとしては、ナトリウム中に水、蒸気が噴出して形成されるリークジェットによるウェステージ(損耗)型破損を前提として、伝熱管四本の両端完全破断に相当する水漏えい率を想定したことが認められる。

また、右各証拠によれば、本件安全審査においては、本件原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針において、伝熱管の破損に対して十分な発生防止対策が取られていることに照らして、初期スパイク圧の評価の前提として伝熱管一本が瞬時に両端完全破断した際の水漏えい率を仮定することは、保守的な解析条件ということができ、妥当であると判断したこと、漏えいの位置についても、水漏えい率が最大となる蒸発器の管束部の下部を破損位置としていることから妥当であると判断したことが認められる。

そして、右各証拠に加え、甲イ三八三によれば、本件安全審査においては、申請者等が行った実験結果等によると、一本の伝熱管の最初の破損規模が伝熱管一本の最大水漏えい率未満では右の破損伝播が生ずるが、その場合に初期に破損した伝熱管及びその周囲で破損した伝熱管の水漏えい率の合計は、最大でも二本の伝熱管が完全破断して漏えいする水漏えい率を若干上回る程度であることなどから、準定常圧の評価の前提として伝熱管四本が同時に完全破断した場合に相当する水漏えい率を仮定することは、保守的な解析条件ということができ、妥当であると判断したことが認められる。

(2) 解析結果

乙一六・一〇―三―六三ないし五頁によれば、本件安全審査においては、①蒸気発生器を流れる二次冷却材ナトリウムには放射性物質は含まれておらず、蒸気発生器は、二次主冷却系の各系統ごとに独立して設置されていることから、本件原子炉施設において、一系統の蒸気発生器設備に伝熱管の破損事故が万一発生したとしても、他の健全な二系統の蒸気発生器設備に影響が及ぶことや、その影響が炉心に影響に及ぶことはなく、周辺に放射性物質が異常に放出される危険のないことを確認したこと、また、②申請者が右の設計基準リーク(初期スパイク圧の評価の前提は伝熱管一本の両端完全破断に相当する水漏えい率、準定常圧の評価の前提は伝熱管四本の両端完全破断に相当する水漏えい率をそれぞれ想定している。)を前提に蒸気発生器伝熱管破損事故について解析評価し、事故は安全に終止し、また、これにより生じる初期スパイク圧及び準定常圧に対し、蒸気発生器、二次主冷却系の機器、配管及び中間熱交換器を含む原子炉冷却材バウンダリの健全性は保たれるという結論が得られたことについて、その妥当性を確認したことが認められる。

4 原告らの主張について

(一) 異常発生防止対策について

(1) 応力腐食割れ、腐食、脱炭、浸炭等による蒸気発生器伝熱管の損傷に対する防止対策について

(イ) 原告らは、本件原子炉施設の蒸気発生器の伝熱管は、応力腐食割れ、腐食、脱炭、浸炭などにより損傷する旨主張する。

(a) 応力腐食割れについては、弁論の全趣旨によれば、機器、配管に係る①材料の耐食性の低下、②腐食環境の存在、及び③過度の応力の存在という三つの要素が重畳したときに初めて生じるものであり、右各要素のうちの一つでも取り除くか、あるいは、右各要素を緩和ないし低減すれば、その発生を防止できることが認められる。

そして、乙一六・八―五―二頁、一〇―二―三七頁、乙イ四三及び乙ニ二の七(証人川島調書七)一三丁表、同裏によれば、本件安全審査においては、本件原子炉施設の蒸気発生器(蒸発器及び過熱器)の伝熱管の材料として、使用条件に対する材料の特性を考慮し、水を蒸気に変える蒸発器の伝熱管には、水、蒸気の環境下で使用されることから応力腐食割れにも強いクロム・モリブデン鋼が、過熱器の伝熱管には、高温の過熱蒸気の環境下で使用されることから高温での強度に優れたオーステナイト系ステンレス鋼がそれぞれ使用されることを確認し、使用環境の要素についてみると、過熱器の伝熱管には、湿分を含まない過熱蒸気を流入させることとしていること、応力腐食割れの発生に深く関係する溶存酸素等が十分低減された水質に維持できるように脱気器等が設置されることを確認したことが認められ、その合理性に疑いを入れるような証拠はない(なお、ナトリウム中の酸素は、ナトリウムが化学的に活性であり、ナトリウムの化合物として存在するため、応力腐食割れの要因にはならない。)。そうすると、本件原子炉施設においては、右応力腐食割れの発生の原因となる三要素のうち、少なくとも①と②を取り除き、あるいはこれらを緩和ないし低減することができるといえるから、伝熱管の応力腐食割れの発生の可能性は極めて低いということができる。

(b) ナトリウムによる伝熱管の腐食についても、前記(第四、三、4、(一)、(2)、(イ))及び右(a)のとおり、本件安全審査においては、右腐食の原因となるナトリウム中の酸素等の不純物を適切に除去できるようにコールドトラップが設けられること、脱気器や水中の不純物を取り除く復水脱塩装置等が設置されることを確認している。

したがって、本件原子炉施設においては、ナトリウムによる腐食による伝熱管の破損の可能性は極めて低いということができる。

(c) ナトリウム中での脱炭や浸炭については、前記(第四、三、4、(一)、(2)、(ロ))のとおり、本件原子炉施設の過熱器の伝熱管の材料であるオーステナイト系ステンレス鋼と、蒸発器の伝熱管の材料であるクロム・モリブデン鋼とにおける活性炭素濃度の相違により、オーステナイト系ステンレス鋼は浸炭し、また、クロム・モリブデン鋼は脱炭される傾向にあることが認められる。しかし、本件安全審査においては、本件原子炉施設の蒸気発生器の伝熱管の材料には、蒸発器、過熱器のぞれぞれについて、その使用条件に適合する材料が使用されることを確認している上、伝熱管の具体的な設計において、浸炭、脱炭による材料の強度低下を考慮した設計とすることは十分可能であるといえ、これに反する証拠はないから、浸炭、脱炭は、本件原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針の合理性を左右するものではないというべきである。

(d) したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(2) 溶接時における残留応力、組立ての困難さについて

原告らは、本件原子炉施設の蒸気発生器の伝熱管に採用されているヘリカルコイル型は、溶接時における残留応力が問題であると共に、伝熱管の組み立てが困難である旨主張する。

しかし、右原告らの主張する点は、いずれも機器の設計に関する事柄ではなく、製作に係る事柄であって、本件安全審査の対象となる本件原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針に関連しないものであるから、右主張は失当である。

(3) 溶接のたれ込みについて

原告らは、平成三年七月に本件原子炉施設の蒸発器伝熱管内で、伝熱管の傷の有無等を検査するために管内に挿入した探傷ブローブが引っ掛かるという事象が発生したことから、右事象が発生した原因は伝熱管の溶接のたれ込みであり、このような溶接のたれ込み部分では腐食、振動、応力集中によって伝熱管が損傷するおそれがあり、また、申請者が右事象の対策として右ブローブの保護カバーを削ったことにより、右ブローブの探傷性能が低下した旨主張し、甲ニ二の一(証人小林調書一)五三丁裏ないし五六丁表にはこれに沿う証言がある。

しかし、右原告らの主張する点は、機器の設計に関する事柄ではなく、製作に係る事柄であって、本件安全審査の対象となる本件原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針に関連しないものであるから、右主張は失当である。

(4) 流動不安定現象について

原告らは、本件蒸気発生器には流動不安定現象により安全性が確保できないと主張し、その根拠として、平成七年五月に本件原子炉施設が自動停止した事象について、右事象は、本件原子炉施設の蒸気発生器のように、ダウンカマー部(蒸気発生器内の流動しない静止ナトリウム中にある伝熱管の下降管)を有する蒸気発生器特有の流動不安定現象により発生したことを指摘し、甲イ一九〇にはこれに沿う記載がある。

しかし、甲イ二二三、乙イ四七・三・四・四―四頁、乙イ四八・三・四・四―三頁及び乙イ五一によれば、右事象は、水・蒸気系の流量等の制御回路の制御定数の設定が適切でなかったことによるものと判断されていることが認められ、本件原子炉施設の蒸気発生器にダウンカマー部が存在することによるものではないのであるから、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(二) 異常拡大防止対策(影響緩和対策)について

(1) 水素計について

(イ) 原告らは、本件安全審査において水漏えい検出設備である水素計の設置箇所や機能が審査されていない旨主張する。

しかし、甲イ三〇二、乙一六・八―九―一五頁及び乙イ四三によれば、本件安全審査においては、二次主冷却系配管のナトリウム中の水素計については、毎秒約0.1グラム未満の微小な漏えいでも確実に検出し得るものであること、また、蒸気発生器カバーガス空間にも水素計が設けられることを確認したことが認められる。そして、これ以上の水素計の具体的な設置位置については、詳細設計が定まらなければ決定することができないものと認められるから、これを本件安全審査において審査しなかったことに不合理な点はないというべきである。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(ロ) また、原告らは、本件原子炉施設のナトリウム中水素計による検出には限界があり、また、水漏えいの検知は原子炉トリップ信号と連動されておらず、水漏えい信号を発するためには運転員が操作しなければならず、右操作の遅れによって、重大な結果に至ることを未然に防止できない旨主張し、甲イ三八五にはこれに沿う記載がある。

しかし、右(イ)のとおり、本件原子炉施設のナトリウム中水素計は、毎秒約0.1グラム未満の微小な漏えいをも確実に検出し得るものである上、その性能については、申請者が実際にナトリウム中に微量の水ないし水素を注入する試験を行って確認したことが認められる。これに対し、甲ニ六の二(証人小林調書五)七六ないし七八頁には、本件原子炉施設の水素計は、他の健全な伝熱管に破損が伝播する前に小、中規模の漏えいを検知することはできない旨の証言があるが、右証言には合理的な根拠が示されていないから、採用できない。

そして、運転員の操作については、乙イ四三によれば、微小な漏えいの場合には、運転員が、水素計が発する警報に基づいて水漏えい信号を発するとされているが、漏えい規模が拡大して毎秒約0.1グラムを超える小、中規模の水漏えいとなった場合には、隣接伝熱管に破損が伝播するおそれが生じるので、水素計三基のうち二基がナトリウム中水素濃度の顕著な上昇を検知した時点、更には蒸発器カバーガス圧力計や圧力開放板検出器が検知した時点で、運転員が操作するまでもなく、自動的に水漏えい信号が発せられ、蒸気発生器及び原子炉の各緊急停止に至るとされていることが認められる。そうすると、微小な漏えいの場合には、運転員が水漏えい信号を発するとしても、前記(2、(一))のとおり、毎秒約0.1グラム未満の微小な漏えいの場合は直ちに隣接伝熱管に破損伝播が生じるものではなく、また、運転員が適切な措置を講じることなく漏えい規模が拡大して、毎秒約0.1グラムを超える小、中規模の水漏えいとなった場合には、運転員が操作するまでもなく、自動的に水漏えい信号が発せられ、蒸気発生器及び原子炉の各緊急停止に至るのであるから、運転員の水漏えい信号の操作遅れが重大な結果を招来する危険性を有しているということはできない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(ハ) 原告らは、本件原子炉施設のナトリウム中水素計は、その検出特性上、漏えい率が毎秒0.1グラムから毎秒一キログラムまでの範囲は、漏えいを検出するまでに数十秒を要するから、蒸気発生器の緊急停止が遅れる旨主張する。

しかし、前記2のとおり、毎秒約0.1グラム未満の微小な漏えいの場合は直ちに隣接伝熱管に破損伝播が生じるものではない。毎秒0.1グラムから一キログラムの水漏えい率においては破損伝播の可能性が生じ、甲イ三八三及び乙イ八六によれば、この場合は水素計の検出時間は最短約一分程度であることが認められるが、この程度の水漏えい率における破損伝播の拡大速度はそれほど大きくないから、この時間内に多大な破損伝播が生じるとはいえない。そして、毎秒一キログラム程度を上回る水漏えい率の場合は、乙イ四四によれば、水素計からの水漏えい信号よりも、カバーガス圧力計の信号や圧力開放板検出器の信号が早く発せられることが認められる。

そうすると、水素計の検出時間の遅れにより、本件原子炉施設の緊急停止が遅れ、重大な事態が生じることは想定し難いというべきである。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(2) ナトリウム・水反応による二次主冷却系配管の大口径破断等について

原告らは、本件原子炉施設の蒸気発生器の伝熱管が破損した場合には、ナトリウム・水反応により、中間熱交換器の破壊、二次主冷却系配管の大口径破断等が生じる旨主張する。

しかし、乙一六・一〇―三―六二ないし六四頁及び乙イ四三によれば、本件安全審査においては、本件原子炉施設において万一蒸気発生器の伝熱管から二次主冷却系内の圧力が顕著に上昇するような大規模な水漏えいが発生した場合には、二次主冷却系の各系統ごとに設置されたナトリウム・水反応による生成物を収納する反応生成物収納容器設備へと続く圧力開放板が破れ、二次主冷却系内の圧力を逃がして二次主冷却系内の過度の圧力上昇を防止すると共に、圧力開放板の開放を検出した信号によって、自動的に、主給水ポンプの停止、伝熱管内に残留した水、蒸気の急速ブローが行われる結果、ナトリウム・水反応は終止し、また、各ポンプの停止に伴い、「二次主冷却系循環ポンプ回転数低」信号、「二次主冷却系流量低」信号によって原子炉が自動停止することを確認したことが認められ、その合理性に疑いを入れるような証拠はない。したがって、本件原子炉施設においては、蒸気発生器の伝熱管の破損によるナトリウム・水反応により二次主冷却系配管の大口径破断等が生じることは想定し難く、原告らのこの点ついての主張は理由がない。

(三) 事故の解析評価について

(1) 設計基準リークについて

原告らは、「蒸気発生器伝熱管破損事故」に係る解析評価の解析条件のうち、初期スパイク圧の評価の前提として、伝熱管一本が瞬時に両端完全破断することを仮定したこと、準定常圧の評価の前提として、伝熱管四本が同時に両端完全破断した場合に相当する水漏えい率を仮定したことは、いずれも恣意的で合理性がなく、これ以上の事故が発生する旨主張する。そして、その根拠として、英国のPFRの事故において高温ラプチャ型破損(以下「高温ラプチャ」という。)により四〇本の伝熱管が破損したこと、海外の加圧水型原子炉の蒸気発生器伝熱管破損事故の解析の前提条件等を挙げるので、以下検討する。

(イ) 高温ラプチャの発生について

(a) 伝熱管破損伝播試験について

原告らは、申請者がSWAT―3を用いて行った伝熱管破損伝播試験について、本件原子炉施設の定格出力時の蒸発器を模擬したRUN―16やRUN―19において、伝熱管が高温ラプチャによって破損したことを挙げ、本件原子炉施設の蒸気発生器の伝熱管が高温ラプチャによって破損する可能性が高い旨主張する。

(い) この点、乙イ四三及び乙イ四四によれば、次の事実が認められる。

①申請者は、昭和五六年、本件原子炉施設の定格出力時の蒸発器を模擬して伝熱管破損伝播試験RUN―16を行ったが、右試験においては、初期水リーク率を毎秒2.2キログラムとし、リークジェットのターゲットとなる伝熱管(ターゲット管)としては、ターゲット管の破損による水漏えい率の拡大を模擬するための静止水管(水、蒸気の流動がないようにした伝熱管)と、伝熱管内部の圧力条件を模擬するためのガス加圧管(水、蒸気の代わりに窒素ガスを充填した伝熱管)とを用いた(この点で、いずれのターゲット管も実際の本件原子炉施設の条件を模擬したものではない。)。その結果、静止水管六本のうち一本が、また、ガス加圧管四八本のうち二四本が、それぞれ高温ラプチャによって破損するという結果が得られた。

②一方、申請者は、昭和五七年、本件原子炉施設の三〇パーセント負荷時の蒸発器を模擬して伝熱管破損伝播試験RUN―17を行ったが、右試験においては、初期水リーク率を毎秒1.46キログラムとし、ターゲット管としては、ガス加圧管五九本のほか、流水管(水、蒸気を流動させている点、本件原子炉施設の蒸気発生器伝熱管の水・蒸気側の流動条件を模擬した伝熱管)四本を用いた。その結果、ガス加圧管、流水管とも破損は生じなかった。

③そして、申請者は、昭和六〇年、本件原子炉施設の蒸発器の伝熱管内の冷却効果等の条件を可能な限り模擬したRUN―19を行ったが、右試験においては、初期水リーク率(一次リーク平均注水率)を毎秒1.85キログラムとし、ターゲット管としては、流水管三本及びガス加圧管一五本を用いた。その結果、ガス加圧管は五本が高温ラプチャによって破損したものの、流水管は破損しなかった。

(ろ) 右認定の各試験の結果によれば、高温ラプチャによって破損したターゲット管は、いずれも本件原子炉施設の水、蒸気の流動条件を模擬していない静止水管及びガス加圧管であって、本件原子炉施設の水、蒸気の流動条件を模擬した流水管は全く破損していない。そうすると、右各試験結果から、本件原子炉施設の蒸気発生器の伝熱管が高温ラプチャによって破損する可能性が高いということはできず、かえって、高温ラプチャによる破損は想定し難いということができる。

(は) これに対して、原告らは、申請者がSWAT―3を用いて行った伝熱管破損伝播試験RUN―19は、RUN―16と比べて、伝熱管内の冷却効果の条件(水側条件)だけでなく、初期水リーク率、注水時間及び注水量に関する試験条件を切り下げているから、試験条件が保守的でなく、これをもって本件原子炉施設の蒸気発生器の伝熱管が高温ラプチャによって破損しないとはいえない旨主張する。

しかし、甲イ四四三によれば、申請者は、RUN―19において、本件原子炉施設の蒸気発生器伝熱管において高温ラプチャが発生しないことを念のため最終的に確認するために行うこととし、この目的に照らし、本件原子炉施設の蒸発器の各種条件を可能な限り模擬する実験を行うこととしたことが認められる。

また、RUN―19とRUN―16を比較すると、初期水リーク率については、RUN―19は1.85キログラム毎秒、RUN―16は2.2キログラム毎秒であり、RUN―19の方が小さい。しかし、乙イ四四によれば、RUN―19における右初期リーク率は、RUN―16及びそれ以前に実施したRUN―15までの試験結果を総合的に検討した結果、ガス加圧管等で観察された高温ラプチャは、水リーク率が二キログラム毎秒前後の場合に発生すると考えられることから設定されたものであることが認められ、RUN―19の1.85キログラム毎秒が、RUN―16の2.2キログラム毎秒よりも保守的でないということはできない。

次に、注水時間については、RUN―19の三二秒に対し、RUN―16は六〇秒であり、RUN―19の方が短い。しかし、乙イ四四によれば、RUN―16とRUN―19においてガス加圧管が高温ラプチャによって破損するに至るまでに要した最小時間は、それぞれ約一二秒及び一三秒とほぼ同一時間となっていること、ナトリウム・水反応の反応熱によるナトリウム温度の上昇やそれに伴うナトリウム伝熱管内の温度及び応力の状態は、初期水漏えい開始後約一〇秒もあれば安定することが認められるから、カバーガス圧力計が水漏えいの検出に要する時間約一〇秒(乙イ四四によって認められる。)を考慮しても、水リーク率が二キログラム毎秒前後の場合においては、注水開始から三〇秒程度水漏えいが継続すれば、高温ラプチャ発生の有無を確認する上で何ら支障となるものではないということができる。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(に) また、原告らは、SWAT―3による各試験について、ナトリウム圧力が模擬されていない点で誤りがある旨主張し、甲ニ二の二(証人小林調書二)一一丁裏、一二丁表及び甲ニ六の一(証人小林調書四)八二頁、八三丁頁にはこれに沿う証言がある。

しかし、乙イ四三によれば、右各試験においては、ナトリウム圧力は、本件原子炉施設で実際に圧力開放板が破裂して圧力を開放する際の作動圧力を含めて模擬されたことが認められるから、右主張は失当である。

(b) 隔離、ブローの失敗等について

原告らは、水・蒸気系の隔離後にブローが行われたり、ブローに失敗したり、更には隔離とブローが双方とも失敗したりした場合には、水、蒸気の流動が失われることから、蒸気発生器伝熱管が高温ラプチャによって多数破損する旨主張し、その根拠として、美浜原子力発電所二号炉で平成三年二月九日に発生した蒸気発生器伝熱管破損事故において伝熱管の破断と加圧器の逃し弁の不作動という多重故障が生じたことを指摘する。

しかし、乙イ四三及び乙イ四四によれば、本件原子炉施設の蒸気発生器は、高速ブロー系の放出弁が水・蒸気系の蒸気発生器の隔離に先立って開放されるように設定されていることが認められるから、水、蒸気のブロー操作時に伝熱管内の水、蒸気の流動が完全に停止することは想定し難く、他にブローに失敗したり、更には隔離とブローが双方とも失敗する可能性があると認めるに足りる証拠はない。原告らの指摘する美浜原子力発電所の事故については、右事故に係る通商産業省及び原子力安全委員会の調査報告書(甲イ一一八)において、加圧器逃し弁が作動しなかった原因は右弁が空気を供給することにより開く方式であったところ、定期検査の際に、右弁に空気を供給する系統の元弁を誤って閉止したために、右弁を開くために必要な空気が供給されなかったことにあるとされており、右は設計上の問題に起因するものではなく、運転管理上の問題に起因するものであったことが明らかである。そうすると、右事故は、原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針と関連するものではなく、本件原子炉施設において多重故障が起こることの根拠となるものではない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(c) ドイツのインターアトム社の伝熱管破損伝播試験について

原告らは、ドイツのインターアトム社の伝熱管破損伝播試験において、水流動のある伝熱管(流水管)でも高温ラプチャが発生したことから、伝熱管内部の水、蒸気の流動が失われなくても、高温ラプチャが発生する旨主張する。

しかし、甲イ四四三及び乙イ四四によれば、インターアトム社が試験に用いた三種類のターゲット管は、外径が26.9ミリメートル、17.2ミリメートル及び二五ミリメートルの細径管であること、他方、本件原子炉施設蒸発器伝熱管やSWAT―3を用いた試験(以下「SWAT試験」という。)のターゲット管は、外径が31.8ミリメートルの太径管であることが認められる。そうすると、右インターアトム社の実験は、本件原子炉施設蒸発器伝熱管を模擬したものではないというべきであり、右試験結果から、本件原子炉施設蒸気発生器伝熱管において、高温ラプチャが発生する具体的可能性があるということはできない。

また、いわゆるラプチャ(破裂)型破損には、短時間に伝熱管の機械的強度が低下して破裂に至る典型的な高温ラプチャのほか、隣接伝熱管が比較的長時間にわたってリークジェットを受けて伝熱管にウェステージ(損耗、肉厚減少、減肉)が生じ、右伝熱管の機械的強度自体が低下して起こるウェステージ先行型ラプチャがある。そして、インターアトム社の実験については、①前記のとおり、本件原子炉施設の蒸発器伝熱管やSWAT試験のターゲット管が太径管(外径31.8ミリメートル)であるのに対して、インターアトム社が試験に用いた三種類のターゲット管はいずれも細径管(26.9ミリメートル、17.2ミリメートル、二五ミリメートル)であるから、インターアトム社の各ターゲット管は、本件原子炉施設の蒸発器伝熱管やSWAT試験に比べて、伝熱管全体がリークジェットに包まれ全面的に反応熱によって加熱されやすく、ウェステージ先行型の高温ラプチャが発生しやすい条件下にあったこと、②乙イ八六によれば、インターアトム社が行った伝熱管破損伝播試験のうち、ターゲット管として、本件原子炉施設の蒸発器と同様の材料が用いられ、かつ、流水管が用いられたテスト(VERSUCH)3、同4及び同7の三回の各試験のいずれにおいても、水リーク率毎秒約六〇ないし一七五グラムにおいて、約二〇ないし五〇秒前後にわたり水リークが継続した後、流水管が破裂していること(この場合、当初の水リークによって伝熱管が相当程度減肉したと考えられるから、このような条件下でウェステージ先行型の高温ラプチャが発生したことは十分にありうる。)、③乙イ八六・三二〇頁の写真によれば、テスト7においては、冷却効果のある流水管は外形が大きく膨れていないのに対し、冷却効果のないガス加圧管は大きく開口して破損しており、前者はウェステージ先行型のラプチャをしたのに対して、後者は典型的な高温ラプチャ型破損をしたことがそれぞれ認められる。

そうすると、インターアトム社の伝熱管破損伝播試験において見られた流水管の破損は、典型的な高温ラプチャとは異なると解されるから、この点からみても、右試験結果から、本件原子炉施設の蒸気発生器伝熱管において、高温ラプチャが発生する具体的可能性があるということはできない。

(d) PFR事故について

原告らは、昭和六二年二月に、英国の高速増殖原型炉PFRにおいて蒸気発生器伝熱管が四〇本破損した事故(以下「PFR事故」という。)が発生したことから、本件原子炉施設においても右事故と同様に高温ラプチャにより伝熱管が多数破損する事故が発生する可能性がある旨主張し、甲イ三八五にはこれに沿う記載がある。

そこで、以下、右事故の発生及び拡大の原因について検討し、本件原子炉施設において同様の事故が発生する可能性があるか否かを検討する。

(い) 事故発生及び拡大の原因

PFR事故については、①甲イ二一二及び甲イ六一によれば、過熱器内の内筒(六枚の曲板の端を溶接せずに重ね合わせて円筒状に組み上げたもの)の隙間から漏えい流が生じ、これによって周辺の伝熱管が振動して内筒と擦れ、フレッティング摩耗によって一三本の伝熱管に減肉が生じ、右減肉と振動による疲労とによって一本の伝熱管に亀裂が入って蒸気の漏えいが始まり(初期事象)、その影響によって、やはり減肉、疲労していた他の伝熱管に破損が伝播して(二次破損)事故が拡大したこと、②甲イ一二五及び甲イ二一二によれば、事故当時、ナトリウム中水素系が自動トリップ機能から取り外されており、更に、事故を起こしたループの水素計自体がその一時間前に全数故障していたため、漏えいを早期に検知することができなかったこと、③乙イ四三及び乙イ四四によれば、PFRの過熱器には蒸気を短時間で排出する高速ブロー系が設置されておらず、ブロー弁が作動を開始してから完全に開き終わるまでに約二三秒を要するような低速ブロー系しか設置されていなかったため、蒸気発生器の緊急停止によって蒸気の流動が停止してその冷却効果が失われたにもかかわらず、低速ブロー系による減圧が速やかに開始されず、当初の一五秒間はほとんど減圧しなかったことから、多数の伝熱管が過熱して高温ラプチャが発生し、事故が拡大したことがそれぞれ認められる。

(ろ) 本件原子炉施設との関係

PFR事故の初期事象の原因は、右のとおり、過熱器の内筒が重ね合わせ構造であったこと及び内筒がナトリウムの流路であったために漏えい流が生じたことにあるが、これに対し、証人斉藤の証言(斉藤調書一・五二丁表ないし五三丁裏)、甲イ六一、乙イ四三及び乙イ四四によれば、本件原子炉施設の蒸気発生器の内筒は、これとは異なる溶接による一体構造であって、ナトリウムの漏えい流が生じることはないこと、また、ナトリウムの流路を形成するものでもないため、運転時でもナトリウムは流動せず、仮に内筒に孔が開いたとしても、管束側に漏れ出す力が働くことはないことが認められる。

また、事故拡大の原因については、乙イ四三及び乙イ四四によれば、本件原子炉施設においては、ナトリウム中水素計を自動トリップ機能から取り外すことは設計上予定されていないこと、蒸発器、過熱器のいずれにも高速ブロー系が設置されており、高速ブロー系のブロー弁が水・蒸気系の隔離に先立って開放されるように設定されていることから、水、蒸気のブロー操作時に伝熱管内の水、蒸気の流動が完全に停止することはないことが認められる。

したがって、本件原子炉施設において、PFR事故と同様の事故が発生することは想定し難いというべきである。

(は) 原告らの主張について

① 原告らは、高速ブロー系は高温ラプチャ型破損を防止するのに有効でない旨主張し、その根拠として、PFR事故後に開催された平成元年の日英専門家会議の際、英国専門家が、①PFRでは、当初高速ブロー系が設置されていたが、有効でないという理由で取り外されていた旨発言したこと、②高速ブロー系があれば、破損伝熱管は一〇本は減少した旨発言したこと、③PFR事故では、破損孔からのリーク量が大きいので、高速ブロー系の効果は大きくないかもしれない旨発言したことを指摘する。

しかし、①の点については、乙イ四四によれば、PFRにおいては、事故後、調査結果を踏まえて高速ブロー系の重要性が認識され、再びこれが設置されたことが認められるから、事故前に取り外されていたことをもって、高速ブロー系が有効でないということはできない。

②の発言については、乙イ四四によれば、PFR事故の原因調査を担当した英国AEA社の技術者が、仮に過熱器に高速ブロー系が設置されていたならば、破損したのはフレッティングを受けていた初期漏えい管と他の伝熱管三本に止まっていたであろうと発言していることが認められる。これに照らせば、右発言を高速ブロー系が設置されていてもなお高温ラプチャが生じるという趣旨に解することはできないというべきである。

③の発言についても、PFR事故においては多数の伝熱管が破損したことから、多数の伝熱管が破損した後は破損孔からのリーク量が大きいため、減圧の効果は大きくないかもしれない旨を述べたものと解することができ、PFR事故時の状況を離れて、一般的に、高速ブロー系の本来的な減圧機能や高温ラプチャの発生防止機能に占める効果が大きくないとする趣旨と解することはできない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

② 原告らは、PFR事故の際、蒸気発生器が緊急停止した一〇秒後に、過熱器伝熱管内の蒸気圧力は七気圧に低下しており、PFRの蒸気発生器の低速ブロー系は、本件原子炉施設の蒸気発生器の高速ブロー系の能力と同程度であるから、本件原子炉施設においても高温ラプチャが発生するおそれがある旨主張する。

この点、甲イ二一二及び乙イ四四によれば、PFR事故においては、蒸気発生器が緊急停止した一〇秒後には蒸気圧力が七気圧まで低下したことが認められ、甲イ二一二には「自動的な防護動作は、わずか一〇秒の間で有効に完了した。」旨の記載があることが認められる。しかし、乙イ四四によれば、PFRの過熱器の低速ブロー系は、トリップ信号発報後の最初の一五秒間はほとんどブローできないことが認められ、右証拠は、甲イ二一二の記載を踏まえた上で申請者が英国AEAにした照会に対する回答であるから、これに照らせば、甲イ二一二の右記載は誤りであると解される。したがって、右の減圧は、原告らが主張するように、低速ブロー系が作動したことによるものではなく、むしろ、甲イ一二五の一及び乙イ四四にあるとおり、低速ブロー系の作動が間に合わなかったことから高温ラプチャに至り、その破損口から蒸気が過熱器のナトリウム側に漏出したことによるものと解するのが自然である。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(に) なお、甲イ二一二及び乙イ四四によれば、PFR事故では四〇本の過熱器伝熱管が破損したが、これによる水漏えい率は、蒸発器伝熱管一本を想定したPFRの設計基準リークを下回る上、本件原子炉施設の準定常圧の設計基準リークをも下回るものであったことが認められる。したがって、この点からみても、PFR事故は、本件安全審査の合理性を左右するものではないというべきである。

(e) 安全総点検の結果について

原告らは、申請者が平成八年から九年にかけて実施した本件原子炉施設の安全総点検の結果において、蒸気発生器伝熱管の構造健全性評価手法等の検証を行うとしたことは、本件原子炉施設において高温ラプチャの発生するおそれがあることを示すものである旨主張する。

この点、乙イ四四及び乙イ四七・三・四・五―二頁、六頁によれば、確かに、安全総点検の結果報告書には、蒸発器のブロー動作中に安全裕度が少なくなる場合があり、構造健全性評価手法を整備する必要がある旨記載されていることが認められる。

しかし、乙イ四三、乙イ四四及び乙イ四七・三・四・三―六頁によれば、安全総点検における右の指摘は、本件原子炉施設の蒸発器伝熱管の材料であるクロム・モリブデン鋼について、高温ラプチャ型破損の評価に必要な急速破損時の強度データが不足していたため、いわば簡易な手法として、比較的緩慢なひずみ速度による引張試験で得られた強度データを補正して解析を行った結果、安全裕度が少ない場合があるとされたことから、右クロム・モリブデン鋼の急速破損時の強度データを取得し、計算コード等の信頼性を確認した上で、再度評価を行う必要がある旨等を述べたものであることが認められるから、右は、直ちに本件原子炉施設の蒸気発生器において、高温ラプチャ型破損が生じるおそれがあるとするものではないと解される。

また、乙イ四三及び乙イ四四によれば、申請者は、右安全総点検における指摘を踏まえ、クロム・モリブデン鋼の伝熱管について種々の強度データを採取し、構造健全性評価手法の改定や高温強度基準値の策定、さらに解析コードの検証等の検証を行い、これら最新の知見に基づいて、本件原子炉施設の過熱器及び蒸発器について再評価をした結果、いずれもすべての運転条件において高温ラプチャ型破損が発生する条件とはならない旨の結論を得たことが認められる。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(ロ) 周辺の伝熱管の損傷について

原告らは、美浜原子力発電所二号炉で平成三年二月九日に発生した蒸気発生器伝熱管破損事故や前記PFR事故を根拠として、一本の伝熱管が破損した場合には、その周辺の伝熱管においても同一の原因で破損に至るような損傷が進んでいる旨主張する。

しかし、右美浜発電所二号炉の事故の原因については、右事故に係る通商産業省及び原子力安全委員会の調査報告書(甲イ一一八)において、伝熱管の振動を防止するために設置されていた「振止め金具の施工が設計どおりであれば伝熱管破断及び周辺管の磨耗は発生しなかったと判断する。」とされており、それが、設計上の問題ではなく、施工上の問題に起因するものであったことが明らかにされている。したがって、右事故は、本件原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針に関連するものではなく、本件安全審査の合理性を左右するものではない。

また、前記((イ)、(d)、(イ)及び同(ろ))のとおり、PFRの事故の原因は、過熱器の内筒の曲板を重ね合わせた隙間からナトリウムが漏れ、漏れたナトリウムの流れによって伝熱管が振動し、内筒と擦れて磨耗し、減肉するというフレッティング現象が起きたことにあり、内筒の構造に設計上問題があったことにあることが認められるところ、本件原子炉施設の蒸気発生器の内筒は、PFRのような重ね合わせの構造ではなく、円筒形の一体構造であり、ナトリウムの漏えい流が生じることはないし、また、ナトリウムは流動せず、仮に内筒に孔が開いたとしても、管束内に漏れ出す力は働かない。したがって、PFR事故が発生した事実から、本件原子炉施設の蒸気発生器において同様の事故が起こるということはできないから、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(ハ) BN―三五〇の蒸気発生器事故について

原告らは、一九七三(昭和四八)年に、旧ソ連の高速増殖原型炉BN―三五〇で発生した蒸気発生器伝熱管からの水漏えい事故を挙げて、本件原子炉施設の蒸気発生器の安全性は確保されない旨主張する。

しかし、甲イ五七によれば、右事故は、伝熱管下部の、キャップを用いた溶接方法によって溶接した部位の欠陥により生じたことが認められるところ、前記(3、(一)、(2))のとおり、本件安全審査においては、本件原子炉施設の蒸気発生器伝熱管は構造信頼性や欠陥検出性に優れた、伝熱管同士を突き合わせて自動溶接する構造とされていることを確認している。したがって、本件原子炉施設において右事故と同様の事故が起こることは想定し難いから、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(ニ) 海外の軽水炉の設計基準事故の見直しについて

原告らは、近年、海外では軽水炉の蒸気発生器細管の破断事故の事故評価が厳しい方向で見直されていることからすれば、本件原子炉の事故想定は不十分である旨主張する。すなわち、原告らは、①アメリカでは、原子力規制委員会が報告NUREG―〇八四四において、蒸気発生器伝熱管破損のリスク評価と伝熱管の健全性の問題を取り上げており、その中で、設計基準事象の再評価に関して、複数本の破断及び主蒸気管の破断事象との組合せを今後の継続検討課題としていること、②フランスでは、二本破断を状態四(一万炉年から一〇〇万炉年に一回程度の発生頻度の事象)として想定していること、③ドイツでは、「主蒸気管破断と蒸気発生器伝熱管破損」「蒸気発生器伝熱管破損と主蒸気安全弁開固着」の複合事象の解析が行われていることを指摘する。

しかし、軽水炉の蒸気発生器と本件原子炉施設のそれとは、構造材の使用条件や冷却材等が全く異なっている。したがって、本件安全審査において設定された前提条件が海外の軽水炉の「蒸気発生器伝熱管破損事故」の解析評価の前提条件と異なることをもって、直ちに本件解析評価の前提条件が不当であるということはできないから、原告らの主張は失当である。

(2) 主蒸気止め弁の開固着又は主蒸気管破断について

原告らは、加圧水型軽水炉では、事故想定に際し、主蒸気止め弁の開固着又は主蒸気管破断をも併せて想定しているのに、本件安全審査においてこれを想定していないのは不合理である旨主張し、甲イ一九〇にはこれに沿う記載がある。

この点について、甲イ一一五によれば、加圧水型軽水炉において、蒸気発生器の事故を評価するに当たって主蒸気止め弁の開固着や主蒸気管破断の想定を重ね合わせているのは、加圧水型軽水炉では、蒸気発生器伝熱管を境界として、放射性物質を含む冷却系(一次冷却水)と放射性物質を含まない水・蒸気系(二次冷却水)とが接していることから、環境への放射性物質の影響を評価する目的によるものであることが認められる。

しかし、本件原子炉施設の蒸気発生器において、伝熱管を境界として接する二次冷却材ナトリウムと水、蒸気とは、いずれも放射性物質を含まないから、右目的での事故想定が必要とは解されない。また、仮に加圧水型軽水炉のように主蒸気止め弁の開固着や主蒸気管破断の想定を重ね合わせたとすれば、高速ブロー系の効果が高まり、ナトリウム・水反応はより早期に終止するものと解されるから、この点でも、右事故想定をしていないことは、本件安全審査の合理性を左右するものではない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

5 小括

以上からすれば、本件原子炉施設の蒸気発生器伝熱管破損事故の発生防止対策に係る安全設計及び同事故の解析評価についての本件安全審査における調査審議及び判断の過程に重大かつ明白な瑕疵といえるだけの看過し難い過誤、欠落があるとは認められないというべきである。

八  本件ナトリウム漏えい事故について

原告らは、平成七年一二月六日に本件原子炉施設において発生した二次冷却材ナトリウム漏えい事故(以下「本件事故」という。)によって、本件安全審査の合理性は失われた旨主張する。そこで、以下、本件事故の概要及び原因を認定した上で、右事故と本件安全審査との関係について判断を示すことにする。

1 本件事故の概要

(一) 事故の発生状況

本件事故は、二次主冷却系のCループにおいて、中間熱交換器出口側の配管に取り付けられていた温度計(以下「本件温度計」という。)が、さや段付部で折損し、右折損部からさや太管部及びニップル部を経て、二次冷却材が、温度計コネクタ部分から原子炉補助建物地下一階にある二次主冷却系配管室(C)(以下「本件配管室」という。)内に漏えいしたものである。

(二)事故の結果

(1) 機器の損傷等

乙イ九・四―一ないし一四頁及び乙イ一〇・Ⅰ―三―一一ないし一三頁、同Ⅱ―二―二、三頁によれば、次のとおりと認められる。

本件事故により約0.7トン(二次主冷却系Cループ内にあるナトリウム量全体(約二八〇トン)の約0.3パーセント)のナトリウムが漏えいし、漏えいしたナトリウムにより、本件温度計直下に配置されていた換気ダクト、グレーチング(保守用足場)及び床ライナが損傷を受け、近傍の壁面コンクリートも影響を受けた。すなわち、①換気ダクトについては、漏えい箇所の直下に当たる換気ダクト吸入口近傍に、幅約三〇センチメートル、円周に沿った長さ約八〇センチメートル程度の欠損部が生じ、欠損部周辺に高さ約一五センチメートル程度のナトリウム化合物が堆積し(加熱温度は、最高で八〇〇℃と推定されている。)、②グレーチングについては、漏えい箇所の直下に当たるグレーチングに、最大で幅約四二センチメートル、長さ約三九センチメートルの半楕円状の欠損部が生じ、欠損部分周辺に高さ一五センチメートル程度のナトリウム化合物が堆積し(加熱温度は、最高で一一五〇℃と推定されている。)、③床ライナについては、床ライナ上に漏えいしたナトリウムと本件配管室内の雰囲気中の酸素等が化合して生成されたナトリウム化合物が堆積し、漏えい箇所の直下では、局所的に0.5ないし1.5ミリメートル程度の板厚減少が観察されたが、貫通するに至った部分はなく、漏えい箇所の近傍でも、ほとんどの場所で六ミリメートル以上の板厚が計測され(加熱温度は、最高で七五〇℃と推定されている。)、④壁面コンクリートについては、ナトリウム漏えいが発生した箇所近傍の原子炉補助建物壁面コンクリートの一部(約4.5平方メートル)に深さ一ミリメートル程度の黒灰色の変色が生じたが、その影響は表層部にとどまり、ナトリウムとコンクリートの反応生成物は検出されず、構造耐力、遮へい性能への影響はないものと判断された。

また、本件事故の際に漏えいしたナトリウムは、本件配管室内の雰囲気中の酸素等と化合してナトリウム化合物を生成し、一部は前述のとおり本件配管室内に堆積したが、一部は本件配管室内の雰囲気中にナトリウム・エアロゾル(粒径数ミクロンから一ミクロン以下の微粒子状のナトリウム化合物)となって浮遊し、その一部は本件温度計直下に配置されている換気ダクトへ吸入され、屋上の排気ガラリから環境に放出されたが、更にその一部が右排気ガラリの近傍に設置されていたC系空気取入口から再び原子炉補助建物内のCループ系各室に吸入され、Cループ系各室周辺(原子炉補助建物床面積の約10.5パーセントに当たる約五五八〇平方メートルの範囲)に拡散されたが、一部のナトリウム漏えい検出器及び換気装置を除いて、機器、電気計装品及び制御盤類の機能に支障が生じた事実はなかったことが確認されている。

(2) 環境に対する影響

甲イ二四三及び乙イ九・四―二五ないし三一頁、一〇六頁によれば、次のとおりと認められる。

(イ) 放射性物質の放出

二次冷却材には炉心で生成されて移行したトリチウムを除いて、放射性物質を含んでいないため、放射性物質の炉外への放出量は、トリチウム四×一〇の七乗ベクレルと推定されており、これは、原子力発電所から平常時に放出されるトリチウム量(気体廃棄物)と比べても十分に小さい値であった。また、本件事故の際の放射線モニタ等の指示値は、通常のバックグラウンドレベル(自然に存在する量)であり、本件事故の前後において、本件原子炉施設の敷地内外の環境監視設備で採取した空気中浮遊じん、ガス状物質、雨水などの降下物等の環境試料の計測値は、本件事故前までに確認されている実測値の範囲内であった。また、本件事故によって発生し、本件配管室等から回収されたナトリウム化合物の分析結果からも、放射性核種は検出されなかった。

このように、本件事故においては、放射性物質の放出による周辺の環境への影響はなかった。

(ロ) ナトリウム・エアロゾルの影響

本件原子炉施設の敷地内の風上及び風下側と敷地外で採取した土壌サンプルを分析した結果、ナトリウム量は塩分等のバックグラウンドの範囲内であり、風下側の植物などにナトリウム・エアロゾル飛散の影響とみられる痕跡は観察されなかったことから、環境に放出されたナトリウム・エアロゾルは、本件事故当時の気象条件下(風速毎秒一一メートル、小雨)においては、急速に無害な炭酸化合物に変化し、塩分等のバックグラウンドと区別できない程度に拡散され、希釈されたと判断された。

また、本件事故によって生じたナトリウム・エアロゾルがすべて建物外に放出され、そのすべてが有害な水酸化ナトリウムの形態で拡散されるという厳しい仮定をしても、敷地境界における水酸化ナトリウムの濃度は一立方メートル当たり約0.05ミリグラムと評価され、わが国の産業用に定められた作業環境下における許容濃度基準である一立方メートル当たり二ミリグラムを下回るものであった。

このように、本件事故においては、化学物質の放出による環境への影響もなかった。

(3) 炉心冷却能力に対する影響

乙イ九・五―一ないし八頁、添二―一ないし三頁、乙ニ五の一(証人山崖調書一)一五丁裏ないし一六丁表によれば、次のとおりと認められる。

本件事故における二次冷却材の漏えいは、漏えいが生じた系統の除熱能力を直ちに低下させる規模のものではなく、他の二系統も健全に機能していたことから、本件事故の際の炉心冷却能力は十分保たれていた。

また、本件事故の発生から終止に至るまでのプラントパラメータ(原子炉の運転記録)を検討しても、原子炉出力は、原子炉の通常停止操作の開始により低下し始め、原子炉の手動トリップにより約四〇パーセント出力から〇パーセント出力に急激に減少していること、一次冷却材温度は原子炉出力の低下に伴い順調に低下していること、原子炉容器内のナトリウム液位は、炉心燃料を冷却するのに十分な液位が確保されていたことが確認された。

このように、本件事故において、炉心の冷却能力が影響を受けた事実はなかった。

(4) 床ライナの健全性への影響

前記(1)のとおり、本件事故においては、本件配管室の床ライナに板厚減少が生じたが、右床ライナについては、ほとんどの部分で六ミリメートルの板厚が計測され、局所的に0.5ないし1.5ミリメートル程度の板厚減少が観察されたにとどまり、ナトリウムとコンクリートが直接接触した事実はない。

このように、本件事故において、本件配管室の床ライナは、十分な健全性を有していた。

なお、原告らは、本件事故においては、リッドが変形したから、本件床ライナの健全性は維持されたとはいえない旨主張する。この点、甲イ二四二によれば、本件事故においてリッドが変形した事実が認められるが、右のとおり、ナトリウムとコンクリートが直接接触した事実はないのであるから、原告らの主張は失当である。

2 本件事故の原因

(一) 本件温度計の破損原因

乙イ九・三―一ないし二六頁及び乙イ一〇・Ⅰ―二―一ないし一二頁及び乙イ一二によれば、次のとおりと認められる。

(1) 本件事故は、本件温度計が、本件さや管のさや段付部に生じた高サイクル疲労により破損したことにあると判断された。

(2) 本件温度計に高サイクル疲労が生じた原因は、本件温度計について、設計段階では考慮されていなかった対称渦に伴う抗力方向(ナトリウムが流れる方向と同じ方向)の振動であると判断された。

(3) そして、本件温度計が右の流力振動を回避できなかった理由は、次のとおり、メーカーの設計及び申請者の審査が不十分であったことにある。

(イ) メーカーは、設計に際し、カルマン渦による揚力方向の振動については評価を行い、米国機械学会(ASME)の基準を満足することを確認したが、対称渦等による抗力方向の振動については設計上の認識がなく、評価を行わなかった。また、カルマン渦との共振が回避され、特段の荷重を受けないと考えたことから、温度計のさや形状は、さや段付部への応力集中を生じやすい、曲率の小さな段付形状となった。そして、平成三年一二月、ASMEにおいて、抗力方向の振動を含む流力振動に対する設計指針が追発行されたが、これを知らなかったため、これに基づく設計の評価を行わなかった。

(ロ) 申請者は、本件温度計がナトリウム内包壁(ナトリウムバウンダリ)を構成する機器であることを念頭に置いて、さやの形状を検討することをせず、また、ASMEの指針の追加発行後も、温度計について問題意識を持たなかったため、設計の見直しを求めなかった。

(ハ) また、破損した本件温度計は、熱電対がさや段付部近傍で曲がった状態で挿入されていたため、流力振動が他の温度計より大きくなっていた。

(4) また、破損した本件温度計は、熱電対がさや段付部近傍で曲がった状態で挿入されていたため、流力振動が他の温度計よりも大きくなっていた。

(二) 設備腐食の原因

乙イ一〇・Ⅰ―四―一六ないし二〇頁によれば、次のとおりと認められる。

(1) 鋼材の腐食機構

本件事故においては、鋼製の換気ダクト、グレーチング及び床ライナが損傷したが、その腐食機構は次のとおりであった。

(イ) 床ライナの腐食

本件温度計部分から漏えいしたナトリウムは、本件配管室の雰囲気中の酸素と反応しながら、下方の換気ダクト、グレーチングを経て床ライナ上に落下して堆積する。右堆積物は、当初、主として未燃焼のナトリウムと酸化ナトリウムからなり、その上部表面ではナトリウムが燃焼し、堆積物の下部では酸化ナトリウムが鋼材面と接触しているが、時間の経過と共に、ナトリウムの燃焼により生成される酸化ナトリウム(固体)は堆積物の下部で層をなし、落下するナトリウムはその表面で燃焼する状況となる。また、堆積物の下部では、鉄と酸化ナトリウムの反応により鋼材が腐食し、ナトリウム・鉄複合酸化物が生成される。

高温でも固体である酸化ナトリウムの生成及び堆積物への混入が継続すると、堆積物の下部では、酸化ナトリウムに阻まれて、鋼材の腐食面からの、高温では液体であるナトリウム・鉄複合酸化物の移動が困難になるため、鋼材の腐食面においてナトリウム・鉄複合酸化物の存在割合が高くなり、これによって反応が抑制され、鋼材の腐食は徐々に進展しなくなる。

堆積物上部表面におけるナトリウムの燃焼が停止し、温度が下がり始めると、ナトリウム・鉄複合酸化物は固体となって鋼材の腐食面を覆うため、鋼材の腐食はほとんど進行せず、床ライナの損傷も進まなくなる。

(ロ) 換気ダクト及びグレーチングの腐食

換気ダクト及びグレーチングにおいても、床ライナと同じように、鉄と酸化ナトリウムの反応により鋼材が腐食し、ナトリウム・鉄複合酸化物が生成された

と解されるが、換気ダクト及びグレーチングは、床ライナよりも高温の環境であったこと、空間にあったことから、漏えいしたナトリウムの落下により、常に鋼材面に存在するナトリウム・鉄複合酸化物が除去され、鋼材の表面が現れることになり、ナトリウムの漏えいの継続中、抑制されることなく腐食が進行したと解される。

(三) 運転管理上の問題

乙イ九・二―五ないし一六頁、二―三三頁及び乙イ一二によれば、次のとおりと認められる。

本件原子炉施設の設備設計段階では、二次冷却材漏えい事故の区分及び運転については、①配管の損傷が大きく、蒸発器のナトリウムの液位が低下して「蒸発器液位低低」の信号が発せられた場合は、大規模漏えいに当たるとして、右信号により原子炉を自動トリップすると共に換気装置を自動停止する。ナトリウムは、原子炉緊急停止後短時間で行う緊急ドレンによりドレンする。②ガスサンプリング式ナトリウム漏えい検出器(配管と保温材の内装板との間の空気を吸引し、これを計測し、配管部などのクラックからの微小な漏えいを検知することができるもの)がナトリウムを検知するにとどまる微小な漏えいについては、小規模漏えいとし、原子炉の通常停止を行う。この場合、換気装置は停止せず、ナトリウムは通常ドレンによりドレンする。また、通常停止操作中、ナトリウムの漏えい規模が拡大するようであれば、以後、中規模漏えい又は大規模漏えいの手順に従う。③小規模漏えいに比して漏えいの規模が拡大し、オーバフロータンクのナトリウム液位等に有意な変化が認められる場合、あるいは漏えいしたナトリウムが配管の保温材の内装板と保温材を経て室内に漏れ出し、火災検知器の作動又は白煙の発生に至った場合は、中規模漏えいとして、原子炉の手動トリップを行う。ナトリウムは、オーバフロータンクのナトリウム液位等に有意な変化が認められる場合には、原子炉停止後短時間で行う緊急ドレンによりドレンし、右の変化が認められない場合には、ナトリウム温度が四〇〇℃まで降下した段階で行う緊急ドレンによりドレンする。また、換気装置は、緊急ドレンに必要な弁操作終了まで運転する、という検討がされていた。

しかし、本件原子炉施設の異常時運転手順書(以下「運転手順書」という。)は、概要、フローチャート及び細目から構成され、運転員は細目に記載されている手順にしたがって訓練を受けていたところ、火災検知器の作動及び白煙の発生は、細目の小規模漏えい及び中規模漏えいの両欄に記載されたため、運転員において、火災検知器の作動又は白煙の発生があれば中規模漏えいと判断することができる記載とはなっておらず、また、その記載内容も、小規模漏えい及び中規模漏えいの各欄において、「白煙の発生状況」を監視すべきこととされるにとどまり、漏えい規模の判断基準は明記されていなかった。

そのため、本件事故時においては、ナトリウム検知器の作動と相前後して、火災検知器の作動及び白煙の発生が認められたのであるから、この時点で中規模漏えいと判断して原子炉の手動トリップを行うべきであったが、オーバフロータンクのナトリウム液位に有意な変化が認められなかったことから、これを小規模漏えいと判断し、前記②の手順に従って原子炉の通常停止を開始し、換気装置の運転も継続していたところ、火災検知器の発報範囲等が拡大したことから、ナトリウムの漏えい規模が拡大したと判断して、以後、中規模漏えいの手順に従うこととし、前記③の手順に従って原子炉の手動トリップを行ったため、原子炉の手動トリップが行われたのは事故発生の一時間三三分後であり、ナトリウムの漏えいが停止したのは事故発生の約三時間四〇分後であった。仮に火災検知器の作動及び白煙の発生を確認した時点で手動トリップがされていれば、事故発生から手動トリップに至るまでの時間は短縮され、ナトリウムの漏えい量や施設の損傷の程度はいずれも本件事故を下回るものとすることが可能であった。

3 本件事故と本件安全審査

(一) 温度計について

証人斉藤の証言(斉藤調書二・一〇丁裏)によれば、本件安全審査においては、二次冷却材配管に取り付ける温度計の構造を審査の対象としていないことが認められる。

ところで、前記(第三章第一、三)のとおり、本件安全審査においては、本件原子炉施設の安全性に係るすべてをその審査対象とするものではなく、その基本設計ないし基本的設計方針に係る事項のみがその対象になるのであって、詳細設計や具体的施工管理に属する事項は、審査の対象とはならない。

また、前記(第四章第二、四)のとおり、いかなる設計を基本設計ないし基本的設計方針に該当するものとして本件安全審査の対象とするかについても、被告の合理的な判断に委ねられているものと解するべきであるから、裁判所は、ある事項を基本設計ないし基本的設計方針として扱わず審査の対象としなかったことに、本件安全審査の調査審議及び判断の過程に重大かつ明白な瑕疵といえるだけの過誤、欠落があり、これに依拠してされた被告の判断に重大かつ明白な瑕疵があるといえるか否かを判断すれば足りる。

そして、本件安全審査においては、前記(第四、一、3、(二))のとおり、二次主冷却系に関しては、通常運転時、運転時の異常な過渡変化時及び事故時において一次冷却系からの熱を確実に水・蒸気系又は補助冷却設備に伝達できる設計であるか否かを審査しており、配管に取り付けられる温度計の構造は審査の対象としていないが、これは、温度計が、二次冷却材であるナトリウムの温度を計測するためのものであり、それ自体特殊なものではなく、その具体的構造、設計については、必要に応じて詳細設計の問題として適宜対応すれば足りる事項であると判断したことによるものと解され、右判断に特段不合理な点があるとは認められない。

そうすると、温度計の具体的構造、設計に係る事項を、本件安全審査の対象としなかったことに違法はなく、したがって、本件温度計の具体的構造、設計の欠陥は、本件安全審査の合理性を左右するものではないというべきである。なお、本件事故の際、炉心の冷却能力が維持されていたことは、前記(1、(二)(3))のとおりである。

(二) 床ライナについて

(1) 本件事故と床ライナへの影響

本件安全審査においては、鋼製の床ライナの設置によりナトリウムとコンクリートの直接接触を防止することを基本設計ないし基本的設計方針として審査の対象としている。

前記(1、(二)、(1)及び同(4))のとおり、本件事故において、本件配管室の床ライナに板厚減少が生じたが、右床ライナについては、ほとんどの部分で六ミリメートルの板厚が計測され、局所的に0.5ないし1.5ミリメートル程度の板厚減少が観察されたにとどまり、ナトリウムとコンクリートが直接接触した事実はなく、床ライナは、十分な健全性を有していた。

しかし、本件事故を契機とする事故原因の調査過程において、本件安全審査当時は認識されていなかった二つの知見、すなわち、①申請者が本件事故後に行った燃焼実験Ⅱにおいて、床ライナの一部が局所的に損傷したことから、空気の供給状況等の条件いかんによっては、ナトリウムと鉄と酸素が関与する界面反応による腐食により、床ライナ等の鋼材が損傷する場合があるという知見、②推定される本件事故時の床ライナ温度及び最新のナトリウム燃焼解析コードを用いて解析した床ライナの温度は、いずれも設計温度を上回るという知見が得られており、右各新知見が漏えいナトリウムとコンクリートとの直接接触を鋼製の床ライナの設置により防止するという基本設計ないし基本的設計方針の合理性に影響を与えるか否かが問題となる(なお、原告らは、右①の知見については、本件許可処分当時既に明らかになっていた知見であるから、新知見ではない旨主張している。確かに、乙イ四一によれば、一九七九(昭和四四)年には、英国原子力局は、ナトリウムが燃焼して酸化ナトリウムや過酸化ナトリウムとなり、水と接触してできた水酸化ナトリウムが共存する場合には、鉄がかなりの腐食速度を示すことを報告しており、右は高速増殖炉設計の分野でも入手可能であったことが認められるから、右知見は厳密な意味での新知見とは言い難い。しかし、本件安全審査において右知見は審査の前提とされていなかったこと(当事者間に争いがない。)、前記(第三章第二、二)のとおり、新知見であっても、本件訴訟においては、科学的経験則は、現在の科学水準のものに則って判断すべきであり、新知見であるか否かによって、本件訴訟における裁判所の審理の対象、範囲に差異はないから、ここでは新知見として扱うこととする。)。

そこで、まず、本件安全審査における床ライナに関する審査の概要を示した上で、右各新知見の内容とこれと本件安全審査の関係について検討する。

(2) 本件安全審査における床ライナに関する審査

前記(六、1、(三)、(2))のとおり、本件安全審査においては、冷却材として使用されるナトリウムは、化学的に活性であり、酸素やコンクリートに含まれる水とも激しく反応するため、漏えいしたナトリウムとコンクリートが直接接触すると、ナトリウムとコンクリート中の水分が反応し、圧力上昇やコンクリートの脆弱化により建物の健全性が失われることがあり、建物の健全性が失われると、二次主冷却系の他の系統に影響が及ぶ可能性があることから、ナトリウムの化学反応及びナトリウム火災に対する対策の一つとして、漏えいしたナトリウムとコンクリートが直接接触することを防止するために、鋼製の床ライナが設置されること、これによって、万一ナトリウムが漏えいした場合であっても、鋼製の床ライナによって、漏えいナトリウムとコンクリートとの直接接触を防止し得ることを確認している。他方、証人佐藤の証言(佐藤調書二八、二九頁)によれば、床ライナの寸法(板厚等)、形状等の細部は、詳細設計に属する事項として、審査の対象としなかったことが認められるが、右審査対象の選定について、特段不合理な点があるとは認められない。

(3) 界面反応による床ライナの腐食に関する新知見と本件安全審査

(イ) 界面反応による腐食に関する新知見

(a) 乙イ一〇・Ⅱ―二―二ないし一九頁、乙イ四一及び乙イ四二によれば、次の事実が認められる。

申請者は、本件事故後、本件床ライナの板厚が減少した原因を解明すると共に、将来の対策を講じるため、燃焼実験Ⅰ、燃焼実験Ⅱ及びナトリウム漏えい時のナトリウム燃焼解析を行った。

燃焼実験Ⅰは、申請者が平成八年四月八日に行った実験であり、内容積約一〇〇立方メートルの鋼製円筒容器の実験装置内で、約一時間三〇分間ナトリウムを漏えいさせた。実験の結果、実験装置の床部には、酸化ナトリウムを主体としてナトリウム酸化物が山状に堆積し、換気ダクト表面の破損は確認されなかったものの、グレーチングには一部で破損と減肉が、また、床部の鋼製の受け皿には漏えい部直下近傍で最大で約一ミリメートルの減肉がそれぞれ認められた。そして、鋼材の腐食速度は本件事故のそれとほぼ一致した。

燃焼実験Ⅱは、申請者が同年六月七日に行った実験であり、内容積約一七〇立方メートルのコンクリート製矩形容器内で、本件事故時におけるナトリウム漏えい時間と同じ三時間四〇分間ナトリウムを漏えいさせた。実験の結果、床ライナ上には溶融体が凝固した堆積物が平板状に広がると共に、漏えい部直下近傍の床ライナが損傷し、五つの貫通孔が確認された。そして、鋼材の腐食速度は、本件事故及び燃焼実験における鋼材の腐食速度よりも著しく速かった。

そして、申請者は、燃焼実験Ⅱでは、燃焼開始後三時間二〇分ころにはライナが破損し、大小五個の貫通孔が生じるに至ったが、燃焼実験Ⅱの鋼材の腐食速度は本件事故及び燃焼実験Ⅰの鋼材の腐食速度より著しく早いこと、本件事故と燃焼実験Ⅱとでは、床ライナ上における堆積物の様相が異なっていることからすると、本件事故時の腐食機構は、燃焼実験Ⅰにおける鋼材の腐食機構と同様であり、燃焼実験Ⅱの腐食機構は、本件事故時の腐食機構とは異なると解した。

すなわち、本件事故及び燃焼実験Ⅰでは、前記(2、(二)、(1)、(イ))のとおり、酸化ナトリウムと鉄が高温で反応する「ナトリウム・鉄複合酸化型腐食」が主体的であり、燃焼実験Ⅱでは、ナトリウムの燃焼に伴って部屋の温度が高温になり、コンクリート部から多量の水分が放出され、この水分により堆積物中の水酸化ナトリウムの割合が増加して溶融体となり、これに溶け込んだ過酸化ナトリウムが過酸化物イオンとなって鉄を腐食する「溶融塩型腐食」(界面反応による腐食)が主体的であったとした。そして、この違いは、本件事故時及び燃焼実験Ⅰでは、ナトリウム燃焼部への多量の水分の供給はなかったが、燃焼実験Ⅱでは、コンクリート製の実験セルの空間容積が実際の配管室の容積と比べて小さい上、コンクリート壁がナトリウム漏えい部に接近していたことなどから、ナトリウム燃焼部にコンクリート壁表面から多量の水分が供給されたため、水酸化ナトリウムの割合が増加したことから生じたものとした。

(b) これに対し、乙イ四一及び乙イ四二によれば、安全委員会は、右腐食機構の相違について、いずれの場合も溶融塩が関与した腐食機構が働いたとみることが重要であるとし、申請者の右推論の当否を論じるには更に科学的知見が必要であるとした上で、現時点において、ナトリウム燃焼による鋼材の腐食機構の動的な過程及びそれに及ぼす温度、物質の移動等の因子の影響については必ずしも十分に解明されているとはいえず、本件原子炉施設において、どのような条件下で燃焼実験Ⅱのような「溶融塩型腐食」が発生するのかについては、十分明らかではないとした上で、燃焼実験Ⅱのような事態をも視野に入れた腐食抑制対策を考えることが当面最も重要なことであるとしたことが認められる。

(c) この点、「溶融塩型腐食」が生じるための条件を考えると、前記のとおり、燃焼実験Ⅱの実験条件は、空間容積及びコンクリート壁との接近距離において、本件原子炉施設の配管室より小さい。そして、乙ニ五の二(証人山崖調書二)四一頁、四二頁、八三頁、一七五頁、一七六頁によれば、「溶融塩型腐食」が生じるためには、①床ライナを腐食させる過酸化ナトリウムが形成されること、②過酸化ナトリウムが安定して存在するために大量の溶融状態の水酸化ナトリウムが存在することが必要であること、水酸化ナトリウムが大量に存在するためには、大量の水分の供給が必要であることが認められる。この水分の供給は、室内の雰囲気あるいは壁面コンクリートからのものしか考えられないから、「溶融塩型腐食」の発生においては、ナトリウムの漏えいした空間の容積及びコンクリート壁との接近距離は重要な要素であると考えられる。そうすると、前記(a)のとおり、燃焼実験Ⅱの実験条件は、空間容積及びコンクリート壁との接近距離において本件原子炉施設の二次主冷却系の配管室より小さく又は近いから、乙イ四五及び乙ニ五の二(証人山崖調書二)三九頁ないし四四頁にもあるとおり、本件原子炉施設において、現実に「溶融塩型腐食」によるライナの損傷が生じる可能性は低いということができる。

しかし、本件事故の床ライナ上の堆積物中の水酸化ナトリウムの濃度は2.6パーセントであり、燃焼実験Ⅱのそれは35.1パーセント(床ライナが穴が開いたとされる実験開始後三時間二〇分では約一〇パーセント)であったところ(乙イ一〇・Ⅱ―二―三一頁、乙イ四八・三・一・三―一〇八頁)、乙イ四八・三・一・三―九二頁、九四頁によれば、申請者が本件事故後に実施した、二次冷却材漏えい(小、中規模漏えい)時の本件原子炉施設の二次冷却系配管室及び過熱器室の床ライナ上の堆積物中の水酸化ナトリウム濃度の解析の結果、配管室、過熱器室のいずれにおいても二五パーセント以上に達していることが認められることからすれば、本件原子炉施設において、「溶融塩型腐食」による床ライナの損傷が生じる可能性を否定することはできないというべきである。

(ロ) 本件安全審査との関係

そこで、次に、「溶融塩型腐食」という新知見によって、鋼製の床ライナを設置することによりナトリウムとコンクリートとの直接接触を防止するという本件原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針が損なわれるか否かについて検討する。

この点、「溶融塩型腐食」を考慮すると、鋼製のライナによって漏えいナトリウムとコンクリートとの直接接触の防止を図ることがおよそ不可能であるか又は現実的でないという場合には、床ライナによってナトリウムとコンクリートの直接接触を防止するという基本設計ないし基本的設計方針の妥当性は失われる。しかし、「溶融塩型腐食」によって床ライナの肉厚が減少することを前提にしても、具体的なライナの設計においてこれを考慮し、あるいは床ライナの肉厚の減少を考慮に入れた他の対策等によって、要求されるナトリウムとコンクリートの直接接触防止が可能である限り、右基本設計ないし基本的設計方針自体の合理性が損なわれることはないというべきである。

そして、乙イ二六・三・一・三―七四頁、乙イ四八・三・一・三―九〇頁及び乙ニ五の二(証人山崖調書二)四七頁、四八頁によれば、申請者は、本件事故後、燃焼実験Ⅱで生じたような「溶融塩型腐食」を仮定した二次冷却材漏えい事故時のナトリウム燃焼解析を行ったこと、右解析においては、解析条件として、ループ内のナトリウムドレンが完了するまでに八〇分を要するものとし、ナトリウム漏えい率(単位時間当たりの漏えい量)を一時間当たり0.1トン及び0.01トンとして解析した結果、本件原子炉施設の二次系配管室、過熱器室及び蒸発器室に設置されている板厚約六ミリメートルの床ライナの腐食による減肉量は、中央値で3.2ないし3.3ミリメートル(下限値で1.9ないし2.0ミリメートル、最大値での腐食が継続することを仮定した上限値で5.2ないし5.5ミリメートル)となったことが認められる。

そうすると、右で上限値を取った場合は、貫通孔が生じるには至らないとしても、床ライナの残存肉厚は0.5ないし0.8ミリメートルとなり、十分な床ライナの肉厚が確保されるとまではいえないものの、この程度の腐食量であれば、減肉量に相応した板圧等の具体的設計によって床ライナの健全性を維持することは十分可能であるといえるし、また、乙イ四二によれば、界面反応による腐食によって床ライナの肉厚が減少する程度(減肉量)は、床ライナの金属が高温に保持されている時間にほぼ比例し、また、その腐食速度は、床ライナの温度が上昇するに伴い指数関数的に増大することが認められるから、ナトリウムドレンに要する時間を短縮化し、あるいはナトリウムの漏えい継続時間を短縮化する運転操作を採用する等の腐食抑制対策を講じることにより、腐食を抑制し、床ライナの肉厚の減少を最小限度にとどめることは十分可能であるといえる。

したがって、「溶融塩型腐食」という新知見によって、本件安全審査の合理性が失われるものではないというべきである。

(ハ) 原告らの主張について

(a) 腐食速度について

(い) 原告らは、申請者の行った界面反応による腐食の腐食速度の評価について、これ以上の速度で腐食が進行する可能性がある旨主張する。

しかし、乙ニ五の二(証人山崖調書二)四八ないし五一頁及び乙イ四二の一によれば、申請者は、右評価の前提として、腐食減肉試験を行って「溶融塩型腐食」の腐食速度を求めた上、上限値の評価については、右試験で得られた腐食速度のうち、九五パーセント信頼幅の上限値の速度の腐食が漏えいの初期から生じると仮定し、右上限値の腐食速度のまま推移するものとして評価を行ったものであること、安全委員会は、右腐食速度について、現段階では空気中における最も高い値を与えると考えて差し支えないとしていることが認められる。そうすると、「溶融塩型腐食」の発生を仮定した場合であっても、申請者が評価に用いた以上の腐食が発生するおそれはないということができるし、また、これに反する証拠もない。

(ろ) また、原告らは、本件事故は、低温、低湿分の冬季に発生したが、春から秋にかけての湿分の多い外気条件下では、水酸化ナトリウムが多量に生成し、燃焼実験Ⅱと同様、床ライナに貫通孔が生じる可能性がある旨主張する。

しかし、乙イ四八・三・一・三―八七頁、八八頁によれば、右評価は、気温三五℃における湿度八〇パーセントという、夏季に相当する湿分の多い雰囲気条件下を部屋の初期条件として評価したものであることが認められる。また、右のとおり、右評価による床ライナの減肉量は、「溶融塩型腐食」には大量の水酸化ナトリウムが存在することが必要であるのに、水酸化ナトリウムの生成量とは無関係に、漏えいの初期から「溶融塩型腐食」が発生するものとし、更に、上限値については、当該温度における最大値の腐食速度のまま推移するものとして評価したものであることが認められるから、外気条件のいかんによってこれ以上の腐食速度となることは想定し難いというべきであり、これに反する証拠もない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(b) 漏えい継続時間について

原告らは、申請者の前記評価において、現状設備ではナトリウム漏えい発生後、漏えいが停止するまでの時間を八〇分としたことについて、現実の事故の際にそのように手際よくいく保証はなく、本件事故時のように、漏えい停止まで三時間四〇分を要せば、貫通孔が開く旨主張する。

確かに、本件事故時の運転手順を前提とする限り、本件事故のようなナトリウムの漏えいの場合は、八〇分で漏えいが停止するとは認められない。しかし、乙イ四八・三・一・三―七二ないし七四頁、七七頁及び弁論の全趣旨によれば、本件事故当時の設備においても、運転手順書を改善し、いかなる規模のナトリウム漏えいであっても原子炉をトリップし、ナトリウムについて原子炉停止後短時間で行う緊急ドレンを行うこととすれば、運転員がドレン操作を行うまでの判断に要する時間を一〇分間としても、八〇分でナトリウムの漏えいが停止することが認められる(なお、乙イ二六・三・一・三―四四頁によれば、設備を改善すれば、より早期に漏えいが停止し、床ライナの減肉量も低減されることが認められる。)。そして、右の運転手順の変更は現実的でないとはいえない。そうすると、申請者が前記評価においてナトリウムの漏えいが停止するまでの時間を八〇分としたことが不合理であるとはいえない。

また、原告らは、大規模な破断が生じた場合、炉心の冷却を維持、継続するために、ナトリウム漏えい火災をあえて放置しなければならない事態が想定されうる旨主張する。

しかし、前記(第四、一、3、(二))のとおり、本件原子炉施設においては、原子炉の停止後は、一系統の補助冷却設備が作動すれば除熱を行い得るように設計されているから、炉心を冷却するために、ナトリウムが漏えいしているにもかかわらず当該ループを停止してドレンをすることなく、また、漏えいしたナトリウムの燃焼を放置するという事態が生じうることは、三系統ある二次主冷却系配管の全てにおいて、同時にナトリウム漏えいが生じる場合のほかは考えられないが、このような事態が起こる可能性があると認めるに足りる証拠はない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(c) 佐藤証言について

原告らは、証人佐藤の証言内容からすれば、①「二次冷却材漏えい事故」において床ライナに貫通孔が通じる、②「溶融塩型腐食」について抑制対策の講じられていない本件原子炉施設に対する本件許可処分は、現在の通説的な科学水準によれば重大かつ明白な瑕疵が存在する旨主張する。

しかし、証人佐藤の証言中に、右の趣旨に解することのできる部分はないというべきであるから、原告らの右主張は理由がない。

(4) 床ライナの温度上昇に関する新知見と本件安全審査

(イ) 床ライナの温度上昇に関する新知見

前記(二、4、(二)、(6)、(ハ)、(b)、(ろ))のとおり、本件許可申請の「二次冷却材漏えい事故」の解析評価において、熱的影響評価の際に前提とされた床ライナの設計温度は、五〇〇℃であった(なお、昭和六〇年二月一八日付け原子炉設置変更許可申請に際して五三〇℃に変更された。)。

ところが、乙イ四一によれば、本件事故の際の本件床ライナの温度は、局所的に七〇〇℃ないし七五〇℃に達したと推定されたことが認められる。また、同証拠によれば、本件事故後、申請者が、ナトリウム解析コード(ASSCOPSコード(Ver.2.0))を用いて本件原子炉施設に実際に設置されている厚さ六ミリメートルの床ライナのナトリウム漏えい時の温度上昇を解析した結果、床ライナの温度は、①大規模漏えい時(漏えいナトリウムがライナ床面に全体的にプール状に広がった場合)における二次主冷却系配管室で最高約六二〇℃、過熱器室で最高約七五〇℃、②中規模又は小規模漏えい時における二次主冷却系配管室で最高約八八〇℃、過熱器室で最高約八五〇℃となったことが認められる。このように、本件事故及び右解析結果は共に、右床ライナの設計温度を超えるものであった。

(ロ) 本件安全審査との関係

そこで、次に、二次冷却材漏えい事故の場合に設計温度を超える場合が生じるという新知見によって、本件安全審査の合理性が失われるか否かについて検討する。

床ライナは鉄であり、その融点は約一五〇〇℃であるから、床ライナの溶融が生じることはない。したがって、問題となるのは、床ライナが熱膨張して壁面と干渉し、又は局所的なひずみが発生することになれば、これが原因で床ライナに損傷が生じる可能性である。

まず、設計温度の意義ついて検討するに、証人斉藤の証言(斉藤調書二・九丁表、同裏)、乙イ四一及び乙イ四五によれば、右設計温度は、「二次冷却材漏えい事故」の解析評価において、漏えいしたナトリウムがプール状に滞留するという解析条件の下で、床ライナが全面一様に加熱されても、熱膨張によって壁面と干渉しないように設計するための基準となる温度として設定されたものであり、この温度を超えれば床ライナがその機能を喪失するという温度ではないことが認められる。

また、前記(2)のとおり、本件安全審査においては、床ライナの寸法(板厚等)、形状等の具体的設計は、詳細設計に属する事項として、審査の対象としていない。そうすると、床ライナの温度は、床ライナの寸法(板厚等)、形状等の具体的設計と離れて独立にこれを考慮することは意味がないから、右設計温度の数値自体が独自に本件安全審査の対象となるものとは解されない。確かに、右設計温度は、申請者が本件許可申請当時において検討していた床ライナの具体的設計の方針を明らかにしたものではあるとはいえるが、右方針はライナの詳細設計の段階において決せられるものであり、本件許可申請の段階では確定的なものではないというべきである。

したがって、右設計温度は、設置許可段階としては、漏えいナトリウムの温度に対応し、熱膨張を考慮した床ライナを設計するという趣旨と解するのが相当であり、本件事故において床ライナの温度が設計温度を超えた事実から直ちに本件安全審査の合理性が失われるものではなく、床ライナに損傷が生じる可能性を具体的に検討すべきである。

この点、乙イ四一によれば、本件事故後、申請者が二次冷却材を保養する系統、機器を収納する部屋のライナの機械的健全性について解析を行ったこと、その結果、本件原子炉施設に実際に設置されている床ライナは、①漏えいナトリウムが床ライナ全面に広がった場合については、二次主冷却系配管室(A)北側では約六三〇℃、二次主冷却系配管室(C)北側では約七〇〇℃、他の二次主冷却系配管室及び過熱器室では約九五〇℃ないしはそれ以上になっても、熱膨張により壁面と干渉することはなく、機械的に破損することはない、②漏えいナトリウムが局所的に滞留した場合については、熱荷重によるひずみが集中する部位であっても、九〇〇℃ないし九五〇℃までは、リブ(ひずみを拘束するために床ライナ裏面に溶接されている構造物)が剥離することはあるが、床ライナ自体が損傷することはないとされたことが認められる。

したがって、右床ライナの温度上昇に関する新知見によって、本件安全審査の合理性が失われるものではない。

(ハ) 原告らの主張について

(a) 設計温度について

原告らは、設計温度は、申請者が安全委員会に対して設計を約束した事項であるから、基本設計を構成するものであり、本件事故において右設計温度を超える事態が生じたことにより、右基本設計の合理性は失われた旨主張する。

しかし、右(ロ)のとおり、設計温度は本件安全審査の対象とされていないし、設計温度は申請者が本件許可申請当時において検討していた床ライナの具体的設計の方針を明らかにしたものではあるとしても、右方針はライナの詳細設計の段階において決せられるものであり、本件許可申請の段階では確定的なものではないというべきであるから、原告らの主張はその前提を欠くものである。

(b) 解析に用いた計算コードについて

原告らは、申請者の前記解析に用いられたASSCOPSコードは信頼性を欠く旨主張する(なお、原告らは、本件許可申請に際しての「二次冷却材漏えい事故」の解析評価(漏えいナトリウムによる熱的影響評価)に用いられたSPRAY―Ⅱコード及びSOFIRE―MⅡコードについても信頼性を欠く旨主張するが、ASSCOPSコードはSPRAY―Ⅱコードの改定コードであるSPRAY―Ⅲコード及びSOFIRE―MⅡコードを融合させたコードである上、右本件許可申請に際しての解析評価の床ライナ温度の解析結果は、申請者の前記解析の床ライナ温度の解析結果よりも低いから、ここではASSCOPSコードについて検討する。)。

この点、甲イ三五七及び乙イ四八・三・一・三―一〇三頁、一〇四頁、一〇六ないし一〇八頁によれば、右計算コードは、本件原子炉施設建設段階に開発された原コードを改良し、大規模漏えいのみならず、小、中規模漏えいについても解析できるようにしたものであること、中規模漏えい時の解析については、申請者が従前行ったナトリウム燃焼実験との比較から、また、小規模漏えい時の解析については、燃焼実験Ⅰ及び燃焼実験Ⅱとの比較から、その妥当性を確認したこと(解析結果は、ナトリウム燃焼実験の測定値とおおむね一致し、また、燃焼実験Ⅰ及び燃焼実験Ⅱにおける測定値のほとんどを包絡すると共に、測定値よりも高い傾向を示した)が認められ、また、乙イ四一によれば、安全委員会も、右計算コードを用いた前記(イ)の解析結果と本件事故、燃焼実験Ⅰ及び燃焼実験Ⅱの床ライナ温度及び温度変化の傾向とがおおむね一致していることから、右解析結果に基づいて検討することは可能であるとしたことが認められる。

したがって、右計算コードは、床ライナの温度を評価する計算コードとして信頼できるものといえるから、原告らのこの点についての主張は理由がない。

4 原告らの本件事故に関するその他の主張について

(一) LBBの思想について

原告らは、本件事故時において、ナトリウム漏えい検出器による検知が、火災報知器による検知に遅れたことは、微小な漏えいを検出できないことを示すものであり、このことは、LBB思想(破断等により大規模な漏えいに至る前に小規模漏えいの段階で漏えいを検知する考え方)を前提とする本件原子炉施設の設計の欠陥を示すものである旨主張する。

この点、本件事故時において、ナトリウム漏えい検出器による検知が、火災報知器による検知に遅れたことは当事者間に争いがない。しかし、証人斉藤の証言(斉藤調書三・四三丁表、同裏)及び乙ニ五の一(証人山崖調書一)一九ないし二一頁によれば、LBB思想は、外径が一インチ(25.4ミリメートル)に満たない程度の小口径配管に適用することは元来予定されていないこと、本件さや管は外径が一〇ミリメートルであり、右思想の適用範囲にないことが認められる。

したがって、本件事故時にナトリウム漏えい検出器による検知が火災報知器による検知に遅れたことは、本件原子炉施設の設計に欠陥があることを意味するものではなく、本件安全審査の合理性を左右するものではないから、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(二) ナトリウム・コンクリート反応について

原告らは、本件事故によって本件配管室の壁面コンクリートに深さ一ミリメートル程度の黒灰色の変色が生じたのは、ナトリウム・コンクリート反応によるものであり、このことより、本件安全審査の合理性は失われた旨主張する。

確かに、右変色は、何らかの化学反応によって生じたと考えるのが自然であるから、ナトリウムとコンクリートとの化学反応が起こったと考えることもあながち根拠のないものではない。

しかし、前記(1、(二)、(1))のとおり、本件事故において、ナトリウムのコンクリートに対する影響は表層部にとどまり、ナトリウムとコンクリートの反応生成物は検出されず、構造耐力、遮へい性能への影響はないものと判断されており、ナトリウム・コンクリート反応によってコンクリートの健全性が失われた事実はない。また、乙イ四五によれば、本件配管室の壁面コンクリートの厚さは約一メートル近くあり、熱伝導が悪いために短時間高温に曝されてもコンクリートの内部までは昇温しないことが認められる。そうすると、原告らの指摘する変色の事実は、その原因がナトリウムとコンクリートの化学反応であった否かにかかわらず、本件安全審査の合理性を左右するものではないというべきである。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(三) オーバフロータンクのナトリウム液面計の不備について

原告らは、本件事故によって、本件原子炉施設のオーバフロータンクのナトリウム液面計は、一目盛りが0.7トンないし0.8トンと感度が低く、漏えい規模を適切に判断することができず、機能に不備があることが明らかになった旨主張する。

しかし、オーバフロータンクの感度は、設備の詳細設計に関する事項というべきであって、本件安全審査の対象となる本件原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針に関連しないものであるから、右主張は失当である。また、前記(2、(三))のとおり、本件原子炉施設においては、小、中規模のナトリウムの漏えいは、ガスサンプリング式ナトリウム漏えい検出器や火災検知器によって検知することとされており、右オーバフロータンクの感度が低いからといって、ナトリウム漏えいの検知に不都合はないといえるから、この点でも原告らの主張は理由がない。

(四) ドレン関連機器の不備について

原告らは、本件事故によって、本件原子炉施設の二次主冷却系のナトリウムドレン関連設備は、原子炉停止後短時間で行う緊急ドレンが一〇回程度しか行い得ないものであるから、健全性を欠くことが明らかになった旨主張する。

しかし、ドレン設備の具体的な耐用回数は、設備の詳細設計に関する事項というべきであって、本件安全審査の対象となる本件原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針に関連しないものであるから、右主張は失当である。また、前記(第六、二、4、(二)、(6)、(ロ))のとおり、二次冷却材漏えい事故に対する防止対策が取られていることにかんがみると、原子炉停止後直ちに行う緊急ドレンが一〇回程度行えれば(甲イ三〇一によれば、原子炉停止後直ちに行う緊急ドレンを一〇回程度行っても健全性が損なわれないことが確認されていることが認められる。)、二次冷却材漏えい事故には十分対応できるといえる。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(五) 水素爆発の危険性について

原告らは、燃焼実験Ⅱにおいては水素爆発が起こったとして、本件原子炉施設においても水素爆発が起こり得る旨主張する。

しかし、乙イ九・添四―二〇頁によれば、燃焼実験Ⅱにおける水素濃度は0.17パーセントであったことが認められ、水素の燃焼限界値である四パーセントを下回っていたことが認められるから、右実験においては水素の蓄積燃焼としての水素爆発は発生しなかったというべきである。確かに、右証拠によれば、原告らの指摘するとおり、ナトリウムとコンクリートが接触して発生した水素が燃焼したことが認められるが、右は水素の蓄積燃焼ではないことが明らかであるから、右燃焼の事実をもって水素濃度が燃焼限界値以下でも蓄積燃焼を起こすということはできない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

(六) その他、原告らは、(1)二次主冷却系配管に設置されているナトリウム漏えい検出器は、①発報した検出器については中央制御室の中央制御盤で特定することができるが、右検出器の具体的な計測値は中央制御室で確認することはできず、中央制御室の外の現場制御盤において確認しなければならない構造となっており、ナトリウム漏えいの状況を迅速かつ適切に把握することができない、②漏えい規模が小さい場合には検出遅れが一時間単位にもなりえるとして、機能上不備がある、(2)二次主冷却系配管室に設置されている火災検知器についても、ナトリウムの漏えい検知の機能も有しているところ、右検知器の発報は中央制御室から約2.6メートル離れた所に設置してある火災報知器により確認しなければならない構造となっており、ナトリウム漏えいの状況を迅速かつ適切に把握することができない、(3)運転手順書の記載には不備があり、運転員がこれに依拠して運転したことによって、本件事故において原子炉のトリップ等の一連の操作が遅れ、事故の拡大につながったなどと主張するが、これらの事項は、いずれも本件安全審査の対象となる本件原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針に関連しないことが明らかであるから、本件安全審査の合理性を左右するものではない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

5 小括

以上からすれば、本件事故の発生は、本件安全審査の合理性を左右するものではないというべきである。

九  まとめ

以上のとおり、本件安全審査においては、調査審議の結果、本件原子炉施設の事故防止対策に係る安全性について、本件原子炉施設が具体的審査基準に適合し、その基本設計ないし基本的設計方針において、事故防止対策に係る安全性を確保し得るもの、すなわち、事故防止対策との関連において、原子炉等による災害の防止上支障がないものとしているが、右調査審議及び判断の過程に重大かつ明白な瑕疵といえるような看過し難い過誤、欠落があるとは認められない。

第七  本件原子炉施設の公衆との離隔に係る安全性

一  本件安全審査の内容

乙四、乙七ないし一〇、乙一四の一ないし三、乙一六、乙二二、乙二三及び乙イ六並びに弁論の全趣旨によれば、本件原子炉施設の立地評価(公衆との離隔に係る安全性)についての本件安全審査の内容につき、次のとおりと認められる。

1 意義

公衆との離隔に係る立地条件の適否を判断する(立地評価)ための想定事故(重大事故及び仮想事故)の解析評価は、「立地審査指針」に基づき、公衆との離隔の確保の面から原子炉施設の立地条件の適否を評価するために行われるものである。

2 本件安全審査の審査方針

本件安全審査においては、「立地審査指針」、「評価の考え方」及び「プルトニウムに関するめやす線量について」に基づき、「線量評価指針」等を参考として、次の項目を具体的な判断基準として、本件許可申請おける立地評価のための想定事故の解析を審査、評価した。

(一) 原子炉の周囲は、原子炉から「ある距離の範囲内」は非居住区域であること。右「ある距離の範囲」を判断するためのめやすとして、重大事故の場合について、甲状腺(小児)に対して一五〇レム、全身に対して二五レムの線量を用いる。

(二) 原子炉から「ある距離の範囲内」であって、非居住区域の外側は低人口地帯であること。右「ある距離の範囲」を判断するためのめやすとして、仮想事故の場合について、甲状腺(成人)に対して三〇〇レム、全身に対して二五レムの線量を用いる。

(三) 原子炉敷地は、人口密集地帯から「ある距離」だけ離れていること。右「ある距離」を判断するためのめやすとして、仮想事故の場合における全身被曝線量の積算値に対して二〇〇万人レムを参考とする。

(四) プルトニウムを燃料とする原子炉と公衆が居住する区域との間に「ある適当な距離」を保つこと。右「ある適当な距離」を判断するためのめやすとして、骨表面に対して一二ラド、肺に対して一五ラド、肝に対して二五ラドのプルトニウムに係る線量を用いる。

3 本件許可申請における重大事故の解析内容

(一) 一次冷却材漏えい事故

(1) 事故想定の趣旨

技術的見地から想定しうる最大規模の放射性物質の量が原子炉格納容器内に放出される場合の核分裂生成物の放出量と被曝線量を評価するため、一次冷却材漏えい事故を想定する。

(2) 解析

(イ) 解析条件

①原子炉は、定格出力の一〇二パーセントで長時間にわたって運転されていたものとする。

②事故後原子炉格納容器上に放出される核分裂生成物の量は、炉心内蔵量に対し、希ガス一〇パーセント、よう素一パーセントの割合とする。

③原子炉格納容器上に放出されたよう素のうち、九〇パーセントはエアロゾルの形態をとり、残り一〇パーセントはエアロゾルの形態をとらないものとする。

④原子炉格納容器内のエアロゾル状よう素はプレートアウト等による減衰を考慮するが、非エアロゾル状よう素及び希ガスは右減衰効果を考えない。

⑤原子炉格納容器からの漏えい率は1%/dとする。

⑥原子炉格納容器からの漏えいは、九七パーセントがアニュラス部に生じ、残り三パーセントはアニュラス部外に生じるものとする。

⑦アニュラス循環排気装置のよう素用フィルタユニットのよう素除去効率は九五パーセントとする。また、よう素用フィルタユニットへの系統切替達成までの一〇分間はよう素除去効果を考慮しない。

⑧原子炉格納容器内の放射能による直接線量及びスカイシャイン線量については原子炉格納容器等の遮へいを考慮して評価する。

⑨事故継続時間は三〇日間とする。

⑩環境への核分裂生成物の放出は、排気筒より行われるものとする。

⑪環境に放出された核分裂生成物の大気中の拡散については、「気象指針」に従って評価するものとする。

(ロ) 解析結果

大気中に放出される核分裂生成物の量は、よう素約二四〇キュリー、希ガス約四万七〇〇〇キュリーであり、この大気放出に伴う被曝線量は、敷地境界外で最大となる場所において小児甲状腺約1.8レム、全身約0.15レムである。

(二) 一次アルゴンガス漏えい事故

(1) 事故想定の趣旨

技術的見地から想定しうる最大規模の放射性物質の量が原子炉格納容器内に放出される場合の核分裂生成物の放出量と被曝線量を評価するため、一次アルゴンガス漏えい事故を想定する。

(2) 解析

(イ) 解析条件

①原子炉は、定格出力の一〇二パーセントで長時間にわたって運転されていたものとする。

②事故後、原子炉格納容器外の常温活性炭吸着塔内に貯留されている希ガス及びよう素の全量が常温活性炭吸着塔収納設備内に放出されるものとする。

③事故後、原子炉格納容器内の原子炉容器上部カバーガス及び一次アルゴンガス系圧力調整タンク中の希ガス及びよう素が、常温活性炭吸着塔収納設備に移行するとし、その量は原子炉格納容器内のカバーガス及び圧力調整タンクの中の量の五パーセントとする。

④一次アルゴンガス系収納施設の漏えい率は100%/dで一定とし、漏えいした希ガス及びよう素は大気へ放出されるものとする。

⑤事故継続時間は三〇日間とする。

⑥環境に放出された核分裂生成物の大気中の拡散については、「気象指針」に従って評価するものとする。

(ロ) 解析結果

大気中に放出される核分裂生成物の量は、よう素約2.5キュリー、希ガス約七万八〇〇〇キュリーであり、この大気放出に伴う被曝線量は、敷地境界外で最大となる場所において小児甲状腺約0.49レム、全身約0.25レムである。

4 本件許可申請における仮想事故の解析内容

(一) 仮想事故解析の趣旨

技術的には起こるとは考えられない事象及び重大事故として取り上げた事象を踏まえて、より多くの放射性物質の放出量を仮想して評価を行う。

(二) 解析

(1) 解析条件

①原子炉は、定格出力の一〇二パーセントで長時間にわたって運転されていたものとする。

②事故後、原子炉格納容器上に放出される核分裂生成物の量は、炉心内蔵量に対し、希ガス一〇〇パーセント、よう素一〇パーセント及びプルトニウム一パーセントの割合とする。

③原子炉格納容器上に放出されたよう素のうち、九〇パーセントはエアロゾルの形態をとり、残り一〇パーセントはエアロゾルの形態をとらないものとする。

④原子炉格納容器内のエアロゾル状よう素はプレートアウト等による減衰を考慮するが、非エアロゾル状よう素及び希ガスは右減衰効果を考えない。

⑤原子炉格納容器からの漏えい率は1%/dとする。

⑥原子炉格納容器からの漏えいは、九七パーセントがアニュラス部に生じ、残り三パーセントはアニュラス部外に生じるものとする。

⑦アニュラス循環排気装置のよう素用フィルタユニットのよう素除去効率は九五パーセントとする。また、よう素用フィルタユニットへの系統切替達成までの一〇分間はよう素除去効果を考慮しない。

⑧プルトニウムの大気放出量の評価に当たっては、プルトニウムはエアロゾルの形態をとるものとし、フィルタによる除去効率は九五パーセントとする。

⑨原子炉格納容器内の放射能による直接線量及びスカイシャイン線量については原子炉格納容器等の遮へいを考慮して評価する。

⑩事故継続時間は三〇日間とする。

⑪環境への核分裂生成物の放出は、排気筒より行われるものとする。

⑫環境に放出された核分裂生成物の大気中の拡散については、「気象指針」に従って評価するものとする。

⑬全身被曝線量の積算値の算出に当たっては、大気拡散条件は大気安定度F型、水平方向拡散幅三〇度及び平均風速1.5メートル毎秒、放出点は地上高五〇メートルとする。拡散方向は積算値が最大となる南南西とし、人口は昭和五〇年の国勢調査結果及び西暦二〇二五年の推定値を用いる。

(2) 解析結果

大気中に放出される放射能量は、よう素約二三〇〇キュリー、希ガス約四七万キュリー及びプルトニウム約五一キュリーである。このよう素及び希ガスの大気放出に伴う被曝線量は、敷地境界外で最大となる場所において、成人甲状腺約4.5レム、全身約1.4レムであり、全身被曝線量の積算値は、昭和五〇年の人口に対して約一三万人レム、西暦二〇二五年の推定人口に対して約一七万人レムである。

プルトニウムの大気放出に伴う被曝線量は、敷地境界外で最大となる場所において、骨表面、肺及び肝のそれぞれに対し、約0.99ラド、約0.19ラド及び約0.21ラドである。

5 本件安全審査における評価

(一) 事象選定の妥当性

重大事故は、放射性物質の拡大の可能性を考慮し、技術的見地からみて最悪の場合には起こるかもしれないもの中から、原子炉格納容器内放出に係る事故として「一次冷却材漏えい事故」が、原子炉格納容器外放出に係る事故として「一次アルゴンガス漏えい事故」がそれぞれ選定され、技術的に最大と考えられる放射性物質の放出量を想定して評価されており、他方、仮想事故は、「技術的には起こるとは考えられない事象」及び「重大事故」として取り上げた事象等を踏まえて、より多くの放射性物質の放出量を仮想して評価されているとして、右事象選定は、「評価の考え方」に従うものであり、妥当であると判断した。

(二) 解析方法の妥当性

放射性物質の放出量及び被曝線量の評価は、重大事故及び仮想事故の趣旨に照らして、それぞれ「安全評価審査指針」を参考として、十分厳しくなるような解析条件を用いて行われているとして、右解析方法は、「評価の考え方」に適合するものであり、妥当であると判断した。

(三) 解析結果の妥当性

いずれの解析結果においても、放射性物質の大気中への放出量、厳しい気象条件等を用いて計算された甲状腺及び全身の被曝線量並びに全身被曝線量の積算値は、「立地審査指針」及び「プトニウムに関するめやす線量について」の定めるめやす線量を十分下回っており、「立地審査指針」に示されている非居住区域及び低人口地帯であるべき範囲は、いずれも本件敷地内に包含されることになり、また、本件原子炉施設は人口密集地帯からも十分離れており、周辺公衆との離隔は十分確保されていると認められることから、本件原子炉施設の立地条件は、「立地審査指針」に十分適合すると判断した。

(四) 結論

以上から、本件安全審査においては、調査審議の結果、本件原子炉施設の公衆との離隔に係る安全性について、本件原子炉施設が具体的審査基準に適合し、その基本設計ないし基本的設計方針において、公衆との離隔に係る安全性を確保し得るもの、すなわち、公衆との離隔に係る立地条件において、原子炉等による災害の防止上支障がないものとした。

二  当裁判所の判断

1 解析において用いられた解析条件に特段不合理な点があるとは認められない。

2 そして、右解析の結果は、「立地審査指針」及び「プルトニウムを燃料とする原子炉の立地評価上必要なプルトニウムに関するめやす線量について」に示されている非居住区域及び低人口地帯であるべき範囲は、いずれも本件敷地内に包含されることになるというものであったのであるから、公衆との離隔に係る安全性を確保し得るという結論においても、特段不合理な点があるとは認められない。

3  以上のとおり、本件安全審査における公衆との離隔に係る安全性についての調査審議及び判断の過程に重大かつ明白な瑕疵といえるような看過し難い過誤、欠落があるとは認められない。

三  原告らの主張について

1 事象選定に関する主張について

原告らは、本件原子炉施設の立地評価のための想定事故の解析評価において想定されている事故の選定が恣意的である旨主張し、その根拠として、TMI二号炉事故では、仮想事故を上回る放射線放出が現実に起こったことを指摘する。

しかし、立地評価のための想定事故の解析評価は、本件原子炉施設の事故防止対策としての安全設計が妥当であることを確認し、更に「運転時の異常な過渡変化」、「事故」及び「技術的には起こるとは考えられない事象」の解析評価によりその妥当性を別の側面から確認した上で、なお本件原子炉施設が、その基本設計及び基本的設計方針において、災害防止上支障がないものであるか否かを判断する一環として、本件原子炉施設と公衆との離隔の確保の妥当性を確認するために行われるものである。

このように、立地評価のための想定事故の解析評価は、本件原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針において災害防止上支障ないものであるか否かを判断するためのものであり、かつ、事故防止対策としての安全設計の妥当性(前記第五)及び各種事故等の解析(前記第六)を前提とするものであるから、これに当たって想定すべき事故は、各種事故等の解析評価において取り扱われた各事故以上のものである必要があるが、基本設計ないし基本的設計方針で採られている事故防止対策をすべて無効とするような事故を想定することは、解析評価の目的に反することになる。したがって、ガードベッセルや原子炉格納容器等の安全防護施設の存在を無視し、あるいは、これらが全く機能しないような場合において初めて発生し得る事故の状態までを考慮する必要はない。

右を前提に考えれば、本件安全審査の立地評価のための想定事故の解析評価における事象の選定が不合理であるということはできないというべきである。

そして、原告らの主張するTMI事故は、後記(第八、九)のとおり、原子炉施設の運転管理に起因して発生したものであるから、右の趣旨で行われる立地評価において考慮する必要はない。なお、甲イ一五〇によれば、同事故による周辺公衆の被曝線量は、個人平均で約一ミリレムであると推定されていることが認められるから、右事故により周辺公衆が過大な被曝を受けた事実はない。

したがって、原告らのこの点についての主張は理由がない。

2 評価手法に関する主張について

原告らは、本件原子炉施設の立地評価のための想定事故の解析評価について、放出放射性物質の量、放出形態、気象条件、人口条件等の根拠が不明確であり、想定した事象の評価手法が恣意的である旨主張する。

しかし、乙一六・一〇―五―一八頁、一九頁によれば、本件安全審査においては、重大事故及び仮想事故については、放射性物質の量、放出形態、拡散、希釈の状況等につき、「気象指針」に基づいた評価方法が設定されていること、仮想事故については、昭和五〇年の国勢調査結果と西暦二〇二五年の人口の推定値が人口条件として用いられていることを確認したことが認められる。

なお、原子炉施設から環境へ放出される放射性物質からの放射線による公衆の被曝の形態は、放射性物質の放出量、放出形態等により種々のものが考えられるが、右解析評価においては、主要な被曝の形態を考慮すれば、必要とされる離隔の程度は十分合理的に判断可能であるから、考えられる被曝の形態のすべてを考慮しないとしても、右解析評価が不合理であるということはできない。

したがって、原告のこの点についての主張は理由がない。

四  まとめ

以上のとおり、本件安全審査においては、調査審議の結果、本件原子炉施設の公衆との離隔に係る安全性について、本件原子炉施設が具体的審査基準に適合し、その基本設計ないし基本的設計方針において、公衆との離隔に係る安全性を確保し得るもの、すなわち、公衆との離隔に係る立地条件において、原子炉等による災害の防止上支障がないものとしているが、右調査審議及び判断の過程に重大かつ明白な瑕疵といえるような看過し難い過誤、欠落があるとは認められない。

第八  他の原子炉施設における事故について

一  意義

原告らの主張の中には、過去に他の原子炉施設において発生した事故を挙げ、本件原子炉施設においても同様の事故が起こる可能性があるとして、本件原子炉施設が安全性を欠き、本件許可処分が規制法二四条一項四号に反する旨主張するかのようにみられる部分がある。

しかし、他の原子炉施設は、その程度はともあれ、本件原子炉施設とはその設計、構造、設備を異にするものであるから、他の原子炉施設において発生した事故が直ちに本件原子炉施設において発生するということはできない。もっとも、他の原子炉施設の事故発生の原因となった事象が起こる可能性が本件原子炉施設においても存在し、本件原子炉施設において右事象からの事故の発生、拡大、事故の影響の拡大を防止するための十分な対策が取られていない場合には、当該原子炉施設で発生した事故と同様の事故が本件原子炉施設においても発生し、かつ、その場合に安全性が確保されないといえる場合があると考えられる。

本判決においては、本章の第四ないし第七の関連箇所において、適宜、他の原子炉施設において発生した事故に関する原告らの主張を取り上げて判断を示してきたところであるが、本節では、原告らの主張する他の原子炉施設で起きた事故のうち重大なもの又は本件原子炉施設と関連が深いと考えられるものについて、事故の経過と原因を検討した上で、これと同様の事故が本件原子炉施設においても発生する可能性があるか、仮に発生した場合に本件原子炉施設の安全性が確保されない可能性があり、本件安全審査の妥当性が失われるか否かについて判断を示すことにする。

二  チェルノブイリ事故

1 事故の概要及び原因

(一) 事故の概要

争いのない事実並びに甲六及び乙イ二四によれば、次のとおりと認められる。

チェルノブイリ四号炉は、当時のソビエト連邦ウクライナ共和国のチェルノブイリに設置された熱出力三二〇万キロワット、電気出力一〇〇万キロワットの黒鉛減速軽水冷却沸騰水型原子炉(RMBK)である。

一九八六(昭和六一)四月二六日、外部電源喪失によりタービンの蒸気供給が停止された場合、惰性で回っているタービン発電機からの電力で非常用炉心冷却系設備のポンプ等をどの程度稼働させることができるかを確認する試験中、原子炉出力が急激に増大し、これを抑えることができなかったことから、燃料チャンネル及び原子炉上部の構造物が破壊され、燃料及び黒鉛の一部が飛散し、原子炉建置も破壊され、大量の放射性物質が環境へ放出された。

(二) 事故の影響

事故によって三一名が死亡し、また、三〇キロメートル圏内の住民約一三万五〇〇〇人が避難した。特定の地域の住民の被曝線量は0.03ないし0.04レムに達したとみられるが、大多数は0.025レム以下の外部被曝線量であり、急性障害はみられなかったとされている。また、ソビエト連邦によれば、避難住民の外部被曝集団線量は約一六〇万人レムとしている(なお、この点については、住民の急性障害が存在したことや、子供を中心に晩発性障害(発がん)が多発していること等を示す証拠も存在するところである。)。

(三) 事故の原因

事故の原因は、①原子炉が炉心特性として低出力運転時には反応度出力係数が正の値となり、正の反応度フィードバック特性を有するにもかかわらず、原子炉緊急停止系の設計が右炉心特性に十分対応したものではなかったこと(設計上の要因)、②運転員に多数かつ重大な規則違反があったなど、運転管理体制及び発電所全般の安全確保に対する意識が極めて不十分であったこと(運転規則違反)にあったことが認められる。

なお、右運転規則違反について、違反ではない、若しくは重大な違反でなく運転員を責めることはできないとする見解のあることが認められるが(甲イ二七、甲イ一七九、甲イ一九九、甲イ三七二等)、これらの証拠を前提としても、運転員が運転規則と異なる運転を行ったという事実はこれを明らかに認めることができる。

2 本件安全審査との関係

チェルノブイリ四号炉は、RMBKであり、LMFBRである本件原子炉施設とは炉型を異にする。そして、右事故の事故原因のうち、①については、本件原子炉施設では、前記(第四、三、2、(一))のとおり、すべての運転範囲において、ボイドが発生することはないから、ボイド係数が正であるという問題は生ぜず、かつ、出力係数は負である。また、甲六によれば、チェルノブイリ四号炉には、反応度操作余裕(チェルノブイリ四号炉は、制御棒の持つ負の反応度は原子炉を緊急停止させるに十分なものであったが、制御棒の挿入速度が炉心の長さに比べて遅く、制御棒を炉心に完全に挿入するには約一八秒を要するものであった。そのため、緊急停止のために必要な負の反応度を速やかに挿入することができずに原子炉の緊急停止に失敗する可能性を回避するため、運転中は常に何本かの制御棒を炉心に挿入しておき、緊急停止の実効性を確保する必要があった。この緊急停止を可能にするため制御棒の挿入が、反応度操作余裕の考え方である。)の確保が必要であったが、本件原子炉施設は、一ないし二秒以内に制御棒を炉心に挿入することができ、反応度操作余裕は必要でないことが認められる。したがって、①の事故原因は本件原子炉施設には当てはまらない。また、②の運転員の規則違反については、運転員の規則違反ではないという見解もあるが、いずれにしても設計上予定されていない運転が意図的にされたことには変わりがないところ、意図的に設計上予定されていない運転がされることは、本件原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針に関連するものではない。

したがって、右事故の発生は、本件安全審査の合理性を左右するものではない。

三  EBR―Ⅰの燃料溶融事故

1 事故の概要と原因

甲イ四六、甲イ三七六及び乙イ七六によれば、次のとおりと認められる。

EBR―Ⅰは、米国アイダホ州の国立工学研究所内に建設されている小型の高速実験炉(電気出力二〇〇キロワット)であり、炉心は四回(マークⅠからマークⅣまで)にわたり取り替えられ、その間、多くの実験が行われた。

マークⅡ炉心での運転において、炉心の温度がある温度以上に上昇すると温度係数が正になり、炉心に正の反応度が入ることが判明したことから、一九五五(昭和三〇)年一一月二九日、その原因を解明するために各種の試験が行われた。

右試験では、故意に二つの原子炉安全系(出力急上昇時に機能するスクラム及び一次冷却材流量が少ないと原子炉を起動できないようにするインタロック)を外した上で原子炉の出力上昇操作を行い、出力上昇に伴って温度係数が正になり、更に出力が上昇して炉周期が一秒になった時点で、試験担当者が口頭で運転員に急速スクラム(制御棒の急速挿入による原子炉の緊急停止)を指示したが、運転員は誤って低速スクラム(制御棒の通常速度での挿入による原子炉の停止)ボタンを押してしまった。試験担当者は直ちに急速スクラムボタンを押したが、この間の時間遅れが約二秒あったことから、出力が急上昇し、炉心は燃料体積の四〇ないし五〇パーセントが溶融した。

右事故の原因は、急速スクラムを行うべきであったところ、運転員が誤って低速スクラムをしたことにあった。また、マークⅡ炉心が正の反応度をもたらしたのは、燃料の照射に伴う変化の検査のため、燃料要素を取り出しやすいように長手方向のワイヤスペーサを取り去り、かつ、燃料要素の固定を緩くしてあったために、高温になると燃料要素が湾曲したためであった。

2 本件安全審査との関係

右事故の原因は、故意に二つの原子炉安全系を外した上で原子炉の出力上昇操作を行ったことにあるが、このように意図的に設計上予定されていない運転がされることは、本件原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針とは関連するものではない。また、前記(第四、一、1、(一)、(4))のとおり、本件原子炉施設の炉心は、燃料要素の外周にワイヤスペーサを設けて相互の接触を防止し、さらに燃料要素を六角形のラッパ管の中に入れ、燃料要素が過度に変形することを防止すると共に、軸方向には自由に膨張できる構造とされているので、燃料要素の過度の変形によって正の反応度が投入され、燃料溶融等に至るおそれは極めて低いといえる。

したがって、右事故の発生は、本件安全審査の合理性を左右するものではない。

四  エンリコ・フェルミ炉の燃料溶融事故

1 事故の概要と原因

甲イ二六、甲イ四七、乙イ七六及び乙ニ二の七(証人川島調書七)二一丁表ないし二三丁裏によれば、次のとおりと認められる。

エンリコ・フェルミ炉は、電力会社(デトロイト・エジソン社)及びメーカ連合体が米国ミシガン州に設置した、濃縮ウラン合金をジルコニウムで被覆した燃料を用いた商業用ループ型LMFBR(電気出力六万五九〇〇キロワット)である。

一九六六(昭和四一)年一〇月五日、出力上昇試験中、熱出力三万キロワットに達したとき、炉内中性子束変化率の乱れと、一部の燃料集合体出口の冷却材温度の上昇があり、更に原子炉建屋の上部排気ダクト内放射能高の警報が発したため、出力降下操作を行い、手動スクラムで原子炉を停止したが、二体の燃料集合体の融着が確認された。

右事故の原因は、原子炉容器底部の整流板のジルコニウム製カバー(厚さ一ミリメートル、ネジで固定)のうちの一枚が、冷却材の流動により振動、剥離し、これが燃料集合体の冷却材入口を閉塞したため、冷却材流量が低下して燃料温度が上昇したことにあった。

2 本件安全審査との関係

右事故の原因は、要するに原子炉容器内の構造物が脱落して冷却材流路を塞いだことにある。しかし、本件原子炉施設においては、前記(第四、一、(一)、(4))のとおり、炉心燃料集合体の冷却材入口部分(エントランスノズル)に多数の冷却材流入孔(オリフィス孔)を設け、冷却材流路を多重化することにより、冷却材流路の閉塞を防止しており、部品の脱落等により冷却材の流路が閉塞するおそれはない。また、乙一六・八―九―四二頁及び乙イ七六によれば、万一燃料が破損した場合でも、複数の破損燃料検出装置によってこれを早期に検知し、遅発中性子法破損燃料検出装置の信号が設定値を超えた場合には原子炉は緊急自動停止され、事故を終息できることが認められる。

したがって、右事故の発生は、本件安全審査の合理性を左右するものではない。

五  スーパーフェニックスの一次系カバーガス中の空気混入によるナトリウム汚染

1 事故の概要と原因

乙イ七六によれば、次のとおりと認められる。

スーパーフェニックスは、フランスのクレイマルビルに設置されたタンク型の高速実証炉(熱出力三〇〇万キロワット、電気出力一二四万キロワット)である。

一九九〇(平成二)年六月一〇日、出力上昇中にナトリウムの不純物濃度の指標となるプラギング温度が上昇し、一四〇℃で安定したが、通常の一時的現象と考えられた。同月二〇日、プラギング計の特性曲線上に一八〇℃に相当するプラギング温度が観測されたが、水素化合物によるものであり、水素は中間熱交換器の伝熱管を透過して二次系に抜けるので、注意を払う必要はないとされた。同月二六日、一次ナトリウム純化系のコールドトラップのうち一基が閉塞し、同月三〇日にはもう一基も閉塞した。

右事故の原因は、フィルタカートリッジ系カバーガスの放射能測定系のポンプシール膜が部分的に裂け、カバーガスに空気が混入し、その結果、一次系ナトリウムが酸素等により汚染され、プラギング温度が上昇したことにあった。なお、酸素の混入量は、酸化ナトリウム換算で三〇〇ないし三五〇キログラムと推定された。

2 本件安全審査との関係

前記(第四、三、5)のとおり、本件原子炉施設においては、一次アルゴンガス系内の圧力は、右アルゴンガス系が配置される各部屋の雰囲気の気圧よりも若干高くなるように保持されるから、本件原子炉施設において、仮に右アルゴンガス系の設備に破損が生じたとしても、アルゴン・カバーガス中に空気が混入することは想定し難い。また、前記(第四、三、4、(一)、(2)、(イ))のとおり、ナトリウム中の不純物を除去するためにコールドトラップが設置され、これによって、本件原子炉施設の通常運転中のナトリウム中酸素濃度は一〇ppm以下に保たれるから、ナトリウム中に不純物が生じ、右不純物による腐食によって配管が破損したり、破断したりすることは想定し難い。

したがって、右事故の発生は、本件安全審査の合理性を左右するものではない。

六  スーパーフェニックスのナトリウム漏えい事故

1 事故の概要と原因

甲イ二九ないし三三、甲イ六二及び乙ニ二の七(証人川島調書七)三八丁表ないし三九丁裏によれば、次のとおりと認められる。

一九八七(昭和六二)年三月、スーパーフェニックスの炉外燃料貯蔵槽から液体ナトリウムが漏えいした。漏えい量は当初五〇〇リットル/日であったが、四月中旬以降止まった。

右事故の原因は、炉外燃料貯蔵槽と支持板の溶接が適切にされていなかったことに加え、水を張った試験後の不十分な水抜きにより溶接部分にさびが生じ、このさびとナトリウムとが反応して生成された水素が材料(炭素鋼)中に浸透したことにより、残留応力の下で割れが生じ、ついには炉外燃料貯蔵槽を貫通したことによると考えられている。

2 本件安全審査との関係

右事故の原因は、不十分な溶接と水抜きにあるところ、右は本件原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針に関連しないものである。

したがって、右事故の発生は、本件安全審査の合理性を左右するものではない。

七  フェニックスの異常な反応度低下

1 事故の概要と原因

甲イ九五、九七、甲イ一七四、乙イ七六及び乙ニ二の七(証人川島調書七)三〇丁裏、三一丁表によれば、次のとおりと認められる。

フェニックスは、フランスのマルクールに設置されたタンク型高速原型炉(電気出力二五万キロワット)である。

一九八九(平成元)年八月、九月、平成二年九月の三回と、炉心の反応度(中性子検出器の信号)が異常に低下して、原子炉が自動停止した。

右反応度低下については、当初は、①一次冷却系のアルゴンガスが何らかの原因で液体ナトリウム中に巻き込まれ、アルゴンガスが炉心周辺部を通過したと推定され、炉心へのガスの注入試験を含め様々な原因調査が行われた。その結果、ガスの巻き込みが原因であると仮定した場合には、数百リットルにも及ぶ極めて大量のガスが炉心周辺部を通過することが必要になるが、このようなことは現実的には想定し難いことから、結局、ガスの巻き込みは原因ではないとされた。また、②電気的なノイズが原因として検討されたが、現在のところ、原子炉容器の下部に設置されている検出器による中性子束の変化は、電気的なノイズによるものではなく、実際の中性子束の変化を表したものであると考えられている。このため、③燃料集合体の変位等、他の原因に注目した調査が行われている。

2 本件安全審査との関係

右事故は、原因が解明されているとは言い難いが、前記(第四、一、1、(一)、(4)、同2、(三)及び第六、二、4、(一)、(3)、(ロ)、(a))のとおり、本件原子炉施設においては、アルゴンガスの巻き込み対策が十分されていること、燃料集合体は過大な変形等を防止し得る構造となっていること、中性子束が異常に変化した場合は、原子炉緊急停止装置が働き原子炉が停止することから、本件原子炉施設においては、右事故の原因として考えられているいずれかの原因によって事故が起こることは想定し難い。

したがって、右事故の発生は、本件安全審査の合理性を左右するものではない。

八  フェニックスの中間熱交換器からの二次系ナトリウム漏えい事故

1 事故の概要と原因

甲イ五二及び乙イ七六によれば、次のとおりと認められる。

一九七六(昭和五一)年七月一一日、六基ある中間熱交換器(ステンレス鋼製)の一つの頂部からナトリウムが漏えいして小火災が発生し、同年一〇月三日にも別の中間熱交換器の同じ箇所からナトリウムが漏えいして火災を引き起こした。

右事故の原因は、下降管と中間熱交換器胴との間に予想を上回る熱膨張差が生じたことにより、二次系ナトリウム出口の上蓋と内壁をつなぐ溶接部(七月の事故)、二次系ナトリウム出口部の上部プレート(一〇月の事故)に破損が生じたことにある。

2 本件安全審査との関係

前記(第四、一、3、(二))に加え、乙イ七六によれば、本件原子炉施設の中間熱交換器については、すべての運転状態において生じると考えられる圧力、熱荷重、地震荷重等の必要な荷重の組合せに耐え、かつ機能を維持できるよう設計されていること、万一漏えいがあった場合も、これを速やかに検出できることが認められる。

したがって、右事故の発生は、本件安全審査の合理性を左右するものではない。

九  TMI事故

1 事故の概要及び原因

甲イ一六、甲イ一五〇及び甲イ三八八によれば、次のとおりと認められる。

(一) 事故の概要

TMI二号炉は、米国ペンシルバニア州スリーマイル島上に設置されたPWR(電気出力九五万九〇〇〇キロワット)である。

一九七九(昭和五四)年三月二八日、原子炉は定格の九七パーセントの出力で運転されていたが、何らかの事情により、二次系の主給水ポンプが停止し、ほぼ同時にタービンが停止した。その結果、一次系の温度、圧力が上昇し、加圧器逃し弁が開き、原子炉がスクラムした。

これにより、一次系圧力は急速に低下し、加圧器逃し弁の閉設定圧力以下となったが、この弁が故障して開いたままの状態となり、一次冷却材が格納容器に流出し、小規模の一次冷却材喪失事故の状態となった。

そして、二分後に非常用炉心冷却装置高圧注水系が自動起動したが、一次冷却材が局所的に沸騰を起こし、発生した蒸気泡が冷却材を加圧器に押し上げて、一次冷却材の量が増加しているかの如き現象を呈したことから、運転員は、高圧注水ポンプ一台を停止し、もう一台の流量を最低限にまで絞った。そのため、一時冷却材はますます減少し、蒸気泡が増加したことから、冷却材ポンプの振動が激しくなり、ポンプの破損をおそれた運転員は、冷却材ポンプ四台全てを停止した。これにより、ポンプが運転されている間は循環して炉心を冷却していた水、蒸気の流れが止まり、蒸気と水が分離し、炉心の上部が蒸気中に露出した。炉心は三分の二ほど露出したと推測され、露出した燃料は温度が急上昇し、大量の放射性物質が一次系内に放出された。また、燃料被覆管と蒸気が反応して、大量の水素が発生した。

(二) 事故の影響

環境へ放出された放射性物質の大部分は、気体状の放射性物質であり、放射性希ガス約二五〇万キュリー、放射性よう素のうち、よう素一三一が約一五キュリーと推定された。放出経路は、主として放射性物質を含んだ一次冷却材が抽出され、補助建置内の抽出、充填系で脱気される際に出てくる放射性ガスが配管や機器の漏えい箇所から外へ出たもので、補助建屋の換気系によって、排気筒から環境に放出されたものであり、液体状の放射性物質は微量であり、問題となるものではなかった。

環境に放出された放射性物質による周辺公衆の外部全身被曝量については、半径八〇キロメートル以内の住民約二一六万人についての集団線量の現在最も信頼できる値としては、家屋の遮へい効果等を考慮した場合、約二〇〇〇人レム(個人の被曝線量は平均約一ミリレム)と推定されている。

(三) 事故の原因

右事故の経過によれば、主給水喪失が炉心損傷にまで拡大した決定的要因は、①加圧器逃し弁が約二時間二〇分にもわたって開放されたままの状態に置かれていたこと、②高圧注水ポンプの流量が約三時間一六分にもわたり最小限にしぼられた状態にあった点にあった。

2 本件安全審査との関係

TMI二号炉は、PWRであり、LMFBRである本件原子炉施設とは炉型を異にし、加圧器逃し弁は存在しないから、本件原子炉施設において、右事故と同様の事故が発生することは想定し難い。また、右事故の原因は、直接的には運転員が原子炉の状況を的確に把握できなかったことから適切な運転操作を行えなかったという、計測制御装置と運転管理に問題があったことにあるところ、右は、本件原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針に関連しないものである。

したがって、右事故の発生は、本件安全審査の合理性を左右するものではない。

一〇  PFRの一次主冷却系循環ポンプ潤滑油の一次系ナトリウム中への混入

1 事故の概要と原因

乙イ七六によれば、次のとおりと認められる。

PFRは、実験炉DFRに続いてイギリスのドーンレイに建設された電気出力二七万キロワットのタンク型高速原型炉である。

PFRは、一九九一(平成三)年五月から、ほぼ一〇〇パーセントの出力で運転中であったが、同年六月二九日、一次主冷却循環ポンプの上部ベアリングが過熱し、プラントを手動で停止した。

右事故の原因は、同年六月二四日に、ポンプの軸封ガスの流量が零に低下し、これがアルゴンガス系統のフィルターの目詰まりと判断され、翌二五日に運転員により回復措置としてアルゴン系統を負圧にしての換気操作が行われたことから、ポンプ容器内のカバーガスが減圧され、ナトリウム液位が上昇して潤滑油のドレンタンク内に浸入し、以前から蓄積していた最大で一七リットルの潤滑油を押し出す形でナトリウム中に混入させ、その後、同月二九日まで潤滑油の流出が続き、推定約三五リットルのベアリング潤滑油が一次系ナトリウム中へ混入し、潤滑油系統の油量が不足してベアリングの過熱が起こったことにあった。

2 本件安全審査との関係

乙イ七六によれば、本件原子炉施設の一次主冷却系ポンプの上部ベアリング潤滑油のシール部からの漏えいについては、PFRと異なり、二重の回収構造が採用されており、一段目の回収構造で回収しきれず、二段目の回収構造内の油量が異常に増加した場合には中央制御室に警報を発し、更に増加した場合にはポンプをトリップさせるシステムを採用していること、また、潤滑油のタンクへの回収方法は、重力で落下する方式としており、PFRのような負圧操作を行う必要はないこと、そして、一次主冷却系循環ポンプにはナトリウム液位計が設置され、液位の異常な上昇、下降を監視すると共に、ナトリウム液位と油回収構造との間に十分なレベル差を設けて、油回収構造にナトリウムを吸い上げてしまうことのない設計となっていることが認められる。

したがって、右事故の発生は、本件安全審査の合理性を左右するものではない。

一一  サリー二号炉における配管破断事故

1 事故の概要と原因

甲イ八ないし一二及び乙イ七七によれば、次のとおりと認められる。

サリー原子力発電所二号炉は、米国バージニア州サリー郡のジェームス川ほとりに設置されたループ型PWR(電気出力77.5万キロワット)である。

一九八六(昭和六一)年一二月九日、全出力で運転中、三ループのうち一ループの主蒸気隔離弁が誤って開となったが、これにより入口側ヘッダ圧力がランプ状に上昇したため、主給水ポンプの入口側配管のエルボ部付近に亀裂が貫通して蒸気が吹き出し、数秒後に全周破断した。原子炉は、主蒸気流量と主給水流量の不一致警報が発報した後、「蒸気発生器水位低低」信号によりトリップした。

右事故の原因は、不十分な水質管理の下に生じた腐食と不適切な配管の接続(ティーとエルボが近接した構造であった)によって生じた冷却水の流れの急変による侵食(エロージョン/コロージョン)とが重なって配管の内面が著しく減肉され、破断するに至ったことにあった。

2 本件安全審査との関係

乙イ七七によれば、本件原子炉施設においては、適切な配管引き回し及び水、蒸気の流速条件によりエロージョン/コロージョンは抑制されることが認められる。また、前記(第四、三、4、(一)、(2)、(イ))のとおり、ナトリウム中の不純物を除去するためにコールドトラップが設置され、これによって、本件原子炉施設の通常運転中のナトリウム中酸素濃度は一〇ppm以下に保たれる。

したがって、右事故の発生は、本件安全審査の合理性を左右するものではない。

一二  福島第二原子力発電所三号炉における金属片の侵入

1 事故の概要及び原因

甲イ一四、甲イ二二一、甲イ二二二及び乙イ七八によれば、次のとおりと認められる。

福島第二原子力発電所三号炉は、東京電力が福島県双葉郡富岡町に設置したBWR(定格電気出力一一〇万キロワット)である。

一九八九(昭和六四)年一月一日午後七時二分、出力一〇三万キロワットで運転中、原子炉再循環ポンプの一つに振動大の警報が発生したが、ポンプの回転数をわずかに低下させたことで警報レベル以下となったため、出力一〇〇万キロワットで運転を継続した。同月六日午前四時二〇分、同ポンプから振動大の警報が再発生したため、ポンプの回転数を徐々に下げ、階段的に出力を七四万キロワットに下げたにもかかわらず、振動値が低下しなかったので、原子炉を停止した。

右事故の原因は、ポンプの水中軸受リングと軸受本体の溶接部が、強度上の余裕が少ない溶接構造であった上、溶込みが不足していたことから、回転に伴ってリング上下面に圧力差が変動的に生じ、リングの固有振動数と重なると、軸受本体とリングの溶接部に大きな変動応力がかかるため、右溶接部が疲労破断し、リングが脱落したことにあった。

2 本件安全審査との関係

乙イ七八によれば、本件原子力施設の一次系主循環ポンプには、水中軸受リングに相当する構造はないことが認められ、右事故と同様の事故が本件原子炉施設において発生する可能性はないといえる。

したがって、右事故の発生は、本件安全審査の合理性を左右するものではない。

一三  セイラム一号炉の制御棒不作動

1 事故の概要と原因

乙イ七五によれば、次のとおりと認められる。

セイラム一号炉は、米国ニュージャージ州に設置された電気出力一〇九万キロワットのPWRであり、一九六八年八月に建設が開始され、一九七六年一二月に初臨界となった。

一九八三年二月二五日、定期検査と燃料入れ替えを終えて運転を再開したが、その際、「蒸気発生器水位低低」信号によって原子炉保護系から原子炉停止信号が発生したにもかかわらず、原子炉緊急自動停止装置が作動しなかった。プラントのパラメータがスクラムと一致しないことから、制御棒が挿入されていないことに気付いた運転員が、原子炉停止信号の約三〇秒後に手動で原子炉を停止したため、器械の損傷等は全くなかった。

右事故の原因は、原子炉保護系から原子炉自動停止装置に自動停止信号が入力されたにもかかわらず、原子炉自動停止装置のブレーカが二台とも開動作に失敗したためであり、これは、電流遮断器可動部(ラッチ部)の潤滑が適切でなかったという保守、点検上の過誤に起因するものと考えられている。

2 本件安全審査との関係

右事故の原因は、適切な保守点検がされていなかったことにあるところ、設備の保守、点検は、本件原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針に関連するものではない。

したがって、右事故の発生は、本件安全審査の合理性を左右するものではない。

一四  SL―一の臨界事故

1 事故の概要と原因

甲イ三七五及び甲イ三八五によれば、次のとおりと認められる。

SL―一は、米国アイダホ州に設置された二〇〇キロワットの電力及び四〇〇キロワットの暖房用電気等価エネルギーを発生するBWRである。

一九六一(昭和三六)年一月三日、定期保守等のための停止から運転を再開するために、制御棒駆動モータを取り付ける作業中、原子炉が突如暴走して炉が爆発し、作業に当たっていた作業員三人が全員死亡した。

右事故の原因は完全には解明されていないが、制御棒が手で急速に引き上げられたことから大きな反応度が添加され、出力が上昇して熱膨張と気泡が発生し、これにより炉内の圧力が上昇して更に制御棒を引き抜く方向に働き、爆発に至ったものと考えられている。

2 本件安全審査との関係

前記(第四、一、2、(二)、(2)、(ハ))のとおり、本件原子炉施設においては、通常運転時の制御棒引抜最大速度は制限され、かつ、駆動モータの最大駆動速度は電源と負荷の関係等から物理的に制限されるため、運転時の異常な過渡変化時又は事故時の基準を超えるような過度な反応度添加率が添加されることはないから、制御棒の異常な引き抜きによって反応度事故が起こることは想定し難い。

したがって、右事故の発生は、本件安全審査の合理性を左右するものではない。

一五  まとめ

以上のとおり、過去に他の原子力発電所において発生した事故は、その発生の原因となった事象が本件原子炉施設において発生する可能性が存在するとも、また、本件原子炉施設において右事象からの事故の発生、拡大、事故の影響の拡大を防止するための十分な対策が取られていないとも認められない。

したがって、これらの事故が発生した事実から、本件安全審査の合理性が失われるものではないというべきである。

もちろん、他の原子力発電所における事故は、多々の重要な教訓を含むものであり、これらの教訓は、今後本件原子炉施設を含む全ての原子炉施設の設計、建設、運転に当たって生かされなければならないものといえるが、これらの事故の発生が直ちに本件安全審査の合理性を左右するとはいえない。

第七章  結論

以上のとおり、本件許可処分は、法定の手続に則り行われたものと認められ、手続的な違法があるとは認められない(第四章)。そして、規制法二四条一項三号(技術的能力に係る部分に限る。)及び同項四号の要件についても、本件安全審査の調査審議に用いられた審査方針及び審査基準に、本件安全審査の結論を左右するような不合理な点があるとは認められず、また、本件原子炉施設が右の審査基準に適合するとした本件安全審査における調査審議及び判断の過程に重大かつ明白な瑕疵といえるような看過し難い過誤、欠落があるとも認められないから(三号について第五章、四号について第六章)、本件許可処分は実体的にも適法である。

よって、本件許可処分が無効であることの確認を求める原告らの請求はいずれも理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法六一条、六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官岩田嘉彦 裁判官酒井康夫 裁判官岩﨑邦生)

第三分冊「原告らの主張」<省略>

第四分冊「被告の主張」<省略>

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